現代魔法術はアプリで効率化!私は私の魔法術を極めたい   作:サモア リナン

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第17話 私が変わったなんて、自覚あるに決まってる

室のドアを開けた瞬間、空気が変わった気がした。

 

そこには、相変わらず無表情な星璃愛と、どこか穏やかな瞳をした奏先輩がいた。

けれど、部室に漂う空気には、言葉では表現しきれない“覚悟”の重さがあった。

 

「来てくれたんだね、春佳奈ちゃん」

 

奏の声は優しく、それでいて緊張の糸を張りつめさせる響きだった。

 

「……うん。話を聞いて、自分の気持ちを考えたよ。私は――」

 

春佳奈は、一歩、二歩と前に出た。

 

「私は戦います。もう見ないふりなんてできない。

奏先輩も、星璃愛さんも、ふとし君も……あの時、私を救ってくれた。

だから今度は、私が誰かを守りたい。この世界に、少しでも希望があると信じたいから」

 

星璃愛の瞳が、ほんの僅かに揺れた。

 

「……それは、簡単な道じゃないよ。私たちの選んだ道は、血と涙でできてる。それでも、進む?」

 

春佳奈は強くうなずいた。

 

「うん、怖い。けど、それ以上に――悔しい。

私は、ただの便利なアプリだと思ってた。けど、その裏で命が踏みにじられてたなんて……知らなかった。知ろうともしなかった」

 

彼女の胸から、静かに、でも確かな想いがあふれ出す。

 

「産まれること、生きることに罪はない。ふとし君を見て、そう思った。

だから、私は私の意思で動きたい。誰かのために、ちゃんと選びたい」

 

奏はその言葉に、静かに目を閉じ、そしてそっと微笑んだ。

 

「……君は、本当に強い子だね」

 

「強くなんてないです。でも……それでも」

 

奏が立ち上がり、右手を差し出した。

 

「ようこそ、“反逆の灯(ランプ・オブ・リベリオン)”へ。

小さくても、消せない希望の火を灯す場所だよ」

 

春佳奈は、その手を迷わず掴んだ。

 

「もう、離さないよ」

 

その瞬間――部室の扉が、轟音と共に開かれた。

春佳奈がその手を握った瞬間――

 

「今です!」

 

轟音とともに、部室の扉が荒々しく開かれた。

 

次の瞬間、黒峰と斎藤櫻を筆頭にした十数名のランカーたちが、風のような速さで部屋に雪崩れ込んできた。斬撃と結界、拘束術が一瞬で飛び交い、奏と星璃愛は反応する間もなく取り押さえられる。

 

「な……っ、春佳奈!?」

 

奏の瞳が驚愕に染まり、星璃愛が信じられないというように春佳奈を見つめた。

 

「……なんで?」

 

小さく、それでも確かに問う声。

 

春佳奈は、真っ直ぐふたりを見返していた。

 

「私は、多国共同政府側についた」

 

そう言った春佳奈の声は、静かで、けれど誰よりも重く響いていた。

 

奏と星璃愛が驚愕に目を見開くなか、春佳奈は、まっすぐにふたりを見つめ返していた。

 

「……利権のために隠してるんじゃないかって、最初は思ってた。

でも……違った。彼らは本気だった。私たちに“未来を託す”覚悟をもって話してくれた」

 

背後で、黒峰が腕を組みながら続ける。

 

「この国の上層部にはな、確かに腐った連中もいた。20年前の闇は深ぇ……それを知ったからこそ、反乱の火を灯したお前らの気持ちも分かる」

 

彼の声は、珍しく感情を含んでいた。

 

「だがな、香坂さんたち今の政府の人間は――そのツケを払ってるんだよ。自分たちの時代のものでもねぇ罪を背負って、それでも腐らず、現実に向き合ってる」

 

太が、俯いたまま口を開いた。

 

「……あの人が言ってた。“どれだけ泥をかぶってもいい。子どもたちに、もう二度と同じ景色を見せたくない”って」

 

思い返すのは、香坂とともに出会った、車椅子の老人。人民開放政党の長老にして、戦火をくぐり抜けた男の言葉。

 

春佳奈が、ぽつりと口を開く。

 

