くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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叙勲式

「……なんだよ、随分様になってるじゃねぇか」

 

 高級そうな肉を食べながら、ミリはそう言った。

 叙勲式の前に腹ごなしとアイスブレイクを挟んだ方が、社交の場に慣れていない軍人たちにとって気が楽になるだろう。そんなリアの提案によって、いまは立食パーティの真っ最中だ。

 その恩恵をミリも十分に味わっているらしい。

 

「そう? ま、それならいいけど。ていうかやっぱり、あっちの服の方がよかったんじゃない? 叙勲されるって人たち、みんな軍服とかじゃん」セナが言った。

「そりゃあ、対象者は軍人ばかりだからな。そうじゃないのは、自由都市地帯の代表として来たオレと、個人で叙勲されるお前だけ」

「そうなの? ていうかミリってそんな肩書で来てたんだ」

「本当はマリアのはずだったんだが、いまはずっと工房に籠ってるからな。まったくこういう場は慣れねぇよ」

「志津香でもよかったんだけど、セナが行くから行くことにしたんだよね?」ミルがひょこっと現れ言った。「はい、ミリねーちゃん。野菜も食べること。お酒は飲み過ぎないこと。セナもだよ」

 

 そう言ってミルは二人に野菜の乗った小さな皿を手渡した。

 

「……お互い面倒な主治医が付いちまったな」ミリは渋々皿を受け取る。

「私はともかく、ミリはちょっと許してあげてもいいんじゃない? 大けがしてたわけでもないんだから」

「……いーよいーよ、二人で健康的に楽しもうぜ」

 

 ミリは近くを通ったウェイターに声をかけ、シャンパンをもらった。セナも同じようにグラスを受け取る。

 ミルもいつの間にか、ジュースを持って近くに来ている。

 

「今日はこれが最初で最後だ。乾杯」

「「乾杯」」

 

 ミリは豪快に一息で飲み切る。ミルもだ。セナは少しグラスを傾けた程度だった。

 

「どうした? 酒は苦手か?」ミリが聞く。

「ううん、結構好きな方だよ」

「じゃあ、弱いのか?」

「いや、樽で飲めるけど」

「そこも強いのかよ。じゃあ、グイっといけばいいのに」

「ドレスを着てるのに、それじゃあはしたないでしょう?」

「なんか、着てる服に影響されるタイプだよね、セナって」ミルが言った。

「確かにそうかも。ところでノアちゃんはどうしたの?」

「ああ、ノアなら自分は戦争には参加してないからって、街の方に行ったよ。お前の命を救ったんだから、出る権利はあると思うんだが……そっちは? かなみとスーはどうした? スーのドレス姿を拝んでやろうと思ってたんだが」

「かなみさんはまだ仕事があるからって、スーちゃんはバレスさんと一緒に挨拶周りに行ったよ」

「なんだそりゃ」

「軍のトップの養子になるからね。そういうのが必要なんでしょ」

「めんどくさいね。私、ただの薬屋でよかったよ」

「オレもだ」

 

 三人は立食パーティーを楽しみながらも他愛のない会話を続けた。その間、何人もの知り合いと初めて見る人に挨拶された。

 特に親衛隊隊長のレイラからは命の恩人として礼を言われ、熱烈な勧誘を受けた。仕事熱心なことだ。

 逆に再会したリックからは「あの時の約束、覚えてくださっていますか?」と確認された。もちろん、セナは手合わせの約束を覚えていたので笑顔で返した。リックはそれに満足したようで笑みを浮かべると一礼して去っていった。絶対勧誘の命令を受けているのに、あれでいいのかな? とセナは思った。

 

 そうしてようやく叙勲式が始まる。リア女王が登場し、用意されていた荘厳な椅子に座ると、参列者たちは整列する。

 そして一人一人名前を呼ばれて行き、女王手ずから勲章が与えられていく。

 

 セナの番は最後だった。女王に名前が呼ばれる。事前に教えられていた手順を完璧に守り、恭しく勲章を受け取る。その姿が今までの受賞者と違い、まがいなりにも貴族の振る舞い、服装だったため、参列していた貴族たちを唸らせた。

 

 だが、セナの策略はここから始まる。ここでいきなり踊りを披露するなどと言えば、きっとこんな変な奴リーザス軍に入れるべきじゃないとなって、みんな諦めてくれるはず。

 誰にも相談せずに考えたランス風の策──ランスが聞けば絶対に呆れる──を実行しようとしたその時、打ち合わせとは違うセリフがリアから飛んできた。

 

「セナ・ベリウール。私はあなたの活躍に大変感謝しています。ですので、特別に私が叶えられる範囲であるならば、どんな願いでも聞き入れたいと思います。どうぞ、何でも言ってください。いま、ここで」

 

 叙勲式の場がざわつく。一国の女王がこのようなことを公式の場で言う重みを知らない者はその場にほとんどいなかった。

 かなみとリアの侍女長であるマリスだけは、この言葉の意図を理解し、一層衝撃を受ける。

 下手なことを言えば、リアの手腕でセナは絡めとられる。かなみはそう確信した。

 

「で、では恐れ多いですが」セナが言った。内心のパニックが抑えきれずに漏れ出している。「ランスく……冒険者でありこの戦争に参加したランス殿に私と同じ勲章を三つ……いや、四つ授与してください」

「…………それでよろしいのですか?」

「あ、いえ、最初はサテラ……魔人一人で勲章一つなら、三人で三つかと思ったんですが……魔王だし二つ分かなと……申し訳ございません。私は所詮、途中で戦いから降りた身。最後まで戦い抜いた彼にこそ最大の褒章が与えられるべきだと思いました」

「……………………」

「やっぱり、魔王は三つ分くらいありますでしょうか……?」

 

 いまリアの中ではセナの評価を決めきれずにいた。

 政治的な部分で言えば、セナはカスに等しい。明らかに突然の問いかけにパニックになっているし、要望も意味不明だ。

 しかし、咄嗟にランスの名前が出てくるのは、恋する乙女的には強敵である。

 そして話に聞く戦闘能力を加味すると……どうすべきか。

 結論は保留。だが、要望そのものは大変気に入った。処理予定の保守派大貴族からは苦言を呈されていたランスを大いに取り立てるきっかけになるだろう。

 

「わかりました。私もあなたと同じ認識です。ランス殿には特別の褒章を与えましょう」

「ありがとうございます。感謝いたします、リア様」

 

 かなみはほっと胸をなでおろした。セナは何とも言えない表情でその場から下がる。ミリは笑いを堪えるのに必死だ。

 

 この叙勲式はリーザス内でセナの謙虚さを表す逸話として語られることになる。

 一方、仲のいい者たちの間では随分長いこと笑い話として語られることになった。

 

 魔王は三つ分だ。勲章三つ分。




元々バカであることを忘れて、よりバカにふるまおうとした結果、恐ろしいバカになりつつあるのがセナです。
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