時間が経ち、レッドへの進軍が近づいてくるにつれ、どんどんセナの顔から笑顔は消えていった。
もちろん、他の軍人たちもそれは同じなのだが、彼女のそれ覚悟と緊張ではなく、悲壮の色が強い。
特別な戦力であるセナのこんな顔を見せては戦意に関わるということで、バレスから再び休息をとること求められたセナは、他の者たちよりも早めに眠ることになった。
ランスとミリはセナのメンタル回復と己の欲──ランスは1:9、ミリは9:1のバランス──で彼女の寝室に潜り込もうとした。
しかし、セナの「今日は私の部屋に入ってこないでね。じゃないと、斬っちゃうから」という言葉がマジすぎて断念することになった。
彼女が指令室に顔を見せたのは翌日の朝。ミリがあれ、あいつ寝坊か? と心配し始めた頃である。
「ごめんなさい! ちょっと準備に手間取っちゃって!」パタパタとセナが解放軍に合流する。
「おお、来たかセナちゃん! む、今日はその服なのか?」
ランスはセナを嘗め回すように見た。どこからどう見ても以前見た踊り子の服である。冒険の時に来ていた皮鎧ではない。
「そう。ヘルマン軍達にはこっちの服の方がいいと思って」
「ああ、確かにその服で大分暴れまわったもんな、セナは」ミリがひょいと現れて言った。
「ミリ、おはよう。ちょっと遅れちゃってごめんなさいね」
「いいや大丈夫さ。昨日よりは顔色がいいな」
「……よく寝たからね」
「がはははは! ともかくそっちの服の方がぐっどだ! とーてもエロくて目の保養になるぞ!」
「あっちからしたら、恐怖の象徴になるだろうがな」ミリが笑った。
そんな会話を続けるセナの耳に、キュルキュルと耳慣れぬ音が飛び込み、続いてマリアが現れた。
「……お待たせ」
ふらついた足取りと血走った目で現れたマリアに思わずセナはぎょっとした。
「だ、大丈夫? マリアちゃん?」
「大丈夫よ、セナちゃん。ふふふ、表にあるチューリップ3号を見たら、きっともっとびっくりするわよ」
「遅いぞ、ぎりぎりではないか。よし、お前たち! いくぞ」
ランスの号令で指令室の面々は外に出た。そこでチューリップ3号──マリア曰く戦う車で戦車──を目にした。巨大で力強くどっからどう見ても強そうだ。
「これは……これは勝てる、勝てるぞ!」興奮した様子でランスが言った。
「すっごい! かっこいい! 強そう! でかい!」同じく興奮した様子でセナが言う。
手放しの大絶賛にマリアは満足そうにうなずいた。
「これどうなってるの!? どうやって動いてるの!? 魔法!?」
「これはね!」
「説明は後だ!」
ランスが慌ててマリアを制止する。説明が始まってしまえば止まらないだろうから。
「俺様にいい考えがある!」
続く言葉にランスをよく知る者たちは不安になった。こういう場合にランスがめちゃくちゃ言わない時はなかった。
「この中にセナちゃんが隠れて戦場の真ん中で突然ボーンと姿を見せるのだ! がはは、これは奴らびっくりするぞ!」
「えー! 乗りたい乗りたい! 私、このチューリップ3号に乗りたい!」セナが最速で同意した。
「え!? た、確かに操縦のために人が乗れるスペースはあるけど、もう結構手狭よ?」マリアが焦って言う。
「だいじょーぶ! 私狭くても我慢できるよ!」セナがニコニコと言った。
「そーだ、そーだ! それぐらいこのチューリップ3号ならへーきだ!」ランスもニコニコと言った。
「ランスがチューリップ3号の何を知ってるのよ……」マリアは呆れた。
しかし、ランスとセナの意見が一致してしまった以上、誰一人として彼らを止められる者などいやしなかった。
〇
どーん、どーん。混乱しきった戦場をチューリップ3号が突き進む。
戦端が開かれてすぐにこの秘密兵器は格別の戦果を挙げた。
固まった兵がいれば主砲で吹き飛ばし、歩兵がよればひき殺す。無敵の鉄の箱がこの戦場は俺の庭だと言わんばかりに進軍していた。
「ひゃほー!! 3号、あなたは最高よー!!」マリアが興奮のあまり叫んだ。
側面に飛びつこうとしてくる兵士は露払いとして戦車の近くにいるランスたちが倒してくれる。
無敵。正しくチューリップ3号は無敵だ。
「がーははははは!! 大将首、もらったー!!!」
「いっけー! 3号ー!!!」機嫌よく突っ込んでいったランスに合わせて、マリアも叫ぶ。
だが、実はマリアの叫びには3号に対する興奮以外の色が隠されていた。
やばいやばいやばい。え? セナちゃん、香水振ってる? すっごいいい匂い……。違う違う。そんなんじゃなくて!
