最強なだけの女
「最強の冒険者セナ! きっとあなたならどんな強敵をも倒して、困ってる皆を救うことができるでしょう! 頑張れセナ! すごいぞセナ!」
暗い森の中で一人。たき火の前に座っているセナは出来るだけ明るくそう言った。長いプラチナブロンドの髪が炎の光をキラキラ反射させる。
だが現状が何か変わるわけでもなく、大きなため息をつく。
「
抱えた膝に顔をうずめてまた自分にがっかりする。パチパチという木が弾ける音が少しずつ心を癒していくが、気休め程度だ。
セナが冒険者として活動を始めてから二か月が経過すると、周りの冒険者たちは彼女を最強の冒険者と持て囃した。
確かにどんなモンスターでも盗賊団でも、セナが戦えば瞬く間に屍の山になる。魔法も剣も人類最高レベルの実力を持つ彼女の戦いぶりは正しく最強であった。
そう最強ではあった。
彼女には無類の強さがある代わりに、冒険を快適にする知識も、お宝を見つける嗅覚も、よりよい依頼を受ける交渉力も、未知を引き寄せる幸運もなかった。ついでに方向感覚もなかった。冒険に出て、拠点に帰れなくなるのはこれが初めてじゃない。
「にぽぽ温泉に行ってみたかったんだけどなぁ。あーなんでかっこつけて行商人の人たちと一緒に行かなかったんだろう」
道なき道を行ってこそ冒険者ですから。
にぽぽ温泉のある街ラジールへと向かう行商人たちへ別れ際そんな風に言ったとき、彼らは朗らかに笑っていた。
あれはもしかするとセナがこんな風に迷子になることを見越して、またこの子はこんなこと言って~みたいな笑いだったのだろうか。そうだったら言ってほしかった。絶対あなた迷子になりますよって。多分、聞かなかったけど。
セナは足元にある木の枝をたき火に投げ込んだ。小気味よく火花が弾け、少し勢いが強くなる。
その時、近くの草むらから一匹のイカマンが飛び出してきて──死んだ。
このイカマンにはセナが何をしたのかさえ分からなかっただろう。常軌を逸した速度の一閃は一切の金属音すら鳴らない鋭さで放たれたのだ。
「見つけてから襲うまでが遅いよ。随分焚き木が無くなっちゃったじゃん」
イカマンの死体に愚痴を言いながら、セナは大雑把にイカマンの解体を始める。先ほどまで生きてたモンスターを恐れなく食べられるのは、セナにある数少ない冒険者適正の一つだった。毒草とかよくわかんない彼女にとって、確実に食べられるモンスターたちは貴重なエネルギー源である。
「……ん? え、マジ雨!?」
解体が終わった矢先、運の悪いことにそれなりに大きめの雨粒が降り出し、少しすると本格的に大雨になった。
こういう不運には慣れっこなのでさっさと雨を避けられる場所を探し始める。せっかく火を通し始めたイカマンがびしょびしょになるのが悔しかったが、言っても仕方のないことだ。
意外にも雨を避けられそうな場所はすぐに見つかった。
偶然、洞窟を見つけたのだ。だが立って入れないほどに小さな入り口には『Lis』と書かれたこれまた小さな扉が取り付けられており、明らかに自然そのままの洞窟ではない。
それでも、全くためらうことなくセナは這いつくばって洞窟に入る。強さにかまけて警戒心がない所も見直すべき点だったが、今の時点の彼女は気が付かなかった。
入り口が小さいせいで、荷物とイカマンを通すのに苦労したが、何とか持ち物すべてを洞窟に入れることに成功する。
洞窟内は雨風しのげる上に先が見えないほどに広い。入り口以外にも外とつながる場所があるのか、空気の流れも感じられるのでたき火もできそうだった。
「お、おー! こんないい場所を見つけられるなんて! 今日はついてる! しかも多分、ダンジョン! 冒険者冥利に尽きるってやつね!」
滅多にない幸運に感激したセナは、雨に濡れてしまったイカマンを再度調理したり、服を乾かしている間、ずっと上機嫌だった。
たき火の火力を調整して今日のところは眠りにつく。わくわくして眠れないかもしれないとも思ったが、冒険者たるものダンジョンには最高のコンディションで臨むべきだ、と思ったので無理矢理にでも入眠する。
ふふふ、どうやら私の冒険者ライフもそれらしくなってきたじゃないか。最高の冒険者になる日も近いね!
この時、セナはそんな風に思ったが、後々から考えれば、この幸運は自分が引き寄せたものではないことは明白だった。
引き寄せられたのは自分だったのだ。長い長い付き合いになるとある男の運命にこの時初めて引き寄せられたのだ。
今回のサブタイトルがこの作品の出発点です。