くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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二人の最強

 ヒララ鉱石を携えて、カスタムまで戻ってきたランス一行はマリアに出迎えられた。どうやら、ヒララ鉱石を使った秘密兵器は、このカスタムでしか整備できないらしい。

 マリアの手伝いができるわけでもないので、セナはランスと一緒に一足先にラジールへ戻ることにした。

 ちなみにミルは今度こそカスタムで留守番をすることをきつく言いつけられてぶー垂れていた。セナがミリに少しだけ口添えしようとしたが、「あまりこいつを甘やかしてくれるな」と怒られた。

 

 そんなこんなでラジールに戻ってきたセナ。ランスからのラブコールを無視して、出来る限りの手伝いをすることにした。

 まさか軍人になるために父から受けた教育を活かす機会が来るなんて。冒険中の粗雑さとは打って変わって、テキパキと働くセナをランスは弄り、シィルは褒めた。なお、彼女の冒険している時の様子を知らないバレスなどは、ますます軍人としてリーザスに引き抜けないかと考えるようになった。

 

 素晴らしい体力で働き続けるセナだったが、やはり扱いは客将なので、ある時バレスから「そろそろ一度お食事をとられては如何でしょうか」と休憩を促される。

 本人としては全く問題ないのだが、他ならぬバレス──どうしても、セナはこの老軍人に弱い──の言葉だ。逆らうことは出来ないので仕方なく、ご飯を食べることにした。

 もし、ランスがセナのバレスを見る視線の優しさに気が付いたら、バレスのことを暗殺しようと企てるかもしれない。近くでこのやり取りを見ていたかなみはそう思った。

 

 ラジールの食堂には常に人がおり、入れ替わり立ち代わりで軍人が食事をとっている。

 セナはそんな軍人たちが驚くほどの大盛定食を頼み、席についた。味はそこそこだったが量が素晴らしい。ご飯がいっぱい食べられることは人生で最も重要なことの一つだ。

 

「申し訳ありません。隣よろしいでしょうか」

「ええ、もちろん」

 

 反射的に声をかけてきた男の方を見て、セナはちょっとびっくりした。彼が顔を覆うようなヘルメットを被っていたからだ。いつ敵が来てもいいように鎧を着ている軍人は多いが、こんなヘルメットを被っている人はこの人だけだった。

 

「ありがとうございます。では、失礼して」ヘルメットの軍人は礼儀正しい座った。「……不躾ですが、貴女はセナ・ベリウール殿で間違いないでしょうか?」

「え、ああ。はいそうです。冒険者のセナ・ベリウールです」

「私は第三軍の将を務めております、リック・アディスンと申します。お会いできて光栄です」リックは言いながら握手を求めた。

「赤の軍の将軍さんですか? ではリーザス最強の戦士ってことですね。頼もしいです」セナは握手に答える。

「……実はバレス殿から貴女がラジールに来たと聞いてから、いてもたってもいられず、恥ずかしい話、こうしてお話しする機会を探っておりました」

「? どうしてですか?」

「最強の冒険者という呼び名は、リーザスにも届いていますから。私も未熟とはいえ最強を拝命した身。ぜひ一度お手合わせをと……しかし、そんな場合ではありませんね」

 

 リックは本当に残念そうに言う。自分の強さについてそれなりの自信を持っているセナにもわかる感覚だった。

 戦うならば、強者と戦いたいと思う感覚。

 

「それに」ぎらりとリックの瞳が光る。「その必要もなさそうです。貴女はいまの私よりもかなり強い」

「…………そうですね。リックさんより、私の方が強いですよ。百回戦って百回勝つくらいに」

「はい。己の未熟を恥じ入るばかりです」言葉とは裏腹に本当に楽しそうに口元を歪める。「ああ、どうしてこんな時に貴女と出会ってしまったのか」

「まぁ、こんな時でなければ一介の冒険者である私が、赤の軍将軍であるリックさんと話す機会なんてありませんよ」

「……かもしれませんね。不謹慎ながらその点でだけは、いまの状況に感謝できます」

 

 その時、セナにピーンとアイデアが浮かんだ。ちょっぴり意地の悪いいたずらだ。

 

「やっぱり、将軍さんともなると向上心がありますね……だとしたら、ランスくんとも話してみてはどうですか? ランスくんもリックさんより強いですよ」

「ほう」リックの目が光る。「やはり、セナ殿もそう思いますか?」

「決闘なら七割。なんでもありなら十割。ランスくんが勝つと思います」

「ふふふ、それは……気になるな」ちょっと素っぽい口調でリックがぽつりと言った。「んん。ではそのうちランス殿とも話してみたいと思います」

「ええ、きっと何か得られると思います」

 

 嘘はついてない。でもランスは「がー! なんで男なんぞに付きまとわれなきゃならん!」と言って怒るだろう。しかし、リックを殺すなんてことは出来ない。二人の実力はかなり均衡しているからだ。

 

 ふふふ、私を軍の仕事の方が向いてる冒険オンチと弄ったことを後悔するがいい。セナは心の中で笑みを浮かべた。

 

「もしよろしければ、この戦争が終わったら、一度立ち会っていただけますでしょうか?」

「もちろん、その時はランスくんも連れてきます」

 

 セナは笑顔を見せた。その笑顔に邪な仕返しへの期待が含まれていることにリックは全く気が付かなかった。




リックは戦闘ユニットとしてシリーズ通して世話になったせいで好感度が高いです。
特に9のリックは最高ですね。バイ・ラ・ウェイが頼もしい。

ランスアタックしかりバイ・ラ・ウェイしかり、剣の必殺技は対多数を想定して練られてる感じがします。
セナは逆に必殺技をタイマン用に作っています。普段の剣が雑兵に対して凄まじい足きり性能を誇るためです。
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