マリアの率いる技術班がチューリップ3号を動かすために、内部には人が乗りこめる構造を作っている。
しかし、そのスペースは操縦人数を許容するギリギリだ。ランスの策で無理矢理もう一人乗り込むと聞いた時には、まぁ無理だから諦めるでしょと思った。
だがセナは容易くやってのけた。類い稀なる柔軟性でわずかなスペースに体を押し込んでいる。だが余裕は全然ない。いまも彼女の長い脚がすぐ近くまで伸びてきている。操作の邪魔にはならないように気を使ってくれているが、たまに優しくマリアの太ももを撫でるように触れるので、その度に心臓が跳ねた。
最初の方はまだよかった。だが時間が経ち、内部が熱くなってきてからはとんでもない。汗が蒸発し、匂いが強くなっていったのだ。
近頃の技術班と言えば、整備開発整備開発で、鉄とオイルの匂いが染みついていた。しかし、セナは違う。この籠った空間でなお、どこか柔らかく甘い匂いを発し、それが脳に直接刺激を与えるようだった。
またセナ自身もちょっとおかしい。
最初の頃はチューリップ3号に興奮して子供のように──あるいはランスのように──はしゃいでいた。
しかし、少し前から揺れるのに反応して「んっ」とか「あっ」とか息を漏らすような声しか出さない。それを聞くたびに技術班はぴくりと反応してしまう。
マリアの部下で一番堅物のカスミすら、ちょくちょく唾を飲みこんでいる。
まずいまずいまずい。こここ、このままじゃ、私も目覚めそう! ていうかここの全員目覚める!
マリアは心を隠しながらも、意気揚々と戦車を進めた。
一方でセナは自分との闘いに必死だった。
楽しくチューリップ3号に乗っていたのも最初だけ。思った数倍揺れるこの乗り物によって、一瞬で乗り物酔いである。よくよく考えると自分はうし車でも結構乗り物酔いする方だな、なんて考えていた。
気を抜けば胃の中身が全部出そうだ。どうして緊張を和らげるために、あんなに朝食を食べてしまったのだろう。後悔は今日も先に立ってくれなかった。
セナが我慢し続けられているのは、ここで吐いたりしたら、あとでどれだけランスに弄られるかわかったもんじゃないからだ。
((お願い、ランス(くん)。早く……早く……セナちゃん(私)に出撃命令を……!))
奇しくもチューリップ3号の内部に居る全員が同じ思いを抱いた。
その時、突然チューリップ3号の動きが止まった。操作ミスではない。
「なにこれ!? 突然動かなくなっちゃった!」マリアが叫ぶ。
「粘着地面ね」突然セナが喋った。「大丈夫。3号なら無理矢理突破できるわ。でも……ちょっと厄介だね」
マリアの傍にあった足が器用に伸ばされ、チューリップ3号のハッチを開けた。その光景に技術班は釘付けになる。すらりとした足にゆっくりと汗が伝っている。
セナはまるで猫のように技術班の傍からするすると肢体動かしてハッチの外に出た。風が乗り物酔いをかなり軽減してくれる。ふぅと吐いた吐息がなぜだか技術班の耳に飛び込んだ。
「じゃあ、ちょっと対処してくる。気にせず出発してね」
すっと素早くセナはチューリップから飛び降りる。静まり返った内部で一人がぼそりとこぼした。
「…………凄かったですね」
何が、とは言わなかった。だが全員が同意した。
〇
「あ、あいつは!! で、出た!! 死の踊り子だ!!!」
ヘルマン兵の一人が叫び、恐怖が伝播していく。そんな名前で呼ばれていたことなど知らなかったが、悪くないあだ名だな、とセナは思った。
「む! おい、セナちゃん! まだ合図しとらんぞ!」ランスが文句を言った。
「ごめんね。でも、3号の弱点に気が付いた人がいるみたいだから、対処しなきゃ」
「お、おう。そうか。任せた」
ゆらりと柔らかく佇むセナに只ならぬ雰囲気──実際は乗り物酔いを誤魔化しているだけだ──を感じたランスは思わずそう言った。
にこりと弱弱しく微笑みかけた後、セナは走り出した。その静かな笑みがまた不気味さを際立出せる。
ランスの近くでその笑みを見た志津香は、あんな顔を浮かべてでも戦場に出てくるセナに同情と尊敬の念を抱いた。
ともあれ、セナは戦場を疾走する。兵士と兵士の間を走り、足や手の健を断っていく。そんな風に直接命を絶たずとも、きっと彼らはこの戦いの中で死んでしまうだろう。
これはただの自己満足だ。ますます、セナの吐き気が強まった。
プラチナブロンドが日の光を反射し、戦場に銀色の線が揺らめく。そしてその線に触れられたヘルマン兵はみんな倒れ伏した。
