くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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ノミコン

 かつての気力を取り戻したウルザがまずしたことは、カオルを通したゼス王室との徹底的な情報共有だった。

 少ない判断材料から正答を見出すタイプの指揮官であるウルザと、多くの情報を持って大局的に状況を動かすことの出来る千鶴子。二人の知恵が合わさったことにより、作戦はより確実性の高いものへと洗練されていった。

 

 次にセナの対多数性能を理解したウルザは、グリーン隊への完全な情報開示を行った。人類最強と言える存在──中身が妙な魔導書に乗っ取られているとはいえ──と戦うことになるであろう者たちへの義理であり、そして信頼であった。

 ウルザの予想通り、グリーン隊の面々は、ノミコンに操られたセナと戦うことに同意してくれた。彼女の強さと現在の性質への理解、そしてセナ自身に虐殺などさせてはいけないという義憤から来る行動だった。

 

 しかし、肝心要のグリーン隊隊長であるランスの言葉で、その心境はひっくり返った。

 

「いやだ。どーして俺様が未来の俺様の女であるセナちゃんを殺さねばならん」

「あんたねぇ! そうしないとゼスが大変なことになるって話聞いてなかったの!?」志津香が怒鳴った。

「知るか。国なんかより俺様の女の方が重要だ。そもそも、そのノミノコ? とかいう変な奴をセナちゃんから引っぺがせばいいのだろう? それなら手伝ってやってもいいぞ!」

「それは……」

 

 ウルザは考えた。魔導書という依り代が無くなったせいで、ノミコンの寄生を解除する手段はないように思われる。

 だが四天王パパイア・サーバーは現在もあきらめておらず、その方法を探っていることも知っていた。

 

「確かにその通りです。可能性は低いですが、その手段を探っている者もいます」

「おお、わかっとるやつもいるではないか!」

「ですが!」がははと笑うランスを止めるようにウルザが言った。「再三言いますが、そう出来る可能性は低いです。それに彼女は我々が殺す気でやっても、倒せるかわからない相手です。生かすつもりで戦うというのは、あまりに危険でしょう」

「……まったく、ちょっと元気になってもまだまだ臆病だな、ウルザちゃん」にやりとランスが笑う。「俺様がいて、俺様の女が助けを求めとるのだ! 失敗するわけがなかろう! がはははははは!!」

「いつからセナちゃんがランスの女になったのよ……」マリアは呆れてそう言った。

 

 だがマリアは同時にそう言われて、満更でもなさそうに照れるセナの顔を思い浮かべた。

 昔見たようなセナの笑顔を思い出すのは久しぶりだった。

 ランスならなんとかできるかも。そう思った。

 

「さぁ、準備しろ! 迷子のセナちゃんを迎えに行くぞ!」

 

 ランスは実に楽しそうにそう言った。

 

 

 〇

 

 

 ゼス王国首都ラグナロックアークからほど近い場所に建設されている跳躍の塔。四天王パパイアが守護を任されているものの、二週間前にノミコンの襲撃によってその機能を失ってしまった場所。

 そんな場所に本来集まるはずのない人々が集まっていた。

 

 ゼス国王ガンジーを主とした王室ガンジー派と革命組織アイスフレームの実行部隊であるグリーン隊という、完全に対立するはずのメンバーたちだ。

 数は多くない。かつてセナ・ベリウールあるいはお銀と特に仲がよかった者たちだけで構成された突貫部隊である。

 隊長はランスが務める。本人の希望もあったが、それ以上にブレインとして活躍できるウルザと千鶴子の両名がセナに斬り殺されないラインの交流を持っていないと判断されたために、実行部隊へ参加できなかったからだ。

 

 対立する勢力同士で部隊を編成しているにしては、彼らの雰囲気には剣呑としたところがなかった。

 これはひとえにランスの性格によるものだった。彼のかわいこちゃんならだれでもウェルカムという精神は、王国側の多くのメンバーを受け入れた。またその範囲に入らない王国トップのガンジーはランスの豪傑さをとても気に入ったので問題なかった。

 

 そんな対ノミコン部隊だったが、跳躍の塔から高らかにサイレンが鳴り響くと、皆に緊張が走る。

 あと10分程度でノミコンが迷宮を脱出する見込みとなったのだ。

 

 対ノミコン部隊は位置についた。全員が固唾をのみ、ノミコンが出てくる予定の地点を見つめた。

 特に熱い視線を向けていたのはパパイアだ。アイスフレームが完全な協力体制になったことで、取れる作戦の幅が大きく広がった。

 その中にはもしかしたら、ノミコンだけを消滅させられる可能性を秘めたものもある。どうか、どうかうまくいってほしい。

 

 奇妙な光が何もない空間から発せられ、ノミコンが出現した。

 

 まさかアニスの魔法調整がうまくいくなんて! パパイアは内心で叫ぶ。

 

