「「「「「かんぱーい!!!」」」」」
叙勲式とは打って変わって、ある種下品に、だが快活に声が響いた。軍人とセナたち一行だけで、盛大な二次会は開かれた。
皆がそれぞれジョッキを持ち、ごくごくと酒を飲み干す。
最初で最後などと言っていたミリも、調子づいて飲みまくっていた。
制止役のミルはすでにノアと一緒に宿へ引っ込んでしまったので、セナも一緒になって飲んでいる。
「本当にウチに来るつもりはない?」レイラが何度目かになるラブコールをセナに送った。「これっぽっちも?」
「ごめんなさい。まだ冒険者を続けるつもりだから」
「残念だわ。残念過ぎるわ。来たくなったいつでも来ていいからね」
「うん、いつでも来ていいよ」スーも便乗する。
「こらこら、二人とも。あまりしつこくするんじゃない。酒の席とはいえ無礼だぞ」バレスが二人を窘める。
「いいですよ。スカウトくらい……バレスさんの反応的にもう任務は取り下げられてる感じですか?」
「はい。ご迷惑をおかけしましたな」
「大丈夫です。叙勲式のあれはちょっとびっくりしましたけど」
「いやはや、あれは肝が冷えましたな」
「なんだったんでしょうか。あんな急に……」
「主君のことゆえ、私からはあまりお話しできかねますが、ああいった言葉が出るほど、リア様はセナ殿のことを評価していらっしゃるようですな」
「それはそうですね」突然現れたかなみが同意する。
「あら、かなみちゃん。かなみちゃんも飲み会に合流するの?」
「いえ、そういうわけでは」
「まさか……」バレスが呟いた。
そのとき不意に侍女長マリスを引き連れたリアが現れる。
リーザス軍人たちは凄まじい速度で頭を下げた。
リアは軽く手を上げる。
「楽にしていいわよ。ごめんなさいね祝いの場で。リアはセナに話があるだけだから、気にしないで」
そう言われれば、いつまでも平伏しているわけにもいかない。軍人たちは控えめに飲み始めた。
バレスは他の者たちを連れてその場を離れようとするが、それもリアは手で制する。
「改めてお礼申し上げます。セナ・ベリウール。立場上軽々しく頭を下げることは出来ないけど。感謝します」
「い、いえいえ。そんないいんですよ。私はただちょっと手伝っただけですし。途中で脱落してますし……」
「それでも、かの魔剣カオスなしで魔人を撃退した功績は大きすぎるものよ。リーザスの手柄ではなく、貴女の手柄と言わざるを得ないほどにね。改めて聞きます。リアのリーザスに仕える気はない?」
「……ごめんなさい。いまはどこかに仕える気はありません」
「そ。ならいいのよ。これからどうするつもり?」
「ちょっとやろうと思ってることがありまして」
「ダーリンの捜索?」
「いえ……ダーリンの捜索?」
「そうよ、ダーリン、ランスって言った方がいい? まぁ、ダーリンでいいわよね。ダーリンの捜索ならリアが主導するから手伝ってくれてもいいわよ」
「ラ、ランスくんがリア様は俺様の女って言ってたのマジだったんだ……!」
「え、ダーリンが俺の女だって言ってたの? きゃ、リア嬉しい!」
「て、違う違う……違います……。私、故郷に、ゼスに帰ろうと思ってるんです」
「……どうして? 軍人にでもなるの?」
「それは絶対ないですね。私、あまりゼスにいい思い出がないですし。軍人になるなら──」セナは目だけで周りを見た。「──せっかく誘ってもらったんです。リーザスでなりますよ」
「そう、ならいいわ。じゃあ、ダーリンの捜索に協力してくれない?」
「……それも辞めといた方がいいと思います」
「あら、どうして? リアの頼みは聞けない?」
「いやいやいや、そういうことでは……ただ、ランスくんが嫌がるかなって」
リアだけでなく周りで聞いてた者たちも首を傾げた。
セナが頬を掻きながら説明する。
「リア様みたいに美人の女王様ならまだしも、冒険者が迷子になったからって同じ冒険者の友達に探されたら、恥ずかしくないですか? 少なくとも、私はちょっと嫌なので、探さないでおこうかと」
「へー、友達ねぇ。ま、リアにはわからない感覚だけど、セナがそのつもりならこれ以上言わないわ」
リアは握手のつもりで──普段ならこんなことはしない、冒険者へ向けた上下のない敬意をアピールする意図があった──右手を差し出した。
「改めて感謝を。セナ・ベリウール。貴女の戦いのおかげでリーザスは守られました」
差し出された手に少しあわあわしたセナだったが、静々と手を握り、手の甲にキスをした。
まるで騎士のように、しかし、たおやかに。
酒では少しも色の変わらなかった頬に赤色が浮かんでいる。
「過ぎたお言葉です……女王リア」
そう言ってセナははにかんだ。
自然とリアの顔が笑顔になった。いままで被っていた女王の仮面がはずれ、年相応の少女の笑顔が見えた。
可愛らしい笑顔と思ったのに、なぜだかセナの背中に汗が伝った。なんだか覚えがあるような。
「リア様」
「わかってるわ、マリス。そろそろお暇しなきゃね。かなみ、あなたもこっちに混じっていいわよ」
「わ、わかりました!」
「それじゃあ、またねセナ。今度はもっとお話ししましょ」
リアは手を振り去っていった。
緊張から解き放たれてセナが息をつく。騒がしさは徐々に戻ってくる。
楽し気に話し始めるセナやバレス、スーなんかの姿を見て、ただ一人残されたかなみは冷や汗を流す。
どう考えてもセナはロックオンされた。可愛い女の子を苛め抜きたいというリアの性癖にがっちりロックオンされた。
これ残されたのはセナのことを調べてこいってことかなぁ。いや、慰労かもなぁ。
かなみは悩んだ。
そんな悩みなど知らないように現れたリック──いつもと違い、普段着用? の仮面を着けている──がセナに声をかける。
「セナ殿。よろしいでしょうか?」
「あ、来ましたね、リックさん。大丈夫ですよ。持ってきました」
「さすがです。では……」
「ちょっと着替えるんで待っててください」
「おいおい、お前マジか……」ミリが呆れたように言う。
一度引っ込んだセナが踊り子の服になって戻ってくる。もちろん、剣を帯びている。
「その格好でですか?」リックさえも困惑気味に言う。
「当然です。だって苦手でしょう? リックさん。こういう格好の女性」
「……恥ずかしながら」
「相手の弱点を突くのは戦いの基本ですよ」
「全くですね」
「それじゃあ、表でやりましょうか。とりあえず、百本」
リックは仮面の下で目を見開き、喜びと興奮で口元を歪めた。
その夜、セナはリーザス軍において伝説から神話にまでその地位を高めた。
直接目にしていない者以外で信じられる者などいるだろうか。
セナ・ベリウールはリーザス最強の赤い死神相手に、ただの一度も土を着けられることなく、百度のダンスを踊り切ったのだ。
その報告をかなみがリアにしたとき、悩まし気に女王は言った。
「ねぇ、かなみ。どうしてもセナをこっちに引き込めないかしら。最悪、一晩でいいの。一晩で」
トリコみたいになったリア「お、無自覚誘い受け最強女戦士じゃねぇか! うんまそ~!」