もはや怪談話の類。ヘルマン軍の恐怖は最高潮に達した。
そんな中でただ一人。正しくこの行動の意図を察した者がいた。
ヘルマン軍ランドスター隊の隊長、ロバート・ランドスター。この場にいるヘルマン軍人の中で最もイカレていて、最もキレる男だった。
「Fuck! クソクソ! あんなジョーカーがまだあるとは! どうして俺のところまで情報が回ってない!」
「とんでもなく強い踊り子なんて、逃げ帰ったチキンどもが薬で見た幻覚だって言ったのは兄さんですよ!」副隊長のセピア・ランドスターが言った。
「うるせぇ!! 質問じゃない!! クソ! このままじゃゲームオーバー!! スーパーボウルは奴のものだ!!」
「ともかくここはまず逃げま──」
「──馬鹿野郎動くな!! 奴は俺たちを探してる!!」
ロバートは妹に向けていた視線を戻した。まだかなり離れているのに目が合った。気がする。いや確実だ。あの踊り子は間違いなく指揮ができる位置いる奴を探していた。特にそのことに気が付きその場を去る奴を。あるいはそんな奴を止めるくらい状況がわかってる奴を。
銀の線が急速にロバート達に向かってくる。
「走れ、セピア!」
ロバートは近くに置いておいたポリタンクを掴むとタイミングを見て投げ、炎の矢を放ち爆発させた。
次の手を思いつく一瞬が稼げればいい。あるいは妹が逃げる時間を。
だが、死の踊り子は爆発の中から現れる。無傷だ。
こいつ! 魔法バリアを張ってやがる!
次の思考は許されず、ロバートは頭を掴まれ地面に叩きつけられた。衝撃で体が固まる。
「粘着地面」冷静な声が踊り子から聞こえる。
ロバートの体の一切は魔法によって地面に張り付いた。
「おかえし」
それだけ言うと踊り子は消える。何をしに行ったかは明白だった。
妹が痛みで声を上げる数秒の間に、ロバートの思考は凄まじい速度で死の踊り子についての分析を行う。
なぜ俺を殺さない!? そういえば、こいつは兵士の首を飛ばしたりしてねぇ! それが一番確実! 完全無欠のベストオーダーなのに!
こいつには弱点がある! こいつは人を殺せねぇ! なぜかはわからねぇ! 甘さじゃねぇ! おそらくはトラウマ! もっと致命的! そこをつける! 殺せる! あるいは止められる!
間違いなくこの男はヘルマン軍で最も素早く正確にセナについて理解した。
だがその理解を活かす機会はついぞ訪れない。
戻ってきたセナがロバートの頭にもう一撃食らわせる。彼の意識はあっという間に奪われた。
それで終わり。これ以後、ランドスター隊がこの戦争で戦場に立つことはなかった。
「はぁ」
セナが息をつく。乗ってる時から、3号は足回りを攻められたら大変だなと思っていたが、まさか敵側で戦いの途中で対策を打ってくる人がいるとは思わなかった。
もしいま対処出来ていなかったら、もっと大がかりな仕掛けで3号がやられてしまったかもしれない。そうなれば、解放軍はかなり厳しい状況になっただろう。
「なんでこの人、ズボン履いてないんだろう。まぁ、いいか。変な人はどこにでもいるしね。あー、運がよかったな」
セナはあたりを見回した。ここは戦場を見下ろせる高台で、周りには自分が倒したヘルマン兵だけ。つまり、ここで何をしても味方に見られることはない。
そう味方に見られることはないのだ。
「うっぷ」
セナは吐いた。乗り物酔いだし、動き過ぎだし、自分への嫌悪感が強すぎた。乙女の尊厳は凄まじい勢いで切り刻まれている。
急いで魔法で自分を清めて、証拠隠滅に励む。絶対誰にもバレたくなかった。
そして、リーザス兵の一人が自分に追いついた時までに証拠隠滅ギリギリ完了する。
「セナ殿、大丈夫ですか!?」
「はい、大丈夫です。この人たちを捕虜として捕まえといてください。多分、結構有名な──」
「──こいつは!? まさかヘルマンのランドスター兄妹!?」
「ああ、やっぱり有名な人なんですね。お願いします」
「は! 了解いたしました!」
あー、運がよかったな。心の中でセナはもう一度そうつぶやいた。誰にもバレなかった。バレたら絶対ランスに弄られる。
だが、本当はこの兵士はセナの粗相を目撃していた。そして思った。
この人はこんなに無理しながら、本来関係のない我々の祖国のために戦ってくれているのだ! しかも、それを隠そうとしている! おそらくは我々に気を遣わせないために! なんという慈悲の心だろう。この人の思いやりを無為にしてはいけない!
