現代魔法術はアプリで効率化!私は私の魔法術を極めたい 作:サモア リナン
室のドアを開けた瞬間、空気が変わった気がした。
そこには、相変わらず無表情な星璃愛と、どこか穏やかな瞳をした奏先輩がいた。
けれど、部室に漂う空気には、言葉では表現しきれない“覚悟”の重さがあった。
「来てくれたんだね、春佳奈ちゃん」
奏の声は優しく、それでいて緊張の糸を張りつめさせる響きだった。
「……うん。話を聞いて、自分の気持ちを考えたよ。私は――」
春佳奈は、一歩、二歩と前に出た。
「私は戦います。もう見ないふりなんてできない。
奏先輩も、星璃愛さんも、ふとし君も……あの時、私を救ってくれた。
だから今度は、私が誰かを守りたい。この世界に、少しでも希望があると信じたいから」
星璃愛の瞳が、ほんの僅かに揺れた。
「……それは、簡単な道じゃないよ。私たちの選んだ道は、血と涙でできてる。それでも、進む?」
春佳奈は強くうなずいた。
「うん、怖い。けど、それ以上に――悔しい。
私は、ただの便利なアプリだと思ってた。けど、その裏で命が踏みにじられてたなんて……知らなかった。知ろうともしなかった」
彼女の胸から、静かに、でも確かな想いがあふれ出す。
「産まれること、生きることに罪はない。ふとし君を見て、そう思った。
だから、私は私の意思で動きたい。誰かのために、ちゃんと選びたい」
奏はその言葉に、静かに目を閉じ、そしてそっと微笑んだ。
「……君は、本当に強い子だね」
「強くなんてないです。でも……それでも」
奏が立ち上がり、右手を差し出した。
「ようこそ、“反逆の灯(ランプ・オブ・リベリオン)”へ。
小さくても、消せない希望の火を灯す場所だよ」
春佳奈は、その手を迷わず掴んだ。
「もう、離さないよ」
その瞬間――部室の扉が、轟音と共に開かれた。
春佳奈がその手を握った瞬間――
「今です!」
轟音とともに、部室の扉が荒々しく開かれた。
次の瞬間、黒峰と斎藤櫻を筆頭にした十数名のランカーたちが、風のような速さで部屋に雪崩れ込んできた。斬撃と結界、拘束術が一瞬で飛び交い、奏と星璃愛は反応する間もなく取り押さえられる。
「な……っ、春佳奈!?」
奏の瞳が驚愕に染まり、星璃愛が信じられないというように春佳奈を見つめた。
「……なんで?」
小さく、それでも確かに問う声。
春佳奈は、真っ直ぐふたりを見返していた。
「私は、多国共同政府側についた」
そう言った春佳奈の声は、静かで、けれど誰よりも重く響いていた。
奏と星璃愛が驚愕に目を見開くなか、春佳奈は、まっすぐにふたりを見つめ返していた。
「……利権のために隠してるんじゃないかって、最初は思ってた。
でも……違った。彼らは本気だった。私たちに“未来を託す”覚悟をもって話してくれた」
背後で、黒峰が腕を組みながら続ける。
「この国の上層部にはな、確かに腐った連中もいた。20年前の闇は深ぇ……それを知ったからこそ、反乱の火を灯したお前らの気持ちも分かる」
彼の声は、珍しく感情を含んでいた。
「だがな、香坂さんたち今の政府の人間は――そのツケを払ってるんだよ。自分たちの時代のものでもねぇ罪を背負って、それでも腐らず、現実に向き合ってる」
太が、俯いたまま口を開いた。
「……あの人が言ってた。“どれだけ泥をかぶってもいい。子どもたちに、もう二度と同じ景色を見せたくない”って」
思い返すのは、香坂とともに出会った、車椅子の老人。人民開放政党の長老にして、戦火をくぐり抜けた男の言葉。
春佳奈が、ぽつりと口を開く。