 セナの肉体は空中に放り出される形で、アニス不思議迷宮を脱出した。

 多くのメンバーからセナの戦闘についての情報を聞いたウルザが初手として選択したのは、セナのスピードを封じた上での飽和攻撃だった。

 

「超・火の矢!!」

 

 ガンジーの詠唱を筆頭に数々の魔法と遠距離攻撃がセナへと殺到する。

 けたたましい音と衝撃を発しながら、セナが着地する。その体にはわずかばかりの傷がついているものの、とても戦闘不能に出来るほどではない。

 

「バリアーっと……残念だったね。問題はお互いの攻撃を消しあわないために単体魔法を使ったことかな? ケケケ」

 

 セナの声でセナではない口調で、ノミコンは笑った。

 殺到する魔法を一つ一つ小さなバリアーで防ぎ、矢などの攻撃は切り捨てることで、先制攻撃をしのぎ切った。剣による絶技はもちろん、魔法の高速化と分割使用を得意とするセナだからこその防御方法だった。

 

 ノミコンはすでに十全に彼女の体を乗りこなしている。そう判断するには十分すぎる光景だった。

 

 ここまでは想像通り。パパイアは唾を飲み込む。重要なのはノミコンが起こす次の行動だ。

 数少ない戦士たちの目にはノミコンの行動がわずかに捕えられた。

 

 神速。

 目にもとまらぬ踏み込みでノミコンはパパイアを間合いに収める。そのまま剣をなぎ、彼女の命を終わらせようとした。

 だが、それは息をひそめていたカオルによって妨害される。パパイアとノミコンの間に入り込むように動いたカオルは、柔術の動きでそのままノミコンを投げ飛ばそうとその手をつかんだ。

 

 確かにつかんだその手が、技をかける前に無理矢理引きはがされる。

 柔術とは本来、そう言った力任せを抑え込む技術だ。それがいとも簡単に外された。人差し指がひしゃげている。大木や巨岩を投げられないようにカオルではセナの体を投げることが出来ないのだ。

 

 次の反応をする前に、ノミコンはもう一度加速し、パパイアの残っている右肩を斬りつけた。盛大に血が噴き出す。しかし、まだ腕は繋がっていた。

 

 パパイアは膝をつく。誰かが彼女を心配して駆け寄るなどということはない。この場に居る誰もが、こうなることをあらかじめ聞かされていたのだ。

 ノミコンは忌々しそうにパパイアをにらみつけた。

 

「殺すつもりで斬った。でも、この前よりも斬れてない。また何かしたね、姐さん」

「……普通の頭があったら、敵が用意した食べ物なんて食べないのよ」パパイアは脂汗をかきながら言い返す。

 

 自己補強薬。己の精神を安定させる目的で作成したその薬が、アニス不思議迷宮の宝箱に収められた食料には入っていた。

 薬効によって期待されていたのは、セナが自らの肉体の主導権を取り戻すことだった。それはかなわなかったが、彼女の肉体が持っていた殺さずのタガをもう一度強めることが出来る可能性は残っていた。

 腕を失い、大きく戦闘力を減らしたパパイアがそれでも戦場へやってきたのは、戦いの試金石となるためだ。ノミコンは自分の姿を見れば、必ず最優先で攻撃する。その時のダメージでどれだけ奴が肉体の支配権を持っているのかを図ること出来ると踏んだのだ。

 

 この行動で得られた結果は限りなく大きい。

 ノミコンは戦闘性能こそ大きく向上させたが、むしろ殺傷能力は減じている。

 さらにパパイアを攻撃することを読んで配置していた伏兵、カオルへの対応を見るに、セナが持っていた不意打ち回避能力も獲得していないことが分かった。

 本来の彼女であれば、実力が離れたカオルに触れられるなどということはなかっただろう。

 

「一体、ボクに何を食べさせた!」ノミコンが怒鳴る。

「さぁね、でも私が居れば死にはしないわ」

 

 まるで毒性のある薬を入れたかのようにパパイアは笑った。もちろん、そんな薬は入れていない。だが、解毒薬は自分が持っている、そう思わせることによって、ノミコンの逃亡を防止するウルザの策だった。

 

「姐さんは簡単には殺さないよ! ここにいるやつらを全員斬ってから、ゆっくり殺してあげる!」

 

 作戦通り、ノミコンは剣を構えなおした。再びほとんどのメンバーが反応できない速度で剣を振る。

 ガキンと音がして振られた剣は止められた。ノミコンは驚き、思わず追撃を忘れて、剣を止めた相手を見る。

 それは記憶の中に何度も出てきた、不思議なパワーを秘めた戦士、ランスだった。

 しかし、記憶の中では見たこともないような、真面目で不機嫌そうな顔をしている。

 

「まったく、なんとむかつく奴だ。セナちゃんの体を乗っ取るだけでは飽き足らず、俺様の前で美女を殺すなどと。もー許さん! さっさとお前を引っぺがして、セナちゃんはお仕置きセックスだ!!」

