ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: アスナ・エルマリート2

格納庫へ向かう通路

 

――アスナ・エルマリート:視点

 

ブリーフィングが終わった後も、胸の中に妙なざわつきが残っていた。

 

予定されていた演習場は学校の南区画、敷地内にある模擬戦用フィールドのはずだった。

それが今朝になって、いきなり“森林地帯での実地訓練”へと変更された。

スケジュール表はそのまま、時間の変更もなし。ただ場所だけが変わっていた。

 

(実機訓練自体は初めてじゃないけど……これは、何かおかしい)

 

訓練服姿のまま、私たちは格納庫へ向かう道を歩いていた。

朝霧の残る舗装路を、ブーツの音が規則正しく響く。

 

エリシアが、不意に口を開いた。

 

「……変ではありません? いきなり演習場を変更するなんて」

 

その整った顔に、わずかながらも鋭い警戒色が浮かんでいた。

この学校で首席を張る彼女がそう言うのなら、やはり何かあるのだろう。

 

「まあ、そういうこともあるんじゃね?」

シンがあくび混じりに返した。

本人は気楽な様子だったが、肩から落ちた髪の先にはわずかに緊張が見える。

あれはたぶん、意図的に気を抜いてみせてる。

 

「私はエリシアに同意」

エミルが腕を組んで歩きながら鋭く言い切った。

 

「絶対に変だよ。昨日の時点で敷地内って教官が言ってたのに。

 整備班だって、そのつもりで準備してたのに、朝になっていきなり変更なんて。おかしいでしょ」

 

(……やっぱり、私だけじゃなかった)

 

私も、違和感はずっと感じていた。

けれど言葉にするのをどこかでためらっていたのは……父のことがあるからかもしれない。

誰かを疑う癖が、根付いてしまっている。

 

「実戦で何があるかわからないからって言ってたけど……」

 

私がそう口にすると、エリシアははっきりと言った。

 

「建前ですわ。それも稚拙な」

 

彼女の瞳には、わずかに怒りすら浮かんでいた。

上層部の無責任な判断を見抜いているような、そんな眼差し。

 

「聞いた話では、フォルマ教官の“熱心な提案”によって変更が通されたそうです。

 本部への通達すらなく、訓練コースそのものを書き換えたとか」

 

「またあの人か……」

エミルがあからさまに顔をしかめた。

訓練中も過剰な負荷や曖昧な指導が目立つフォルマ教官への不信感は、クラス中で共有されていた。

 

「まぁ……」

シンが肩をすくめる。

 

「気になるのはわかるけど、やるしかねえだろ?

 変だって思ってても、実際やらなきゃ卒業は遠のくんだぜ」

 

その言葉に、誰も何も返せなかった。

 

(やるしかない――その通り。でも)

 

私はうつむきかけた視線を上げ、朝日を受けて浮かぶ格納庫の輪郭を見つめた。

 

(でも、なぜか胸騒ぎがする。これは……ただの訓練じゃない)

 

そんな不安が、喉の奥に棘のように引っかかったまま離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北米・連邦軍訓練校 ブリーフィングルーム(生徒退室後)

 

生徒たちの足音が遠のき、ブリーフィングルームに静寂が訪れる。

ヤハギ教官の鋭い視線がフォルマ・ガードナーに向けられた。

 

「どういうつもりだ? いきなり演習場を変えるなんて」

 

フォルマは腕を組み、モニターの消えたホロパネルに視線をやったまま、面倒くさそうに返す。

 

「おいおい、ブリーフィング聞いてなかったのか? 実戦で予定通りの場所だけで戦えるなんて保証、どこにもないだろ? その“現実”を想定した訓練ってだけの話だよ」

 

「……俺たち教官にまで“サプライズ”を仕掛ける必要が、どこにある?」

 

ヤハギの語気が強まる。だがフォルマはまるで意に介さず、軽く笑って肩をすくめた。

 

