くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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気を取り直して

「しっかし、良く寝るなぁ」

 

 ダンジョン、ハイパービルの攻略が順調に進む中、何気なくミリが言った。視線の先には穏やかな顔で眠るセナがいる。魔封印結界から受けたショックで気絶した後、一度も起きることなく眠り続けていた。

 

「当然です」セルが窘めるように言う。「本来ならば絶対安静なんです。こんなところに来るべきじゃない怪我なんですよ」

「仕方ねぇだろ。ついてくるって聞かねぇんだから」

「しかし……どう考えても戦闘が出来る体じゃありません。眠ってるうちに安全な場所に戻すべきでした」

「さすがにその暇はなさそうですね……」かなみが言った。

 

 200階を超える高い高い塔であるハイパービル。さすがに徒歩でそれだけの階段を上り切ることは出来ないので、エレベーターを使うことにした。

 しかし、このハイパービルを管理するエロヤックという()()()によると、発生したバグ(という名前のモンスター。いるだけで機械が壊れる)によりエレベーターは故障してしまっているらしい。

 多少苦労したが一行はバグを倒すことに成功。ようやく今しがたエレベーターに乗り込んだところだった。

 

 ぐんぐん昇っていくエレベーターの中は意外と広く、スペースには余裕があるので、いまだ眠るセナは幻獣の背の上だ。

 

「ここまで来たんだ。いまさら戻ったりはせんぞ」

「シィルちゃんも心配だしね……」

「ふん、勝手に俺様から離れたお仕置きをしてやるわ!」

 

 マリアの言葉にそんな風に答えるランスの目には真剣な色が秘められているように思えた。

 

 ちーんと音がして、エレベーターが198階に到着する。モンスターの気配はない。だがこの階付近にサテラがいるのだろう。

 一行は警戒しながら199階に進む。そこでセルからの提案でサテラに対する罠を仕掛けることにした。

 

 部屋に聖武具三つと聖職者であるセルを触媒として配置し、魔封印結界の準備をする。

 これら四つの中心点にサテラをおびき寄せれば、魔封印結界で封じることが出来るだろう。

 いそいそと位置を微調整している時に、ようやくセナが目を覚ました。

 

「ああ、眠っちゃってた? おはようみんな」

「ようやく目が覚めたか。まったく、寝坊助だな」ランスが笑う。

「ごめんね。ちょっとショックが強くて」

「そんなんでほんとに戦うつもりか?」ミリが言った。

「うん、大丈夫──」

 

 不幸な偶然だ。

 彼女がいる時、セナは一度も目を覚まさなかったし、なぜかいつも間が悪く顔を合わせたことがなかった。

 

 殺気。

 セナの体から突然迸ったそれに、向けられた本人──いや、本悪魔は慄いた。ここまで恐ろしい気配をまとった人間だったなんて、寝ている時には思わなかった。

 

 たまたまランスに呼び出されていたフェリスは、己の死を覚悟する。

 セナの手がリーザス軍の倉庫から取ってきたショートソードに触れる。

 

「ストープ!!」ランスがセナの前に割り込んでくる。「こいつは俺様の使い魔だ!! 多少役に立つので殺す必要なし!!」

「あ、ああ! そうだぞ、セナ」ミリも続いた。「フェリスは重要な戦力だし仲間だ。斬ったりなんかするなよ?」

 

 スンと剣呑な雰囲気が霧散して、セナは焦りの表情を浮かべた。

 

「ご、ごめんなさい! いきなり悪魔っぽい人がいるから敵襲かと思って! え、えっとフェリスさん? ほんとにすみません、セナ・ベリウールです……」

「ど、どうも」

「……まぁ、戦えそうな感じはあるな」

 

 せっかく聖武具から離れられて体調が戻ってきたのに、今度はこんなにやばい女が近くにいるなんて! 

 フェリスはうんざりするような気持ちになった。

 

「そ、それで!」誤魔化すようにセナが言った。「いまはどういう状況?」

 

 セナは皆から大体の状況を聞くと言った。

 

「じゃあ、私とミルちゃんはここで隠れてようか」

「ええ!? どうして?」ミルが驚く。

「私がサテラと顔を合わせると、あっちが本気になるだろうから」

「本気に?」かなみが聞く。

「うん、何回か戦って結構因縁作っちゃったからね。おびき寄せる策が成功するための油断とかが無くなりそうで怖い。どちらかというと、ここら辺まで連れてきた後で押し込む係になるのがいいと思うの」

「そうだな」ランスが短く同意した。

「でもなんで私も?」

「主治医……あと幻獣つかいとかの従える系には対抗意識出してきそうだし」

「……まぁいいよ。私の幻獣がいないとセナは隠れられなさそうだし」

「ふふふ、お願いね」

 

 セナはそう言って笑ったが、ミルには何となく本当の所がわかっていた。

 本気になるのは魔人だけではない。きっとセナもだ。セナはひどく勝ちたがっている。

 その気持ちを抑えきる自信がないから、自分にストッパーとして残ってほしいのだ。しかし、この気持ちにセナ自身は気が付いていないだろう。

 

 いまのセナは少し前に一緒に冒険した時とは全然違う。そんな風にミルは思った。迷子の森でサテラと戦ったときに何かが変わったんだ。漠然とそう思った。

 ミルはセナの主治医だ。ランスについていきたい気持ちをこらえて、ミルは彼女と一緒にいることを選んだ。

 

「それじゃあ、よろしくね、みんな。サテラをここまで連れてきて」

 

 セナがにこやかにランス達を送り出し、作戦が始まった。

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