くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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さぁ、サテラをやっつけよう

「ランスアタック!!」

「グググ、オマエヲコロシ聖武具ウバウ!」

「やってみろデカブツ! ランスアタック!!」

 

 ランス一行は再びハイパービルの階段前でシーザーと戦っていた。前回とは違い、パーティにはセルというヒーラーがいる。多少無茶な攻めをすることが出来た。

 正確には無茶な攻めをすることでしかシーザーにダメージを与えられないのだ。恐ろしいほどの硬さを持つシーザーには、現状、ランスの必殺技以外は有効打にならない。

 だがむちゃくちゃな攻めはランスの得意分野。確実にシーザーの動きは鈍くなってきている。

 しかし、それはランス達も同じこと。互いに命を削り合う壮絶な戦いだ。

 

「ランス! 一旦引こう! このままじゃ共倒れだぞ!」ミリが叫ぶ。

「やかましい! この石ころはいま殺す!」

 

 ミリは焦った。こんな戦いでは確実に共倒れになる。いつもなら、ランスも気づくだろうに、いまの冷静さを欠いた状態では戦いを止めることが出来ない様子だ。

 

 なにか策を打たないと! クソっ、こういうことはランスの領分だろ! 

 

 心の中で悪態をつくミリの耳に聞きなれた声が飛び込んできた。

 

「──────どいて、ランス!!」

 

 ランス達の戦場に突然銀色の戦車が現れる。皆驚きの声を上げるが知らない顔じゃない。マリアだ。

 

「主砲、ってー!!」

「ええい、やってやる!」戦車の中でミルがトリガーを引く。

 

 戦車が轟音と共に振動する。それと同時に砲弾が発射され、シーザーの胸あたりに飛んでいった。

 

「グ……!」

 

 シーザーは咄嗟に自身の武器で砲弾を防ぐ。しかし、完全には防ぎきれず体に衝撃が残った。武器は粉々に砕け散った。

 

「次の弾入れたよ!」ミルが言った。

「なら、今度は……!」

 

 マリアがチューリップ3号を猛進させる。目指すは当然あのガーディアンだ。

 

「発射!」マリアが言った。

 

 主砲から砲弾が発射される。盾にした武器はない。しかし、シーザーの体は武器などなくとも恐ろしい戦闘力を秘めている。先ほどと同じ威力ならば、拳で相殺することが可能だ。

 シーザーは左手で砲弾を迎撃しようとした。だがどういうわけか左腕が上がらない。セナによって両断されかけ、ランスによってダメージを与え続けられていたせいだ。それが先ほどの砲撃で完全にイカレてしまったのだ。

 

「ガァ!」

 

 シーザーの胸に砲弾が直撃する。体はぶれるがいまだ健在。右腕一本でも十分反撃は可能だ。

 

「……だったら!」

 

 履帯が激しい音を立てて、そのまま戦車をシーザーの体にぶつける。とんでもない衝撃がシーザーを襲ったはずだ。

 だが石人形は倒れない。恐ろしい怪力によって戦車が止められた。

 

「ここで……!」

 

 マリアは戦車の主砲を発射しようとした。しかし、弾が装填されていない。激しい戦車の動きにミルが付いていけず、彼女の召喚した幻獣が再装填に動けなかったのだ。

 接射の前に反撃が来る! マリアの内心に動揺が走った瞬間だった。

 

 ただ一人、好機を探っていた鬼畜戦士が戦車の上に飛び乗った。衝撃で怯んだシーザーよりも速い。

 マリアが叫ぶ。

 

「ランス! 左肩!」

「わかっとるわい! ランスアタック!!!」

 

 本能によるものなのか、それとも観察力によるものなのか、ランスの渾身の一撃が少し前にセナが切り込んだ箇所と寸分たがわぬ位置に叩き込まれる。

 急ごしらえで修復されたがゆえに、以前よりも強度が低くなった部分に大きな衝撃が与えられ、シーザーが苦悶の声を上げる。その足から力が抜けた。

 

「ガァァァァアア!!」

「ぬわっ!」

 

 止まっていた戦車が急発進したことでランスは戦車の上から転がり落ちた。

 戦車はそのままハイパービルの壁に激突し、石人形を機能停止に追い込んだ。

 

