現代魔法術はアプリで効率化!私は私の魔法術を極めたい 作:サモア リナン
翌朝、私はいつもより早く登校した。昨夜の境界警報――レベル2。そんなものが校内で鳴るなんて、前代未聞だった。
「春佳奈、おはよ。やっぱ気になるよね、昨夜のこと」
声をかけてきたのは、クラスメイトの佐藤 星璃愛(さとう・せれあ)。同じ高校二年生で、陰キャ、推理オタク、図書委員長、中二病仲間。派手な名前に反して普通の苗字。魔法アプリの扱いは天才的だった。
「ちょっと、見に行かない? 昨日の警報……ただの誤作動って空気じゃなかったし」
私たちはこっそりと部室のある校舎裏へと向かった。
「あれ?なんか変な感じ、ハル!こっちに何かありそう」
星璃愛はすごく鋭い、カンって感じでもない、でも何で分かったの?って聞いても説明出来ないらしい。そんな気付きが結構ある。
だから結構な天才なんじゃないかと思ってる
語彙力探してたら推理オタクになったらしい。
意味わかんない。
そんな気付きの連続で地面に、うっすらと黒く固まった光沢が残っていたのを発見した。油でも落として傾斜に流れていったような跡だと思ったけど、星璃愛が
「これ……魔物…粘体種の痕跡じゃない?しかも本で見たのより大きい個体だ。人1人飲みそう。乾き方からして昨日の警報が鳴った時間と矛盾ないなぁ、途中で跡が消えているのは、わざとっぽい、時間稼ぎかな?って事は、あっちとはまったく見当違いの所に用があるのかな、あ、コレそう思わせといて、素直に向こうに用あるパターンだわ、あざといなぁ・・ん?それって知能ある誰かが魔物連れてきいるってこと?うわっ……ヤバすぎ」
鳥肌が、立った。
「流石推理オタク。じゃ、すまないよ。いや、もちろんこの事態もヤバいんだけど、なんでコレだけで、そこまで分かるのよ」
「言葉にできない」
「あんだけ独り言喋っといて?……解せぬ」
緊迫感のある状態なのに、いつもと同じようなやり取りが出来て、少しは心に余裕を取り戻せた。危険な粘液種を連れて誰かが境界を超えて来たこと、伝えなきゃ
私たちはすぐに担任の久世先生に報告した。
だが――
「報告ありがとう、それが本当の事なら、これは多国共同政府と法術協会の対応案件となる。私達も迂闊な事はできない。君たちは教室で待機していなさい」
先生は焦った様子だが判断はもっともだ。
職員室から出てすぐ星璃愛が声をかけてきた。
「ねぇ、はる」
「ん?」
「お願い、放っておけない。分からないんだけど、わたし、嫌な予感がするの。絶対に、今もまだ何かが――待ってたら手遅れになる。すぐに動かなきゃ」
「マジで?」
「うん」
「分かった、信じる。奏先輩を呼ぼう」
そして奏先輩と星璃愛の初対面の挨拶もそこそこに、私たちは三人で、気配を追い校舎の外れへと向かった。奏先輩は星璃愛の推理?を疑いつつ朽ちた倉庫の裏さらに、その奥で見つけてしまった。
「……ホントにいた!」
人の身長を超える半透明の塊。魔族・粘体種《スライム》――
その中に、見覚えのある男子生徒の姿があった。名前は分からないが後輩だ。まだ、、生きてる。
「助けなきゃ!」
私たちは即座に戦闘態勢に入った。
「魔力チャージ!共鳴の発生を確認!」
「構えよ、六つの魂(シリンダー)――《魂環、展開》」
「穿て、真理の管(バレル)――《銃身、形成》」
「響け、意志の起点(ハンマー)――《撃鉄、降下》」
「重なれ、輪廻の軌道(フレーム)――《骨格、統合》」
「収束せよ、光折の終灯(サイト)――《照準、展開》」
「装填完了――(バレット)《属性:1番から6番まで雹華・蓮赫・禍是・鉱玄・迅无・門無の添付完了、付帯効果は各色素設定で纏座》」