「片目を潰され、右腕を失って……それでも彼は、“今も信じてる”って言った。“人は変われる”って。“いつか暴力ではなく、対話でこの世界を回せるようになる”って」
黒峰が言う。
「かつてのあの人たちは……自分の子どもが飢えて死ぬのを見て、それでも歯を食いしばって立ち上がった。“誰にも頼れないなら、自分たちで立てる国を作る”って、必死で動いて、インフラを築いて、今の平和を作った」
太の声が重なる。
「腐りきった過去を、知ってる。だけど、今の上層部は――それでも前を向いてた。自分たちが老害だって言われようが、腐ることなく、子や孫のために未来を整えようとしてた」
春佳奈の手が、無意識に拳を握り締める。
「……それが、どれだけ尊いか。あんな人たちが、戦ってきてくれたから、私たちが“学校に通って、普通の生活”を送れてるんだって、ようやく分かったんです」
星璃愛が、初めてうつむく。
奏は何かを噛み締めるように目を閉じた。
「私は……正しいと思ってた。暴かれない闇を、見過ごしてはいけないって。でも……それでも、春佳奈が見た“もう一つの真実”は……」
春佳奈はまっすぐに奏を見る。
「……反旗を翻すなら、私たちは“どこに向けて”それを振るべきか、選ばなきゃいけない。
“全て壊す”のは簡単。でも、“守る”って、ほんとうに難しい」
黒峰が重々しく呟く。
「このままいけば、いずれまた餓死者が出る。魔族との戦争が再燃すりゃ、世界は死に戻る。暴力で暴力を止める時代なんて、二度と繰り返させねぇ」
太が、力強く言った。
「だから、僕たちは選んだんです。犠牲に“ならない”未来を……生き抜く道を、正義を“貫く”道じゃなく、“積み重ねる”道を」
春佳奈の目には、涙が滲んでいた。
「先輩たちの気持ちも、間違ってない。でも……私は、“守りたい”んです。今の生活を。未来の子どもたちを。信じた政府を」
彼女の言葉に、誰もが黙った。
そして――
春佳奈は、ふっと笑った。
「私、変わりたかったんです。無力な自分を、ただの女子高生を、終わらせたくて」
その宣言は、優しく、強く響いた、
奏が、ゆっくりと目を閉じた。
そして、静かに――笑った。
「……そっか。君は“選べる子”だったんだね」
その声には、悔しさも悲しさも滲んでいた。それでも、責める色はなかった。
「私には……もう、戻れない。あまりにも多くを見すぎたし、背負ってしまった。だから、君が“守る側”でいてくれるなら……きっと、それが一番、救いになる」
奏は、拘束されたままの姿で、それでも胸を張っていた。
「……負けないでね、春佳奈ちゃん。私たちの“誇り”でいて」
そう言って、彼女は目を閉じた。穏やかに、どこか満たされたように。
だが――
その隣にいた星璃愛は、真逆の表情をしていた。
「……ふざけないで」
その声は、鋭く、震えていた。
「それで納得したつもり? 私たちが何のために血を流してきたか、本当に分かってるの?」
星璃愛の瞳に、怒りと――深い絶望が浮かんでいた。
「見殺しにされた子どもたちの声が、聞こえなかったの? 踏みにじられた命の価値が、君にとっては“犠牲”で済むの?」
春佳奈は、痛みを堪えるように唇を噛んだ。
「……違う。だからこそ、私は、未来を選びたいの。誰かが戦ってきた“正義”を、次に繋げたい。あなたたちの命も、戦いも、決して無駄にしない」
「綺麗ごとッ……!!」
星璃愛の叫びが、室内に響いた。
「あなたが“裏切った”ことは変わらない! こんなやり方、絶対に許さない……っ!」
