皇居、日本の都にある天皇が住まう広大な敷地。その一画に建てられている屋敷の縁側で着物を着た少女が日向ぼっこをしていた。
「んゅ〜」
彼女は一度体を大きく伸ばして仰向けになり、目を閉じたまま空を見上げる。
「良い天気じゃ、陽射しがポカポカとしていて心地良い」
全身に日の光を浴びてリラックスする。周囲には何十という数の蝶々が戯れており、彼女自身の超然した雰囲気も相まって幻想的だった。
「……む?」
このまましばらく日向ぼっこに興じようかと考えた矢先、彼女は遠く離れた場所で誰かが自分を呼んでいる事を
「おやおや、まさかあの子がワシを頼ってくれる日が来るとはのう」
彼女は優しい笑みを浮かべると、体をゆっくり起こして後ろを振り返る。
「
「はい、
そこには日本家屋の屋敷にとても似つかわしくないメイド服を着た少女、
「アンジュローゼから言伝が来た」
「アンジュローゼ……最近派手に動き回っている野良の魔法少女ですか」
「うむ、どうやらワシに伝えたい事があるようなのじゃ、それもなるべく急ぎ目に」
「そうですか」
「そうなのじゃ。という訳じゃから」
彼女は普段閉ざしている目を少しだけ開き、妖しい笑みを浮かべて答えた。
「少し、彼女の所へ行こうと思うのじゃ」
「分かりました。今から都合の良い予定を組んでおきます」
「あ、今から行きたいんじゃけどダメか?」
「残念ながら」
「……そっかー」
▼▼▼
魔女様に連絡取ったら会えるのは二週間後と言われました。メスガキ大好きおじさんです。
(まあそりゃそうだよなー、だってあの人超が付くほどの有名人だもん)
俺なんかと違って、そりゃ予定はいっぱいでしょうよ。アポ無しで会えるほどフッ軽な訳ないでしょうよ。
『……』
『どうかしたかアルティー?』
『いや、こんな面倒な事しなくても、やっぱりあの時二人に話せば良かったんじゃないかなって』
『それは前にも理由を話したでしょ』
『いやその理由が納得できないんだけど』
俺のメスガキプライドを分かってくれないアルティーが辛辣な言葉を投げてくる。悲しい。
『そんなに心配ならアルティーが話しに行けば良いんじゃない? 警音ちゃん達の妖精に事情を伝えるとかさ』
『お断りだよ。それは僕達の仕事じゃないからね』
『……世界を救う仕事してるのに、ドライだなぁ』
少女に魔物と戦う力を与える妖精。その妖精達のトップである妖精王は、人間達との間で様々な契約を結んでいた。その契約の一つとして、こんな物がある。
『妖精側は少女に魔法少女の力を与える事、魔物の出現を報せる事、それ以外の人類への援助を一切行わない』……妖精王はそう宣言した。
『救うべき世界は、他にもいっぱいある。この世界ばかり贔屓する訳にもいかない。
『……そうだな』
ここで俺ことメスガキ大好きおじさんの過去について少し語ろう。俺の元居た世界……つまり前世では、この世界と同じように人々を化け物が、その化け物と戦う人間が存在した。
何から何まで同じではない。化け物の見た目も名称も魔物とは違うし、化け物と戦う人間は少女だけじゃない。
今世のように戦う力を持たなかった俺には、あの世界の詳しい事情は何も知らない。ただ一つ言えるのは、あの世界にも妖精と同じように化け物と戦う力を与えてくれる不思議な存在が居たという事だ。
……あ、一応言うと俺の死因はトラックです。普通に事故死です。はい。
『そういう訳だから、僕も助言はするけど直接動く気は無いよ。一度許してしまうと、相手がつけ上がって面倒になると色んな世界で学んだからね』
『分かってる分かってる。別にアルティーを貶すつもりは毛頭ないから』
ぶっちゃけそれで言うなら、魔物との戦いでメスガキロールプレイに励む俺もどっこいどっこいだ。改める気は無いけど。
『まあシリアスな話はここまでにして、そろそろあの子が来る時間だ。存分に堪能しよう!』
『……本当、君は妙な趣味さえ無ければ話の分かる良いパートナーなんだけどなぁ』
なんか相棒が言ってるが無視だ無視! 趣味なんて他人を害する物じゃない限り、はっちゃけてナンボよ。
「こんにちはー」
「いらっしゃい」(キタ!)
