くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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LOVE AND LOSE

 デジャブだ。ノミコンはかつてセナに斬り捨てられた時と同じく、何もない空間に存在していた。

 そして前回と同じように女に声をかけられる。

 

「あら、あんたようやくこっちに来たの?」

 

 この前の超常的な存在の声ではない。どこか聞き覚えのある声。しかし、思い出すことが出来ない。

 

「誰だいあんたは? どこだよ、ここは?」

「へー、あんたも私がわからないんだ」

「質問に答えてくれるかな? ボクはいますっごく気分が悪いんだ」

「──―よ。どーせ伝わんないんでしょ? あの子もそうだった」

 

 理解できない言葉を女の声が話すのでますますノミコンはむかついた。

 

「殺されたくないなら、さっさと全部の質問に答えてくれるかな?」

「アハハハ! 殺すって笑えるわ。そうねぇ、あえて言うならここは、死の世界よ」

「は?」

「寄生されてからずーとあんたを殺す方法を考えてたわ。でも、あんたは魂のような存在。神魔法を使えないあたしではそう簡単に研究はできなかった。とにかく、サンプルが足りなかった。あんたを殺す薬を作るには、どうしてもあんたの魂を使わなきゃ作れる余地がなかった……」

「ブツブツ言ってるんじゃない! 嘘を言うな! ボクがまた死んだなどと!」

 

 その時、ノミコンは唐突に女の正体に思い至った。

 

「ま、まさか姐さん……!? あんたが喋ってるのか?」

「大正解。あんたが死んだ時、あたしたちは繋がっていた。一つだった。だから、あの存在に蘇らされた時、あたしも一緒に交じったあんたと蘇ったのよ」

 

 ノミコンはいつの間にか己の体がかつてのように本の形をとっていることに気が付いた。

 そして目の前には自身が寄生していたパパイアが立っている。

 良く知った研究室の中にいる。これではまるで走馬灯のようだ。

 

「きっと何かの間違いでまた寄生された時用に作ってたのかしらね。そして、セナちゃんの状態からその薬が効果的と推測した……いえ、これはほとんど賭けね。でも、しっかり効果があった。さすがあたし」

「な、なにを言ってるんだよ姐さん? さっきボクのことを殺す薬は作れないって言ってたよね? ボクが死ぬなんて冗談だよね?」

「あら? 説明しなきゃならない? あんたも結構私の研究見てたと思ったけど。まあいいわ。魂を殺す薬は確かに難しいけど、あたしはかなりいい線まで行ってた。さっきも言ったように必要なのはサンプル。自由に使えるサンプルよ」

「あ」

「そう、自分の魂なら使い放題。あたしはあたしの魂を殺す薬なら作れるのよ」

 

 ここに居るノミコンとパパイアは寄生を経て魂レベルで一心同体である。

 どちらかが死ねば、もう一方も死ぬことは想像に難くない。

 

「いったいあっちのあたしはどれだけ命を削ったのか。でも、役に立ったわね」

「ま、待ってくれよ姐さん! ほら! ボクはセナにも寄生してるんだよ!?  あいつも巻き込まれちゃうんじゃない!?」

「なーに言ってんの。セナちゃんはここにいないじゃない! 第一投薬されてから薬効をなかったことにしてくれなんて言っても無駄よ!」パパイアはにっこりと笑った。「いいから黙ってあたしの自殺に付き合って」

「いやだああああああああああ!!!!! ああああああ!!!!!」

 

 ノミコンは絶叫し、消滅し始めた。

 それを見ていたパパイア──その魂のかけらは実に晴れやかな気持ちだった。

 走馬灯染みて形作られた研究室の窓の外を見ると、十二月革命の記憶を取り戻したセナの魂が、まるでほうき星のように表層へ飛んでいく光景が見えた。

 素晴らしい気持ちだ。数年ぶりに感じるやってやったという感覚。

 そうしてパパイアは微笑みながらセナの肉体から消えた。

 

 

 〇

 

 

 セナが停止していた時間はほんの数秒だ。

 そのうちに彼女が発していた異常なまでのプレッシャーは霧散していった。かなみが注射した薬品が効果を発揮したことは明白で、みな良い想像をしながら固唾をのんで見守った。

 

