ランス3までの内容は描き切ったのでそこまでは絶対に投稿継続します。
プラチナブロンドの少女が一人、古ぼけた剣を握って家の庭で剣舞を踊っている。
セナ・ベリウールという名で、将来美人になることがすぐにわかる顔立ちだ。
彼女が家の蔵から剣を持ち出したのに特別な理由はない。単なる勉強の合間の気分転換のつもりだった。
ベリウール家は魔法王国ゼスの一級市民、それも世襲貴族の末席に数えられる家系だ。
父は軍の大尉で、母はマジックアイテム工場の係長。どちらもそれなりの機関でそれなりの地位にいる人間だった。
血だけを見ても結構なエリート。しかし、セナの優秀さが血筋と比べて、あまりにも逸脱していることに両親が気付くのに、そう時間はかからなかった。
言葉が喋れるようになるとすぐにセナは魔法の才覚を見せた。明らかにレベル2以上の才能。両親は大喜びした。
魔法がすべてのゼスにおいて、セナはこの才能によって将来を約束されたも同然だった。
特に父はセナを偉大な軍人にすると息まき、厳しいトレーニングを彼女に課すようになった。
そのことに関しては、意外にも幼いセナに不満はなかった。魔法が好きだったし、あふれる才能が多くを与えてくれたので面白かった。
何より、セナが新しい魔法を覚えるたびに、両親が笑えるほど大喜びしてくれるのがうれしかった。
ただその日はちょっとだけ疲れていたのだ。
来る日も来る日も新しい魔法を覚え、覚えた魔法の練習する。まったく同じことの繰り返しではないが、いささか飽きがくる頃だ。
遊びたい盛りの十歳の少女が、家の蔵で忘れ去られた剣を見つけたのは、後から思えば奇跡のようだった。
そして、セナは剣を持ち出すと、少し前に連れて行ってもらった劇で見た、剣舞を見よう見まねでやってみる。
これが意外にも面白かった。あの時見た女旅人のように、人々を魅了する妖艶で蠱惑的な大人の女になった気がした。
この時、同時に二つ目の奇跡も起こっていた。少女の秘密の遊びを屋敷の中から見ていた男がいたのだ。
男の名はメルドロス。ベリウール家に仕える二級市民──魔法の使えない者をさす──の老人奴隷だったが、若い頃に冒険者をやっていたこともあり、剣についてはそれなりの知識があった。
そんな奴隷がセナの剣舞を見て目を見開き、セナの父が帰ってくるや否や言った。
「旦那様。セナお嬢様は魔法の天才ですが、剣はそれ以上の天才です! ぜひお嬢様の訓練に剣もお加えください! 必ずやガンジー王子を超える魔法戦士になれますぞ!」
ゼスの一級市民が自分の奴隷にこんなことを言われれば、すぐさま奴隷を魔法で殺すのが普通のことだろう。
しかし、セナの父には幼少の折、このメルドロスにモンスターから助けられた恩があり、昔からこの奴隷とだけは、一級市民と二級市民の垣根を超えた良好な関係性を築いていた。
なにより、ゼスの人間にとって絶対的な存在である魔法戦士のガンジー王子を超えると言われて、それに抗える軍人などいるはずもない。
妻は家の宝であるセナにそんな野蛮な習い事は似合わないと反対したが、夫が心底気に入っている奴隷の首までかけるというものだから、結局は折れた。
そうして、セナの日常に剣の訓練が追加される。
その日の日没までには、この件でメルドロスの首が飛ぶことは決してないことを誰もが理解した。
セナの剣の才能は、彼女の持つ天才的な魔法の才能をはるかに凌駕していた。
メルドロスの見込みは間違っていなかった。セナは間違いなく人類で最高の魔法戦士として歴史に残るだろうと、夫は有頂天で妻と語った。
この予想は大まかには的中したが、彼が思い描いていた形ではなかった。
色々あってベルウール家は取り潰しとなり、セナは一人、故郷ゼスを後にした。
この人類最高の才能を持つ少女が歴史の表舞台に立つのは、彼女が剣を握ってから八年後、LP二年のことだった。
ちょうどランスという荒唐無稽の冒険者が、侵略されたリーザス王国の命運を託されたのと同じくらいの頃である。