「はぁはぁはぁ。勝った?」ミルが戦車の中でマリアに問いかけた。

「なんとかね」マリアが答える。

 

 二人はチューリップ3号から降りた。

 

「ミル!? どうしてお前ここに!?」ミリが驚きの声を上げる。

「へへ、来ちゃった」

「来ちゃったってあんた……」志津香が言った。

 

 しかし、二人が来て助かったのは本当なので、強く攻めることもできずにミリはため息をついた。

 なんだかんだ安穏とした雰囲気を出すミルの周りと違い、ランスはとげとげしくマリアに言う。

 

「なんだ、マリア、どうして来た。戦争するんじゃなかったのか?」

「私だって本当はシィルちゃんを助けたいし。それに」マリアはふとセナの顔を思い出した。「戦争なんかよりシィルちゃんを助ける方がずっと楽しいでしょ?」

 

 ランスは何を当たり前のことを言っとるんだ。といった顔をした。

 

「…………ふん。まぁ、戦車のおかげでちょぴっと早くあの石ころを殺せたのは事実だ。許してやらんこともないが……お仕置きせねば他に示しがつかんなぁ」

「何よお仕置きって……ああ!!?」

「お、ようやく立場が分かったか?」

「違う! セナちゃん! セナちゃんのことを忘れてた!」

「セナちゃんに何かあったのか?」

「違うの! ミル! 手伝って! セナちゃん出して!」

「あ。忘れてた」

 

 ミルの幻獣によって戦車の中からセナが引っ張り出される。包帯でぐるぐる巻きのセナが出てきたので、ランス達はぎょっとした。

 

「セ、セナちゃん! 大丈……夫?」

「お、おいピクリとも動かんぞ!?」

「どうしてこんなところに怪我人を連れてきたんですか!?」セルが言った。

「そ、それはセナが……」ミルがモゴモゴと言う。

「ナム」スーが祈りをささげる。

 

 綺麗な顔をしている。死んでんのかこれ。ランスがそう思った瞬間、セナが目を開けた。

 

「あ、ごめん寝てた。おはよう」

「だー! 紛らわしい!!」ランスが安心と同時にキレる。

「あの車内でよく寝られるわね……」志津香が胸をなでおろしながら言った。

「ミルちゃんから痛み止めもらってから眠くて眠くて……」

「あー、ヒロチャンポンのせいか」

「おいおい、大丈夫なのかよ、めちゃくちゃ強い薬じゃねぇか」

「そういえば、セルさんでしたっけ? ありがとうございます。治療してもらってみたいで。ミリとランスくんもありがとね。運んでくれてたの覚えてるよ」

「お礼はセックスでいいぞ、セナちゃん」

「無理。死ぬから」

「ランスさん! なんてこと言うんですか!? 相手は重傷者ですよ!?」

「えーい! なにもいまとは言っておらんだろう! いまとは!」

 

 ギャーギャーと騒ぐ一行だったが、ミリの「さっさとしねぇと、シィルがどうなるかわかんねぇぞ」という忠告によって、前に進みながら話をすることになった。

 セルは重傷者であるセナを同行させることに反対したが、他ならぬセナ本人がこれを固辞した。

 

「チューリップ3人娘を結成したのは私だよ! 絶対に私も行く!」

「なんじゃその気の抜けた名前は……」ランスが呆れる。

「こっちに来る間にチーム名を決めようって話になって」ミルが言った。

「随分強く頭を打ったみたいだな」ランスが言う。

「ヒロチャンポンが効きすぎてるのかもな」ミリが笑った。

「そこ! うるさいですよ!」そう言ってからセナはセルの方に向き直った。「とにかく魔人と戦うんだったら、絶対に私がいた方がいい! いまはちょっと動けないけど、どんどん良くなってるから戦う頃には動けるようになるよ!」

「そんな怪我じゃ死んでしまいますよ!?」

「でも行く。こればっかりは譲れない。それに勝算がない訳じゃないよ」

「なにか魔人に有効な手が見つかったの?」志津香が聞いた。

「うん。一緒に行っていいなら教えてあげる」

「……連れて行きましょう」

「志津香さん!?」

「どーせ、何言ったってついてくるつもりなんだ。さっさと行くぞ」

 

