くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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帰還

 セナが目覚めた時、大聖堂の中にはもう人はいなくなっていた。人生で一番体が痛い。しかし、心は割と元気いっぱいだ。

 感じたことのない感情が胸の中に渦巻いている。心が再び戦場でサテラと戦うことを求めている。勝つことを求めている。

 闘志がセナをここに留めておくことを許さなかった。

 

「ぎぎぎぎ……あ、むり」

 

 起き上がることが出来ずにベッドに沈み込むセナ。その程度でいまの彼女を止められるはずもなく、「よし」と一言気合を入れると、ごろんと転がりベッドから落ちた。

 

「いった~! っ~~!」

 

 大けがしている時にそんなことをしたので、当然凄まじい痛みが体中に走る。一通り悶絶した後、今度はごろごろと出口に向かって転がり始めた。

 

「とにかく、いた、誰かに、いっ、伝えないとね」

 

 痛みに耐えつつ大聖堂の扉に体を打ち付け無理矢理開ける。外は明るく、どれくらい眠っていたかはわからない。もしかするとランス達はもう次の街に行ってしまったかもしれない。

 そんな風に不安になったものの、そんなこと気にしてもしょうがないと思いなおして、再度進み始めた。いや転がり始めたと言った方がいいだろう。

 

 指令室には一時間くらいあればつくだろう。それまでに痛すぎて死ななければいいが。

 素っ頓狂な心配をしているセナに、同じくらい素っ頓狂な声がかかった。

 

「えー! セナ、どうしたの!? なにしてるの!?」

「え、え、え? その声、ミルちゃん!? どうしてこんなところに!? カスタムにいるはずじゃ?」

「……まぁそれはおいおいね。それより、セナだよ! そんなにボロボロでどうしたの!? 包帯まみれじゃん!」

「ちょっと魔人と戦ってね。死ぬかと思ったわ」

「じゃあ、寝てなよ!」

「もう十分眠ったわ。いまはランスくん達に魔人についてわかったことを伝えないと!」

「ううう、薬屋として止めたいけど……ま、セナなら大丈夫でしょ。手伝うよ」

「うん! よろしく!」

 

 カスタムを離れたことについて何か言われるかと思ったが、意外とあっさり受け入れられたな。と思いつつ、好都合なのでミルはそれ以上なにも言わなかった。

 召喚した大きめの幻獣の背中にセナを乗せる。彼女がこんなに怪我を負うことがあるなんて、ミルは想像もしていなかった。

 

「よし、じゃあレッドの指令室へゴー!」セナがだらんと幻獣の背に乗ったまま言った。

「あ、セナもそこに向かってたんだ。私も探してたの。大丈夫? 場所分かってる?」

「わかってるよ! ……あ、こっちじゃない。反対でーす! 幻獣ちゃん旋回!」

 

 そんなこんなで二人はレッドの指令室にたどり着いた。突然現れた幻獣と幼女とボロボロの包帯女にさすがのリーザス軍もどよめく。それらが知ってる人間だと気づいたもう一度どよめいた。

 

「おーい、みんなー帰ったよー」セナが緩く言った。

「そんなおつかいの帰りみたいに」ミルは呆れている。

「え!? セナちゃん!? ミルまで!? どういうこと!?」

「おお、マリアちゃん。あれどうしたの? なんか雰囲気暗いね」

「いやいやいや、そんなことより、大丈夫なの!? まだ大聖堂で寝てなくちゃ!」

「大丈夫大丈夫。たぶん。それより他のみんなは? ランスくんとかミリとか、あとバレスさんとかも」

「バレスさんとリックさんは次の戦いの準備のために出てるわ。ランス達は……」

「……なにかあった感じ?」

「魔人サテラと戦いにいったの」

「ええ!? 私がせっかく情報持ってきたのに、その前に!? むーランスくんめ、ちょっと無鉄砲過ぎない?」

「違うの! ランスのせいじゃない。魔人にシィルちゃんが攫われたの。みんなは助けに……」

「……へぇ。サテラめ。私との決着はどうした」

「マリアは残ったんだ?」ミルが言った。

「私は……」

 

 マリアが言い淀む。なんだか辛そうな雰囲気が嫌だったので、セナは出来るだけ明るく言った。

 

「マリアちゃんは私のために残ったのよ」

「え?」

「本当のところはどうあれ、そういうことにしておいてくれない? だってそうじゃないと私がランスくん達と合流できないじゃない」

「も、もしかして、また魔人と戦うつもりなの? その体で?」

「当然! マリアちゃんも行くでしょう?」

「そ、そんな……」

「だって、ヘルマン軍との戦争なんかよりシィルちゃんを助けに行く方が、ずっと楽しいもん。でしょ?」

 

 マリアは解放軍の指令としての自分を考えた。いつもの自分よりもずっとずっと責任を背負っている自分。

 そのうえで、何度かランス達とともに経験した冒険を思い出した。いつもの自分のままで戦い、笑った冒険を。

 

「うん。そうね。行こう、セナちゃん。私もシィルちゃんを助けたい。絶対絶対助けたい!」

「よし! じゃあ、チューリップ3号出して! ミルちゃん、ありったけの薬持っていってね!」

「私も行っていいの?」ミルが意外そうに言った。

「もちろん、いまの私には主治医が必要でしょ? 死ぬわよ」

「た、確かに……!」

 

 ミルはそっとマリアの方を見た。マリアはちょっと考えた後、力強くうなづいた。

 

「3号は動かすだけなら何とか私だけでもできるけど、人手があった方がいいわ。よろしく頼むわよ、ミル!」

「うん!」

「燃えてきた! 何がガーディアンよ! 3号の力見せてやるんだから!」

 

 指令室から三人の娘が飛び出していった。勢いのまま整備の終わったチューリップ3号に乗り込み、ランス達が向かったハイパービルへと進撃を始める。

 一人は幼女で、一人は機械オタク、最後の一人は死にかけ。てんでバラバラの三人だったが、気持ちは一つだった。

 

「ううう、ミルちゃん酔い止めちょうだい。気持ち悪くて死にそう」

「本当に死にそうだから怖いわ……」

「粉薬しかないけど大丈夫?」

「ううう、がんばって飲む……」

「……もしかして、この前乗った時、妙に静かだったのは」

「乗り物酔い」

 

 気持ちは一つだった。




いまのセナはアーロンパークのゾロくらい死にかけです。
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