くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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マジノライン

 マジノライン。

 それはゼス王国が誇る人類最高の要塞線であり、魔界との国境線を守っている。

 その性能はすさまじく、二年前に起きたカミーラダーク──魔人カミーラによる大侵略──を防ぎ切った実績を持っている。

 維持のために国費の四割を使用する金食い虫であることに目をつぶれば、これほどまでに人類の生存に寄与する施設はほかにないだろう。

 

 そんな偉大なるマジノラインへ、グリーン隊は潜入しようとしていた。ほかの任務で下手を打ち、マジノラインへと収容されてしまったブルー隊を救出するためである。

 

「ブルー隊はどこらへんかな? カオルちゃん」お銀が言った。

「おそらくはマジノラインの……ふもとにある砦にいるかと」

「でかい山をくり抜いた要塞に加えて砦か、中々厳重だな」ランスが話に入る。

「ゼス王国の……ひいては人類全体の安全に関わる施設ですからね。当然、厳重でしょう」

「そんな施設に私たちは入れるのかなぁ」

「心配するなお銀。俺様がいるのだからなんとかなる」

「頼りになるのかな?」

「ならないわよ」にべもなく志津香が言った。

 

 グリーン隊はまずはマジノラインへ正面から入れるかを試してみた。荒っぽくないメンバー(ランスがいるけど)と魔法使いのメンバーで『見学でーす』みたいな顔をして正面玄関へ赴いたのだ。

 

 無理である。ここはゼス防衛の要所。当然、軍関係者以外は立ち入り禁止であった。

 

「うーん。全員ぶっ殺していくか? このメンツならいけるだろ」ランスがめんどくさそうに言った。

「いやいやダメでしょ。あっちはただお仕事してる軍人さんだからね。いきなりどーんで皆殺しは」お銀が焦りながら言う。

「ほんと女がらみじゃないとめんどくさがりね」志津香は呆れたように言った。

「そりゃそーだろ」

 

 ブルー隊には特にかわいい女の子が所属しているわけではないため、ランスはずっとめんどくさげだ。

 だが、めんどくさがってるが故に忍び込める場所を探すという対案にもあっさりと承諾した。

 

 ぐるぐると見張りの軍人に見つからないように忍び込める場所を探す。

 しかし、そんなもの見つかるはずもなく、グリーン隊の面々はいつランスの堪忍袋の緒が切れるか注意深く見張っていた。

 

 侵入を防ぐ金網を前に引き返したとき、いよいよランスが癇癪を起すかと思った。

 

 だがそうなるよりも早く、状況の変化は起きる。

 ランスがいきなり現れた穴に真っ逆さまに落っこちたのだ。

 

「ランス様!」思わずシィルが大きな声を出し、ランスを追いかける。

「シィルちゃん!」それに続いてマリアも続いて穴に落ちた。

「おお、豪快に落ちたね。これじゃ私のことを馬鹿にできないよ……馬鹿にされたことなんてあったっけ?」

 

 そんなことを言いながら、お銀は三人の後に続く。

 そのあとも続々とグリーン隊が穴の中に入ってくるので、結局は全員地下で集合してしまった。

 

 地下は予想に反して広く、まるで何かの遺跡のように見えた。

 

「なんだかすごそうなとこに落ちてきたねぇ」お銀がのんきに言った。「あ、ランス隊長大丈夫ですか?」

「おう」

「どうしたんですか? なんか考えてそうな顔して」

「うーむ」ランスはシィルに向き直る。「なんかここどっかに似てないか?」

「うーん、ああ、これって……」

「あー、イラーピュね」シィルの言葉をマリアが引き継いだ。

「おお、そうだイラーピュだ」

 

 三人がイラーピュについての話で盛り上がる中、お銀は頭に? を浮かべていた。話が闘神都市に移り始めた頃、ついにお銀は質問した。

 

「闘神都市ってなに?」

「ああ」珍しくランスがその疑問に答えた。「空に飛んでるイラーピュって大陸あったろ?」

「うん(知ったか)」

「前にあそこで色々あってな。悪のロボットを倒したり、とにかく俺様大活躍だったというわけだ」

「なるほど!」

「そんな説明じゃわかんないでしょ……」志津香が呆れたように言った。

「過去の魔人との戦いのために、古代の超文明がいくつも浮かべた対魔人用の都市のことを闘神都市って呼ぶの」マリアが補足説明する。

「へー。スーパー都市ってことね」

「わかってんだか、わかってないんだか……」またも志津香は呆れた。

「ランス隊長、調べてみませんか?」

 

 珍しくカオルがそんなことを言った。お銀はすぐに何か意図があるものと察し、話に乗っていく。

 

「調べたい調べたい! 私もスーパー都市を見てみたいわ!」

「わかった。わかった。お宝もあるかもしれんからな」

 

 グリーン隊は一度本来の目的を忘れて、遺跡の探索を行った。

 ランスが話すような闘将という強いロボットは出てこなかったものの、しばらく探索を続けると巨大な機械が中央に鎮座する部屋にやってきた。

 

「なんだ、こりゃ?」ランスが機械を見て言った。

「なんだかわかんないけど、でかいね。なーんか見たことあるけど……うーんわかんないな」お銀が言った。

「……あ、なにか文字が書いてあるわね」マリアが複雑な古代文字を解読しながら言う。「えーと、ま、な……マナバッテリー……ああ、マナバッテリーね」

「なに? マナバッテリーって」

 

 マリアはお銀の質問に丁寧に答える。つまるところ、マナバッテリーというのは、闘神都市の動力として使われていた機械らしい。

 