 ランスがそう言ってその場は終わった。

 

 ランス一行はハイパービルを進んでいく。超文明的で奇妙な構造をしているこのダンジョンに目を輝かせながら、セナは幻獣の背にミルと共に乗っていた。

 

「こうやってれば、迷子にならないね。ふふふ」

 

 死んだ目でセナが自嘲するのを突っ込める人間はいなかった。

 

 少し進んだ頃、思い出したように志津香が言う。

 

「それで魔人の弱点っていうのはなんなの?」

「ああ、それね。サテラと戦ってみて、結構無敵結界の穴を見つけたのよ」

「! それはぜひ聞かせてほしいわね」

「まずは衝撃。どうやら無敵結界は剣の斬撃は防げても、付随してる衝撃までは防げないみたい。だから、叩きつけるように切れば、ダメージとはいかなくても多少ふらつかせたり、怯ませたりすることは出来るわ。この点で言えば、ランスくんの方が私より対魔人向きだと思う。いつもの私の剣って、鋭すぎて周りに余計な衝撃とか伴わないから」

「おお、すさまじい達人ゆえの相性ね」マリアが感心した。

「ランスの剣は型すらない剛剣なのがいい方に作用するわけか」

「がははは。俺様は世界にすら優遇されとるというわけだ」

「コツとしては常に魔人の体の中心を狙って斬りこむことね。無敵結界は魔人の周りを包み込むように展開されてるから、狙いがぶれると体の芯から衝撃がずれちゃうわ」

「うーむ。まぁやってみよう」

「出来るのかよ。さすがだな」

「あったりまえだ。俺様は天才戦士だぞ!」

 

 セナはランスの言葉に頼もしさを感じながら続けた。

 

「次に魔法だけど。基本的に攻撃魔法は効かないと思ってくれていいかな。魔法が無敵結界に当たっちゃうと、完全に無効化されるみたい。でも、死爆を撃った時の爆風には体勢崩してたから魔法が起こした風とかは無敵結界じゃ防げない。粘着地面は効いた。見える見えるで目くらましもできたから、魔法の効果が間接的に魔人に作用するものは効果があるみたい。他にも効く魔法があるのかもしれないけど、確かめられてないな」

「色々試してみたいところだけど、私のレパートリーは結構攻撃魔法に偏ってるから……」志津香が顎を抑えた。

「私もなんだよね。速度と正確さばっか鍛えてたせいで種類がいまいち……」セナも苦い顔をする。

「ランがいてくれたらよかったんだけどね」マリアが言った。

「まぁ、ないものねだりしても仕方がないわ。なんでも試してみましょう」志津香がそうまとめた。

 

 セナは頷き、話を続ける。

 

「魔人は窒息で殺せる可能性が高いわ。うつ伏せに倒して粘着地面で鼻と口をふさぐ。出来れば殺せる。これが今のところ一番現実味のある攻略法ね。まぁ、前回は出来なくてこのざまだけど」冗談めかしてセナが言った。

「笑えねぇよ……」ミリが溜息をつく。

「いい情報だ。あのムカつくスカシ魔人を窒息させてやろう!」

「? サテラは?」

「バカ言うなセナちゃん! あんなカワイ子ちゃんを殺してどうするもったいない!」

「あんたねぇ、こんなにセナさんがボロボロにされたのを見て危機感とか覚えない訳?」志津香がイラついた様子で言う。

「ふん。俺様なら平気だ」

 

 志津香がわざとらしくため息をついたことに気を悪くしたランス。食って掛かろうとするところをふらふらと手を挙げてセナが制した。

 

「確かにランスくんが一番サテラにとっては危険な相手かもしれないわ」

「お! セナちゃんわかっとるではないか! どーだ、志津香! お前にはレベルの高い戦いのあれこれはわからんのだ!」

「……どうして、セナさん?」

「おいこら、無視するな!」

「それはね、無敵結界の弱点がセクハラだからよ」

 