そうこうしている内にあの子が店にやって来た。俺は努めて平静を装い返事をする。
「今日もお客さん居ないの?」
「ご覧の通り、お客さんは君だけだよ」
「ふーん」
彼女は俺の言ったことが真実か確かめるようにキョロキョロと店内を見回す。
「ねえ」
その後、彼女はニヤリと嘲笑を浮かべると、
「おじさんのお店さぁ、いっつもガラガラじゃんw こんなんでやっていけんの?♡」
そう言って、俺の事を煽り始めた。
……生意気で愛らしい笑顔を浮かべて俺を揶揄ってくる少女、
▼▼▼
その日、アルティーはその場に居る事を後悔した。
「おじさんこれちょーだーい」
「ウルトラスーパーチョコミントデラックスパフェだね。あと、いつも言ってるけどここではマスターと呼びなさい」
「はい~? おじさんをおじさんって呼んでるだけなんですけどー? ってか自分からマスター呼びさせるとか、おじさん調子乗りすぎ♡」
「いやいや、別に調子に乗ってなんかいないよ」(ああ^~、脳みそ蕩けるメスガキ煽り~⤴)
(地獄か此処は?)
客の子どもが生意気な煽りをかまして、それに自身のパートナーが心の中で狂喜乱舞する。もはや気色悪いの次元を超えて地獄だった。
『分かるかいアルティー? 俺がどうしてこんなにも感動しているのかを』
『分からない。分かりたくもない』
『分からないのかい? これまで散々メスガキについて語ってきたというのに、やれやれ……』
『なにこいつウッザ』
念話だというのに、なぜかアルティーの脳内では両手を軽く広げて困った風に首を振るパートナーの姿が映し出される。思わず存在しない筈の血管がぶち切れそうだった。
『いいかい? メスガキというのは本来、フィクションだけの存在だ。漫画やアニメ、ASMRボイスだけに生息する架空のキャラクターだ。それを生で見られるのがどれほど凄い事か』
「ちょっとおじさーん? ちゃんと若葉の話聞いてる?」
「あ、ごめんごめん、少しよそ見してたよ」
「……ふーん、おじさんって大人の癖に人の話もまともに聞けないんだ~」
「───ダッサ♡ もっかい幼稚園でお話の聞き方教えて貰えば?」
「こらこら、目上の人にそんな事を言っちゃいけません」(ぐわァー!? ニヤけ顔で上目遣いしながらの静かな罵倒ォ! 『それとも私が教えてあげまちょうか?♡』ってなじられたーい!!!)
「あれあれ~、もしかして図星ぃ? いっちょまえにお説教しちゃって、生意気ー♡」
「やれやれ、私以外にそんな事を言ったら嫌われちゃうよ?」(く、口元に手を当てながらの嘲笑……! ああもう、正論振りかざして理解らせてやりてぇー!!!)
『……』
要するに、彼女にはずっと
(……新しい契約者、今のうちに探しとくか)
あと、彼がお巡りさんのお世話になる日もそう遠くなさそうだなとも思った。
▼▼▼
「ばいばいおじさーん、また遊びに来てあげるからねー」
「ばいばい、若葉ちゃん。いつでも歓迎するよ」
パフェの味と叔父との会話を小一時間ほど堪能した後、若葉は喫茶店を後にする。
「……」
店から離れるにつれて、生意気な笑顔を浮かべていた彼女の口角は徐々に下がる。
「……うぅ〜!」
そして頬を真っ赤に染めて、終いにはその場にしゃがみ込んで蹲ってしまう。
「またやっちゃった……もうもうもう! 私のバカー!」
……
(うぅ、叔父さんを前にするといつもああなっちゃう。本当は普通にお喋りしたいのに)
本当は叔父の事が好きだけど、二人きりになると照れ隠しで煽ってしまう。そんなツンデレならぬガキデレ*1少女、それが彼女だった。
(……こんな私を受け入れてくれるなんて、やっぱり叔父さんは優しいなぁ)
あんなに失礼な態度を取っても優しく接してくれる叔父に、彼女は淡く無自覚な恋心を深めていく。
当然、
(よ、よーし、次こそは絶対、ぜーったい! 嫌な事を口走らないようにしよう)
彼女は心の中で固く誓うと立ち上がり、改めて帰路に着いた。
どうか何も知らないままその想いから覚めて欲しい。そう願うばかりだった。
メスおじの名前は転輪 廻(テンリン・メグル)です。覚えなくて良いです。