セナは人の気配で目覚めた。自分と同じ年くらいの男女だ。武器を持ってるから冒険者。動く音の感じから少しは出来る奴らだろう。
そこまで瞬時に判断してから、自分が服を乾かすためにそれらを全部脱いでいたことを思い出した。
洞窟入り口の小さな扉が開かれる音がしたので、慌ててセナは叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくださーい!」
扉の音が止まる。小声で二人が話す声が聞こえるが、何を言っているかまではわからない。
「君は誰だ? そこで何をしている?」男の方が言った。
「えっと冒険者のセナって言います。昨日の大雨から逃れるために洞窟に入りましたー! ちょっといま着替え中なので入ってこないでください!」
「セナ……セナってあのセナ・ベリウールか!? 最強の冒険者って噂の!?」
「お、ふふん、そうです! そのセナ・ベリウールです!」
「こんなところで噂の冒険者に会えるなんて思わなかったな! 俺はラークだ!」
「ラーク……ラーク……ラーク…………あ!」
情報を集めるのがうまくないセナであっても、自分と同じ頃に頭角を現した冒険者のことは知っていた。
「ラーク&ノア! じゃあ一緒にいる女の子はノアちゃんなんだ!」
「見てもないのに二人いることがわかるのか! さすがだな」
「ふふん! もっと褒めてくれてもいいよ!」
セナは褒められるのが好きだった。
和やかな雰囲気のまま、年の近い冒険者たちは洞窟の中で改めて顔を合わせた。
ラークは赤髪の男の子で、ノアは金髪の女の子だった。
「改めてよろしくね、ラークくん、ノアちゃん!」
「ふふふ、いま一番話題のセナによろしくされちゃ、受けない訳にもいかないわね?」
「そうだな。だが、いずれはその最強の冒険者っていう肩書は、俺のものにさせてもらうがな!」
「おおー、それは非常に高い目標。頑張ってくれたまえ」
「うへー! すっげー上から! 覚悟しろよ、すぐにでもそうなってやるからよ!」
ラークとノアの二人は自信家で、ちょっとだけ増長している部分もあったが、若手ひいては冒険者で最強と目されるセナの手前、そこまででかいことは言えなかった。
しかし、その塩梅がかえってセナにとっては心地よく。やる気に溢れる同年代のライバルとして好印象だった。
「でも、どうしてセナはこんな所に居たの? 街道からも目ぼしい観光地からも結構遠いけど」
「うっ、実はにぽぽ温泉に行こうと思ってたんだけど、迷子になっちゃって……」
「にぽぽ温泉!? 全然場所違うじゃねぇか! ラジールにある温泉だろ? アッハハハハハ! セナ・ベリウールは脇が甘いって噂は本当だったのか!」
「ううう……事実だから言い返せない……。冒険部分はまだ勉強中なんだよ! そういう二人はどうしてこんな所に来たのよ?!」
「私たちはギルドの依頼できたのよ。リスにさらわれたローラっていう女の子を助けに来たの」
「へー……」
「ダメだぞ」
「え!?」
「いや、完全に私もついていこっかなーって顔してたから念のため」
「え、ついていっちゃダメなの!?」
「そりゃだめでしょう。私たちが受けた依頼で、チームでもない冒険者のあなたが協力したら、報酬の分配なんかを考えなきゃいけないし、私たちは隠れて別の冒険者の力を借りていたみたいな噂が立ったらラーク&ノアの看板にも傷がつくもの。命の危機みたいな状況ならまだしもねぇ」
「た、確かに……!」
「脇が甘いとは聞いてたけど、ちょっと迂闊すぎねぇ?」
「勉強中! 勉強中だから! ……ついていかないからいかないから、一つだけ質問してもいいかな?」
「ええ、もちろん」
「にぽぽ温泉までの道、教えてくれない?」
セナはラーク&ノアを見送ると、広げていた荷物をまとめ始めた。乾かした地図に何とか道しるべを書いてもらい、結構しっかりとしたアドバイスをもらったので、にぽぽ温泉にたどり着くことはできるだろう。たぶん。
しかし、ここでふと思いついた。
別に一緒に行かなければ、この洞窟を冒険してもいいのではないか?
