燕少女は漢字を知りたい 作:sasugani
朝のHRは全くもっていつも通りで、特段気にするような連絡事項もなくうたた寝しかけている間にも過ぎようとしていた。しかし担任教諭である平岡先生がそんなHRの最後に「あ、華表さんは浜田先生が呼んでいたのでこれが終わったらすぐに職員室に行ってください」と言ってきたために僕のテンションは跳び箱で調子に乗って巫山戯てたら怪我をした小学生みたいに下がりに下がっている。
隣で同じく退屈そうに聞き流していた雪色もその平岡先生の言葉を聞いてたようで、HRが終わると僕へと顔を向けてきた。
「浜田……ってアレだよな。現代文の。何で呼ばれてんだ?」
「さあ……多分漢字部の用件だと思う」
「そういやんなこと言ってたなお前。浜田に無理矢理入部させられたとか何とか。辞めちまえば?」
割と本気そうに言ってくる雪色に苦笑しつつ、じゃあちょっと行ってくる、とだけ言って僕は教室を後にする。
HR終わりの空いた廊下を歩いて、職員室にはすぐに着いた。何故か開きっぱなしの扉からはエアコンの冷気が漏れ出してひんやりとする。教室はエアコン入ってないのにな……。
失礼します、と念のため慇懃に一礼をして職員室に入ると視線を左右に動かして浜田先生の姿を探す。5秒とせず発見することができた浜田先生は、昨日と同じ席で赤ペン片手にプリントを睨めつけながら唸っていた。
近づくと、僕の気配に気付いたのか気怠げに振り返る。
「おっ、来たか表華」
「何の用件ですか?」
「入部届だよ、昨日言ったろ? 明日にゃ渡すって」
そう言って引き出しの一番上段を開け、一枚の用紙を取り出すとぴらぴらと煽ぐ。どうせそんなことだろうと思った。
「解りました。じゃあ今書いちゃっても良いですよね」
「はぁ? 印鑑持ってんのかお前? てかそもそもだな、保護者記入欄があるから今すぐじゃ無理だ」
「僕は親元離れて一人暮らしなので事情を説明すれば大丈夫だと思います」
こういう時のために一応印鑑とボールペンは持ってきている。だから自著欄だけなら埋めることができるんだけど……プリントを見る限り、浜田先生の言う通り今すぐ書くことはできなさそうだ。保護者記入欄もあれば担任の署名欄もあるし……意外に書くの面倒くさいんだな。まあ自分の分は書いてしまおう。
早速立ちながら勝手に先生の机の端を使って書いていると、困ったように浜田先生は後ろ髪をガリガリと揺する。
「それって扱いどうなるんだ……まあ後で学務に聞いておいてやるよ。ともかく、書きながらで良いからちょっといいか?」
「何ですか?」
「シンシアのことなんだが……昨日俺が面倒を頼むって言った理由分かったか?」
筆を止める。
確かに昨日そんなことを言われた気がする。その時は理由は分からなかったし、正直今もあまり良く分かっていない。
何せ、シンシアは良い子だ。たった一歳しか違わない僕が年上面するのも変だけど、実際そうとしか言いようが無い。善意の塊みたいな少女だと非肉抜きで率直に思った。
「……いえ。僕がシンシアの面倒を見る必要なんてないと思いました。今日も朝偶然出会って話しましたけど彼女以上に素直で善人な人間なんてあまりいないと思います」
「そうか、お前は上手くやれてるんだな。そりゃ僥倖僥倖」
「どういう意味です?」
浜田先生は若干表情を弛緩させ、口元を弓に曲げた。それは一秒と続かずすぐに真剣な相貌に戻った。
「あんまり生徒個人のことに言及するのはどうかと思うんだがな……シンシアにゃ友達がいないんだよ。それどころかクラスで壁を作ってる」
「壁ですか?」
「ああ。話掛かけられたたら言葉を返すが、自分から話しに行くことをしねえんだシンシアは。孤立、とまでは幸い行ってないけどな。クラスの女子共が気に掛けてるおかげで何とかやって行ってるみたいだ」
「そうですか……正直なところ、全く想像が付かないですね」
シンシアのあの雰囲気で壁があるだなんて……僕は微塵もそんな空気を感じなかった。
浜田先生は静かに頷くと、一呼吸開けて口を開く。
「まあ、仲良くやれてるんなら丁度良い。出来るだけ気にしてやってくれ」
「……そういうことなら分かりました。シンシアは後輩ですからね、やれるだけやりますよ」
「おう、くれぐれも頼むぞ華表。……くれぐれも慎重にな」
浜田先生は念を押すようにそう言った。
……どういう意味だろうか?
