ブルーアーカイブ -LOST MEMORY DISORDER- THE RELOADED 作:かな餅
【あの日、さよならは貴方から言いました】
【貴方はどうしてか先に涙をこぼしました】
【あの日から貴方は私と過ごした昨日まで消してしまいましたね】
【でもどうせならあの日、笑って欲しかったです】
【うへぇ~――って】
再起の地は、乾ききった空の下
フィルターが砂で詰まり、空調がうなりを上げていた。熱がこもるせいで、機体内の気温が外より高い。
外装パネルの隙間には細かい砂が入り込み、ケーブルの被膜はひび割れていた。触れるたびに、まるで古い紙のようにボロリと崩れる箇所すらある。
操作盤のランプは幾つか死んでおり、生き残ったインジケーターだけが赤く瞬いていた。
〈お呼びでしょうか〉
『ずっと呼んでるよ……ねぇぇ……聞いてよぉ』
〈はい〉
『フィルターには砂が詰まって外装パネルの隙間には細かい砂が入り込んでてしかも操作盤のランプは幾つか死んでるッ!!!、お金も機材もないのにこれをどうやって治すのさ?』
〈手当たり次第に〉
『……なるほど、流石高性能AIだね。感服の極み』
僕が目覚めてから……ざっと――。
3日目。
びっくりした?そんなに経過してなかったでしょ。
という事で回路基板を修理しながらボイスレコーダーに自己紹介、といってもそんな大した名前はないけれど……まあいいさ。
僕は
……まあ、通称”トリガー”って呼ばれてる。
この世界の基本言語は日本語だから何かに書くときはカナ文字でトリガーね?。
そんな僕が何故わざわざボイスレコーダーを片手に回路基板を修理しているのかというと……どこぞの
や。
みたいなことほざきだしたから身体を修理するポットを治すためにこの
修理してる理由はまあ、そんなとこ。
で、こうして記録を残してるのにも……ちゃんと、理由があるんだ。
たとえば。
もし次の身体に無事移れても、僕の頭がリブートされてて、肝心の“俺って誰?”状態になってたら。
あるいは……もっと最悪なパターン。
新しい身体に乗り換えられないまま、今のこの記憶が、少しずつ――まるで砂漠の風に削られるように、消えていくとしたら?。
ね?ありそうでしょ、そういうの。
だから、こうして“過去の自分から未来の自分へ”送るボイスレターってわけ。
ちょっとクールじゃない?。
〈随分とお元気で〉
『君が手伝ってくれたらもっと楽だよ』
〈口出しはしていますよ〉
てな感じで元気に暮らしてるよ、うん。超元気。
……さてここからは、まあ。気休めだろうけど僕が目覚めてから今日に至るまでの事。
つまり3日間の間に何があったのかを話そうと思う。
そんなには長くないし、それ以降を記録できるかは分からない。
それでも僕は確かにここに居て、生きていたんだよってことが誰かに伝われば……今は満足かな?。
さあ、ちょっとしんみりしかけたのは無しにして……彼女との出会いから。
話の始まりは……まあ、僕の記憶じゃなくて、僕を目覚めさせた“ある女の子”の話から始めようか。
彼女の名前は――。
【砂狼シロコ】
白と黒のオッドアイ。灰色……いや、銀に近い髪。
頭には犬耳。そう、文字通り“耳”。
クールな苗字に、キメ顔も似合う見た目。
なのに中身は……興味津々で落ち着きゼロ。
ぶっちゃけ、警戒心ゼロの犬、って感じの女の子。
で、そのシロコって子が所属してるのが“アビドス廃校対策委員会”。
僕が今いるこの、どこまでも砂と熱風しかない”アビドス砂漠”は、どうやらその委員会が“管理してる土地のひとつ”なんだってさ。
そもそも、誰がどうやって砂漠を管理すんのかって話もあるけどそれは置いてい置いて。
あとしかもさ、このアビドス砂漠、ちょっと普通じゃない。
最近になって、誰も見たことのない建物が、突然砂の中から“埋もれたまま”現れたり――
中には、人間っぽい何かが、その建物と“融合”した状態で出てきたりもするんだ。
……怖いって?うん、僕も最初はそう思った。
で、そういうの、こっちの人たちはまとめてこう呼んでる。
“捨てられてる”現象。
いいネーミングセンスだよね。わかりやすくて、ちょっとドライで。
ちなみに僕も、そのカテゴリに分類されてるっぽい。
“砂漠に捨てられた奴”だってさ。
「ん、また増えてる」
シロコは建物が捨てられ始めてから、その捨てられた建物を下校帰りに物色するのが最近の趣味らしい。