「片目を潰され、右腕を失って……それでも彼は、“今も信じてる”って言った。“人は変われる”って。“いつか暴力ではなく、対話でこの世界を回せるようになる”って」

 

黒峰が言う。

 

「かつてのあの人たちは……自分の子どもが飢えて死ぬのを見て、それでも歯を食いしばって立ち上がった。“誰にも頼れないなら、自分たちで立てる国を作る”って、必死で動いて、インフラを築いて、今の平和を作った」

 

太の声が重なる。

 

「腐りきった過去を、知ってる。だけど、今の上層部は――それでも前を向いてた。自分たちが老害だって言われようが、腐ることなく、子や孫のために未来を整えようとしてた」

 

春佳奈の手が、無意識に拳を握り締める。

 

「……それが、どれだけ尊いか。あんな人たちが、戦ってきてくれたから、私たちが“学校に通って、普通の生活”を送れてるんだって、ようやく分かったんです」

 

星璃愛が、初めてうつむく。

 

奏は何かを噛み締めるように目を閉じた。

 

「私は……正しいと思ってた。暴かれない闇を、見過ごしてはいけないって。でも……それでも、春佳奈が見た“もう一つの真実”は……」

 

春佳奈はまっすぐに奏を見る。

 

「……反旗を翻すなら、私たちは“どこに向けて”それを振るべきか、選ばなきゃいけない。

“全て壊す”のは簡単。でも、“守る”って、ほんとうに難しい」

 

黒峰が重々しく呟く。

 

「このままいけば、いずれまた餓死者が出る。魔族との戦争が再燃すりゃ、世界は死に戻る。暴力で暴力を止める時代なんて、二度と繰り返させねぇ」

 

太が、力強く言った。

 

「だから、僕たちは選んだんです。犠牲に“ならない”未来を……生き抜く道を、正義を“貫く”道じゃなく、“積み重ねる”道を」

 

春佳奈の目には、涙が滲んでいた。

 

「先輩たちの気持ちも、間違ってない。でも……私は、“守りたい”んです。今の生活を。未来の子どもたちを。信じた政府を」

 

彼女の言葉に、誰もが黙った。

 

そして――

 

春佳奈は、ふっと笑った。

 

「私、変わりたかったんです。無力な自分を、ただの女子高生を、終わらせたくて」

 

その宣言は、優しく、強く響いた、

 

奏が、ゆっくりと目を閉じた。

そして、静かに――笑った。

 

「……そっか。君は“選べる子”だったんだね」

その声には、悔しさも悲しさも滲んでいた。それでも、責める色はなかった。

 

「私には……もう、戻れない。あまりにも多くを見すぎたし、背負ってしまった。だから、君が“守る側”でいてくれるなら……きっと、それが一番、救いになる」

奏は、拘束されたままの姿で、それでも胸を張っていた。

 

「……負けないでね、春佳奈ちゃん。私たちの“誇り”でいて」

 

そう言って、彼女は目を閉じた。穏やかに、どこか満たされたように。

 

だが――

その隣にいた星璃愛は、真逆の表情をしていた。

 

「……ふざけないで」

その声は、鋭く、震えていた。

 

「それで納得したつもり? 私たちが何のために血を流してきたか、本当に分かってるの?」

 

星璃愛の瞳に、怒りと――深い絶望が浮かんでいた。

 

「見殺しにされた子どもたちの声が、聞こえなかったの? 踏みにじられた命の価値が、君にとっては“犠牲”で済むの?」

 

春佳奈は、痛みを堪えるように唇を噛んだ。

「……違う。だからこそ、私は、未来を選びたいの。誰かが戦ってきた“正義”を、次に繋げたい。あなたたちの命も、戦いも、決して無駄にしない」

 

「綺麗ごとッ……!!」

星璃愛の叫びが、室内に響いた。

 

「あなたが“裏切った”ことは変わらない! こんなやり方、絶対に許さない……っ!」

 

拘束されたまま、もがく彼女の瞳からは、止めようのない涙が溢れていた。怒りと悲しみと、裏切られた傷――それが、言葉よりも雄弁に感情を語っていた。

 