二人を見送った手前、ちょっぴり罪悪感があるが、かえってそれもスパイスになる甘美な誘惑だった。
どうしよっかな。やっぱり素直に出た方がいいかな。でも洞窟探検してみたいな。
冒険者としては致命的なほど時間がかかったものの、ついに、やっぱり二人に悪いしにぽぽ温泉に向かおうと決心した瞬間、再び洞窟の扉が開いた音がした。
男の子一人と女の子が二人。男の子は戦士で、女の子の一人は魔法使いだろう。もう一人の女の子は立てる音が小さく武器も小さいから、忍者とか斥侯とかだろうか。
洞窟に入ろうとしてくる冒険者たちがいる以上、この狭い入口を通って外に出ることは出来ない。だから、すぐににぽぽ温泉に向かうことが出来ないのは仕方ない。
実に都合のよいタイミングで言い訳が出来てしまったため、またもセナの心は揺れ始めた。
セナの優柔不断が終わらないうちに、冒険者一行はぎゃーぎゃーと騒ぎながらこちらに近づいてきた。
「待って、出口のところに誰かいるわ」女の子の一人が言った。
「なに?」男の子が反応する。
セナはハッとなった。特に敵意がないのに警戒されても旨味はない。すぐに声をあげる。
「すみませーん! 敵意はないです! 安心してくださーい!」
「むっ! 早く進め、かなみ! これは美人の声だ!」
「ちょ、ちょっと! 押さないでよ、ランス!」
「ぐふふ、この洞窟の中なら……」
邪な声色を聞いてセナは剣を持った。こういう手合いは初めてじゃないし、絶対に負けない自信もある。ゆえにいきなり斬りかかるなんてことはしないが、準備をしておいて損はない。
最初に入り口を這い出してきたのは紫髪の忍者然とした女の子だ。まったく問題ない。
次に出てきたのがよこしまな声の主であろう茶髪の男の子だった。最初はよく見るスケベな顔つきをしていたが、セナを見てぐむむと眉をしかめた。
すぐに警戒を強めたね。強い戦士だ。
セナは自分の実力を隠すことを常に心がけていた。基本的に自分の力を低く見られた方が戦いは有利に運ぶからだ。まぁ、そうしなければ食べられるモンスターが恐れをなして近寄ってこなくなるからということもあるが。
しかし、その偽装は実力のある者、才能のある者にはあまり効果がない。特に剣に精通した者たちは、自然とセナが持つ圧倒的な剣の技量を察することが出来るようだった。
まだ油断はできないが無理矢理襲われる可能性はぐっと低くなったので、セナは二人に微笑みを浮かべた。
忍者の子はいまだ警戒の抜けきらない顔をしているが、男の子の方はすでにデレデレとセナの体を眺め始めている。すごい切り替えの早さだ。セナはむしろちょっと感心した。
ようやく魔法使いの女の子が入り口から這い出してくる。もこもこのピンク髪にセナは一瞬目を奪われてしまった。母と同じその髪色は、どうしてもセナに昔を思い出させた。
「あ、ああこんにちは。ごめんなさいね。警戒させちゃって、この入り口じゃすれ違えないから……」当たり障りのないことセナは言った。視線はまだピンク色を捉えている。
「あ、いえ、こちらもご迷惑をおかけしました」ペコリとピンク髪の女の子はお辞儀をしながら言った。
「そんなそんな……ええっと私はセナ・ベリウール。冒険者よ」
「セナ・ベリウール!?」忍者の女の子が言った。
「誰だそれは? 有名なのか?」男の子が言う。
「最強の冒険者って話題の人よ! なんであんた知らないのよ!」
「そんなこと知らん。最強は俺様だ。しかし、ぐふふ、セナちゃんか。よろしくしようではないか!」
男の子が大口を開けて笑いながらワキワキと体を触れようとしてきたので、ちょっとだけ殺気を飛ばしてみると、「うっ」と手を引っ込めた。
感覚も鋭い。相当な使い手と見えるが、体の方はなまり切っているような印象を受けた。
その後、ピンク髪の子──シィルが三人の紹介をしてくれた。どうやら彼女はランスの奴隷らしい。
