くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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如何にして彼らは共に旅を始めたのか

 自他共に認めるリーザスの英雄にして、最強の冒険者セナ・ベリウールは正座してた。ものすごく怒られたからである。非はこちら側100%のため、まったく反論は出来ない。もっとも、同じく怒られる立場のコーラはどこ吹く風だ。

 

 何とか意識を保っているアリオスに事情を説明しながら、回復魔法をかけ続けること数時間。セナでさえ驚くべき回復力でアリオスは復活した。

 そして、『言いたいことはわかるが口で言え!』という至極まっとうな怒りを二人にぶつけたわけである。

 

「どうして、ボコボコにしてわからせてやろうなんて考えになるんだ! 俺じゃなきゃ死んでたぞ!」

「はい……ごめんなさい。ちょっと、勇者ってどれくらい強いんだろうって思っちゃって……」

「言ってくれれば、手合わせぐらいする!」

「そうですよね……スミマセン……」

 

 平謝りするセナ。どうして自分はちょっとテンション上がると馬鹿なことをしてしまうんだろうと後悔した。

 一方でちょっと悪い内なるセナは、『ランスくんを見習って、もっと馬鹿になるべきじゃない?』と囁いてくる。

 

 内と外の葛藤と戦うセナと違い、むっつりとした顔をしていたコーラが口を開いた。

 

「いや、言ったってわからなかったでしょう? いままでさんざん言ってましたよね? 勇者の仕事を優先しろって」

「コ、コーラくん」焦ったようにセナが言うが、コーラは言葉を止めない。

「自分じゃなきゃ危なかったってのは、セナ・ベリウールにも言えることですよ? もし彼女が本当に敵だったらどうするつもりだったんですか?」

 

 アリオスはコーラの言葉に言い返せなかった。仮にセナが本当に敵だった場合、最後の手段である落下してくる街すら見破られたのだ。どう考えても、自分は負けていたことになる。

 

「あなたは勇者です。本来であれば、彼女よりもさらに強い魔王と対峙するのが使命なんですよ?」コーラはセナの方に向き直る。「さっきのあなたと魔人はどっちの方が強いですか?」

「……魔人ね。まず間違いなく」

「だ、そうです。アリオス。あなたはいま魔王はおろか魔人にすら一方的にやられてしまう有様なのですが、勇者としてどうお考えで?」

 

 いよいよアリオスは黙り込む。それを見て、セナはわたわたと焦った。最初からこの結論を言うことが目的だったとはいえ、こんなに強い口調で突きつけるとは思ってなかった。

 真実は時にひどくプライドを傷つける。セナにも経験があるので、いまのアリオスの気持ちが推し量れた。

 

「で、でも!」ちょっとひっくり返った声でセナが言う。「全然希望がないってわけじゃないわね」

「というと?」コーラが聞く。

「アリオスくんの戦い方は魔人に通用しそうなところがちょくちょくあったわ。実際に戦った私が言うんだから間違いない。剣の腕がしっかりしてるところはもちろんだけども、雷が落ちてきた時、即座に攻撃できてたところとか、落ちてくる岩……街? で私をつぶそうとしたところとか。ああいう、めちゃくちゃな事態に対応できるっていうのは対魔人だとかなり長所よ!」

 

 早口でセナが言う。しかし、大した慰めにはならず、アリオスはうつむいたままだ。

 それも仕方ないだろう。彼の頭は決して悪くない。勇者として自分の強さが全然足りていないことをよく理解しているはずだ。

 それでも困ってる誰かを助けないことなど、自分には出来ないとわかっているのだ。

 現実と理想のギャップというものはいつだって人間を苦しめる。

 

「じゃあ、こうしましょう」セナがアリオスに笑いかける。「今日からお互いちょっと我慢して、自分のやるべきことを一つやり遂げましょう。そうすればきっと一歩前に進めるはず」

「お互い?」

「そう。私とアリオスくんどっちも我慢するの。まずはあれ」

 

