くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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烈火鉱山へ行こう

 烈火鉱山へと向かうセナとミルの歩みは、決してゆっくりとしたものではなかったが、ラジールへ向かったときのような常識外れの速度とは違った。

 セナはミルを背負うのをやめ、二人は徒歩で移動する。途中で夜が来れば、キャンプを立てて、食事をとり、取り留めのない話をしてから眠った。

 奇妙なことにミルの不安は日に日に薄らいでいった。心配はいらない。セナがいるし、ランスもいる。ミリと永遠に会えないなんてことには絶対ならない。

 

 そんな風にミルが考えられるのは、きっとセナの雰囲気がカスタムに居た頃とは違っているからだ。

 カスタムで街を守っていたころの彼女には、常に罪悪感から来る暗さがうっすらと膜のように張り付いていた。

 しかし、いまは違う。バレスとのやり取りで吹っ切れたのだろうか。いやどちらかというと、この烈火鉱山までの道のり、ある種の冒険が、セナ自身の持つ明るさを取り戻させたようだった。

 

「やっぱり、セナは冒険者なんだね」

「んー? そうだよ? 最強の冒険者」

「金魚シチューは焦がしちゃったけどね」

「う。でも昨日のカレーマカロロよりは……」

「あれと比べてもね。でも、うん。昨日よりもおいしいよ」

「へへーん」

「私が手伝っただけのことはある」

 

 もっとこの人と冒険してみたい。そんな風にミルが思い始めた頃、二人は烈火鉱山にたどり着いた。

 

「ようやくだね」セナが言った。「はぁ、結局ここまで追いつけなかったか」

「ごめんね。私がもっと早く歩ければ」

「いいのよ。ミルちゃんも私もあれが精一杯。むしろ、ミルちゃんの幻獣のおかげで大分楽できたよ。全力出し過ぎてラジールの時みたいになったら困るから」

「そうだね。パニックになって脱いじゃうもんね」

「言わないで。あー、バレスさんに悪いことしたわ。そうじゃなくて! 体力が温存できてなきゃだめってこと!」

「どうして? セナならここら辺のモンスターくらい寝てても倒せるでしょ? 実際、一回寝ながら倒してたし」

「モンスターならね。でも、タイミング悪く魔人サテラとあったら?」

 

 ミルは考えてゾッとした。

 

「もしそうなったら、ミルちゃんは全部放り出して逃げるのよ?」

「え、でも」

「そこは譲れないわ。何より、あいつの無敵結界はどうやっても私たちじゃ攻略できないし。私が時間を稼ぐ隙に逃げて、情報を持ち帰ってくれた方が皆のためよ」

「……わかった」

「ありがとう。あとお願いなんだけど」

 

 セナが真剣な眼差しのまま言うので、ミルは一体何なんだろうと唾を飲みこんだ。

 

「お留守番をぶっちしたことに関して、ミリへの言い訳考えといてね」セナは冗談めいた笑顔を浮かべて言った。

「クスクス。わかった。とびっきりのを考えておく」

 

 そうして二人は烈火鉱山に足を踏み入れた。わかりやすい洞窟系のダンジョンで、多少モンスターはいるが特に問題はない。道があまり入り組んでいないのも、二人にはありがたかった。

 烈火鉱山に入ってからさほど時間が経たないうちに、大きく何かが崩れる音がした。どこかで崩落があったのかもしれない。

 周囲に対するセナの警戒心が一段階引き上げられたことで、彼女の感覚が鋭くなり、音の方向とかすかに響く誰かの声を捉えた。

 

「いる! こっちよ!」

「ミリねーちゃんかな!?」

「わからない。でも、ちょっと急ごう。崩落に巻き込まれたなら、急いで助けなくっちゃ」

 

 二人は急いで鉱山を進んだ。そして、ついに前を行っていたランス一行を発見した。ピンクのモコモコ髪は間違いなくシィルだ。

 