奴隷と呼ばれる彼女に大好きだったメルドロスのことを思い出して、ますますセナはシィルと仲良くなりたくなった。
「それでランスくん達はどうしてこの洞窟に?」
「リスにさらわれた女の子を探しに来たんです。何か知りませんか? ローラっていう子なんですが」シィル言った。
「え? あれ? ノアちゃんとラークくんが同じ依頼受けてたと思うんだけど……あれ?」
「ふん! 誰だか知らんがこの依頼は俺様のものだ!」
「えーと……同じ依頼ではあるんですけど、ギルド長のキースさんに先に解決できれば依頼料を出してもらえるようにお願いしたんです」
「え! そんなのありなの?」
「いえ、本当は……」
言いかけたシィルの頭をぽかりとランスが叩いた。
「余計なことを言うな。これは俺様の依頼だ」
「ひんひん、ひどいです……」
「ちょっと、ランスくん! シィルちゃんを殴るなんて!」
「がははは! 俺様の奴隷をどうしようと俺様の勝手だ!」
楽しそうに笑うランスを見て、呆れた後にちょっと面白くなったセナだったが、すぐに少し息を吐いてから言った。
「じゃあ、三人とも頑張ってね。ノアちゃんとラークくんとも友達だから片方だけの応援はできないけど。冒険の成功は願ってるよ」
「はい! ありがとうございます!」
セナは手を振って三人を送り出すモードになった。しかし、ランスは動かず、それにつられてシィルもニコニコとセナを見送るモードだ。かなみは一人、なにかを考えているようだった。
謎の送り出し合い時間が流れる。
「……行かんのか?」しびれを切らしてランスが言う。
「だって、ランスくん私がここから出ようとしたら、後ろからいたずらするでしょ? 三人が見えなくなってからゆっくり出るよ」
「す、鋭い!」かなみが思わず言った。
「そ、そんなことはせん! さっさと行かんかい!」
「やだ。ほら、早くいかないとノアちゃんたちに先を越されるよ」
「うぐぐぐぐ」
悪だくみが失敗して悔しがるランスだったが、すぐに次の悪だくみを思いついたのか、にやりと笑って言った。
「そうだ! では、セナちゃんも一緒に来ればいい!」
「え!?」明らかに喜色が含まれた声をセナは上げてしまった。「ごほん、いやいやダメだよ。ギルドを通さないで依頼を手伝うと良くないってノアちゃんが言ってたよ」
「ええーい! 問題ないわ! そんなもん俺様がどうとでもしてやる!」
「え、えーでもなぁ」
人の弱みに付け込むことを得意とするランスの直観が告げていた。
セナちゃんは最強にかっこいい俺様についていく口実を探している! ついてくるように押して押して押せば絶対についてくる! がはは、戦力にもなるカワイ子ちゃんゲットだ! 隙を見て絶対こましてやるぞ!
細部は全く違うが、結論は同じだった。そして正しい。
セナがちらちらとシィルとかなみの方を見れば、ランスは二人の背中をたたき自分に乗るように促した。
「お前たちもセナちゃんが来てくれた方がいいだろう?」
「え、あ、はい! セナちゃんが来てくれたらうれしいです!」
「そうね。冒険者最強っていうなら一緒に来てくれれば頼もしいわ」
「えー、二人までー?」
セナが冒険者としてのモラルを気にすれば、ランスは冒険者のロマンを説いた。
「でもでもっ、冒険者としてギルドの依頼を蔑ろにするってのは……」
「冒険者ならば目の前の冒険を蔑ろにするなんぞ、言語道断ではないか?」
セナがラーク&ノアのことを気にすれば、ランスはてきとうにごまかした。
「でもノアちゃんたちに悪いしなぁ」
「なぁに友達なのだろう!? それならきっとたぶんおそらく気にせんわ!」
そうして結局、セナはランスたちに同行することに決めた。本人もついていく理由を探していたのだから当然の結果である。
「じゃあ、しょうがないわよね! いいよね! 私が三人について行っても!」
「がははははは! いいぞー!! カワイ子ちゃんの仲間ゲットだ!」
