それでも明日はやって来る   作:桜霧島

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考察:トレーナーの懐事情

 

 

0.はじめに

 

 ウマ娘世界におけるトレーナーとは、現実世界における騎手あるいは調教師、またはそれらを掛け合わせた存在である。

 彼らの収入は、一体どれほどのものなのだろうか。

 

 まず前提となるのは、彼もしくは彼女らは直接ウマ娘から金銭を得ていないことである。

 それは当たり前だ。彼女らは未成年であり、個人事業主、つまり給与を払う主体となるためには法定代理人――通常は親である――を定めなければならない。そのようなことは全寮制であるトレセン学園において不可能だからだ。

 

 次に前提となるのは成績によるインセンティブ、つまりレースには賞金が含まれていることである。

 それはタマモクロスやアイネスフウジンなどの苦労人がレースを走る意義の1つとしてされている以上、当たり前に存在する。但しタマモクロスが「多少は入る」と言っているように、またアイネスフウジンがG1をとった(であろう)後もバイト戦士を続けていることから、一気に億万長者になれるという金額ではないというのが通説だ。

 

 最後に、ウマ娘のレースにおいては少なくとも公に『賭け』が行われておらず、勝馬投票券(馬券)が無いことである。ウマ娘のレースというのは『健全なスポーツ』であり、しかも未成年が主役である。普通のモラルを持っていれば、少なくとも公にレース結果を賭け事の対象とすることはあり得ない。

 

 以上のような前提に立ち、ここではウマ娘世界における『レースによる収入』と、そこから導き出されるトレーナーの懐事情を考察してみたい。

 

 

1.賃金を払う主体について

 

 トレーナーと呼ばれる存在の内、トレセン学園と雇用関係のある、あるいは芸能人と芸能事務所のように業務委託契約によってURAから給料あるいは報酬を受け取っている人物は多数派に属するだろう。前者は教師または教官としてウマ娘全体のために活動し、後者はチームを運営したりウマ娘個人と契約し活動したりしているものと推測する。そのため、一定の雇用または契約期間は見込めるものの、URAが農林水産省ないし何らかの官公庁の管轄下であると仮定するならば厳格な報酬計算式があるはずであり、教官ならびにトレーナーの報酬は一定の範囲を超えないはずだ。

 

 一方、少数派としては『フリー』のトレーナーがあり、彼または彼女らの専らの収入源は、企業または地元のスポーツクラブのようなものや、メジロ家やサトノ家などのウマ娘世界における所謂『名家』――それらもまた『企業』と言えるだろうが――である。

 そのため彼または彼女らの収入は所属する集団の裁量に左右される。但しその場合においても報酬計算式は上述のURAと契約しているトレーナーとほぼ同一のものであると推測可能だ。なぜならレースによる『賞金』というのがウマ娘世界における主たる収入源である以上、よっぽどの事情がない限りそれ以上のものは払えないからである。違いがあるとすれば、それぞれの組織に対する貢献――つまりグッズ販売または広告活動による収入だ。

 

 しかしながら、残念なことに筆者は行政機関の()()()()を非常によく知っている。それはつまり、U()R()A()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()U()R()A()()()()()と定められている可能性が非常に高いのだ。よってグッズ販売または広告活動による収入は引退後にしか発生し得ず、その場合トレーナーは既に()()()の存在であるため、その利益を享受することは出来ないのだ。

 では、URAの収入は一体どれほどのものなのだろうか。

 

 

2.URAの収入源について

 

 ここで、JRAの損益を確認してみよう。*1

 事業年度は暦年であるため、既に2024年の実績が公開されている。

 

 損益計算書を見ると、事業収益3,364,001百万円のうち、勝馬投票券によるものが3,343,874百万円、つまり収益の99%以上を勝馬投票券の売上によるものが占めていることがわかる。事業収入によるものが20,127百万円であることから、入場料収入やグッズ販売収入はこちらに算入しているものと推測される。

 一方で費用として最大のものは、これもまた勝馬投票券の払い戻しに伴うもので、2,535,209百万円となっており、単純に計算すれば約75.8%が払い戻されている計算だ。競馬競走法によれば馬券の払戻率は最大で単勝の80%、最低でwin5の70%であることから、約75.8%が払い戻されているというのは理解可能な値だ。