「いた」セナが言う。崩落を警戒して小声だ。

「追いついたね」ミルもそれを理解し小声で返した。

「え!?」一番最初に二人を発見したかなみが思わず声を上げ、慌てて口を押える。「セナさん? どうしてここに?」

「ミルまで? あんたカスタムで留守番してるはずでしょ?」志津香が眉を顰める。

「ちょっと、ランスくんに話があって……あれ? ランスくんは? もしかして……!」

「いえ、ランス様は岩の下敷きにはなってないと思います。さっき、少しだけ声が聞こえましたし」

「ほ。よかった。思ってたのとは違う展開になっちゃったけど。説明聞かせてくれる? こっちもするから」

 

 セナは鉱山の崩落によって、ランスとそれ以外のパーティメンバーが分断されるまでの経緯を一通り聞いた後、ふーと安堵の息をついた。

 

「よかった。全然大丈夫そうね」

「え、ランス様と分断されてしまったのにですか?」

「大丈夫でしょ。ランスくんなら、だって結構凄腕冒険者じゃない? でしょ? シィルちゃん」

「……はい。ランス様なら大丈夫です」

「ここが崩落したのも、考えようによっちゃいいことだしね……ちょっと心配なのはミリだけど、まぁ、多分大丈夫」

「そうだね。ミリねーちゃんは大丈夫」自分に言い聞かせるようにミルは言った。

「それであの男に話したいことってなんなの? セナさん。それはミルを連れてきたことと何か関係あるの?」

「あ、っと志津香さん。ミルちゃんを連れてきたのは──」

「──私が頼んだからだよ。セナが悪いんじゃない。それにセナの隣ってこの世で一番ヘルマン兵が近づけないところだからね」

 

 志津香はミルを見てから溜息をついた。色々言いたいことはあったが、とりあえず、自分を納得させた。

 

「ランスくんに話したいことだけど、ここは地盤が緩いから移動しながら──ランスくんを探しながら話しましょうか」

「じゃあ、先頭はシィルがお願いね」ミルがいたずらっぽく言った。「セナじゃ何日かかっても見つけられないから」

 

 志津香は友達の妹を窘めようとした。しかし、自分以外の表情を見て止まる。否定も肯定もない。曖昧な笑顔。

 え、本当なの? 志津香は思った。

 

「じゃあ、シィルちゃん、お願いね。ランスくんを見つけましょう」

 

 本当なんだ。志津香はちょっと衝撃を受けた。

 

 鉱山を進みながら、セナは魔人サテラの話をした。ランスが狙われていることについて志津香は半信半疑だったが、シィルは顔を青くし、かなみは難しい表情を浮かべる。

 何にせよ、セナの実力はよく知っている三人は、彼女ですら倒す手立てがないと断言する相手が敵にいることについて、頭を悩ませざるをえなかった。

 

「だから、魔人が現れたら、一目散に逃げてね?」

「逃げられたらいいけど」志津香が言った。

「大丈夫。私じゃサテラは倒せないけど、多分私の方が強いから」

「なんか矛盾してませんか? それ」かなみが言った。

「無敵結界なんてズルが無ければ倒せるのよ。実質私の勝ちね、これは。この前だって結局撃退? したしね。褒めてくれてもいいのよ」

「わーすごいです! ぱちぱち!」

「シィルちゃん! ありがとう!」セナはガバっとシィルに抱き着いた。

「なんだか、カスタムに居た頃より大分……」志津香は言い淀んだ。一応故郷の恩人なので憚られる言葉が浮かんだのだ。「元気ね」

「ラジール出てからはずっとこんな感じだよ?」ミルが言った。

「私たちとリスの洞窟にいる時もこんな感じでしたね」かなみが遠慮がちに言う。

「わ、くすぐったいですよ、セナさん」

「喜びのダイブ~」セナは顔をモコモコに突っ込んだ。いい匂いがする。そしてガバっと顔を上げた。「なんかモンスターいるね」

「あ、ほんとだ。そこの分かれ道を左に少し行ったところにいるわね。多分、みつめとかげ」かなみも気が付く。

「つまり、右には特にモンスターなしって感じね。シィルちゃん、どっちがいい?」

「え? 私ですか?」

「もちろん! ランスくんはどっちに居そう?」

「……左の道からかすかにランス様の声が聞こえるような気がします」

 

 セナはにこっと笑った。

 

「わかった。じゃあ、タッパー用意しといて」

 