ついでに隙を見て襲ってやるぞ。とランスはすけべに顔をゆがませた。セナもそのことに気が付いたが、あえて気にしなかった。
冒険についていかせてくれるなら、多少のすけべさなど問題にならない。絶対に無理矢理襲われることなどないからなおさらだ。
そうしてセナはランスたち一行に加わった。
それからの展開はセナにとっては最高で、ランスにとっては気に食わないものだった。
大体こんな感じだ。
①
「えー! じゃあ、シィルちゃんたちがあのカスタムで起こった事件を解決したんだー!」
「はい。大変でしたがランス様がすごいので大丈夫でした」
「おーランスくんは冒険慣れしてるんだねー」
ぐさー。現れたモンスターはセナによってあっさりやられた。
②
「それでね! 私お料理を練習してるんだけど、全然だめで……。二人は冒険の時とかはどうしてるの?」
「おうちからお弁当を持ってきたり、ランス様が倒したモンスターをカレーにしたりしてます」
「カレー! 挑戦はしたいけど、ちょっと怖いな……」
「じゃあ、今度お教えしますよ」くすくすとシィルは笑った。
「えー! ありがとうシィルちゃん! かなみちゃんはどんなの食べてるの?」
「私は冒険とかはしないから……でも、こういう任務の時は兵糧丸を食べるのが普通ね」
「兵糧丸! さ、さすがは忍者……! 兵糧丸っておいしいの……?」
「……栄養は満点よ。栄養は」
「栄養の分だけ私の作るものよりマシって感じね」
どーん。現れたモンスターはセナの魔法で吹っ飛ばされた。
③
「やっぱり! ランスくんはちょっと悪い奴なんだね!」
「ちょっとどころじゃないわよ! あいつのせいで私がどれだけ苦労させられてるか……!」
「ご、ごめんなさい、ランス様が……」
「いやいや、シィルちゃんが謝ることじゃないよ! ランスくんは反省しなきゃだね~」
「そのテンションで済むことじゃないと思うけど」
「まぁ、冒険者は結局ならず者みたいなものだから、女の子を好き勝手襲っちゃうのも……まぁ、ぎり……うーん、オーケー?」
「オーケーじゃないでしょ!?」
「やっぱり? うーん、メルドロス、あ。私の冒険者の先生ね。その人が冒険者は力で解決できるならなんでもしていいって言ってたんだけど、やっぱり言い過ぎのやつだったか」
「あはは……」
「確かに冒険者全体の治安は良くないけど、そんな無法者みたいな……」かなみはランスを見る。
「えーと、その……そんな人ばかりじゃないとは思いますよ」
「メルドロス結構オーバーな所あったからなぁ。まぁでもランスくんはオーケーでしょ! 結構いいこともしてるみたいだし、ぎりオーケー!」
「意外とおおらかなのね……」
「ちょっとランス様に似ています」
「え! じゃあシィルちゃんともっと仲良くなれるってこと!? やったー!」セナはシィルに抱き着いた。
「え、え? えーと、そうですね!」シィルはニコニコと笑った。
「そうなの?」かなみは呆れたように笑った。
ぐさどーん。現れたモンスターはセナに斬られた上に魔法で吹っ飛ばされた。
④
「私絶対イカマンは足よりも──」
「──ええい! やかましいぞ!!」
ワイワイと話す女の子三人についにランスはキレた。
「あ、ごめんなさいランス様……」
「ごめんねランスくん、私パーティ組む機会ってあまりなくて……はしゃいじゃった……。冒険なんだから騒いじゃダメだよね」
「いいのよセナさん。どうせ自分が構ってもらえないから、へそ曲げてんのよ。大体セナさんが来る前まではランスが騒いでたじゃない」
「そうなの、ランスくん? ごめんね。ランスくんも一緒に話そう?」
「がぁー!! 違うわ!!」
ぷんぷんと肩を怒らせてランスは歩き出した。若い娘三人の姦しい会話に混ざるのはさすがに気が引ける。なんて気持ちには気が付かないようにした。
「ああ、ランス様待ってください」シィルがとてとてと追いかける。