その真意を訪ねる前に浜田先生は用は済んだとばかりに僕から視線を外し、再びプリントの山を処理し始めた。
─── ─── ───
教室に戻って雪色に「何を話してたんだ?」とか聞かれたので適当に答えつつ、今日も今日とて始まった授業を真面目に受ける。
昨日浜田先生から優等生と言われたけどそれはある種狙っているから当然だった。僕は効率を重視している、それは受験に関しても同じである。大学受験でそれなりの学校を狙うとなれば勉強時間は1000時間、1500時間とか物凄い時間が掛かる。でも指定校推薦ならば基本的に良い成績を取って多少拍が付くような校外活動をして、あとは多少の小論文さえ対策すれば良いだけだ。学内でも狙っている人は少ないし成功すればコスパ最高だと思う。
そんな思惑もあって僕は人から見てもかなり教師受けの良い態度を取り続けている。挙手はすれば発言もするし、何なら機会さえあれば教材を運んだりみたいな手伝いもする。自分で言うのもアレだけどまさに模範生。こうして模範生ムーブしてる間にも隣でダラダラと溶けかけの氷みたいに座る雪色が白い目でこちらを見てくるけど気にしない。あのな雪色、僕はお前と違って地で頭の出来が良い訳じゃないんだ。
集中していれば気が付かぬ間に昼休みになっていた。クラスの空気もそれと同時に弛み、教室の内外で人の出入りが活発になる。
「一貴、学食行かね? どうせ今日も購買でカスカスのコッペパン食べるんだろ?」
「ごめん、今日はシンシアと一緒に食べる予定があるんだ。……漢字部来る?」
「行かねっつの! 勝手に行ってろ」
不機嫌そうにすんと鼻を鳴らすと雪色はそっぽを向いた。……会ったのは3日ぶりになるけど何か悪いことした気になるな。次は僕から誘うか。
財布と携帯をポケットに突っ込んで教室を出ようとして、後方の扉から顔だけ覗かせてチラチラとこちらを確認する隣人の姿があった。目と目とが合う。
「……シンシア?」
「せ、先輩さん! お昼を食べましょう!」
少し取り乱した様子のシンシアは胸の前に両手を合わせながら僕のことを見上げた。どうやら僕に話しかけるタイミングを見計らっていたようだ。確かに上級生のクラスにずかずか入るのは難しいよね。
にしても。
見慣れない美少女の姿に後方でクラスメイトが妙にざわざわとしているような……よし。
「うん、行こう。すぐ行こう」
「はい!」
テキパキと僕は教室を後にすることにした。もしかしたら何かしら言われるかもしれないけど考えるの後。今は昼飯を食べることだけ考えよう。
シンシアは突如早歩きになった僕にちょっと戸惑いながら駆け足で着いてくる。すぐに追いつくと横に並んだ。
「購買ってどんなのが売られているんですか?」
「外国には無いの? まあそうだな、良くある惣菜パンとかおにぎりとか、後は手軽な弁当だとか。そんなもんかな」
「そうなんですね。寿司とかは……?」
「無いよ。どの高校行っても無いよ」
残念です、としゅんと落ち込んだ。微妙に期待していたらしい。
アニメであるような名物パンとかはこの高校には存在しないし、当然だけど授業後にすぐ走らなければ手に入らないみたいなパンの奪い合いみたいなのも発生しない。そもそも何で寿司……ひょっとして食べたかった?