「教官も訓練兵と同じ覚悟を持って当たろうって、俺の“優しさ”だよ。

――なぁ、ヤハギ。今の連邦は変わったんだ。ジオンに敗けて、やっと気づいたのさ。血統やエリート意識じゃなく、信念を持った兵士を育てることが何より重要だってな。

だったら俺たち教官も、変わらなきゃならねえだろ? そのための第一歩さ」

 

ヤハギは黙ったまま、わずかに舌打ちする。

これ以上何を言っても、こいつは本音を語る気などない。のらりくらりと煙に巻くだけだ。

 

「……俺は格納庫へ行く。予定を変えるなら、まずは生徒の安全を考えろ」

 

そう言い捨てて、ヤハギは踵を返した。

扉が開き、彼の背中が廊下に消えていく。

 

その背中を見送りながら、フォルマは唇の端を吊り上げ、小さく呟いた。

 

「そうそう。本当の兵士を作るために、頑張ってくれよ……ヤハギ」

 

彼の声は誰にも届かず、空のブリーフィングルームに静かに沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林地帯A――深い緑の中で、四機の軽キャノンが枝葉を揺らしながら動いていた。ミノフスキー粒子によってセンサーが制限され、索敵は目視と直感が主となる。だがそれも訓練の一環。いつもの模擬戦。――そのはずだった。

 

「アスナ、三時方向。もう少し前に出て!」

 

エミルの声が通信越しに響く。彼女の操作する軽キャノンが滑らかに動き、アスナの前をカバーするように配置された。

 

(エミルって、こういう時ほんと頼れるようになったな……)

 

つい数ヶ月前は「コロニーに帰れ」と言ってきた相手とは思えない。今では心から信頼できる戦友だった。

 

対するのは、褐色の肌に金髪のエリシアと、その隣で軽く笑うシンのコンビ。模擬戦とは思えないほどのコンビネーションで、こちらの動きを封じてくる。

 

「くっ、エリシアさん上手い……!」

 

「悪いけど、手加減はしませんわよ?」

 

その余裕の声に、アスナは思わず舌打ちした。

 

(強い……こっちは数回、損傷判定されてるのに――)

 

その時だった。全てのやりとりが止まる。ヤハギ教官の声がインカムから低く響いた。

 

「――模擬戦中止。全機、即座に停機状態に移行しろ。」

 

「えっ?何が――」アスナが声を上げた。

 

「教官、どういうことですか?」シンが問う。

 

「ミノフスキー粒子の濃度が異常だ。」

 

「でも、ブリーフィングでは散布する予定だったはずでは?」エリシアが冷静に返す。

 

ヤハギの声が鋭くなる。「そんな濃度じゃない。これは明らかに“交戦前提”だ――!」

 

その瞬間、空気が焼けた。

 

ビィィィッ――!!

 

紫の光が森を裂いた。アスナのすぐ隣で、エミルの軽キャノンの右腕が爆発的に吹き飛ぶ。

 

「きゃああああああッ!!」

 

「エミル!? だ、大丈夫――?」

 

「うう……腕が……痛ッ!」

 

(ちがう!これは模擬戦用のビームじゃない!実弾、いや……本物のビーム兵器!?)

 

混乱するアスナの視界の奥、森の奥から何かが姿を現した。

 

鋼鉄の巨体。赤と白の装甲、禍々しいフォルム。――ゲルググ。

 

(これって……ジオンの……!?)

 

「ふざけるな……! これは模擬戦なんかじゃない!!」

 

ヤハギ教官が吠え、背部のバックパックからビームサーベルを引き抜いた。模擬戦モードとは違う、本物の戦場が今ここに現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスナ!ジン!模擬戦モードを解除しなさい!!」

 

エリシアの鋭い叫びが戦場に響いた。彼女の軽キャノンはすでに実戦モードに移行しており、僅かにだが装甲をきしませながら構えを変える。

 

アスナは一瞬呆然としたが、すぐに理解する。これは模擬戦ではない。敵は本気でこちらを殺しにきている。

 

「アスナ機、後退しなさい!負傷したエミルを乗せて!逃げるのよ!!」

 

エリシアの言葉に、反射的にアスナの指が動く。システムウィンドウを開き、訓練モードから実戦モードへと切り替える操作を行う。

 

(ダメ……エミル……しっかりして、お願い!)