二人にセナとかなみが続こうとしたその時だ。
ぽこっと小気味いい音を立てて床が抜けた。
落とし穴だ! でもなぜか一人分。
「ミ!」間の抜けた声を上げてセナが落っこちた。
したたかにお尻を打ち付けたのでちょっと痛い。セナは自分のお尻をさすった。
「どうして~? シィルちゃんもランスくんも通ってたのに~!」
「だ、大丈夫ですか?」
「い、いまひっぱりあげるわよ」
「うーん、ありがと──」
「がははははははは!! かっこわりー!!」
いままでとは打って変わってランスが馬鹿笑いする。
「ちょっとランス!」かなみが窘めるが笑い声は止まらない。
「ミ! だって! がはははは!! あれだな! セナちゃんは冒険オンチだな!! そんな落とし穴にはまってしまうとは情けない!!」
「ぼ、冒険オンチですって~!」
ちょっと心当たりがあるだけに言い返せない。セナはぐぬぬと唸った。
その怒りにまかせて一息でそれなりに深い落とし穴から飛び上がる。その跳躍力には忍者であるかなみさえも驚いた。
「そんな……こともあるかも……しれないけど! いまはまだ練習中よ! これからうまくなるのよ!」
「がははははははは! 冒険オンチ~!」
「やめなさいってランス!」
「絶対! 絶対! ランスくんが落とし穴に落ちたら私も笑ってあげるから! 助けてあげないから!」
「セ、セナさん……」シィルが困った顔を浮かべる。
「ふん! この最高の冒険者である俺様が落とし穴なんぞに落ちるか! いくぞお前たち! こんな穴の傍にいつまでもいたら冒険オンチが移るぞ!」
「もう!」
一行はまた歩き始めた。先ほどのように姦しい声は響いていないが、セナがぐるるとランスをからかう隙を伺っているせいで、なんだか益々やかましい。
そんなセナにシィルはあたふたして、かなみは呆れていた。
一方のランスは美人が自分をじろじろと見つめているので上機嫌である。セナを襲うときには落とし穴を使おう、なんて考えたりもした。
そうして冒険は続き、一行は分かれ道にたどり着いた。ランスはいまだ落とし穴には落ちていない。
「うーむ、分かれ道か」
「分かれ道ねぇ」
「どっちに行きましょうか?」
「左だな」「右がいいんじゃない?」
「「む」」
「あはは……」
「がははは! ならば左で決定ではないか! 行くぞ!」
「え! ちょっと待って! なんで左で決定なの!? 私の意見は!?」
「なにわからんのかセナちゃん。スーパー冒険者である俺様が左が正解というならば、左が正解の道で間違いないのは確定だが、冒険オンチのセナちゃんが右と言うならば、それに輪をかけて正解だということは確実だ!」
かちーん! さすがの言いぐさにセナの怒りが有頂天!
かなみはちょっとだけランスの気持ちがわかるので顔をそらした。
「絶っっ対、右! 右が正解!」
「いーや左だ! 絶っっっっ対、左!」
「じゃあこうしましょう? 私は右に行くから三人は左に行く。どっちの道が正解か勝負よ!」
「ほーう、いいだろう! 俺様が勝ったらなんでも言うことを聞いてもらうぞ!」
「え、やだ」
「なにー!? 完全にそういう流れだったろう!!?」
「だって、ランスくん1000%エッチなことするし」
「そうね」
「そうですね」
「うぐぐぐぐぐ」
「プライドをかけた勝負ね。じゃ、スタート!」
セナは不意打ち気味に走り出した。とんでもないスピードで、残された三人が何を言う暇もなかった。
そうしていつもみたいにソロになったセナだが、その心はうきうきと弾んでいる。
シィルとはすっかり友達になれたし、かなみとも大分打ち解けたように思える。ランスはちょっとエッチだけど、感情表現がストレートで気分がよかった。あとちょっと顔もかっこいいし、ギザ歯がかわいいと思ったり。
セナは頭を振る。ダメダメ! シィルちゃんがいるのにランスくんに言い寄るなんて!