「シンシアは弁当を持ってきてるんだよね?」
「はい。今日は野菜炒めです!」
「自分で作ってるの?」
「そうですね、私も一人暮らしなので。やはり自炊できるところは自炊しないと、って思います」
どうやらシンシアの女子力が高いらしい。一人暮らしなのに大した料理もしない僕も見習うべきなのか……でも料理って面倒だしなぁ……。
教室から三分ほど歩き、購買に着くと既にお腹を空かせた生徒で場は盛況としていた。売り場には列が形成され、30人以上が並んでいる。
「
「まあ、僕みたいな人も多いからね」
混みあった学食を前にシンシアは大きく口を開けた。確かに、小さな売り場と厨房しかない購買にここまでの人数が押し寄せるのはこういう場以外ではあまり見ない光景かも知れない。
ちょっと待ってて、とシンシアに伝えると僕もその列に並ぶ。五分ほど待って、いつものミルクコッペパンとメロンパン、それに野菜ジュースを購入した。
手に持って人垣から出ると、壁際で邪魔にならないように待っていたシンシアの視線が僕の手元へと落ちる。
「ごめん、待たせた」
「そんなことないです! ……それが先輩さんの昼餉ですか?」
「うん。購買使う時に買うのは大体これかな」
一人暮らしをする上で健康的な食事は大切とは言うけど、昼は面倒だし手早く済ませたいからこうなりがちだ。朝早く起きているからと言って料理も大して出来ないから弁当を作る訳でもないし。気休め程度に野菜ジュースも買ったけど多分あんまり効果もないだろう。
「お菓子パンはあまり体に良くないですよ?」
「大丈夫だよ、まだ若いし。ほら、若いうちは苦労しとけって言うでしょ?」
「それは内臓についての言葉ではないのでは……?」
流石漢字大好きなシンシアだ。日本の格言みたいなもんなのに知ってるんだな。
「そう言えばシンシア、弁当は? 持ってないみたいだけど……」
「あ、部室にあるので大丈夫です! 行きましょう」
シンシアは購買を一瞥すると部室の方へと歩き始める。
軽い雑談を交わしながら、シンシアと話していてふと先程の言葉が脳裏を過った。
くれぐれも慎重に……と。浜田先生はそう言っていたけど、未だに何を懸念しているのか分からない。本当にシンシアは良い子だ。非凡なる見た目に印象が釣られてしまっているかと問われれば否定は出来ないけども、少なくともシンシアの口から汚い言葉や陰口を聞いたことが無い。クラスメイトとの壁を作っているという話が本当ならもっと何か本人から漏れだしても良いと思うんだけど……楽し気に鼻歌交じりに歩くシンシアを見ると全くそうは思えない。
漢字部の部室に入ると、既に二つの机が向かい合わせでくっ付けられていた。シンシアはその片方に腰を掛けると、机の中から黄色の布で包まれた弁当箱を取り出した。僕もそれに倣ってもう一方の席に着くと、同時にシンシアの弁当箱の蓋が開かれて良い香りが鼻孔を揺るがす。
いただきますと合図して、パンの包装をベリっと破りながら早速そのシンシアの手慣れた弁当について聞いてみることにした。
「へえ……シンシアって料理上手なんだね」
「そうなんですか? あまり他の方と比較したことが無いので……」
謙遜するように言うけどもその中身は初心者の物には見えなかった。パステルカラーな水色の弁当箱には白いご飯の隣に上手に焼かれた卵焼き、アスパラガスが包まれた肉巻きと色彩豊かなおかずが詰められていて、素直に美味そうだと思う。
「先輩さんは料理とか作られないんですか?」
「そうだね。去年、一人暮らしを始めたばっかの時はパスタの研究とかしてたけど飽きてからはやってないかな」
「パスタの研究ですか?」
「ああ、うん。パスタって作るの楽だし安いでしょ? だから美味しいソースを作るのにハマってた時期があったんだけどさ、一週間ずっとパスタ食べてたら飽きた」