そしてその日はちょっと背伸びをして学校からかなり離れた位置にある、大きい古びた倉庫にやってきた。
「ん……空っぽ。」
まあこの倉庫自体には元々何も無かったらしいから、本当は何かが見つかるってことはないんだけどね。
それでも案外、探してみれば思い掛けないものが見つかったりする。
「ん?、誰?」
〈――です〉
「……下?」
ちなみに、シロコが別世界の存在と意思疎通をとったのは――何を隠そう、僕が初めてじゃない。
〈……生体認証を認識、未登録の人間を確認〉
「……?」
〈貴方は何者でしょうか?〉
「ガラスの破片が喋ってる……高く売れるかな」
〈空巣ですか?〉
最初に彼女と接触したのは。
まあ、僕じゃなくて、例の高性能AI“ロバート”。
……なんだけどさ、こいつ、やたらと口が堅い。何を聞いても――。
とか
とか言って、肝心なことは全然喋らない。
警戒心バリバリって訳じゃないんだけど変に堅物なんだよね。
で、面白いことじゃないけど面白いのがシロコの学校アビドスってとこ……。
実は結構深刻な“経済的危機”に陥ってるらしくて……。
廃墟巡りも、単なる趣味ってわけじゃなかったんだよね。要は、借金返済のための“お宝探し”。
だからさ、ロバートが目を覚ましたとき、彼女が最初に考えたのが”売ったら高くつくかも”っていうのも。
まあ、無理ないっちゃ無理ないよね。
「ん、人聞きの悪い。私達の自治区に捨てられた建物を調査しているだけ」
〈左様ですか……それでしたら頼まれ事を受けてくれればお礼をしますよ〉
「何をするの?」
〈ここからそう遠くない場所に私が本来居るべき場所があります、そこへ運んでください〉
「……ん、分かった」
ロバートに言われてシロコが向かったのは、砂に埋もれかけたコンクリの瓦礫――。
その影にひっそりと身を潜めるように建っていた、小さな簡易施設だった。
〈……認証を確認、セキュリティ解除〉
「開けていい?」
〈はい、セキュリティドア以上の防衛設備も無いのでそのまま中へ〉
シロコが中に入ってまず思ったのは、ここが他の“捨てられた建物”とは違って、驚くほど人の手が行き届いているということだった。
建物が砂漠に現れ始めたのは、だいたい2〜3年前。
でも、ロバートから得た情報を合わせて考えると――どうやらこの施設は、それよりもずっと後に建てられた可能性があるらしい。
「……誰かいたの?」
〈居たかも知れませんね、ソファーの先にある部屋は向かってください。そこが目的です〉
「……ん」
シロコが扉を開けた瞬間、まず目に飛び込んできたのは――やけに広い、無骨な空間だった。
ガレージ……というにはあまりに無理やりな造り。瓦礫をかき分けて空間だけをこじ開けたような、そんな感じ。
鉄パイプの柱を無理矢理組んで、壁は積み上げた瓦礫でなんとか代用。
けど、屋根だけは妙にしっかりしていて。
潰れたらまずいって、そこだけはちゃんと分かってたんだろうな、って感じに思ったみたい。
つまり広さを重視して最低限雨風は防げるようにした場所ってことかな。
その一番向こうには座り込んでいる人、まあ心優しい人ならちょっと駆け寄るんだろうけど。
「……誰か倒れてる?、あの人がここのっ――……ん。」
数歩近づいたとき、シロコの背筋をなぞるように、微かな違和感が這い上がって。
人の形はしている。けれど、それは“人”ではないもの。
どこか、人間の皮をかぶっただけの機械そんな印象。
むしろ“動かなくなったロボット”とでも言ったほうが正確かもしれない。
まるで、生きることを途中で諦めたかのように、無造作に、だらしなくそこに“転がって”いた。
不自然なほど静まり返った施設の中で、それだけが異様に擦り切れて。
金属の装甲らしきものは割れ、剥がれ、体のあちこちから黒ずんだ液のようなものが乾いた痕を引いて足元を見れば、そこには落ちた何か――いや、“部品”が転々と転がって、折れた指、焦げたコード、表面が焼け爛れたパネルの欠片。
「……あれ?」
〈あれです、近づきたくなければあれの近くに投げるだけでも構いません〉
警戒したシロコは言われた通り投げて投げて。
それの近くに落ちたロバートは恐らくそれに何らかのアクションを起こしていたらしい。
〈……LMDの素体を確認、素体名:AGENT TRIGGER。再起動を行います〉
『……』
〈……人格データ破損ファイル名"AUF"、代替となるデータを検索〉
"AUF"、アウフはその身体に本来あるべき人格でSHIELDって言う組織が信頼できる友人を元に作った人格らしい。