 しかしながら損益計算書において重要なのは、勝馬投票券によらない収益及びコストである。つまり事業収入20,172百万円に対して、競馬事業費(競馬開催に必要な諸経費及び広告活動費)並びに競走事業費(レース賞金等)、および業務管理費の合計は430,786百万円であり、馬券収入を除くと4,000億円を超える大幅な赤字になるのである。

 そしてこの金額は、ウマ娘世界においても大きくは変わらないと推測できる。変わるとすれば競走事業費(レース賞金等)に関わるものだろう。冒頭でも触れた通り、ウマ娘世界におけるレースでの賞金はさほど多くないことが推測できるが、それを除いたとしても2,660億円もの赤字である。

 つまり私が言いたいのは、URAの事業収入についてはかなり検討の余地があるということだ。差し当たっての目標は、2,660億円もの赤字を解消することから考えてみたい。

 

 まず初めに入場料収入について見直してみたい。なお、ここでは最も観客数の動員できる東京競馬場を参考にする。

 2024年の東京競馬場の入場者数は年間合計1,536,422人、1開催日当たり34,918.7人である。*2

 そのうち、入場者数が最も多かったのは第5回8日目のジャパンカップ開催日(79,720人)であり、2番目が日本ダービー開催日である第2回12日目(78,678人)である。ゲームウマ娘においてそれらのレースが多くの『獲得ファン数』を見込めることも頷けるデータだ。

 ちなみに最も少なかったのは11月2日(土)、第5回1日目の16,410人であり、先日のNHKマイルカップで優勝したパンジャタワーが勝った京王杯2歳ステークスの開催日である。レース自体の人気もさることながら、おそらく3連休の初日で、かつ雨天であったことも影響しただろう。

 いずれにしてもここでは東京競馬場に「年間150万人、1日当たり平均3.5万人」が入場しているものとして計算する。

 

 競馬場には基本的に『指定席』と『自由席/立見』がある。指定席数は以下の通りであり、驚くべきことに基本的にそれらは満席であるため、入場者数から指定席数を差し引いたものが『自由席/立見』に属する入場者とする。

 

S指定席: 852席

A指定席:1,962席

B指定席:1,080席

C指定席: 742席

スマートシート(一般指定席):約8,250席

合計:12,886席

 

 よって、3.5万人の入場者がいる東京競馬場は、『自由席/立見』に属する人間が2万人以上いる事になる。詳しくはJRAホームページにある座席表を参照願いたい。*3

 

 すなわちこれらに座席単価を掛け合わせれば良いのだが、あまり知られていないことに、開催日によって座席単価はマチマチであることに加え、『自由席/立見』の入場料は100円や200円である。

 

 ところで先述の通り2,660億円もの赤字をURAは抱えているわけだが、2024年の競馬開催日数は延べ288日、3,456レースであった。つまり1開催日当たり10億円の収益が見込めれば、黒字に転化できるのである。

 仮にその全てを座席単価に上乗せするのであれば、10億÷3.5万人で計算すると、1人あたり平均約28,600円改善できれば良いという数字になるのだが現実的ではない。

 

 東京競馬場以外にも目を向けてみると、2024年の全ての競馬場における総入場者数は5,135,167名であったが、2,660億÷500万人=53,200円となり、さらに高額になってしまう。これではまるで富裕層のための娯楽だ。*4

 

 「老若男女問わず人気のあるトゥインクルシリーズ」というキャッチフレーズから考えれば、幼少のキタサンブラックやサトノダイヤモンドが保護者もつれず、ふらっと入ってこれる空間でなくてはならない。つまり、入場料収入に対してこれ以上手を入れることは困難なのである。

 

 では他の収入源として何があるかと考えると、読者諸氏もお気付きの通りウイニングライブ収入である。

 しかしライブについてはアニメでもゲームでも詳しいことは分かっていない。ウイニングライブがいつ、どこで、どのように行われているかについての公式見解は希薄というよりもむしろ避けられている印象だ。

 

 『いつ』については比較的容易に推測可能である。競馬場における『空き時間』は、昼休みと第12R後にしか存在しない。おそらく午前のレースが終わった後、昼休み(それでも30分程度しかないが4曲分なら十分可能だ)に彼女らのライブを行い、最終レース終了後、午後の分のウイニングライブが行われるのだろう。レースとレースの間は約30分程度あるものの、実際に競馬場へ行ったことのある方ならご存知の通り、レースが終わったらすぐ次のレースのパドックが始まるため、そのようなライブをしている時間は無い。