「構成具現化、完成《リボルバーアーク》」
星璃愛はスマホを操作してファイヤーボール、アイスニードル、ウインドカッター、ロックバレット、ライトニングスリッドを同時生成し、体の周囲に停滞させた。属性効果と形状効果を考慮した巧みな操作で当てては戻してを繰り返す。
私たちの攻撃はスライムの表面にそれぞれの影響は出ているが、すぐに再生してしまう。
「単一の形状と属性じゃ効果が薄すぎる……!」
星璃愛が悔しそうにしている。さらに
「ヤバい、やばいよ!あの顔色、血中酸素濃度が72%!?脈拍が136!?体温が34度まで下げられてる、血圧160/120 高すぎる!え、VF波形!?不整脈もだ!マジこのままだったら後1分で心停止しちゃう」
「ヤバいのはその分析力もだね…自分で言っててなんだけど、それって分析なの?見て分かるもんだっけ?意味不明すぎるんだけど!」
そう言いながら奏先輩が手にした《光刃》も、粘体を断ち切るには至らない。ぬめる肉体を裂いても、刃が空を切るように力が抜けてしまう。
私も咄嗟に追加の魔法陣を展開しようとして……思いとどまった。
――リボルバー式じゃ、ダメだ。単純な攻撃じゃ粘体には意味がない。
助けられないのか? このまま、あの後輩は――。
「考えろ、何か……何か……!」
脳裏に浮かんだのは、風魔法《風纏》。本来は加速や跳躍に使う支援系。でも――
もし、弾の着弾点から、爆発的に風圧を外側に広げるように応用すれば……。それに弾に複雑な効果を付属するには単発式じゃなければ装填できない
「やってみるしかない!」
私は魔法アプリのカスタムスロットに登録していた《風纏》を選択し、魔法陣を構築。リボルバー式とは違った銃型の術式を詠唱と印で表現した。
「照準、遥かに――《長銃身・展開》」
「宿れ、雷の石――《火打ち点火》」
「固定せよ、意志の座――《銃床・構築》」
「導け、魔脈の筋――《導火陣・展開》」
「注げ、力の核――《螺旋式外風魔力弾・装填》」
「照準《マスケット・ビエント・エスピラル》!」
魔法陣はマスケット銃を形成し、素早く照準を合わせて引き金を引いた。
緑と青色が混じった魔力弾が、スライムの表面――後輩の閉じ込められているあたりに着弾。
瞬間、風が炸裂した。
「――っ!」
爆心点から螺旋状に、猛烈な風がスライムの内部を外側一方向に巻き込むように外へ広がる。全体を傷つけることなく、内圧を拡散させる形でスライムを揺さぶった。
粘体が波打ち、叫びのような音を発したかと思うと――ぐにゃりと体が裂け、中から後輩が吐き出されるように地面に転がった。
「よし……っ!」
けれど、安堵は束の間だった。
スライムの表面がどろりと隆起する。さっきまでとは比較にならないほどの質量。空気を揺らすほどの気配。
「嘘でしょ……こんな……」
それは、私たちの攻撃に反応して“強化”されたかのように、粘体を膨張させていった。
そのとき――
「……計画外だ。回収する」
倉庫の影から黒いフードの人物が現れた。見覚えのない姿。だが、その手を掲げた瞬間、スライムはまるで命令を受けたかのように動きを止める。
彼(彼女?)は何も言わず、掌をかざし、スライムをずるずると吸い込むように回収していった。
「ま、待って! あなた、何者――!」
私が叫ぶと、フードの奥から視線が向けられた。
「…未成熟の人間ごときでも、これほどか。」
低く、静かな声。そして次の瞬間、黒い影もスライムも、霧のように消え去った。
私たちはただ、助けられた後輩の無事を確かめることしかできなかった。