拘束されたまま、もがく彼女の瞳からは、止めようのない涙が溢れていた。怒りと悲しみと、裏切られた傷――それが、言葉よりも雄弁に感情を語っていた。
「ねえ、はる…あなたは、“本当に正義を選んだ”って、いつまで言えるのかな? もし、この国がまた誰かを切り捨てたら、そのときもあなたは、“守って良かった”って、笑っていられるの?」
問いは、鋭い刃のようだった。
春佳奈は、ほんの少しだけ視線を伏せて、それでも顔を上げた。
「……分からないよ。答えなんて、たぶんまだ見つかってない。けど、私は、あなたたちが信じたものと向き合う覚悟で、ここにいる」
そして、強く言った。
「だから私は――戦います。“未来の味方”として」
春佳奈の言葉が空気を震わせた。
その瞬間、星璃愛の肩がわずかに震えた。伏せた瞳に影が差す。
「……ああ、そう。本当に変わったのね」
彼女の声は、かすかに笑っているようで、ひどく冷たかった。
「じゃあ、もう完全に“敵”だわ」
その一言に、部室の空気が再び張り詰める。
「実はね―もう一つ、言ってないことがあるのよ」
星璃愛は顔を上げ、まっすぐに春佳奈を見た。
「私たちがあの日、何を見たか……あなたは、まだ知らない。けど、きっとすぐにわかるわ。どれだけ綺麗ごとで世界が救えるか、見せてもらおうじゃない」
その言葉の余韻が残る中。
「……おい、何か来るぞ」
黒峰の低い声が、場を引き裂いた。
全員の視線が、窓の外へと向けられる。
その瞬間、耳をつんざくような金属音が部室中に響いた。
「……魔力反応、異常値ッ!」
Sランカーの斎藤櫻が即座に構え、警戒態勢に入る。
「誰かが、“送り込んできやがったな”」
廊下の向こう、足音もなく黒い霧が漏れ出す。その濃密な闇の中から、異形の影が次々と現れた。
2人の仲間である巨大な黒オーガと粘液質に蠢く巨大スライム、そして仮面をつけた甲冑のような存在たち――それは、かつて誰も見たことのない兵器だった。
「腐ッタ政府ノ犬ドモ――排除対象ト認定スル」
その声は機械的で無機質。けれど、そこには明確な殺意があった。
「……っ、な……《生体融合型兵装》……!?」
ふとしが驚愕し、息を呑む。
「あれ、まだ実戦配備されてないはずじゃ……!」
「これが、奴らの“手札”ってわけかよ」
黒峰が刀を抜きながら、低く呟く。
ふとしは一歩、春佳奈の前に立った。
「草薙先輩……僕、正直怖いです。でも――あのとき、あなたが僕を信じて手を伸ばしてくれた。だから、今度は僕が守ります」
言葉とともに、その背に淡く青白い光が灯った。
「それが、僕の生きる意味だと思いたい」
霧が部室を飲み込み、異形たちが一斉に突撃を開始する。
斎藤櫻が先陣を切り、鋭い雷撃を放つ。
黒峰は空中に浮かび上がる結界陣を展開し、日本刀を握りなおした。
「連行急げ! 星璃愛、奏――両名ともだ!逃すなよ」
「了解!」
ランカーたちが動き出し、奏には即座に拘束術式が再起動された。星璃愛も術式によって足止めされる――だが、次の瞬間。
「ッ、待て……!」
部室の外から突如飛び出した黒オーガが、術式の隙を突いて星璃愛を強引に奪い去った!
「星璃愛ーー!!」
春佳奈が叫び、追いかけようとするが、間にスライムと仮面兵が割り込んでくる。
「邪魔……しないでッ!!」
春佳奈は叫び、術式を展開。
「構成開始…魔法術式展開―!」
彼女の背後に浮かぶ魔法陣が、ガチャリと機械音を響かせながら形を変えていく。
構成されるのは長方形の銃口、そして無骨な銃身――
《LM4A1 R.I.Sモデル、アサルトライフル》
――刹那、戦闘が始まった。
良い政府を書きたくて、、