 

 『どこで』については、日本国内に8万人を収容可能なライブ会場など無いことを踏まえれば、考察するまでもなくレース場のどこかである。さいたまスーパーアリーナでさえ2万人程度なのだ。

 総合的に考えればパドックで行っていると考えるのが現実的だろう。もしくは競馬場の中心(子供向けのふれあい広場などがある場所)にステージを設置して行っているかだが、『見やすさ』という観点ではパドックに軍配が上がる。また、ライブの規模もゲーム版の規模ではなくアニメ版の規模になるであろう。

 

 そして最後に問題となるのが『どのように』であるが、ここを解き明かすヒントとなるのが『◯番人気』という言葉だ。

 ウマ娘レースにおいて『人気』という言葉があるということは、現実世界の競馬と同じく『そのウマ娘が勝つだろう』と思われる者に対して、何らかの投票が行われているということである。それはステータスの高い者が高い人気となるゲーム内での設定を見れば明らかだ。

 某アイドルグループの総選挙とは似てるようで異なり、最も『推し』のウマ娘でもなければ、最も歌のうまいウマ娘でもなければ、最もダンスのうまいウマ娘でもないのだ。

 つまり「勝つであろうウマ娘を予想し、当たったら何かメリットがある」ということだ。競馬に例えると単勝馬券を買うようなものだろう。

 言うまでもなく金銭的なメリット以外であることを踏まえると、例えば「ウイニングライブの優先入場権利」や「ウイニングライブ後の握手会における対応時間(単勝2倍だったら1枚当たり2秒、など)」が考えられる。

 また、単勝馬券に例えるならば複数枚(複数金額)を投票することも可能であるはずだ。ウェブによる投票もあるだろうし、そのことも踏まえると、ウマ娘のレースにおける人気というのは後者が中心なのではないだろうか。『勝()()投票券が的中すれば、その秒数だけそのレースに出走した推しのファンサを受けられる』とすれば、ウマ娘の負担を無視すると理解は可能だ。私たちは1カ月で起きている秒数が約200万秒弱であることを忘れてはならない。

 

 だがいずれにしても私が考えなければならないのは、勝()()投票券の使い道ではなく単価である。

 JRAによれば2024年のレースへの総参加人員は約2億人である。2億『票』と言った方が良いだろうか。これなら何とかなりそうな数値だ。投票券1枚当たり1,000円と仮定しても、2000億円の増収が見込める。1,500円なら3,000億円だ。"多少の"レース賞金を払ったとしても、余裕で黒字に転化できるだろう。

 ウマ娘の世界では、レースは娯楽の一つとして非常に人気があるという。現実世界に比して参加人員の増加も見込めるとなれば、盤石である。

 

 以上の通り、ウマ娘世界においてレースでの収入は主に『勝ち()()投票券』によるものであり、入場料収入はそれに比して微小、かつレース賞金を多く払うこと(少なくとも現実世界と同等に)は事業規模からみて不可能、と言わざるを得ない。

 

 

3.トレーナーの収入について

 

 基本的な日本の競馬の賞金配分は馬主80%、調教師10%、騎手5%、厩務員5%となっている。一例をあげれば2024年のジャパンカップ賞金は5億円であったが、単純に計算すると4億円が馬主に入り、調教師が5,000万円、騎手が2,500万円、厩務員が2,500万円手にした計算となる。

 しかしウマ娘において馬主はいないし、調教師も騎手も厩務員もいない。走る本人と、そのトレーナーがいるだけである。また、2.で述べたように、URAはJRAのように1,400億円もの賞金を支払うことが出来ない。せいぜいがその5%~10%程度だろう。10%だと仮定すると、総賞金額は140億円、その他の経費が2,660億円だから、約2,800億円のコスト、事業収入および『勝ち()()投票券』による収入で3,000億円。ここまできてようやく黒字になるのだ。競馬事業費(競馬開催に必要な諸経費及び広告活動費)にトレセン学園の運営にかかる諸経費が含まれていなかったとしても、200億円もあれば賄えるだろう。