 セナがあまりにあっさりというので全員がぽかんとした。

 そしてミリが結構マジ顔で言う。

 

「おいミル! あれほどヒロチャンポンの投与量には気を遣えって言ってあったろう!」

「ご、ごめんなさいミリねーちゃん……」

「私も気を付けるべきだったわ。怪我人がいるのにあんなに激しい運転をしてしまって……」マリアは反省した。

「セナさん……かわいそうに、ゆっくり休んでください……」かなみが目元を抑えながら言う。

「あんたのせいね。あんたが悪いわ」志津香はとりあえずランスを批判した。

「………………すぐにヒーリングを!」セルが正気に戻って駆け寄ってくる。

「残念だったね、みんな。これはマジよ。大マジ」

「そんなわけないですよね? それじゃ魔人に攻められてるリーザスが馬鹿みたいじゃないですか!」かなみが言った。

 

 一度言葉を切ってから、セナは顔を再び上げる。

 

「無敵結界はありとあらゆる直接攻撃を防ぐ。多分そういう効果なんだと思う。でも、セクハラは攻撃として認識しない。だから、セクハラなら無敵結界を抜けられるわ」

「どういう判定でそんなことになってるのかしら……」志津香が真剣に言った。

「私も前はエッチなことだけを考えている人の気配を見分けられなかったから、感覚的には理解できるけど、説明はしづらいわね。そうなるってことだけを覚えた方がいいかも。多分いうほど簡単ではないわ。少しでも攻撃の意思があれば弾かれると思う」

「じゃあ、そんなに弱点ってわけでもないんじゃないか?」ミリが言った。「セクハラ攻撃なんて大したダメージにならないだろう?」

「そうでもないかもよ? 押し倒せるんでしょ?」ミルが言う。

「そうか、粘着地面!」マリアが声を上げた。

 

 セナは笑顔で同意を示した。さらに指を上げて付け加える。

 

「それに一度セクハラが通ったら、ある程度次のセクハラが通りやすくなるかもしれない。少し攻撃混じりでもね」

「あー」ミリが納得したような声を出した。「一回スイッチ入ると多少強引でもいいって感じか。うん、わかりやすいな」

「プチ雷の矢」セナの指から魔法が飛ぶ。

「いってぇ! 何すんだよ!」

「いや、いやらしい目で見てたから……」

「……気のせいだろ」

「ほうほう、セナちゃんは結構──まて、指を向けるな。おい! なんでお前も手を向けるんだ志津香!」

 

 セナと志津香が渋々手を下げる。

 

「確かにランスなら絶体絶命のピンチでもエロ100%でセクハラできるから有利かもね」ミルが言った。

「「ああ……」」

 

 マリアとかなみが同時に納得の声を漏らす。

 

「がははは。とにかく任せるがいい! しっかり俺様が魔人の無敵結界を破ってやるわ!」

「うん、よろしくね! セクハラ頑張って!」

「セクハラ……リーザスを救う手段がセクハラ……」

「心中お察しするわ……」

「む、そういえばセルさんも何か奥の手があるって言ってなかったか?」

 

 ランスがそう言ってセルの方を見た。セルは先ほどの話にショックを受けていたが話しかけられたおかげで回復する。

 

「は、はい。実は魔封印結界というものがありまして、それを使えば魔人であっても封じられるかと」

「え」この世の終わりみたいな顔でセナは言った。「そ、そんなのあるんですか? そんなそれっぽいのが?」

「それっぽい……? ともかく、ALICE教に伝わる秘儀で、四つの触媒を用いて、魔に属するものをことごとく封じる魔法なのですが、この聖武具があればできそうです」

「そ、そんなまた私の方法、力技……?」

「あ、まずい」ミルが反応する。

「ガフッ」

 

 セナはあまりのショックに気絶する。

 セルは焦って駆け寄り、ミリとミルは冷静に薬を用意し始めた。

 マリアと志津香は『セナさんカスタムに居た時よりアホになってない?』と思い、かなみは『前も同じようなことでショック受けてたわね』と思い返した。

 そして、ランスはサテラにどうセクハラしてやろうかとウキウキし始めた。




戦いのことになると結構しゃべるな、この死にかけ……。
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