 

しかしその最中、ヤハギ教官の怒声が通信に割って入った。

 

「貴様ら全員下がれッ!!これは模擬戦じゃねえ!戦争だッ!!」

 

教官機の軽キャノンはすでに前へ踏み出していた。濃密なミノフスキー粒子がジャミングをかけてくる中、教官の声だけが頼りだった。

 

「ヤハギ教官、私たちも戦います!」

「敵はゲルググ1機にザクが2機、教官一人では対処できません!」

 

「バカ野郎!!」

「貴様らがいても無理だ!軽キャノンとゲルググの戦力比は2対1!それにザク2機まで加わったら、お前らはただの的だ!!」

 

アスナの胸が締め付けられる。そんな……

 

「俺が殿を務める!それしかお前らが生き残る道はねぇ!!」

 

その叫びに、アスナの手が震える。

 

「でも、それじゃあ教官が……!」

 

「いいから基地に戻って援軍を連れてこい!!この濃度のミノフスキー粒子じゃあ、もっと基地に近づかないと通信すら通らねぇ!!」

 

エリシアが苦悶の表情で歯を食いしばり、だが冷静に指示を出す。

 

「了解。ジン、私とアスナ機でエミル機を運ぶ!退路の確保と警戒を!」

 

「……了解!」

 

ジンの声には無念が滲んでいた。だが誰よりも判断は早かった。

 

アスナは自機をエミル機の側に寄せ、ユミルの機体をロックアームで固定する。

 

(教官が……このままじゃ教官が死んじゃう……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森に響く砲声が遠ざかっていくなか、ヤハギの眼前には立ちふさがる二機のザク。その背後には、森を割って進んでいくゲルググの姿があった。

 

「――チィッ!」

 

ヤハギは歯を噛み、急いで照準をゲルググへ合わせる。肩部キャノンを展開、アームで制御角を調整し、発射角度を計る。

 

(先にゲルググさえ潰せれば……!)

 

奴さえ落とせば、あとのザクは軽キャノンでも戦略次第で何とかなる。勝機は――まだある。

 

だがその瞬間、横からの牽制射撃が軽キャノンの腰部にかすり、照準が逸れる。

 

「――っ、くそっ!」

 

マシンガン。連射のタイミングと角度――完全に牽制に徹した動きだ。ザクの1機が、最初からこちらの動きを封じるために配置されていたのかと錯覚するほどだった。

 

その隙を突くように、もう1機のザクがバズーカを構え――撃ってきた。

 

地面が爆ぜ、衝撃でコクピットがわずかに揺れる。警報が赤く明滅する中、ヤハギはかろうじてバランスを取りながら叫んだ。

 

「……はあ!? ふざけんな、待てよっ!!」

 

ゲルググは、こちらを一瞥すらせず、森の奥へと一直線に進んでいく。狙いは明らかに――撤退を開始した生徒たちだ。

 

(……なぜだ?)

 

思考が冷える。視界の端に、ゲルググが追う生徒たちの姿が小さく映る。

 

(普通なら――俺を真っ先に落とすはずだ。ベテランの機体を残しておけば、後で逆襲される危険があるのに。なのに、あいつは……)

 

ヤハギの脳裏に、最初の一撃がよみがえる。あの一発――模擬戦ではありえない実弾――が狙ったのは、他でもないエミルの軽キャノンだった。

 

(最初から生徒を狙っていた……? なぜ? 何が目的だ……!?)

 

胸の奥に冷たいものが広がっていく。まるで、訓練そのものが――何者かによって仕組まれていたような感覚。

 

「……くそ、そういうことかよ……!」

 

ヤハギは叫びながら、キャノンを回転させ、迫るザクに向かって砲撃を放つ。

 

たとえ止められなくても、時間は稼げる。生徒たちが援軍を連れて戻ってくるまで、絶対に――死なせるわけにはいかない。

 

(逃げ切れよ、お前ら……絶対に……!)

 

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