彼がこの話を他人に話してしまったのは終戦後、勝利に浮かれてべろべろに酔った時だった。それ以後、このエピソードはリーザスでセナの内面の素晴らしさを語るときには外せないものとなる。
セナ本人がそれを知るのは、この日から何年も後のことだ。
話の訂正は生涯出来なかった。
〇
セナがチューリップ3号とランス達の本隊に追いついた時には、ランスの大将狩りは大詰めのところまで来ていた。
ランスはレッドの街に逃げ込んだヘルマン兵たちを次々と打倒しながら、敵軍の大将を探した。大体掃討も終わったが肝心の大将は見つからない。
そこで怪しいとあたりをつけたオレリイ大聖堂にやってきたのだ。ここにはヘルマン兵などいないと主張して扉の前に立ちふさがるシスター・セルを胸を揉んで狼狽させることで振り切り、ランスは大聖堂の扉を蹴り開ける。
セナがランス達を見つけたのは、ちょうどそのタイミングだった。
ランスに声をかける前に、セナの目に大聖堂の中の様子が飛び込んできた。大将らしい豪奢な恰好をした太りすぎの男。何人かのヘルマン兵。奴らの近くで怯える民間人たち。どう見ても、ヘルマン軍人たちは彼らを人質にしている。
軍人が民間人を脅すなどあってはならない。それだけは絶対にしてはならない。父がいつか教えてくれたことが迸るような怒りを生み、即座に行動を起こさせた。
「ライトニングレーザー」
セナは両手を構えて魔法を放った。彼女が好んで使う左手の人差し指から一本のレーザーを放つ魔法と同じものだ。
だが、まるで別物に見える。両手から放たれた合計四本のレーザーはいつものそれよりも、かなり太く、また一本の威力も少ない。これこそが本来のライトニングレーザーの形である。貫通力は抑えられてしまうが、本数は多いし、追尾機能付きなので確実にあたる。
四本のレーザーはそれぞれ別のヘルマン兵にあたり、彼らの意識を吹き飛ばした。
その場にいる魔法使いたちは驚いて一瞬硬直する。レーザー系の魔法で一度に複数の対象に命中させることは不可能ではないが、かなり難しい。それをこの一瞬で実行した者がいるのだ。思わず彼らはその人物を確認しようと視線をセナに向けた。
また戦士たちは目の前の事象に警戒し、足を止めた。魔法攻撃は彼らにとって最も簡単にダメージを与える手段だったからだ。
ヘルマン軍大将フレッチャー・モーデルは何も出来ない。そして後ろに控える整った顔の男は何もしない。
意気揚々と歩を進めたのはこの場においては、ランスただ一人だった。
「がはははは! チャーンス! ランスアタッーク!!」
「ぶ、ぶひ!」
ランスの必殺技がフレッチャーに突き刺さる。なまり切った体に抵抗する力などなく、そのままあっさりとフレッチャーは死んだ。
「よし! 大将打ち取ったりー!」ランスが景気よく言った。
周りの者たちはあまりの速攻にあっけにとられて反応できずにいる。しかし、整った顔の男はパチパチと拍手をした。
「素晴らしい速攻です。これで、勝ちを拾ったのはあなたたちということになった」
「お前、ヘルマン軍か?」ランスが不機嫌そうに言う。
「いいえ、私は──」
「──魔人」かなみが顔を青くしながら言った。
セナがぴょいっとランスの隣に飛び出してくる。かなみの言葉を聞いたせいか、額に汗が浮かんできている。
「はい、魔人アイゼルです。お久しぶりですね。忍者のお嬢さん。そして、あなたがソードダンサーですね。踊り子のお嬢さん」
「サテラの仲間ってわけ?」
「ええ、彼女から聞いています。危険だと。確かに実力はあるようだ。しかし、まだ足りませんね」
アイゼルの後ろから金色の鎧をまとった女戦士が現れた。
「レイラさん……!」かなみが反応する。