 唯一ランスだけは他のメンバーとは全く違う景色を見ていた。確かに彼女から発せられていた怒気に近い雰囲気は消えていっている。自身の強さをアピールするような威圧感もだ。

 しかし、剣士としての凄みは増していっている。セナの体に染みついた擬態の術がそれを隠すように働いているようだが、一流の戦士たるランスにはそれがよくわかった。

 もはやランスにとっては予感などではなく確信だ。セナは戻ってくる。

 

 セナの口から空気が抜けるような音がする。そんな些細な動きにさえ全員が注目していた。

 視線が迷うように面々の顔を撫でていくと、誤魔化すような気の抜けた笑顔を浮かべた。

 

「これって、どーいう状況?」

「ガーハハハハハハ!! 俺様の大勝利だ!!!」

「ええ……なになに? どうしてランスくんと私戦ってるのかな? あー……なんとなく思い出してきた」

 

 セナの記憶にじんわりとノミコンに体を乗っ取られていた時の光景が浮き上がってくる。

 ひどいことをしているとは思ったが、どこか遠くの出来事のように感じられた。

 きっとそのうち、またこの記憶も辛いものになるんだろうな。セナはまたちょっとだけ気落ちした。

 

「ごめんね、みんな。私のせいで……」

「ぐふふ、まぁ生きているからいいではないか。どうしても謝りたいというなら……」

「言うなら──ぁあ!??」

「どわー!!???」

 

 わきわきと右手でセナの胸を鷲掴みにしようとしたランスにセナの剣が襲い掛かる。

 

「こ、殺す気かー!!」ランスは叫んだ。

「ち、違うのランスくん!」

「何が違うんじゃ!!」

「動く! めっちゃ動く!! 体が勝手に!!」

 

 ほっとしていたパパイアの血がさーと引いていった。

 

「薬が効き切ってないんだわ!」パパイアが叫ぶ。「セナちゃんが肉体で抵抗していたみたいに、今度はノミコンが肉体で抵抗してくる!」

「どうすればいい!?」ガンジーが言った。

「量は十分なので、時間が経てば!」

 

 その言葉を聞いて不意打ちを成功させたかなみがセナの動きを止めようとする。

 そう決心した瞬間にセナの剣は完全に死角であるはずのかなみに対して振るわれた。

 転身と攻撃が一体となったその技はまるでダンスのように美しい。

 

「にょわー!??」

 

 剣がかなみの命を奪う寸前で奇声と共にセナが無理矢理体勢を崩した。剣先はかなみの鼻先をかすめ、かなみは尻餅をつく。

 

「大丈夫ですか!?」シィルがかなみに駆け寄る。

「い、いいいい、ま、死……!」奥歯をガチガチと鳴らしながらかなみは答えた。

「ご、ごめんかなみちゃん!! 来るって思ったら勝手に!!」

 

 今度はセナの指先から鋭く細いライトニングレーザーが飛び出す。やはり攻撃をしようと構えた志津香の側を抜ける。

 攻撃の起こりを直観的に見破るセナの超人的感覚がいかんなく発揮されているのは確実だ。

 

「うわー! やばいやばいやばい! ロッキーくん斧上げて!!」

「へっ!?」

 

 突然名前を呼ばれたロッキーはなんとか反応して斧を構えた。

 次の瞬間、聞いたこともない金属音が響き渡る。

 

「うそだす……! お、おらの斧が斬れた!」刃の部分が斬り捨てられた斧を見ながら、ロッキーは驚愕する。

「だ、誰でもいいから、プリマちゃんにバリアーだして!!」

「くっ!」

 

 ガンジー王が自身の全力を持ってバリアーを使う。そこにセナのデビルビームがぶち当たり、粉々にバリアーを砕いた。

 

「ふ、ふざけるなー!」ランスが文句を言う。「全力全開ではないか!! こんなもん付き合ってられるか!!」

「そんなこといわないでよ!! ほんと無理!! マジでやばい!!! 助けてー!! ああ、雷撃出る!!」

 

 セナを中心にすべてを薙ぎ払うように雷魔法の範囲攻撃が発生する。

 死に物狂いで威力を抑えているので全員びりびりと来たくらいの衝撃だったが、その発生範囲と出の速さは驚異的なものだった。

 