これまでの冒険の中でシィルがランスに対して特別な感情を持っているのは、なんとなく察した。ランス側についてはちょっとわからないが、ともかくここに割り込むのは野暮だろう。
息をついてペースを落とす。元気いっぱいに来てしまったが、これは冒険だ。慎重に、そして楽しもう。
それでもパーティメンバーのことを思い出してニコニコしてしまうことは止められなかった。こんなに楽しい冒険は初めてだった。
セナはずんずん洞窟を進んでいく。途中、モンスターに襲われたり、また落とし穴を作動──警戒してさえいれば、作動してから避けられるけど──させたりしたが、まるで問題にならない。
しかし、進んでいくうちに寂しさからかちょっとずつ不安になってきた。こっちの道はもしかしたら、ハズレなんじゃないだろうか。アタリの道に行った三人は私のこと待っててくれるだろうか。
そんな風に考えているセナの前に、巨大なモンスターが現れた。
みつめとかげ。大きな体と口から吐く毒霧が脅威な上に、回復能力まである恐ろしいモンスターだ。
だが、セナの目を捉えて離さないのはそんなモンスターなどではない。
みつめとかげのすぐ後ろ、下の階に続く階段がそこにはあった。
「ぎゃおおおお!」みつめとかげが雄叫びを上げた。
「おおおー!」セナが歓喜の声を上げた。
「ぎゃ!? ぎゃおおおお!!」みつめとかげがますます大きな雄たけびを上げた。
「おおおおー!!」セナが喜びのあまりまた声を上げた。
「ぎゃぎゃぎゃ!!?? ぎゃおおお──―」みつめとかげが雄たけびを。
「──うるさい!」
すぱーん! セナは一撃でみつめとかげの首を落とした。みつめとかげは死んだ。
「すごいすごいすごい! 私の勝ちー!! どーだランスくんめ! やっぱり正解は右の道なのであった!」
セナは一通り喜んだり、階段の下をのぞき込んだりした後、ようやく自分で殺したみつめとかげのことを思い出した。
そういえば、みつめとかげはおいしいと聞く。これはもう勝者の食事としていただくしかない。ふふふ、ランスくんが泣いて頼めば分けてあげないこともないけどね。
上機嫌でセナは解体を始めた。
ランスたちがセナに合流する頃には、もうとかげ焼きが出来上がるところだった。
「お!」セナがニコニコと笑顔を浮かべる。「これはこれはランスくん達、遅かったじゃないか!」
「ぐぬぬぬ」ランスが歯ぎしりする。
「やっぱり、正解の道は右だったようだねぇ。ランスくんは歴戦の冒険者らしいけど、まだまだだったみたいかな? これは門番のみつめとかげだけど、欲しいならあげよっか? はっはっは、大丈夫! いっぱいあるし、勝者は寛大なものさ」
悔しさMAXと吹き出しが出そうなほど悔しがるランスだったが、不意に何か思いついたようでにやりと笑った。
「おいおい、セナちゃん。もしかして俺様に勝ったなんて思ってるのか?」
「なに?」
「君は間違いを犯している!」
「な、なんだって! 私の何が間違っているんだ!?」
「その証拠はこれだー!! ……シィルあれをよこせ!」
「へ? あれって何ですか?」
「バカ! さっき拾ったあれだ!」
「あ、はい! これですね」
「これだー!!」ランスはさっき拾ったとかげよけを堂々と見せつけた。
とかげよけ。それはとかげならば何でも退散させられるマジックアイテムだ。
そして、ここの門番はみつめとかげ。
「そ、それはもしかして……!」
「ふっふっふ……さすがの冒険オンチでもわかったようだな」
「あ、ああ! じゃあさっきの分かれ道は!」
「そうだ!」
「一回ハズレのルートに行ってから、アタリのルートに行くやつ……!」
「そーじゃ! せっかくギミックが用意されてたのに、すっかり無視するなんてなんてやつだ!」
「あ、ああ、あああ……!」
セナはわなわなと震え、今しがた焼きあがったとかげ焼きをランスの方に差し出した。
「いらん! みつめとかげは刺身が一番うまい! がははは、そんなことも知らんのか?!」
がっくりとセナは膝から崩れ落ちる。
「負けたー!!!」
セナの叫びとランスの笑い声が洞窟に響き渡った。
ランスくんは冒険Lv2らしいです。多分Lv2の中でも高めっぽい。
セナは冒険Lv0です。レベルなしではないので絶対向いてないというほどではないですが、Lv0の中でもかなり底辺クラスにいます。