「ねえ、はる…あなたは、“本当に正義を選んだ”って、いつまで言えるのかな? もし、この国がまた誰かを切り捨てたら、そのときもあなたは、“守って良かった”って、笑っていられるの?」

 

問いは、鋭い刃のようだった。

春佳奈は、ほんの少しだけ視線を伏せて、それでも顔を上げた。

 

「……分からないよ。答えなんて、たぶんまだ見つかってない。けど、私は、あなたたちが信じたものと向き合う覚悟で、ここにいる」

 

そして、強く言った。

 

「だから私は――戦います。“未来の味方”として」

 

春佳奈の言葉が空気を震わせた。

 

その瞬間、星璃愛の肩がわずかに震えた。伏せた瞳に影が差す。

 

「……ああ、そう。本当に変わったのね」

 

彼女の声は、かすかに笑っているようで、ひどく冷たかった。

 

「じゃあ、もう完全に“敵”だわ」

 

その一言に、部室の空気が再び張り詰める。

 

「実はね―もう一つ、言ってないことがあるのよ」

 

星璃愛は顔を上げ、まっすぐに春佳奈を見た。

 

「私たちがあの日、何を見たか……あなたは、まだ知らない。けど、きっとすぐにわかるわ。どれだけ綺麗ごとで世界が救えるか、見せてもらおうじゃない」

 

その言葉の余韻が残る中。

 

「……おい、何か来るぞ」

 

黒峰の低い声が、場を引き裂いた。

 

全員の視線が、窓の外へと向けられる。

 

その瞬間、耳をつんざくような金属音が部室中に響いた。

 

「……魔力反応、異常値ッ!」

 

Sランカーの斎藤櫻が即座に構え、警戒態勢に入る。

 

「誰かが、“送り込んできやがったな”」

 

廊下の向こう、足音もなく黒い霧が漏れ出す。その濃密な闇の中から、異形の影が次々と現れた。

 

2人の仲間である巨大な黒オーガと粘液質に蠢く巨大スライム、そして仮面をつけた甲冑のような存在たち――それは、かつて誰も見たことのない兵器だった。

 

「腐ッタ政府ノ犬ドモ――排除対象ト認定スル」

 

その声は機械的で無機質。けれど、そこには明確な殺意があった。

 

「……っ、な……《生体融合型兵装》……!?」

 

ふとしが驚愕し、息を呑む。

 

「あれ、まだ実戦配備されてないはずじゃ……!」

 

「これが、奴らの“手札”ってわけかよ」

 

黒峰が刀を抜きながら、低く呟く。

 

ふとしは一歩、春佳奈の前に立った。

 

「草薙先輩……僕、正直怖いです。でも――あのとき、あなたが僕を信じて手を伸ばしてくれた。だから、今度は僕が守ります」

 

言葉とともに、その背に淡く青白い光が灯った。

 

「それが、僕の生きる意味だと思いたい」

 

霧が部室を飲み込み、異形たちが一斉に突撃を開始する。

 

斎藤櫻が先陣を切り、鋭い雷撃を放つ。

 

黒峰は空中に浮かび上がる結界陣を展開し、日本刀を握りなおした。

 

「連行急げ! 星璃愛、奏――両名ともだ!逃すなよ」

 

「了解!」

 

ランカーたちが動き出し、奏には即座に拘束術式が再起動された。星璃愛も術式によって足止めされる――だが、次の瞬間。

 

「ッ、待て……!」

 

部室の外から突如飛び出した黒オーガが、術式の隙を突いて星璃愛を強引に奪い去った!

 

「星璃愛ーー!!」

 

春佳奈が叫び、追いかけようとするが、間にスライムと仮面兵が割り込んでくる。

 

「邪魔……しないでッ!!」

 

春佳奈は叫び、術式を展開。

 

「構成開始…魔法術式展開―!」

 

彼女の背後に浮かぶ魔法陣が、ガチャリと機械音を響かせながら形を変えていく。

 

構成されるのは長方形の銃口、そして無骨な銃身――

 

《LM4A1 R.I.Sモデル、アサルトライフル》

 

――刹那、戦闘が始まった。

 




良い政府を書きたくて、、
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