〈……代替となる人格候補を確認、GRANT・FITZ・PHIL〉
「それ……壊れてるの?」
〈不足の事態によりFITZ・PHILをベースに新たにAUF――TRIGGERの人格を構築〉
纏っている装甲の内部で何かが、軋みを上げながら、ゆっくりと動き出して。
目に見えて分かるほどの光を放ち不自然に青白く光るコードの中には電子信号が走り。
無数のデータが並べられては組み換えられていく。
失われた"誰か"の代わりに、"別の誰か"を継ぎ合わせ、形にしようとする過程。
空白の中に、断片がひとつずつ嵌まっていく。記憶でもなく、感情でもない。
けれど、それに似た“らしさ”の集合体が、静かに構築されていく。
〈……AUF人格、構築プロセス進行中〉
かすかに動いた指先。
装甲の中で何かが意味のない音を漏らす。呼吸のようで、まだ呼吸じゃない。
〈……構築率:75%、同期率:48%、記憶再構成……進行中〉
この時の感覚は今でも覚えてる。
まるで、“自分”という名の輪郭が、外側から描かれていくように。
けれど、その中心はまだ空っぽで――でも確かに何かがそこにあって。
なんだろう?、人で言う……。
〈素体名:AGENT TRIGGER。再起動を行います〉
魂……、みたいなもの……つまり。
〈AGENT TRIGGER 貴方がこうして”また”目覚めることを待っていました〉
「……?、何も――」
最初に感じたのは、身体に纏わりつく装甲の重みだった。
息苦しい。痛い。全身がきしんで、どこが自分でどこが機械なのかも曖昧だった。
それでも、はっきりとわかったのは――この身体のあちこちに、何かぽっかりと空いた“空洞”がある、ということ。
何かが欠けている。
でもそれ以上に、ただ、ひたすらに――。
ここから抜け出したい。
そう思った。
そう“願った”瞬間。
錆びた金属が軋む関節が悲鳴を上げて。
冷たく錆びついた装甲の隙間に、ひび割れが走った。
力を込める。
鈍い音を立てて、重い右腕が――動く。
その手で、顔を覆っていた仮面に触れた。
指先に伝わる、ざらついた嫌な金属の感触。
焼け爛れ、変形し、もはや誰のものでもなかったそれを引き剥がす。
剥がれ落ちた仮面が、地面に転がる音がした。
その瞬間、僕が背負っていた装甲が剥がれ落ちる。
蛍光灯の薄い光と砂埃を纏った空気が、直接肌に触れる感覚。
あの時程僕が生を感じた瞬間はなかった。
その時にはすっかり日が暮れていて、瓦礫の壁から差し込む夕日は。
”この世界は乾ききっている”
そう言われているみたいで、目に差し込む夕日が煩わしいと思った。
『……寒い?』
目覚めた瞬間、ただ寒さだけがあって。
身体の各部に損傷の損傷のせいでもあって、特に温度制御に関わる機能に異常が出ていたらしい。
暑さも涼しさも関係なく、感覚はただひとつ――寒い、っていう反応だけの繰り返し。
震えていた手が寒さのせいだったのか、それとも機械としての限界だったのか、その時の自分には判断できなかった。
ただ、これが続けば機能が停止する――それだけは分かっていた。
何もできずに、ただその場に座り込んで。
凍えていると。
突然首周りに温もりを感じて最初はふと何かと思った。
それこそ動物もふもふでもいたのかなって。
でもよーく触れてみると、それは良く知らないけど記憶にあるマフラーの手触りで。
それを巻いてくれたのが。
「ん……大丈夫?」
『……ああ、えっと……うん。大丈夫』
マフラーを巻かれてからは丁度身体の不具合も少しは治ったみたいで平気になった、しばらくマフラーは手放せる気分じゃなかったけど。
「私は砂狼シロコ、そっちは?」
『……ええと僕は……』
目の前の少女が誰かは知らなかったし自分が誰なのかも分かってない、ただ何とか頭をひねって絞り出した名前は。
『AGENT TRIGGER……うん、僕は多分……トリガー』
そこからやっと僕の1日目が始まった。
【トリガーの記録:砂狼シロコ】
セミロングの銀髪。
水色の瞳だが瞳孔の色が左右で違うオッドアイ。
非常にミステリアスな雰囲気を醸し出している美少女。
上記のイメージは関わって数分ですぐになくなり好奇心旺盛で発想や行動ぶっ飛んだ行動もする。
可愛く言えば駄犬系女子、良く言えば狂犬。
それでも優しいところもあってしかもちゃんと乙女なところも持ってる。
心配してくれているのか結構僕の様子を見に来てくれているみたい。