多分学生で一人暮らしをした経験のある人間なら全員経験があるはずだ。茹でるだけで後はソースと具さえあれば完成するパスタをどれだけ廉価でどれだけ美味しく作れるかという、コスパ最強美食を追及することは金銭的余裕がない学生なら誰しもがやった経験があるはずである。因みに個人的な
シンシアにはそんな経験が無いのか、ごはんを器用にも箸で食べながら物珍しそうに瞳を輝かせる。
「パスタですか……! 美味しそうですね!」
「シンシアはやったことないんだ」
「はい……一応創作料理をしようとしたことはあるんですけど才能が無いみたいで。レシピ通りに作るので精一杯です……」
「いやいや十分凄いと思うよ。パスタそんな大した料理じゃないし、それなら下拵えも必要な分ちゃんとした料理を作る方が数倍大変だし難しいって」
甘ったるいコッペパンを野菜ジュースで流しながら本心を言う。僕だってハンバーグとか作ろうとした過去はあるけど2回中2回焦がした。二度とやらないと決意しました。はい。
「アレ? そうなると先輩さんはいつも何を食べているんです?」
「そうだね……白飯を炊いて、それから野菜だけ買ってサラダ作って、後は惣菜コーナーから適当にって感じかな」
「健康に悪いですよ?」
「うーん、まあ頑張るよ」
と、口だけ言っておく。当然面倒くさいから料理を始めようとか考えていない。
「そうだ。シンシアって学校の勉強とか大丈夫なの? 留学生だから学習範囲とか違ったりするよね」
「はい! 実はちょっと苦手な科目があって……数学と化学があまり出来ないです……」
「理系科目?」
思わず声を飲んだ。確かにシンシアは漢字が得意だとは知っているけどもまさか地歴公民より理系科目の方が苦手だとは思わなかった。というか普通、留学生って問題文が読めなくて国語とか日本史とかが苦手科目になるけど感覚的に数理はできたりするもんだからシンシアってかなりレアケースなんじゃ……?
「特に公式の応用が私にとって
「僕? まあ、不得意科目は無いかな」
「本当ですか……!? 凄いですね!」
「うんまあ。内申は大事だからね」
憧れの人でも見るかのようにシンシアは瞳を煌めかせた。でもシンシアだって留学をしているんだから、少なくとも母国での成績は悪くはないはず。それどころかこんな高偏差値の高校に来ちゃうくらいならそれなりに出来ていても良い気はするけど……それこそ外国と日本との教育速度の差異が生じているのかもしれないな。
本人としても気にしているのか、シンシアは少し凹んだ様子で弁当を突いている。何だか憐憫の情すら湧いてきたからちょっとフォローすることにした。
「まあ……シンシアは一年生だし、僕でも教えられることがあると思うから分からないことは聞いてくれ。部屋も隣だしな」
「良いんですか先輩さん……?」
「あまり大手を振っていう事じゃないけど学年総合5位だぞ僕は。後輩に勉強を教えるくらいどうってことないさ」
「ありがとうございます! じゃあ早速今度伺わせていただきますね!」
滅茶苦茶嬉しそうに微笑むシンシアに「アレ、もしかして僕ミスったんじゃ……?」という考えが脳裏を掠める。何だろう……まだ懸念事項に過ぎないけど、凄い頻繁に訪問してきそうな気がしてきた。また雪色に効率厨(笑)って言われる……!
と、なんだかんだ言って仲良く歓談していると突如として部室のドアが開け放たれる。僕もシンシアも一旦話を止めて、そのドアを開けた人物に視線を遣った。
その人物は水色の髪をツインテールにして、眠そうに眼を半開きにした矮躯な少女だった。腕には生徒会と書かれた腕章が嵌められており、片手にはコーラのペットボトルが握られている。
生徒会の人間が昼休みに部活に来るなんてどういう事情だ……?