 セナが遠くに見えるガヤに落ちてきた街を指さした。

 

「私はあの街を冒険してみたいけど我慢する。アリオスくんはきっと困ってるであろうあの街の人たちを助けるのを我慢する。それで目的地までまっすぐ向かうの。どう?」

「どうって……ちょっと待ってくれ。話の流れがわからない……。君は何が言いたい?」

「鈍いわね。一緒にゼスへ行きましょうって誘ってるのよ」

 

 ボロボロの勇者は驚いた顔を浮かべた。セナが自分の力だけでゼスにたどり着きたいと言っていたことを覚えているからだ。あの表情に嘘はなかった。

 

「いいのか?」

「良くはないわ! だから我慢! それに貴方をこんな状態にした償いもしなきゃいけないでしょ!」

「……確かによくないことだとは思うが、君が自分を曲げてまで気にすることじゃない。俺はそう簡単には死なないんだ。こんな怪我、どうってことない」

「いいえ、自分を曲げてでもすることよ。それが責任というもの。だから、アリオスくん、貴方も自分を曲げてゼスに行かなきゃならない。わかってるでしょう?」

 

 アリオスには言葉の意味がよく理解できていた。

 エスクードソード。勇者だけに使える伝説の剣は、現在ゼスにある。そんな情報を手に入れたのが少し前で、自分とコーラはそこに向かう途中だった。

 しかし、様々な人助けをしているうちにずるずると時間は流れ、結局今に至るまでゼスへは行けずじまいである。

 ゼスに行かなきゃならない。まったくその通りだ。

 

 アリオスは深く深く考えた。勇者になってから経験したこともないほどに自己を省みて、どうするべきかを考えた。

 長い沈黙の中でセナとコーラはただじっとアリオスを見つめている。彼が自分で答えを出すのを待っている。

 

「……………………わかった。一緒にゼスに行こう。エスクードソードを見つけよう」

 

 答えを聞いて、コーラは驚いた。アリオスが人助けよりもエスクードソードを優先するとは思っていなかった。初めて勇者らしい行動をした。そう感じた。

 同時に言いようのない不快感がコーラの中に生まれる。『ようやくその気になりましたか。優柔不断ですね』そんな嫌味を言ってやろうと口を開いた瞬間、アリオスが言葉を続ける。

 

「俺たちはまっすぐゼスに向かう。まっすぐにだ。その道すがらにどんな障害があっても、蹴散らしていく。横道にそれることはない。そういう道のりで構わないか?」

 

 寄り道じゃない範囲で人助けはするぞ。そういう思いが強く乗った言葉だった。

 アリオスにとっては間違いなく妥協だ。それでも、業突張り(ごうつくばり)の妥協だった。

 

 セナは今までで一番アリオスが勇者らしいと思った。アリオスへ花開くように笑いかける。

 

「もちろん! そういう道のりで行きましょう!」

「じゃあ、よろしく頼む。セナ」

「まったくアリオスらしい馬鹿さ加減ですね」コーラが言った。先ほど感じていた不快感はどこかに霧散してしまっている。「まぁ、ようやくゼスに向かう気になったのならいいですけど。せいぜい急いで向かってください」

「そんな他人事みたいに言わないでコーラくん!」

「はい?」

「誰が道案内すると思ってるの? 私とアリオスくんがまっすぐゼスに行けるわけないじゃない! そこらへんは全部コーラくんにかかってるのよ!」

 

 コーラがひどくめんどくさそうな顔をしたので、アリオスは苦笑いする。それと同時にちょっとだけ驚いた。この従者が外見相応な感情を浮かべることは滅多になかったからだ。

 

 こういった次第で、最強の冒険者と勇者一行はしばしともに旅をすることとなったわけである。




勇者と従者コンビが好きです。
原作だとアリオスくんは結構醜態をさらし続けてましたが、メインでフォーカスされたならば、絶対好感持てるタイプだったと思います。
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