現代魔法術はアプリで効率化!私は私の魔法術を極めたい   作:サモア リナン

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8→9話 喪失→覚醒する話

 

バキッ、バキバキッ!

 

骨の砕けるような、いや、軋んで変形するような音が響いた。

その音だけで、全身の毛穴という毛穴が総立ちになっていく。

 

「う、そ……」

 

小さく呟いたのは星璃愛だった。けれどその声は、緊迫した空気の中にあっけなくかき消された。

 

異様な光景が、目の前にあった。

 

裂けた服の下から、黒曜石のように鈍く光る筋肉が膨れ上がっていく。

額には赤黒く歪んだ角、口元には異様に発達した牙――もはや、それは人間の姿ではなかった。

 

「あれ……魔族。いや……オーガ……?」

 

呆然と呟く。

間違いない。あの姿は資料や映像で見た、魔族の中でも屈強さを誇る“鬼”――オーガだった。

 

さっきまで、そこには人間の男が立っていた。

だけど今、そこにいるのは暴力の塊。力を誇示するかのように、こちらを睥睨している。

 

「もう、良いだろう、だと……?」

 

背後から響いた奏の声が、やけに冷たく聞こえた。

まるで、最初からこの展開を見越していたかのように。

 

――いや、まさか。

あいつ、最初からオーガに変わるつもりだったのか?

 

「くっ……!」

 

頭が混乱する。だけど、それでも私の体は動いていた。

《雷閃式》を即座に起動。雷の魔力を手に集束させる。

 

「星璃愛、下がって!」

 

叫ぶよりも早く、私は稲妻を放った。

紫電の奔流がオーガに向かって一直線に駆け抜ける!

 

……はずだった。

 

「グオオオオオッ!!」

 

オーガの咆哮が、空間を揺るがす。

その瞬間、奴の巨大な腕が雷撃を弾き飛ばした。まるで、紙切れでも払うかのように。

 

「なっ――!?」

 

電撃はかき消され、代わりに吹き荒れる風圧が私たちを襲った。

一瞬で、体が浮いたような感覚。そして――

 

「きゃっ!」

 

星璃愛が吹き飛ばされた。

 

その小さな体が、まるで落ち葉のように宙を舞い、無惨にも壁に叩きつけられる。

 

「星璃愛っ!!」

 

声にならない叫びが喉を突く。

 

目の前で、仲間が。共に戦ってきた相棒が――力に蹂躙されるなんて。

 

「邪魔をするなよ、小娘」

 

オーガの低く唸るような声が、耳を突いた。

ヤツの視線は、倒れた星璃愛へとまっすぐ向いている。

 

「やめろ……!」

 

懸命に魔力をかき集める。《スチーム・バーストモード》。

加熱された高圧の魔力を放出し、一斉に魔力弾を撃ち込む!

 

「……!」

 

撃って、撃って、撃ちまくる。でも――

 

「愚かしい」

 

オーガは、片手で弾丸を払った。

雨粒が岩を打つような音だけが虚しく響き、ヤツの歩みは止まらない。

 

「くそっ、止まれよ……っ!」

 

動けない星璃愛に、オーガの巨大な手が伸びる。

 

「いや……来ないで……!」

 

掠れた声が、聞こえた。

 

星璃愛の細い腕が、オーガの手に簡単に掴まれる。

 

「連れて行くぞ」

 

有無を言わせぬその声と共に、彼女の身体が宙へと持ち上がる。

 

「やめろおおおっ!!」

 

私が叫んだ次の瞬間、奏が《時延呪・零秒》を発動させた。

 

反応する暇もなかった。気づけば私は地面に伏せていた。

――その間に、星璃愛は連れ去られていた。

 

視界の端で、遠ざかる彼女の姿。

それが、最後だった。

 

押し寄せる後悔。香坂さんから誘われた時、2人を誘わなかったら、こんな事にはならなかったのに

 

何もできないどころの話じゃない、余計なことをしてしまった、取り返しが効かない、…私のせいだ。

 

そして――意識が、暗転した。

 

***

 

どれくらい経ったのだろう。

ぼんやりとした感覚の中、私は見覚えのない白い天井を見上げていた。

 

鼻をつく消毒液の匂い。

体中には管が繋がれ、鈍い痛みがあちこちに残っていた。

 

「……ここ、は……?」

 

かすれた声で呟くと、誰かが駆け寄ってきた。

 

「目が覚めたか!」

 

――香坂さんだった。

彼はひどく疲れた表情をしていたけど、目に見えて安堵している。

 

「……私、死んだんじゃ……」

 

「ギリギリ、な。魔族の攻撃で脳がやられて……ずっと眠ってたんだ。……一ヶ月も」

 

一ヶ月。

そんなにも、私は――。

 

「星璃愛は……?」

 

聞きたくない。けど、聞かずにはいられない。

 

香坂の顔が曇る。

 

「……まだ、見つかってない。……生死も、分からない」

 

心臓が、どくりと重く跳ねた。

 

……連れ去られて、一ヶ月も経った。

 

「そんな……」

 

体の力が抜ける。動かそうとすれば、痛みが走る。

自分の不甲斐なさに、ただただ押し潰されそうだった。

 

医師の説明によれば、私は魔族の攻撃によって脳に深刻な損傷を負い、生死の境をさまよっていたという。

 奇跡的に一命は取り留めたものの、意識が戻るまでに一ヶ月という時間がかかってしまった。

 

 「後遺症が残る可能性がある」と医師は言っていた。

 だけど――

 

 それは“後遺症”なんかじゃない。

 私に芽生えたのは、確かに“覚醒の兆し”――新たな力の目覚めだった。

 

 最初に異変に気づいたのは、リハビリ中のことだった。

 バランス感覚を戻すための訓練中、私は妙に周囲の動きに敏感になっていることに気づいた。

 視界に映る物の速度、角度、空気の流れ。まるで、脳がそれを“先に”予測しているかのように、身体が自然に反応していた。

 

 そしてもうひとつ。

 頭の中に、もう一つの“自分”がいるような感覚――

 意識の奥底で誰かが囁くように、次の行動や思考のパターンを提示してくるのだ。まるで、思考の“サポートAI”が搭載されたかのように。

 

 混乱した。怖かった。

 でも、同時に私は確信していた。

 

 これは、馬鹿な選択をして、あの戦いに巻き込んだ挙句、星璃愛を守れなかった私に、何かが与えた“力”だ。

 たとえそれが異常で、恐ろしいものであっても――

 

 私はもう、立ち止まるわけにはいかない。

 

 「私のせい、必ず……見つけ出す。星璃愛を」

 

 そう、心の奥で誓った。

 どれだけ時間がかかっても、どれだけ世界が敵になっても――

 私はあの子を取り戻す。そのために、この力を使う。

 

 たとえそれが、“覚醒”という名の代償だったとしても。

 




強く、、なってくれ!
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