「お取込み中ごめんですが、ちょっと良いなのですか~」
おっとりとした口調で彼女は口を開いた。シンシアがそれを見て目を皿にしつつも、箸を弁当箱に丁寧に置いた。
「はい! ええと、入部希望者でしょうか?」
「違いますね~残念ながら」
丁寧というには少し慇懃無礼さが勝る言葉遣いで、更に続けて言う。
「私は生徒会副会長の
「は、はあ」
「あ、ごめんなさい。ちょっとコーラっても良いですか~?」
「え? あ、どうぞ……?」
あのちっこさで三年生なのか……知らなかったら中学一年生と見間違えそうだ。僕の妹よりもちっこい。
比良橋先輩は態々シンシアから許可を取ると手に持っていたコーラの蓋を開けて、思い切り角度を付けて仰いだ。1/4くらい減ったところで「ぷえっ!」という声を上げて腕で口を拭くと、コーラの蓋を閉める。……一体、何なんだこの副会長。
「すみませんね~。仕事なんてコーラ飲まないとやってられんなのですよ~。今日だけで4本目なのです。コーラは百薬の長とも言いますので、ないと死んじゃうのですよ」
「酒は百薬の長、なのでは……」
「細かい事を気にしていたら人生損ばかりなのですよ~小利を得んとして大利を失う*3ってやつです」
シンシアの訂正に全く応じず、比良橋先輩は煙に巻いた。相変わらずのシンシアの日本語への精通っぷりもそうだけど、それ以上にこの副会長は何をしに来たのか気になる。生徒会が直接部活動に赴くなんて、あんまりない事だと思うけど……。
そう考えていると比良橋先輩は目を細めて、シンシアのことをジッと見た後に僕へと視線をスライドさせ、何故か首を傾げるように「アレ?」と譫言を呟く。
「そこの金色の女の子が最近転校してきたシンシア・テルリナットなのは分かる……で、貴方誰です? 何でいるのです?」
「僕は2年5組の華表一貴です。ここにいるのは、まあ、シンシアにお昼を誘われたからですね」
部員ですから、と言おうとも思ったけど正確には違うので結果的に曖昧さを孕んだ言い回しになってしまう。この高校に通う生徒の資料が見れる生徒会相手に嘘を言ってもデメリットしかないだろうし、ここは隠さず事実を述べるのが正解だろう。
ふ~ん、とどうでも良さそうな声を出すと僕への興味は完全に失ったみたいで、再びシンシアへと向き直る。
「さて、コーラも飲ませていただきましたしお昼の時間も有限なのです。本題の方入りますね」
比良橋先輩の先程までの諧謔染みた言動は消え、空間が突然引き締まったようにも感じる。
「率直に言っちゃいます。貴方は何部に属しているのです?」
「私は漢字部ですけど……」
「そんな部活動はこの高校には無いのです、労わしやなのです。この教室はただの空き教室でして、つきましては放課後に占拠するのは止めてもらいたいです」
「そんな……!?」
シンシアが二の句が継げぬといった表情で口を大きく開けた。斯く言う僕だってそうだ。
だってシンシアが部長ってことも聞いているし、その顧問である浜田先生からは入部届だって貰った。教師公認である以上、部活動として成立しているはず……!
だが比良橋先輩はそんな僕の陳腐な考えを否定する。
「そもそも部活というのは最低でも三人以上いて、且つ部活の目的を記した提案書が生徒会で認可されない限りは発足とはならないのですよ。果たして、誰がこの部活を認めたのですか?」
「それは……」
「比良橋先輩、それは浜田先生です」
答えに詰まったシンシアの代わりに僕が答える。意外そうに目線を送る比良橋先輩だったけどすぐに表情を戻して。
「なるほどです。事情を深くは分かりませんが、浜田先生に聞けば良いという事が理解出来ましたです。……はぁ~疲れるのですよこういう立ち回り」
「はい?」
溜息を吐いた比良橋先輩はクラッチを思いっきり踏みしめ惰性走行し始めた自動車みたいに語気を緩める。
「私だって~ですね、こんな悪役がしたい訳ではないのですよ? ですけど私たち生徒会は正規の手順を踏まずに教室を使用、あまつさえ申請もしていないのにもかかわらず部活動を名乗る集団は見過ごせない~みたいな感じになっているのです。ただお話を聞く限り、今回は先生も関わっているようなのでそちらからもうちょっと詳しい事情を拝聴しようかと思うなのです。は~めんどくせめんどくせなのです」
「は、はぁ……」
「あ、だからといって教室の使用を見逃す訳でも無いのですよ! そうですね〜今日限り。今日限りで使わないでください。あくまでこの教室はただの空き部屋ということになっているので〜」
僕もシンシアもその言葉に何かを返すことが出来ない。知らないからだ。
比良橋先輩の話によれば、この部活動は浜田先生によって無断で作られたという風に聞こえる。それが本当なのかどうか、たった一日しか関わってない僕には判断が付かぬ事柄だしシンシアからしても分からないのだろう。一つの反論すらせず押し黙っているのだから。
「まあ〜そんな感じなのです。申し訳ないのですが規則なので遵守してください〜。では私はこれから生徒会長に報告しにいかなきゃならないので失礼なのです〜」
そう言って比良橋先輩が教室から出ていくと、僕とシンシアは困りながら目を合わせた。