「がはははは、うまいうまい」ランスが上機嫌に刺身を食べる。
「ううう……おいしい」セナもめそめそしながら刺身を食べる。
「余った分はタッパーに入れておきますね」
「タッパー! そういうのもあるのか」セナはまたも冒険の知恵に驚かされた。
ランスに負け、シィルのお料理の腕とかに打ちのめされたセナはすっかりグズグズモードだった。
そんなセナを見てかなみは本当にこの人最強の冒険者なのかしら、と思った。みつめとかげを一太刀で葬っているので、強いのは間違いないはずだが、なんだが信じられなかった。
さっきの勝負がランスの勝ちというのも、なんとなく納得できなかった──ここら辺は冒険好きの人たちとは違う感覚だった──こともあり、かなみからのセナへの評価はまずまず程度だ。
「よーし、そろそろ出発するぞ。そういえば、さっさと依頼をこなさねばならんのだった」
「あ、そっか。ノアちゃんたちと競ってるんだもんね」
「まったく、冒険オンチに巻き込まれたせいでちょっぴり遅くなってしまった」
「ううう、全く言い返せない」
「ま、いまからでも俺様の方が早いだろう。シィル! さっさとしろ!」
「はーい」
一行は階段を降り、冒険を再開した。
さきほどの話があったせいで、セナはラーク&ノアになんて言い訳をすればいいかと悩み始めた。
冒険したかったからランスの口車に乗ったが、よくよく考えなくても二人を裏切っている気がする。
どうしよう、困った。こういう言い訳、苦手なんだよね。
その時、ピーンといい考えが浮かぶ。ランスに代わりに言い訳してもらえばいいのだ。ランスは自分よりも口がうまいのでいい感じのことを言ってくれるだろう。
「うんうん、いい考えいい考え」
「セナさんてちょっと独り言が多いわよね」
「うーむ、ソロだと言っておったから癖になっとるのかもな」
「考えてることほとんど口に出てましたね……」
「そんなにさみしいなら俺様が──」
「──止まってみんな」
セナが静かな、しかし、鋭い雰囲気で言うので、思わず一行は立ち止った。
「この先に誰かいる。しかも、多分かなり強いのが」
「なにー? しかし、セナちゃんの言うことだし──」
「──ううん、ランス。確かに居るみたい。少しだけ音が聞こえる」耳を澄ませたかなみが言った。
「うーむ、さっき言ってたなんとかって二人組ではないのか?」
「違う。ノアちゃんたちじゃない……ここからはちょっとだけ静かに行こうか」
「あ、ああわかった」
一行は打って変わって静かに歩を進め始める。少ししてくるとランスとシィルにも少しずつ物音が聞こえてくる。かなみにはもっと鮮明に聞こえているようで、少しずつ顔がこわばっていった。
セナはかなみのような鍛えられた聴覚を持っているわけではない。しかし、より鋭敏に気配を察知する第六感じみた能力で、いったいなにが起きているのかを把握し始めていた。
セナは急に立ち止った。他の三人が訝し気に彼女を見るが、気にせず一度深呼吸する。
「ちょっと急ぐね。シィルちゃん、怪我人がいるからお願いします。ランスくんも気を付けてね」
ランスが何か言おうとするが、セナが先ほどよりもさらに素早くその場を去ったので、目をぱちくりさせる。
セナは魔法で身体能力をブーストして走る。その速度はまるで閃光のようだ。
魔法使いではあるが剣こそが本領のセナにとって、こういった付与の魔法は最も得意で信頼できるものだった。
信じられない距離を信じられない速度で駆け抜け、セナは目的地にたどり着く。
嫌な光景だ。ラークはボロボロで倒れ伏し、ノアは辱められている。ひねた匂いが鼻につき、音がべったりとくっつく。
さらに嫌なことに、下手人と思われる赤髪の少女と二体のガーディアンはセナの動きに反応している。つまり、いままでセナが出会ったことのないような強敵だ。
「雷の矢」
セナは左手で魔法を放ちながら、同時に右手の剣をふるった。狙いは少女と……ノアを辱めている細身のガーディアンの急所だ。
魔法剣士としての自信を裏付ける同時攻撃だったが、雷の矢は少女の近くにいたもう一体のガーディアンによって防がれ、振るった剣は急所が想像をはるかに超える速度で細身のガーディアンの中に収納されてしまったので空ぶった。