 

 記憶とは一致するが、理解不能な言動でランスは斬りつけてきた。めちゃくちゃだが重い一撃だ。ずっと軽い片手剣でいとも簡単にいなせるのは、ひとえにセナの実力が凄まじいが故だった。

 

 そこから本格的な戦いが始まる。その様相はまさに奇怪そのものだった。

 まず立っているだけで消耗してしまうような激しい戦いにも関わらず、誰も大きな怪我を負っていない。これはもちろん、自己補強薬によってセナのタガが引き戻されたからだった。だがそれだけではない。部隊全員がセナの弱点、あるいはノミコンの想定外の動きをしているためだった。

 

 どれだけ対策を練ってきているんだよ! ノミコンは心の中で悪態をついた。

 圧倒的な性能によって負ける気は全くしないがそれでも面倒この上ない相手だ。

 魔法使いの主力である魔想志津香。チューリップ一号を用いて攻撃をサポートするマリア・カスタード。傷ついた者たちを即座に治療するプリマ・ホノノマン。

 これら三人への対処は特に遅れてしまっている。

 それ以上に問題なのは、ランスとシィルの二人だった。

 

 あらゆる面で中心であるランスとそのサポートをするシィル。本来であれば、真っ先に潰すべき二人を倒せないどころか、わずかに脅威と感じるほどに自由な動きをさせてしまっている。

 

 どうしてこんなことになっているのかは明白だ。やつらはセナ・ベリウールと特に仲のいい人間である。

 抵抗されているのだ。肉体だけではなく、精神的なもの──記憶なんかの影響で、極北の剣技を打ち出せないようにされているのだ。

 

 なんて忌々しい連中なんだ。ノミコンは歯噛みする。

 同じく苦々しい気持ちになっている者が他にもいた。

 

 部隊の治療を担っているプリマである。

 傷ついた仲間たち──なんとそこにはゼスの王まで含まれている! ──を必死に治療している彼女がその事実に一番に気が付くのは当然の帰結だった。

 

 少しずつ、つけられる傷が深くなってきてる。

 それはつまり、セナの抵抗が弱くなってきているということだ。

 このまま続けば、誰か死人が出始めるだろう。そして誰かひとりでも殺せるようになれば、そこからは絶対に止められなくなる。

 

「ええい! セナちゃんの体でつまらん戦いしおって!! さっさと引っぺがされんか!!」うんざりした感じでランスが言う。

「ケケ! そんなこと出来るわけないでしょうがよ!! お前の方がさっさと殺されてくれないかな!!」ノミコンもまた辟易として言った。

 

 ノミコンは剣を思い切り引く。それはセナの剣にはあまり見られないタメの動作だった。

 戦士たちの目にはなぜかそれが今までよりも、ずっとゆっくりとしたものに見えた。

 

 ほとんど直感的にカオルがランスをかばう。

 放たれた剣は命を奪わないまでも、明らかに今までよりも深く鋭く、カオルの体を袈裟斬りにした。

 

 変わった。その予感に身を任せられたのは、ランスとノミコン──あるいはセナの肉体──だけだ。

 ここで全力を出さなければ自分はやられる。その感覚に従って、ランスは必殺技を繰り出した。

 

「ランスアタック!!」

 

 ノミコンには凄まじい威力を持つその攻撃に対し、後から対処する余裕があった。

 記憶にある、しかし、まだ自分では試していない必殺技。それを放つ絶好の機会だった。

 

「ビリー・ギリ──―!!???」

 

 ランスの必殺技を問題なく相殺しきったと思ったその瞬間、ノミコンの脇腹に全く予想外の鋭い痛みが走った。

 戦場にいるすべての人間に注意を払っていたはずだ。あるいはアイスフレームのメンツ、王国側のメンツ。ここに動員される可能性のあるすべてからの不意打ちに気を付けていた。いったい誰が。

 

 ノミコンは下手人を見た。

 なぜリーザス人のお前がいる。どうして王国に仕えるお前がいる。一体、何をボクの体に刺した。

 

 セナ、お銀、あるいはノミコンがアイスフレームを離れてから少しして、ランスは女の子刑務所に入れられていた一人の忍を仲間に引き入れた。ゆえに彼女がここにいることなどノミコンが知るはずもない。

 見当かなみは──あの思い出のリスの洞窟で冒険をしたパーティ最後の一人は──たった一度のチャンスのために、戦いに加わらず、待ち続けた。

 待って待って待って。そして、必殺技の打ち合いという最も横やりが入れやすいタイミングに飛び出し、巻き込まれる危険性を顧みずに託された注射器を突き刺したのだ。

 

 それは間違いなくこの戦いで、最も讃えられるべき一撃だった。

 ノミコンの意識が暗転する。




プレイしていた当時はかなみが女の子刑務所にいて、仲間になるのがすごくうれしかったです。
しかし、今思い返すと立場的にやらかし過ぎますね。
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