現代魔法術はアプリで効率化!私は私の魔法術を極めたい   作:サモア リナン

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もっとゆっくり、歩くのだ!


第14話 注がれた罪

 

「……神宮寺、太くん」

 

星璃愛のその一言が、森に漂う重たい空気を切り裂いた。

 

ふとし――神宮寺太の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。何が起きているのかも掴めないまま、春佳奈はただ茫然と、その光景を見つめていた。

 

「ねえ、聞かせてよ」

 

星璃愛の声は冷たい。優しげな雰囲気を纏っていたはずの彼女が、まるで氷のような鋭さを帯びている。

 

「十人以上の魔族の子どもたち、そして人間の子ども……その“命”で命を繋いできた身体って、どんな感じ? それでも、生きているって……どう思ってるの?」

 

「う、うぅ……っ、うあああああ……!」

 

太は頭を抱え、膝から崩れ落ちた。喉の奥から絞り出されるような叫びが、森の静寂を引き裂く。

 

春佳奈の思考は、完全に停止していた。

 

(命で、命を……繋いだ……? 何の話……?)

 

そんな彼女の横で、奏が静かに口を開いた。

 

「神宮寺家は、人間国・日本圏で最高峰の魔術アプリ企業『ネクスト』を経営する、神華七家の一つよ」

 

その名に、春佳奈は覚えがあった。ネクスト――現代魔法技術の最先端を走る、巨大な企業グループ。

 

「太は、その家に生まれた第四子。けれど、幼い頃から病弱だった。医者には、余命一年も持たないと宣告されたそうよ」

 

奏の声には、かすかな苦味が滲んでいた。

 

「……そんな」

 

春佳奈の口から、思わず声が漏れる。

 

「神宮寺家は諦めなかった。その時代ごとの最先端の“研究”成果を用いて、彼の命を文字通り“繋ぎ止めた”のよ」

 

星璃愛の声が続く。彼女の目は、太の背中をまっすぐに見つめていた。

 

「過酷な投薬、繰り返される検査と手術……その度に、目が覚めるかどうかもわからない恐怖の中で、彼は生きてきた」

 

太の背中は小刻みに震え、その姿がすべてを物語っている。

 

「十三歳を過ぎた頃、ようやく病状は安定したらしい。もう特別な治療を受けなくても、普通の人間と同じように生きられるようになったって」

 

奏が言う。

 

「でも、その過程で……多くの命が犠牲になったのよ」

 

春佳奈は息を呑んだ。

 

星璃愛が言っていた「魔族の子ども、そして人間の子ども」の言葉が、重くのしかかってくる。

 

太が、ゆっくりと顔を上げた。

 

その瞳には、深い絶望と、拭いきれない罪悪感が宿っていた。

 

「違う……知らなかったんだ……俺は、本当に……!」

 

「知らなかった?」

 

星璃愛は、どこか悲しげに微笑んだ。

 

「本当に一度も疑問に思わなかったの? どうして自分は助かったのか、何が失われてその命があるのかって」

 

太は言葉に詰まる。拳を握りしめ、視線を地面に落としたまま動けずにいる。

 

奏が静かに口を開いた。

 

「彼は気づいていた。心のどこかで、犠牲になった命があることに。でも『自分のせいじゃない』と目を背けて、逃げ続けてきた」

 

信じられなかった。

 

いつも明るく、仲間想いだった太が、そんな重い過去を背負っていたなんて――。

 

「私が知ったのは、ある調査の時だったわ」

 

奏の声に、春佳奈の視線が引き戻される。

 

「『ネクスト』の旧研究資料に記されていた、おぞましい実験の記録。奪われた魔族の子どもたち、そして“部品”として扱われた人間の幼い命――それが、彼の命の礎だった」

 

沈黙の中で、黒峰が低く呻く。

 

「……マジかよ、そんなのが……」

 

「ああ、本当さ」

 

奏が頷く。

 

「そして、その研究の中心にいたのが神宮寺家だった。太が生きるために行われたことは、決して許されるものじゃない」

 

「やめてくれ……もう、言わないでくれ……!」

 

太が叫ぶ。顔を歪め、震えながらその場に蹲る。

 

春佳奈は、何もできなかった。

 

(これが……真実? 私たちが信じてきた世界は、こんなにも……歪んでいたの?)

 

森の空気が、ますます重く湿っていく。

 

「ちなみにこのスライムはその過程で産まれたのよ、襲われて当然よね」

 

更なる事実が告げられる。

 

(私は、本当に何も知ろうとしてこなかったんだな)

 

 

星璃愛と奏、その瞳に宿る悲しみと怒りが、言葉以上に真実の重さを伝えていた。

 

その時だった。星璃愛が、そっと両手を合わせるようにして音を鳴らした。

 

その表情は、静かで真剣だった。

 

「嘘は言っていないわ」

 

春佳奈の目をまっすぐ見据えて、彼女は言う。

 

「これだけの話をしたのは、あなたに……私たちの仲間になってほしいからよ」

 

春佳奈は、息を呑んだ。

 

敵対しているはずの彼女たちが、自分を仲間に誘うなんて――。

 

奏が、優しく微笑む。

 

「すぐに答えを出してとは言わないわ。混乱しているでしょうし。でも、三日後の放課後、古研の部室で待ってる。そこで、返事を聞かせて」

 

彼女は星璃愛に目を向け、頷いた。

 

黒オーガと巨大スライムを連れて、二人は森の奥へとゆっくり姿を消していった。

 

春佳奈はただ、その背中を見送ることしかできなかった。

 

* * *

 

帰り道の記憶は、曖昧だった。

 

誰と話したかも、黒峰やふとしの声すら、遠い世界のことのように思えた。

 

(香坂さんに……報告しなきゃ。でも……こんなの、どうやって?)

 

思考が霞み、言葉にできない感情だけが胸を占めていく。

 

その時――

 

「……春佳奈」

 

ネオノアが静かに話しかけてきた。

 

「今回の出来事、香坂さんにそのまま報告したら……どうなると思う?」

 

「え? どうなるって……それは、普通に――」

 

「その“対応”を見て、こっちも身の振り方を考えた方がいい。彼女たちが言ったことが本当なら、私たちの世界認識は間違っていた。香坂さんたちが、それをどう受け止め、どう動くか……それを見極めるのは、無駄じゃない」

 

「……え? そんなの……あり?」

 

春佳奈の声は震えていた。

 

それは、信じてきた組織に対する――初めての、疑問だった。

 




ふとしーー!
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