 

 とすれば、ジャパンカップに勝って5,000万円というのは、そこそこに説得力のある数字といえるのだが、ここで他の公営競技と比べてみよう。

 

 競艇の『G1』における平均1着賞金額はおよそ4,000万円程度だ。最高賞金額は『グランプリ』の1億1千万であり、最低額はグランプリの前哨戦である『シリーズ』で2,000万円。トップクラスの選手の平均年収はおよそ3,000万となっている。

 競輪の最大賞金額は1億4千万円、『G1』における平均1着賞金額はおよそ6,000万円程度で、トップクラスの選手の平均年収は約5,000万円。

 

 このあたりが落としどころだろう。賞金は現実世界の10%程度、トレーナーとウマ娘の賞金配分は折半であるとすれば、この世界は成り立つのである。

 

 ここでJRAの話にいったん戻すが、所謂『中央』に属する競走馬は約6,000頭おり、年間の総賞金額は1,400億円である。無理筋であることを承知の上ではあるが、1頭当たりの平均年間賞金額は2,300万円と計算できる。

 

 つまり上記で計算されるウマ娘世界で換算すれば230万円だ。トレーナーはその半分として110万円程度、無論そこから税金等を納めたりしなければならないので、ウマ娘1人当たりの手取りは年間60万円程度となる。しかもあくまで収入であって、所得ではない。

 これでは暮らしていけない。トレーナーは数を集めるか、重賞を勝てるような実力のあるウマ娘に絞ってスカウトしなければ費用対効果が出ないのだ。少なくとも10人程度は集めなくては一般的なサラリーマンと変わらない年収水準である。普通のトレーナーであればチームを組む必要があるというのがよくわかる。

 

 2024年の賞金ランキング1位はドウデュースであり、賞金額は7億2千万円(天皇賞・秋、ジャパンカップ)であった。先の計算によればトレーナーの収入は額面で3,600万円であるので、ここまできてようやく公営競技の1流と言えるだろう。

 

 

4.結論

 

 そろそろ文字数が多くなってきたのでまとめよう。1~3で考察した通り、蓋然性の高い結論としては次のとおりである。

 

1)URAの主な収入源は『ウイニングライブ収入』乃至『勝ち()()投票券』である。

2)ウマ娘世界においてのレース賞金額は、多くても現実世界の10%程度である。

3)トレーナーの収入はサラリーマン以上であり、公営競技のプロ以下である。

4)トレーナーは担当するウマ娘の数を多くするか、重賞を勝てるような実力のあるウマ娘に絞ってスカウトしなければ生活が出来ない。

 

 非常に簡略化された計算であり、かつ見落としも多いと思われるが、通説として語られていた部分についてある程度補強できる内容が導き出された。

 日本の競馬人口は約168万人と言われているが、ウマ娘世界ではもう少しファン数が多いと思われる。その分URAの収入も増加するだろうし、そうであればもう少し賞金も出せるだろう。

 

 ところでアニメ1期でスペシャルウィークがウイニングライブを失敗してシンボリルドルフらに怒られたのも納得である。主たる収入源に対する冒涜だからだ。

 またアニメにおいて『沖トレ』が金欠アピールをよくしていたが、あれだけのウマ娘を、人数も集めて金欠などと言っていたら、他のトレーナーから袋叩きにあうこと間違いなしである。S貝調教師やY作調教師らが金欠アピールをしていたら皆さんも「どの口が」と怒るだろう。

 中央でさえこうなのだ。地方のトレーナーなど相当に困窮した生活を送っているに違いない。

 

 

 

 ウマ娘の世界も増えてきた。アニメ、アプリゲーム、ハチャウマ、RTTT&新時代の扉、スターブロッサム、そしてシンデレラグレイ。様々な作品に様々なトレーナーが存在するが、いずれにしても彼or彼女は上澄みの上澄みである。そうした作品をプレイするとき、あるいは見るとき、読むとき、本考察が少しでも深みを与えられたら幸甚である。

 

 

*1
https://jra.jp/company/about/financial/

*2
https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/report/2024.html

*3
https://www.jra.go.jp/card/priceandmap/index.html

*4
https://www.jra.go.jp/company/about/outline/growth/pdf/g_22_01.pdf

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