現代魔法術はアプリで効率化!私は私の魔法術を極めたい 作:サモア リナン
「一体…あれは……何だったの?それに、さっきの人、人間?」
星璃愛は、先ほどまで巨大な粘体が存在していた地面を見つめ、呆然と呟いた。後輩の男子生徒は、奏先輩が手当てをしてくれて、今は意識を取り戻している。幸い、目立った外傷はないようだ。
「あのフードの人物……それに、あのスライムの動き。まるで、誰かに操られているようだった」
奏先輩は冷静に分析する。私も、あの異様な光景が頭から離れない。特に、最後に現れたフードの人物の、底知れない雰囲気が気になった。
「『未成熟の人間ごときでも、これほどか』……あの言葉も引っかかる。まるで、私たちの力を試すような言い方だった」
私の言葉に、星璃愛がハッとしたように顔を上げた。
「もしかして、あれって……境界突破事件と関係があるのかも? あの時も、正体不明の魔物が現れたって聞いたし……」
Sランクの魔法使いが単騎で退けたという、伝説級モンスター。それが脳裏をよぎる。今回のスライムは、あれほどの脅威とは比較出来ないほど弱いのだろう。けれど、確かに異質だった。
「久世先生に、改めて報告しないと……」
奏先輩がそう言いかけた時、先生達が走ってやって来た。
ゼェゼェととても息を切らしており、よっぽど急いでいたのだろう。
戦闘の跡に皆が驚いていた。
「何があった!?何故攻撃性魔力反応があった、いや、それより3人とも無事か?まずは保健室で怪我や異常がないか検査、その後に問題がなければ話がしたい」
三人は顔を見合わせた。
⸻
保健室で検査した後、職員室に足を踏み入れると、久世先生は険しい表情で私たちを見つめていた。
「まずは、無事で良かった。と伝えておく。そして君たちが、倉庫裏で粘体種と遭遇した件だが……」
先生はそう切り出し、昨日の境界警報と、今朝の校内の状況について説明を始めた。
「昨夜の境界の魔力反応は、一時的に不安定になっただけで、侵入は確認されなかった。今朝の粘液の痕跡についても、専門のランカーが調査に入り、自然発生した低級の魔物によるものと判断された」
その言葉に、私は疑問を感じた。あの粘体の巨大さ、そして何よりも、フードの人物による回収。とても自然発生した低級の魔物には見えなかった。
「でも先生、あの粘体の中に後輩が閉じ込められていて……それに、最後に現れた黒いフードの人が……」
私が反論しようとすると、先生は静かに首を横に振った。
「その件については、すでに学校側も把握している。保護された生徒に怪我はなく、精神的にも安定しているとのことだ。フードの人物については、目撃情報はあるものの、正体は不明だ」
――違う。違和感があった。
先生の説明は、どこか“穏便に済ませたい”という意思が見え隠れしていた。確かに、今朝の現場には他にも生徒の出入りがあったし、目撃者がいても不思議ではない。でも、あの異質なスライムや、魔法を一切使わずに操っていたフードの人物について――あんな存在が、ただの“未確認人物”で済むはずがない。
星璃愛も、先生の言葉に目を伏せながら小さく首を振っていた。
「なんか……“分かってても言えない”って感じだね、先生」
彼女の言葉に、私は頷いた。何かを隠している。それは確信に近い感覚だった。
その時、職員室の扉がノックされ、一人の女性が入ってきた。
「失礼します、久世先生。生徒さんたちですね」
そう話しかけてきたのは、知的な雰囲気の漂う、眼鏡をかけた女性だった。見たことのない顔だ。
「こちらは、法術協会の香坂(こうさか)さんだ。今回の件について、いくつか君たちに質問があるそうだ」
久世先生が紹介してくれた。香坂と呼ばれた女性は、私たちに優しく微笑みかけた。
「皆さん、昨日は大変でしたね。少しだけ、状況を教えてもらえますか?」
私たちは、倉庫裏で遭遇した粘体と、フードの人物について、出来る限り詳しく説明した。香坂さんは、私たちの言葉に真剣に耳を傾け、時折、鋭い質問を挟んだ。
「……なるほど。けれど、校内の監視カメラにはフードの人物が映っていなかったそうです。まるで、存在そのものを魔術的に消していたような……」
私たちは思わず息を呑んだ。そんな芸当ができる魔法使いなんて、そうそういない。
香坂さんは、特に、私が《マスケット・ビエント・エスピラル》で粘体を撃退したこと、そしてフードの人物の言葉については、強い関心を示しているようだった。
「あなたのその魔法陣は、珍しい形式ですね。威力もさることながら、応用力も高い。古式魔術を独自に研究されているのですか?」
香坂さんの言葉に、私は少し誇らしい気持ちになった。
「はい。効率よりも、構築の深さに魅力を感じて……」
「素晴らしい心がけです。今回の件で、皆さんの持つ潜在能力が垣間見えました。特に、非常時における冷静な判断力と、既存の枠にとらわれない発想力は、特筆すべきものです」
香坂さんはそう言って、私たちに微笑みかけた。その言葉は、どこか私たちを励ますようだった。
しかし、その一方で、私は拭いきれない不安を感じていた。あのフードの人物の目的は何だったのか。そして、なぜ、あのような異質な魔物が学校に出現したのか。
事件は、これで終わりではない。そんな予感が、私の胸の中に静かに広がっていた。
一気書き、、だ!