くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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冒険者の勝利

 どういうわけか、セナは目覚めた。間違いなくまだ生きている。もうすぐ死にそうなくらい体中が痛いが。

 セナはどうにか体を起こし、辺りを見回した。

 近くには小さなクレーターとその中心に倒れているサテラ、そして気絶したフェリスがいた。

 

「もしかして、フェリスさんが掴んでくれたのかな? ────っ!」

 

 左腕が完全に脱臼している。所在なく伸ばしていた腕を、追っかけてきたフェリスが掴んでくれたのだろう。勢いを殺しきることは出来ず、地面には叩きつけられたようだったが。

 なんにせよ、自分は生きているようだった。

 

「ありがとう、フェリスさん。本当、死ぬとこだった」掠れた声で感謝を述べるセナ。

 

 その時、フェリスの近くにサテラの鞭が落ちていることに気が付く。セナに悪寒が走った。

 なんでここにサテラの鞭が? まさか、これを使って……! 

 

 セナはほとんど這うようにしてサテラの元へと近づいていった。

 魔人はその頑丈さゆえか原型こそ留めているものの、体中から出血し、死んでいるように見えた。

 

 確かにそう思った。

 

「ぁ」

 

 サテラから息が漏れる。セナが目を見開いた。

 

「冗談……やめてよ。生きてるのかよ……!」

「ぁぁ、セ……ナ」

 

 両腕も動かない。魔力もない。剣もない。這うことくらいしか出来ないセナにこれ以上戦うことは不可能だ。

 サテラの方は背中から思い切り地面に叩きつけられたせいで動けずにいるが、腕も足も折れていない。呼吸が戻り、少しでも回復すれば、すぐにでもセナを殺せるだろう。

 

 フェリスは起きるだろうか。ランスは間に合うだろうか。思考がぐちゃぐちゃにめぐり、一つの答えにたどり着く。

 

「弱点は、ある……!」

 

 セナはサテラに向かって這っていった。まだサテラの体に残ったダメージが彼女を止めているうちに、セナはサテラの傍にたどり着いた。

 

「殺してや……るぞ」サテラが朦朧としながらも言った。

「……望むところよ」

 

 そう言って、セナはサテラに口づけをする。

 セクハラと窒息。無敵結界の弱点を同時に満たす、数少ない方法だった。

 

「………………!!!!」

 

 当然、ただでさえ酸素が足りていなかったサテラの体は、供給を断たれたことで急速に力を失っていく。

 酸素を求め、サテラが顔を背けようとしても、もがこうとしても無駄だった。セナは舌をサテラの口内に押し込み、決して酸素が入り込まないようにする。

 

 サテラの顔色が赤くなったり、青くなったりする。絡みつく舌や覆いかぶさることで触れ合う体のせいで、思考が乱され、対抗策が取れない。

 ついにぐりんと目が白目になり、サテラは完全に意識を失った。

 

 そこでセナはようやく唇を離した。まだサテラは死んではいないが、当分起きることはない。このままキスをし続ければ、セナも同じく酸欠で死んでしまうだろう。

 

「……はは……私の──」

 

 その時、セナはクレーターの近くに巨大な影が立っていることに気が付いた。

 それは先ほどチューリップ3号とランスによって倒されたはずのシーザーだった。どうして動けるのかもわからないほどにボロボロのシーザーが二人の傍で佇んでいる。

 

「……あっ」

 

 セナはシーザーによって、サテラから引きはがされ、乱雑に地面へ投げられた。みしりといやな音が体から鳴る。

 

「サテラ様……」

「(待て……!)」

 

 声にならない声でシーザーを制止するが、どうすることもできず、死にかけの魔人とそのガーディアンは去っていった。

 

「(クソ……!)」

 

 サテラは生き残るだろう。死んでいない限り、魔人はその凄まじい生命力で復活すると聞いたことがある。

 それでも、この戦争の間くらいは傷を癒すことに専念しなければいけないだろうが。

 そうわかっていても、悔しさは募る。

 

 だが、まぁ、自分も殺されはしなかった。ならば、冒険者的には勝ちってことになるかな。言い訳のようにセナは思った。

 

「(あ)」

 

 セナの体からありとあらゆる力が、それ以外の何かが、漏れ出ていくのを感じる。

 いままで、何度か大けがを負ったことはあったが、そんなものとは比べ物にならない喪失感が襲って、なぜか冷静に現状を理解する。

 

 ダメだ。死ぬ。

 

「(サテラとの勝負は負けか……クソ、悔しいな。みんなに申し訳ないな……ごめんね……ミリ、ミルちゃん、ランスくん……みんな……)」

 

 でも、これでやっとお父様やお母様、メルドロスのところに行ける。長かったなぁ。頑張ったなぁ。

 セナは目を瞑る。永遠に目覚めないことはわかっていたが、眠気に抗うことはしなかった。

 

「………………!!!」

「…………!!!」

「…………!!」

 

 天国って騒がしい所だな。いや、地獄だから騒がしいのかな? 

 のんきにそんなことを考えながら、セナは目を開ける。知っている場所で知っている人だ。セナの永遠はたった数秒のことだった。

 

「おい! 死ぬなよセナ! 俺たちはまだお前に何の礼も出来てないんだ!!」

「そうよ、セナちゃん! 最後にあなたに恩返ししてからじゃなきゃ、冒険者を辞められないんだから!!」

 

 それは以前、セナがサテラから助けた冒険者コンビ、ラーク&ノアだった。ノアの使う回復魔法がセナの命を現世に押し戻そうとしている。

 

「あ……れ?」

「意識が戻った!!」

「わかるか!? セナ、ラークだ! ラークとノアだ!!」

「……どう、して?」

「私たち、どうしてもあなたにお礼がしたくて、あなたを追ってきたのよ!」

「ようやく追いついたと思ったら、ハイパービルの上から落っこちてきて!! すまねぇ……!! 魔人は逃がしちまった……!! 俺たちは結局勇気を出せなかった!!!」

「それでも、あなただけは。セナちゃんの命だけは……!!」

 

 二人は必死になって魔法をかけ、応急処置をしている。どこまでも切羽詰まった状況であるにも関わらず、セナは笑みを浮かべて言った。

 

「冒険者の……勝ち」

 

 セナが追いついてきたランス達によって更なる治療を受けるのは、これから少しだけ後の話である。




現在セナが存在することで一番大きな影響を受けているのが、このラーク&ノアかなと思っています。
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