現代魔法術はアプリで効率化!私は私の魔法術を極めたい 作:サモア リナン
「……うまく頭が追いついてないね。直感も予測も悪くない。でも、その先。動きの終わりに気を抜かない“残心”ができてない。あとね、一瞬でも意識的に息を整えるタイミングを入れないと、体力の消耗が一気にくる。戦いは、短距離走じゃないから」
穏やかな口調で言いながらも、心の奥にはかつての自分への悔しさが滲む。
私も昔は、気持ちだけで戦っていた。
無我夢中で、ただ目の前の敵を倒すことだけを考えていた。
《多重思考》の力を得て、ようやく“戦い方”の意味が分かった。
もし、あの時この視点があれば――
星璃愛を、守れていたのかもしれない。
……だからこそ、彼には同じ後悔をしてほしくなかった。
「今は訓練だから何度でもやり直せる。でもね――
本番でその一手が遅れたら、死ぬよ?」
鋭くもどこか優しさのある声が、訓練場の静寂を切り裂いた。
ここは多国共同政府の《境界管理軍》東京支部にある。特設フィールドの中央、息を荒げながら立ち上がるのは――神宮寺 太(ふとし) 以前、スライムから私が救った、まだ訓練生レベルの男子後輩だ。
本人には内緒だがカッコいい苗字な割に名前がコミカルだ。ご両親に何で、この名前にしたのか割と本気で問いただしたいレベルである。
ちなみに本人はちょうど良い感じの筋肉質だ、解せぬ。
「っ……は、い……!」
全身に擦り傷をつけながらも、彼はなおも立ち向かう姿勢を崩さなかった。目の前に立ちはだかるのは、Aランクランカーの一人、黒峰エイジ。攻防の緩急が読みにくく、一撃一撃が重く実戦そのもの。訓練とは思えない迫力だ。
――ふとし君の動きは、まだ荒い。フォームの崩れ、無駄な力み、感情の暴走。けれどその中に、彼自身の”可能性”は確かに見えていた。
私はフィールドの外からその動きを見守りながら、《多重思考》を稼働させる。
――《多重思考》。
私に覚醒した新たな能力。それは単なる思考の並列処理に留まらない。
戦術分析、術式構築、感覚の予測制御、自動回避――それらを脳内で同時に“複数の自分”が処理していく思考システム。
その補助をするのが、私の中に存在するもう一人の人格――ネオノア。
≪戦況分析完了。ふとし君の次の動作は回避重視のローアングルだが、黒峰のカウンターに捕まる確率88%。強制的に体重移動を促す言葉かけを推奨≫
(…了解。さすがネオノア、いつも的確)
「ふとし君、直感に頼りすぎだよ、腰が浮いてる!前に倒れるように受けて!」
私の指示に、ふとしが瞬時に反応する。直後、黒峰のカウンターを受けることは出来たが、吹っ飛んだ。
私たちは、調査も続けていた。星璃愛――あの子の残した魔力の痕跡、そして手帳に記された“非認可の教育施設”に関する情報を頼りに、日本各地を巡っている。
発見された施設は、最初に見つけた施設の場所と酷似した構造だった。だが――
「……また、空っぽか」
香坂が資料ファイルを手にしてため息をついた。私も、無言でうなずく。
施設の内部には、使い込まれた機材の痕跡や、生体魔術の研究を行っていた証拠らしき魔力残渣が残っていた。けれど、肝心の“被験体”や運営者たちの姿はどこにもない。
「でも、痕跡があるだけマシ……次が本命かもしれない」
≪魔力信号パターン照合中……候補地:三重県南部。高確率で施設跡が存在≫
(ありがとう、ネオノア)
「次の調査、三重県に決めよう。ふとしくん、準備よろしくね」
「はい!絶対、力になります!」
真っ直ぐな目で答えるふとしくん。スライム事件のときから、彼の中には確かな“芯”があると感じていた。
ただ戦いが強くなりたいわけじゃない。誰かのために動ける人間だ。だから私は、彼を鍛えたいと思った。
彼は、まだまだ伸びしろがある。今は直接・間接的な戦闘の“読み”が追いついていない。だからこそ、今後は「索敵」や「逃走経路の確保」、「一方的な殲滅」など、直接戦わないで勝つ、更にはもっと踏み込んで、勝利の使い方、被害の少ない負け方、生き残り方、などなど教えていきたい。
(それにしても……教える側って、めっちゃ考えること多いなあ。24時間じゃ足りないよ、教えといて自分は出来ませんじゃ笑えないから訓練も続けたいし)
そんなことをぼんやり考えながら、私は隣にいた黒峰エイジに頭を下げた。
「黒峰ランカー、私にも……戦闘訓練をお願いします。全力で」
「ん?……今の、全部口に出てたよ? いつもそんな風に思考ぐるぐるしてんの?ヤバすぎない?」
彼は苦笑いしつつも、目の奥は真剣だった。
「それと、その戦術理論……マジで教えてほしい。面白すぎるって、それ」
「ありがとうございます。では、この後30分、フィードバック時間として一緒に整理させてください」
「いいね、よろしく頼むよ」
二人で静かに構え合う。
次の瞬間――
轟ッッ!!!
訓練場全体が、雷鳴のような衝撃に包まれた。
《多重思考》による高速予測。
ネオノアによる思考補助。
そして、効率よく鍛えている身体。
この力は、すべて――
「星璃愛を助けるために使う」