「そろそろ本当にやばい!! 抑えきれなくなりそう!! 誰でもいいから、なんでもしていいから止めてー!!」

「ええい、いいんだな!!?」ランスは叫んだ。「なんでもしてもいいというのだな!!!?」

「……いい!!!」すべてを悟りながらもセナは答えた。

「なら、やったるぞー!!!」

 

 おそらくアイスフレームが経験したどの戦いよりも激しく、高レベルなものだった。

 しかし、戦う者たちすべてが一人の女の敗北を願いながら、ギャーギャー騒いで戦う光景はなぜだか皆を面白い気持ちにさせた。命がけであるにも関わらず、なんだか気の抜けるようなそんな戦いだ。

 

 ほんの数分間のうちにセナの心にたまった暗い淀みが、透き通っていくような気分だ。

 いつの間にか、ランスががははと笑っている。その愛らしい笑顔を見ていると、セナは人生で初めて、心の底から戦いで負けてもいいと思えた。

 

 ランスが大きく力をためる。いままでで一番強力な必殺技を出すのだ。戦いの本能に従えば、いつものようにこれはいなすか避けるべきだった。

 だがセナの体は別の本能に突き動かされて、受けることを選択する。

 

「鬼畜アターク!!!」

 

 めっちゃくちゃな連打をそれでもセナは受け続ける。両手剣と片手剣の重みの違いは、やがて使い手の力量を超えて勝敗を浮き上がらせる。

 セナの剣が砕かれ、勢いのままに押し倒される形になった。

 

「ガーハハハハ!! 俺様の勝ちー!!!」ランスは笑った。

「……そうだね。ランスくんの勝ち」

 

 セナは剣の柄を放した。もう体の自由は戻っている。若干の虚脱状態ではあるものの、それもすぐに戻るだろう。

 もう一度ランスを見上げる。彼はどこまでも楽し気で、まるでセナが行った凶行など存在しなかったようだ。

 皆に謝らないと。セナがそう思った時、急に体が持ち上げられる。目が白黒するが、すぐに現状が分かった。ランスに抱きかかえられたのだ。

 

 先ほどとは違う角度でランスを見上げる。彼がなにを考えているのか、すぐにわかったのに、ドキンと心臓が跳ねるせいで抵抗できなかった。

 

「これでセナちゃんは俺様のものだ!! 早速戻ってセックスだ!!!」

「ええ、ランス様!?」シィルがさすがに驚く。

 

 死闘の後で誰も止める気力がない。それでもウィチタなどはゼスの恩人をあんな野蛮な男に連れ去られてなるものかと立ち上がった。

 その肩をガンジーがつかんで制止する。ウィチタは驚いたが、王が首を振る姿を見ると彼の意志が理解できた。

 

「セナ殿! 此度の戦いに責任など感じなされるな!」ガンジー王は力の限り叫んだ。「すべてはこのガンジーの不徳の致すところ!! ゼス王国を代表し、あなたにお詫びと感謝を申し上げます!! それではおさらばです!! 答えなければならない お達者で!!」

 

 どれだけ混乱していても、セナはこの言葉に答えなければならないと思った。

 

「わ、私は!」緊張で声を裏返しながらセナが言った。「言いたいことが多すぎて!! それで……とにかく! みんな、ごめんなさい!! ありがとう!! ……あとは、また今度!!」

 

 そうして人類最強は自分を倒した英雄に連れられてその場から消え去った。

 半分はそのあとに続き、半分は残った。敵対勢力同士の一時的な共闘はこれでおしまいだ。

 

 残った王国側はすぐに怪我人の治療を始める。その間、ずっとガンジー王は口の中でセナの言葉を繰り返していた。

 

「また今度……そうかまた今度か」

 

 あれだけのことがあっても、また今度と言ってくれる。

 国民が国を見捨てない。その事実こそが荒れた国の王をもっとも励ますことが出来るのだ。




パパイアは肉体の入れ替えとかやってるから、魂関連もいけるだろ!
という無限の信頼を彼女に置いています。

辛い世界を一気に楽しくするランスくんと並んで随分頼っていますね。

毎日更新終了です。
また一区切り書き溜めが出来るまでお待ちください。

話数が50話超えました。
そのうち半分くらいがゼス編なわけですが、まったく終わりが見えないです。
この破壊しつくした原作プロットをどう整えるべきか……。恐ろしいですね。
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