「足りないですよ。もっと、もっと私にあなたたちの意思の力を見せてください」
「お望みならたっぷり見せてやろう。お代はお前の命だ」ランスが言った。
明らかに正気を失っている目をしたレイラはゆっくりと剣を構えた。
「ランスくん、攻撃任せていい?」
「全部任せてもいいぐらいだぞ」
心強いランスの言葉に笑顔を見せ、セナは誰よりも先に動いた。
その動きに反応したレイラは攻撃を開始する。優雅とさえ思えるような細剣の戦い方だ。
リーザス王家の親衛隊隊長として申し分ない剣技から放たれる攻撃をセナはいとも簡単にいなす。近しい型であるがゆえにその差はあまりにも明確に表れた。
レイラのすべての攻撃がセナによって捌かれ、出来た隙にランスの剛剣が叩き込まれる。ほんの数回それが繰り返されるだけでレイラは地に伏し、戦えなくなった。
「ふぅ、サンキュ、ランスくん」
「ふん、俺様だけでもできた」
「だろうね」
「……なるほど。これは危険ですね。いまのレイラは使徒に近い力を持っている。それをこうも簡単に」
「がははは、次はお前だ」
「そこの口の大きなあなた。お名前を伺っても?」
「ランス様だ。まぁ覚える必要なんぞないがな。お前はすぐに死ぬ」
「ふふふ、どうでしょうか」
ランスくんはこう言ってるけど、どうやってここから逃げ出そうか。魔人を倒すなんて無理だから、どうにかしないと。セナは内心汗をかきながら思った。
だが、意外にもアイゼルは戦う気を見せず、マントを翻す。
「あなたたちの勝利の余韻を汚すことなどしませんよ。あれの敵討ちをしたと思われるのも不愉快ですしね」
「あ、こらまて!」
「ファイヤーレーザー!!」
志津香の不意打ちがアイゼルの横っ面に直撃する。しかし無傷だ。
「無駄ですよ。我々の無敵結界をご存じでしょう?」
「そんなもの、あなたたちのでまかせかもしれないでしょう?」
「…………なるほどなるほど。確かに道理だ。美しい。よい意思を見ました」
そう言ってアイゼルは満足気に消えた。
ランスはそれを見て「奴は逃がしたが俺様たちの勝利だ」と勝どきを上げる。
ようやくレッド解放戦が終わったのだ。
兵士たちは喜びの声を上げる。しかし、数人は浮かない顔をしている。
セナもその中の一人だった。そのことに気付いたシィルは彼女に声をかける。
「大丈夫ですか、セナさん?」
「あ、ああシィルちゃん。ちょっと考え事をね」
「良ければお聞きしてもいいですか?」
「……ランスくんや志津香ちゃんと違って私はあの魔人と戦うことなんて……倒すことなんて考えてなかった。サテラと戦ったときに奴らには勝てないと決めつけしまった。逃げることばっかり考えてたの。負け犬根性だ」
だからアイゼルはほとんど自分に興味を持たなかった。戦う意思すらない者など眼中にないと言わんばかりに。
「大丈夫ですよ。セナさんは強すぎて知らないのかもしれませんが、自分よりも強い敵から逃げることは悪いことじゃありません!」シィルはにっこりと言った。「ランス様もたまに言ってます。冒険者は生き残りさえすれば勝ちだって!」
「……生き残ってるから私の勝ち?」
「はい! 私たちの大勝利です!」
セナはちょっとだけ気分が軽くなった。だが、すぐに違う気持ちが沸々と湧いてくる。初めての経験だ。
それは喜びと悔しさと闘志がブレンドされた感情。戦士が次の段階へ進む予兆だった。
凄いことをする直前のランスと同じ目の光をセナが発し始めたのを見て、シィルはまたにっこりと笑った。
「次も勝つわ。今度は完膚なきまでに。応援してくれる? シィルちゃん」
「もちろんです!」
セナ「ううう、戦えば私の方が勝つのに、恐るべしちゅーりっぷ3号」