 ざくー。みつめとかげが一刀両断された。

 

「食べやすいサイズに切るからねー!」

「頼りになるわね。本当に」

「頼りになるんですよ。本当に」

 

 でも、それ(戦い)以外がなぁ。志津香とかなみの心の声は見事に一致した。

 

 一行はその後も、シィルだけが聞こえると主張するランスの声を頼りにどんどん先へと進んだ。

 もちろん、セナがいるので全く道中の心配はない。しかし、そのせいでセナはペラペラと話したいことを話し続けた。

 ランスを心配するシィルの緊張を緩和する効果があるので、止められなかったが、割と口下手な方の志津香にはちょっと堪えた。いつの間にかセナからの呼び方がちゃん付けになっているのも、ちょっと恥ずかしかった。

 

 かなり和やかな雰囲気を保ったまま、ついにセナたちはランスを発見した。しかも、ミリも一緒だ! 

 ただし、二人とも──あと全然知らない女の子一人も──素っ裸で。絶賛ナニをしてたかは明白だ。

 

「あ? え? ん?? あれ?」状況が飲み込めず、セナは変な声を上げた。

「あんたたちねぇ──」

 

 志津香が苦言を呈そうとしたその時、ぶわっと背筋を襲った悪寒のせいで言葉に詰まる。間違いなく隣のセナから発せらるもののせいだ。ぐるぐるとした目は焦点が定まってない。

 ミルだけは即座に状況を理解した。やばい、セナのスイッチが入っちゃった、と。

 

「よくないなぁ。ミリもランスくんも、冒険中なんだからさぁ。そういうのはちゃんと街とかでやりなよ……ミルちゃんもシィルちゃんもすっごく心配してたんだよ? よくない。よくないなぁ」ぶつぶつとセナは早口でまくし立てる。

 

 ゆらりと動く姿には一部の隙もない。手が無意識に剣に触れている。危険な状態だ。

 

 そんな状況下においてなお、ランスは最適解を直感した……と言えるかもしれない。

 ランスはスッと立ち上がり、素っ裸のままセナの方を向く。当然、彼の皇帝はいまだ臨戦態勢だ。

 

「なーんだ。セナちゃん! ミリとカーナちゃんに嫉妬か!? 仕方がない。セナちゃんもここで抱いてやろう!」

 

 自分の言葉に全く疑いを持たない言い切りっぷりに、セナは一瞬硬直する。

 次いで状況を理解したミリの便乗の言葉が投げつけられる。

 

「おいおい、ランス。セナはお前に嫉妬してるんだよ。悪かったな。ほっといちまって。ほら、オレのところに来いよ」

「おい! ミリ、余計な事を言うんじゃない!」

 

 セナはますます固まった。体から発せられていた殺気が霧散していく。

 

「そ、そうなのかな? 嫉妬、嫉妬かなぁ? あれ? そうかも、そうなのかも。どっちに? 二人とも? そりゃ二人とも魅力的だけど? 私も混ざる? え? そんな、でも。四人でなんて。でも──」やはりぶつぶつと喋るセナはそろそろと自分のズボンに手をかけ始めた。

 

 あ、セナがパニックになってる。このままじゃ、また脱いじゃう。別にいいけど、多分そうなると時間かかるな。流れで私にも手を出してくれる感じでもないし。ミルはそう判断し、くいくいと志津香の袖を引っ張り、ランスを指さした。

 志津香はすべてを理解した。というよりも大義名分を得た。

 

「プチ炎の矢」

「どわ!」

 

 志津香が放った炎の矢がランスに直撃する。さすがに威力は弱めてあるが、めちゃくちゃ熱い。

 

「ちょっと大きな声出さないでよ。また崩落させる気?」

「お前が魔法を撃つからだろうが!」

 

 二人はぎゃーぎゃーと喧嘩し始める。

 一方でセナは未だ思考停止状態だ。

 

「ど、どうすれば、私は、どうすれば……」

「はーい、セナはちょっとこっちで休もうねー」ミルがセナの手を引いてその場から離そうとする。

「あ? ミルじゃねぇか。お前どうしてこんなところに?」ミリが驚いて言った。

「ミリねーちゃんが心配だったから、だって色々必要だろうしね」

「そりゃあ、そうだが、お前なぁ。危険だろ」

「セナがいれば大丈夫だよ。絶対にね」

「……ま、それもそうか」

 