しかし、細身のガーディアンが戦闘態勢のためにノアを離したので、結果的には彼女を開放するのに成功した。
どっちもいなされるなんてショック。そんな風にのんきに思いながらも、セナはノアを回収して、ラークの傍に転がす。
うめき声が上がるが仕方ない。死ぬよりはマシだ。
「なんだ? お前は?」赤髪の少女が言った。
「……セ、セナ……! どうして……!」ラークが驚いた顔をする。
「ごめんね、やっぱり冒険したくなっちゃって。でもおかげで最悪の事態には間に合った」
「おい、聞こえないのか? 人間風情が私を無視するのか?」
「せっかちだねー。もっと穏やかにいこうよ」
「ふん、まあいい。そこの『ランス様』と知り合いみたいだし、お前にもランス様の口を滑らせる手助けをさせてやろう」
「ランス? この人はラークだけど……」
「はぁ、お前もその言い訳を──」
先ほどの一閃すら比較にならない、圧倒的な速度の刃が赤髪の少女を襲った。すぐ近くに控える巨大なガーディアンと少女本人は反応さえできず、かろうじて細身のガーディアンが動き出していたが、遠すぎた。
久々に放つ、渾身の一撃。
しかし、最強の冒険者が放ったその刃は、正体不明力によって少女から逸れた。
すぐにセナは身を翻す。少し遅れて、細身のガーディアンが少女をかばった。
「──っ! なんだ、お前は!」
先ほどまで余裕綽々としていた少女は、一気に警戒心を強めて叫んだ。
セナもまた焦る。絶対に殺すつもりで放った一撃で仕損じたのは、人生で初めての経験だった。
焦りを悟られないように、なんでもないような顔をセナは浮かべた。
「知らないようだから教えてあげるね。私はセナ・ベリウール。最強の冒険者って呼ばれてるよ」
「ほう、なるほどな……満更嘘でもなさそうだ。イシスよりも早く動ける人間がいるなんて……そっちのランス様なんかよりもよっぽど強そうだ」
「……あら、ほんとにラークくんをランス様だと思い込んでるんだ。本物はもうちょっとかっこいいんだけどね」
「──お前、知ってるのか?」
セナは出来るだけ目の前の少女の意識を自分に向けるためにブラフを混ぜながら話を続ける。
「少し前にお話しさせてもらう機会があってね。確かもっと北の方でだったかなぁ。そうね、私の剣を防いだよくわかんないの解除してくれたら、教えてあげる」
「ふん。サテラは魔人。人間ごときと交渉するつもりはない」
「じゃあ残念だけど戦わなきゃね。ライトニングレーザー!」
セナの指先から一本の黄色い閃光が放たれる。通常では考えられないような詠唱速度ではあったものの、十分に警戒していたイシスならば反応できる程度のものだった。
当然、イシスは主にこの魔法が効かないことを知っているが、それでもガーディアンの性として自身が魔法の盾となる。
ジッという音を立てて、イシスの体に小さな穴が開いた。貫通することはなかったが、この事実はサテラに大きな衝撃を与える。
サテラのガーディアンにたった一発の魔法で傷をつけるやつがいるなんて!
一方でセナは至って冷静だ。極限まで貫通力を高めたライトニングレーザーが、敵を貫けなかったのも初めての経験だったが、相手が魔人であるならば驚くことではない。
魔人は人類の天敵である。魔界に住む魔王の眷属だ。故郷のゼスは魔界と領土を接しているがために、何度も彼らの脅威にさらされてきた。
彼らの恐ろしさ、強さは生前の父が口酸っぱく教えてくれた。特に彼らの持つ無敵結界は人間にはどうすることもできない理不尽だと、よく嘆いていた。
ありとあらゆる攻撃を無効化する結界が魔人の体には常に張られている。いったいどうやって人類がそんな魔人に勝てばいいのだと。
皮肉なことね。ゼスを捨てた私が、ゼス軍人のように魔人と戦うなんて。まぁ、
初めて触ったランスシリーズが03だったので、ここら辺のノアがやられるシーンは非常に印象に残っています。
10での掘り下げもあるので結構重要な場面なのかもしれません。
しかし、このシーンがリスの洞窟という超序盤で起きたものだということは、執筆のために03のセーブデータを見ている時に思い出しました。
印象に残っているとはなんだったのか……。