現代魔法術はアプリで効率化!私は私の魔法術を極めたい 作:サモア リナン
運ばれてくる“それ”を見た瞬間、思考が止まった。
――異形の子どもたち。
人間と、人型魔族。そのあいだに生まれた、幼い命。
「う、嘘でしょ……?」
あまりの光景に、思わず声が漏れた。震えた声。自分の声が、自分のものじゃないみたいだった。
「しーっ、大声出しちゃだめだよ」
口元を押さえられた。隣にいる先輩の顔が、やけに冷静で……それが逆に、怖かった。
ランカーたちがせわしなく動いている。まだ私たちには気づいていないみたいだ。でも、心臓の音だけが、鼓膜を叩いて離れない。
「だめだよ、こんなの……」
星璃愛も顔を真っ青にして、かすれる声で呟いた。
「これは……流石に、予想外すぎるね」
奏先輩が低く言う。冷えた声が、重く空気に落ちた。
私たちは、しばらく言葉を失ったまま、その場所を見つめていた。
そして――
「……早く行こう」
星璃愛が、袖をぎゅっと握ってくる。冷たい手だった。
「う、うん……」
ここにいても、今の私にできることはない。あとは、プロに任せるしかないんだ――そう思った、そのとき。
「ねぇ、あれ……なんだろう」
奏先輩の声が、不自然なほど穏やかだった。
どこか、いつもと違う。けれどパニック寸前の頭では、その違和感の正体まで考えが及ばない。
言われるまま、指差された方を見た。でも、そこに“変なもの”は――なかった。
「なにしてるの!? 早く! 早く逃げよう!」
星璃愛が切羽詰まった声で私の腕を引いた。
……逃げよう?
いま、逃げようって言った?
なにから?
「はぁ……気づいちゃったんだね、星璃愛ちゃん」
静かに、ため息とともに落とされた声が――凍るような冷たさを含んでいた。
「……せ、先輩?」
振り返る。そこにいたのは――あの、フードの人物。
「え、え……?」
――バギィッ!!
「っ……!?」
顔面に蹴りが飛んできた――が、それはフェイント。
本命は、腹。膝が、突き刺さるように撃ち込まれた。
咄嗟に防御障壁を展開していたおかげで即死は免れたけど、体が吹き飛ぶ。内臓が揺れる。声が、出ない。吐き気が込み上げる。
「はる、大丈夫!?」
「……う、ん。なんとか……」
苦しげに見返すと、
――奏先輩が、あのフードの人物と並んで立っている。
それは、何よりも確かな“裏切り”の証だった。
「春佳奈ちゃんはさ、思った以上に動いてくれたから、途中まではすごく助かってたんだよ?」
奏――いや、“あれ”は笑っていた。
「でも星璃愛ちゃんが天才すぎて、共同の境界軍も法術協会も動きが早くて……餌は見つかるし、処分は間に合わないし。あ〜あ、もう、計画修正しなきゃだよ。ほんと、困る。……先輩ごっこ、楽しかったのになあ」
何を、言ってるの。
わかりたくない。わかりたくないのに、言葉だけが耳に突き刺さってくる。
「……っ! 古式魔法術式展開」
先に星璃愛が動いた。
「熱香・灼爛穿槍《しゃくらんせんそう》・弐薙《ふたなぎ》! 追装・拘縛式外殻・雷纏! 電色転換・黄転赫! 結名――緋迅対爪《ひじんついそう》!!」
――赤き雷をまとった槍が、両腕に現れる。
「へぇ、星璃愛ちゃん、古式使えるんだ……って、いやいや、盛りすぎでしょ!? なにその中二病全開のフレイムランス二刀流!?」
「シリンダー装填、バレル穿て。ハンマー響かせ、フレーム重ね、サイト収束。非殺傷拘束弾装填完了――構成具現化!」
詠唱を短縮する。
「リボルバーアーク:ツイン」
二丁のリボルバーを構える。――ここからが本番だ。
「即応備え。バレットストック、シリンダーストック展開」
周囲に浮かび上がる、魔力の弾倉。絶え間ない供給で、弾切れはない。
「……春佳奈ちゃん、ほんと成長しすぎ」
言いながら、“奏”は姿を変える。変装を解いたその姿は――30代半ばほどの女だった。
「それで? 星璃愛ちゃんは、なんで法術アプリ使わないの?」
「……空気中の魔素の色と匂いと味が、いつもと違うの。どうせ、アプリ無効化されてるんでしょ?」
「……えーと、まぁ……うん。“アプリキャンセラー”ってやつは使ってるけど、さ。魔素の味って、なにそれ? それでキャンセラーって判断できる意味がわかんない。説明、してほしいなぁ?」
「もう言ったでしょ。色・匂い・味でわかるって! 同じ説明させないで」
「……化け物すぎて参考にならないわ」
そのとき、フードの人物が、低く唸る。
「おい、女。俺の蹴りを受けて――なぜその程度で済んでいる?」
男だ。こいつの声と気配は、確かに“戦闘用”のものだった。
「防御障壁で受けたからに決まってるでしょ」
「砕き、貫通したはずだ」
「……敵に教えるわけないでしょ」
「それも、そうか」
質疑は、そこまでだった。
――2対2。交戦開始。
思うように進まぬ!!