 ランス、ミリ、そして烈火鉱山で働く彼氏を探しに来たカーナ──この説明を聞いた時、ちょっとセナはドキドキした──の三人が身を清め、服を着たくらいになってようやくセナは正気を取り戻した。

 そして、本来の目的である魔人サテラに関する忠告をランスに話す。

 結構何回も話した内容なので、なんか語り口がこなれてきたな、とミルは思った。ちょっと情緒的な表現を使い始めてない? とも。

 

 当のランスは「がはは、あのカワイ子ちゃんが俺様を求めているのか。まったく罪な男だ」と笑って済ませた。

 真面目に注意しても、多分忘れるんだろうなと思いながらも、一応繰り返し話しておく。それでランスの生存確率が上がるならば、十分にやる価値はあった。

 

「よし、これでようやく私のやりたかったことは達成ね」安心した表情を浮かべ、今度はそれをいたずらっぽい、しかし、明確な意思を持った表情に変える。「そうだ、ランスくん。私も解放軍に参加したから。出来ないこともあるだろうけど、これからはどんどん協力してくよ。よろしくね」

「おお! セナちゃんがいれば心強い! これから、もーとよろしくしようではないか!」がははと歯を見せながら、ランスはセナに顔を近づける。

「ん!」スススとセナは離れる。「ランスくん……あとミリもね! あんまり顔近づけるの禁止です。禁止!」

「んー? ぐふふ」ランスはにやにやとさらに顔を近づけた。

「んん!!」スススと離れるセナ。

「がははははは!! 恥ずかしがるな、セナちゃん! イケメン過ぎる俺様の顔をもっとよく見てもいいんだぞ!」

「いや、イケメンさで言ったら、ミリの方が上かな」

「プッ!」にべもない感想にかなみが思わず噴き出した。

 

 そんなかなみに怒りを露にするランス。まぁまぁと落ち着かせようとするシィル。そして、ちょっと考えてからセナが言った。

 

「ランスくんはどちらかというと……かわいい系?」

 

 しんと一発でその場が静まり返る。ぽつりと志津香が言った。

 

「セナさん……かわいそうに……」

「どういう意味だ!」ランスが食ってかかった。

 

 つーんと志津香はそれを無視する。てんやわんやな一行が落ち着いたのは、シィルがタッパーにいれたみつめとかげの刺身を出したからだ。

 もぐもぐとみんなで食べてから、これからのことを話し始めた。

 

「さーてこれからどうするか」ランスが言った。「ヒララ鉱石を探さねばならんが」

「ヒララ鉱石ってどうやって見つけるの? ランスくん」

「知らん」

「お前知らないできたのかよ」

「うるさいぞ、ミリ。ならお前は知ってるのか?」

「ふ、知らん」

「お前も一緒ではないか」

「あ、ヒララ鉱石についてなら、コーン(カーナの彼氏)が知ってますよ」

「お、さすがランスくん。手がかりを掴んでるんだね」

「どーせ、たまたまでしょ」志津香が悪態をついた。

「ヒララ鉱石に関しては問題ないな。あとはここらに潜むカナリアン(わりと強いモンスター。ランスとミリが一回撃退したよ)をどうするかだが……」

「ランスくん」

 

 セナはニコニコと自分を指さした。

 

「ああ、そうか」ミリが納得したように言った。

 

 ざくー。カナリアンは死んだ。

 

 こうしてランス一行は烈火鉱山でのヒララ鉱石採集を成功させた。

 セナの日記には久々に楽しい冒険だった、と記録された。




カレーマカロロってなんなんだろう。料理名として出てくるけど、モンスターでも出てくるし……ぜんぜんカレーじゃないし……。

セナは人間の英雄枠なので、当然ランスやシルキィと同様色を好む性質を持っています。
初めてが同姓だったせいで性癖が拡張され、ちょっと不道徳なシチュでも興奮できてしまうようになった悲しき女です。
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