「もしかするとマジノラインの動力もこのマナバッテリーで賄ってるのかもね」マリアが説明の締めにそう言った。

「ふーん。じゃあ、壊しとくか」ランスが言う。

「ええ!? な、なんで?」お銀があからさまに驚いた。

「だって、これを壊せばゼスが困るんだろ? なら壊していいだろ」

「まってまってランス隊長! 私たちの目的はゼスを困らせることじゃなくて、ゼスをよくすることでしょ!」

「そ、そうよランス! こんなすごい機械を壊すなんてもったいないわ!」

「ええい。やかましいな! 壊すと言ったら壊ーす!」

 

 ランスが剣を振りかぶった時だった。

 

「いけません!!」

 

 聞いたことのない声量でカオルが言ったので、さすがのランスも驚き止まった。

 

「な、なんだカオル……?」

「……いえ、マジノラインの動力になっているということは、そのマナバッテリーは人類を守る要となるものです。いたずらに壊すのは間違いかと……」

「むーこんなのがな」

 

 カオルの剣幕に押されたランスは、渋々剣を下げる。その様子を見て、カオルは内心ほっとした。

 マリアの言った通り、マナバッテリーはマジノラインの動力として使われている。このマナバッテリーはいまマジノラインに繋がっているわけではないが、それでも闇雲に失わせることなどできない。

 

 マナバッテリーから離れ、一行は遺跡を探索した。だが遺跡の中にはマナバッテリー以外大したものはなく、むしろ遺跡が老朽化しているということがランス達の助けとなった。

 

 探索の途中でマリアが崩れかけた床を踏み抜いた拍子のことだった。老朽化した天井が落ちてきたのだ。

 そして偶然、その落ちた天井の真上、つまり地上部分では、マジノライン内部への侵入を防ぐ金網が設置されていた。

 老朽化から来る偶然の事故によって、グリーン隊はマジノラインへと侵入する手段を得たのだ。

 まぁ、侵入といっても、そう内部に行けるわけでなく、砦の近くに設置されている小屋を確認できる程度なのだが。

 

「いやぁくさい! ブルー隊の奴らはあの小屋にいる!」地上に出てそのことを確認したランスが意気揚々と言った。

「ええ……ただの小屋ですよ。あんなところに入れますか普通」お銀は疑わし気に言った。

「わかっとらんなお銀。ああいう場所にこそ捕虜を隠しておくものだ」

「では、私が確認してきましょう」

 

 カオルがそう言って走り出す。そしてしばらくするといい報告を持って帰ってきた。

 その小屋にはランスの予想通り──あるいは豪運によるものか──ブルー隊の面々が収監されているらしかった。

 

「がははは! やはりここに捕まっておったか!」

「ええ……ほんとにこの小屋にぃ?」お銀は驚いて言う。「うっそぉ」

「センスないなぁお銀。よし、見張りも少ない! 突撃!」

 

 グリーン隊はランスの号令の下、ブルー隊が囚われている小屋に突撃した。

 

 斬って、殴って、魔法を撃つ。

 

 わずかな人数の見張りなどグリーン隊の前では敵ではなかった。

 

 うめき声をあげる見張り達を放っておいて、グリーン隊は小屋の奥へと進んでいく。

 

「ねぇねぇ、シィルちゃん師匠シィルちゃん師匠。今日は私随分スムーズにヒーリング出来てたと思わない?」

「はい! すっごく上手でしたよ! 師匠が褒めちゃいます。よしよし」シィルは子どもにするようにお銀の頭を撫でた。

「むふふ」得意げにお銀が笑う。

 

 だが内心ではもうちょっと素早く呪文を唱えられないと、全力の剣技と合わせるのは無理だと反省した。帰ったら明日またヒーリングの練習をしようと思った。

 

 そんな風にお銀は明日に思いをはせていた。しかし、その男を見た途端、思い描いていた明日は消え去り、忌々しい過去が脳内から這い上がってきた。

 おそらくそれ以外も。

 

 シィルは本当にふと思った。

 そういえば、お銀さんとアベルトさんが一緒にいるところを見たことがなかったな、と。

 

「……もう大丈夫ね。先にアジトへ帰ってるわ」

「え?」

 

 妙に平坦にお銀がそう言ったので、シィルは反応できなかった。カオルは先導していたので、お銀が立ち去るのを止められなかった。

 

 轟音が鳴り響いたのはお銀が消えてからたった数十秒後のことだった。

 

 ランス達は慌てて小屋から出た。

 マジノラインから火の手が上がっている。甲高い警報が鳴り今にも警備兵たちが殺到しそうだった。

 

 いや、違う。カオルは気が付いた。

 燃えているのはマジノラインではない。()()()()()()()()()()

 

「マナバッテリーが……」

「あ、あれはお銀さんだすか!?」

 

 ロッキーが指さす方向を皆が見た。

 確かにそこにはお銀がゆらりと立っていた。しかし、そのお銀がグリーン隊の方へ向き直った時、カオルはその人間が本当にお銀なのか──あるいはセナなのかさえ──わからなくなった。

 

 笑顔のせいだ。彼女から一度も見たことがない邪な笑顔。

 思わずカオルがお銀から視線を外した瞬間だった。

 

 鋭い痛みがカオルの肩に走った。雷撃系の魔法によるものだ。痛みで思考は一気に明瞭になる。

 ライトニングレーザーだ。それも通常のものとは違い、細く鋭く貫通力を重視した魔法。

 

 お銀の真実を知る者たちは全員同じ人間を思い浮かべた。

 しかし、その人物は、セナ・ベリウールはいつの間にかマジノラインのどこにもいなくなってしまった。その常軌を逸した素早さは彼女が本当に戻ってきたことを示しているようだった。

 

 こうしてグリーン隊から、アイスフレームから、お銀という女は消えていなくなった。

 そして、二度と戻らなかった。




闘病編は終わりだ。
これよりゼスを破壊する。
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