これは同時投稿の二話目です。
セナはここしばらく、だらけて過ごしていた。
自分はだらけるのが苦手だと思っていたが、どうやら今までは活力が有り余っていただけだったらしい。
ぐでっと寝床に転がり、お腹が空いたら屋敷を出て、ご飯を食べる。その後子どもたちと遊び、屋敷に戻りまた寝る。
ふにゃふにゃとした生態の生き物と化しつつあったセナだったが、ついにキムチから生活指導が入った。
「いーい、おセナ?」アイスフレームにいつの間にか浸透した呼び方でキムチはセナを呼ぶ。「あんたに休養が必要なのはわかってるけど、そうずっとだらけてるとかえって疲れがたまっちゃうわよ。今日はなにかしてみな」
「なにかって言われてもなー」
子どもたちからのちょっかいを無抵抗に受け入れながら、セナが返答する。強者特有の雰囲気を隠ぺい出来るように戻った彼女は、ますます孤児院の子どもたちから気安く扱われ気味だった。
またその性質を取り戻したが故に、戦士以外からはお銀の頃よりも随分萎れてしまったように思われて、心配されがちなのだ。
「じゃあ、またチャンバラごっこでもするかー」
「おセナ強すぎるんだよな!」男の子が文句を言う。
「大人げない大人げない!」別の子が言う。
「でも、すごいきれいだよ」女の子が言った。
「いえーい、さいきょー」セナはピースで子どもたちに応える。
「そういう何かじゃないよ。確かに子どもたちの面倒見てくれるのは助かるけど、あなたのためになってる気はしないよ。運動にもなってないんだろう?」
セナは微妙な表情で誤魔化した。確かに準備運動にすらなっていない。それでも、子どもたちが大喜びする程度には洗練された動きだが。
「はぁ。今日は散歩にでも行ってきな。いまのあなたなら、自分で気になることに首突っ込めるでしょう? ほら、行った行った」
「はーい」
セナはキムチに言われるまま、ノタノタと孤児院を後にする。
ウルザがぴっとしたと思ったら、帰ってきたおセナがあの調子か。
キムチはそう考えたがすぐに仕事に戻った。セナを心配する気持ちはある。だが大丈夫だろうという確信もあった。
〇
セナは久しぶりに目的もなく歩いていた。アイスフレームの隠れ里は結構広く、散歩するにはうってつけだった。グリーン隊含む実行部隊の多くは任務に出ている日中帯なので、あまり人はいないが休養に入っている人は何人かいる。
その人々に挨拶をしながら、だらだらと歩くセナは、ふと見覚えのない人物がいるのに気が付いた。
いや、見たことはある。前にダンスを披露したときに見かけた。しかし、名前もなにも知らなかった。
「こんにちはー」
セナは特に考えもせずその大男へ話しかけた。シャドーで訓練をしていた男はいきなり話しかけられて、びっくりした表情で振り返る。
「ああ、あんたか」男は言った。
「あれ、私たち知り合いでしたか? すみません、私結構記憶が」
「いやいや、俺が勝手に知っているだけだ。お互い挨拶するのは今が初めてだよ。俺はパットン・ミスナルジ。グリーン隊だ」
「私はセナ・ベリウールです。今は……ぷー太郎です」
「ははは、人類最強のぷー太郎か」
豪快に笑う姿を見て、すぐに彼が気に入った。
「パットンさんはちょっと前にアイスフレームに?」
「ああ。ちょうどあんたが居なくなってる時期だな。ずいぶん苦労したそうじゃねぇか」
「……苦労ってよりはやらかしだね」
「なら、これからどうするかにかかってるな。どうしようもないやらかしの後は気張って自分を変えていくしかねぇ」
自身のことを顧みながらパットンは言う。脳裏にはリーザス侵攻の際の愚かな自分が映し出されていた。
セナはさらりと言われた言葉について考えていた。自分を変えていく。自我を封じ込めようとしたばかりに起きた崩壊に対して、そういったアプローチがあることには気づいていなかった。
「しっかし、まさか死の踊り子と同じ陣営になるとは、人生わからんもんだ」
「んん?」
明らかに自分を指している聞きなれない肩書に、セナは首を傾げる。
記憶の棚をひっくり返して、前にその名前で呼ばれた場面を思い出した。レッド解放のためにヘルマン軍と戦った時、彼奴らはセナをそう呼んだ。
「あれ? パットンさんてヘルマンの人?」
「んん? 隊長、ランスから聞いてないのか? あー……いや、隠しとくもんでもねぇ。ミスナルジは母方の姓だ。俺はパットン・ヘルマン。ヘルマンの皇子だよ」
「ええええ??!!!」
セナは驚きすぎてのけぞった。
「な、な、な、なんで?! どうして、ヘルマンの皇子様がゼスのレジスタンスに?」
「お家騒動でな、俺は皇室から追われてるんだ。ここに居るのは、ま、修行の一環ってところかな」
「ひえー、驚いたわ。ヘルマンの人とは浅からぬ因縁があるけど、その皇子様と会うなんて。あれ? そういえば私、結構王様と会ってるわ。うーん、パットンさんといいガンジー王といい、意外と王族って豪快な方が多いのね。リア様みたいなお淑やかな人って珍しいんだわ」
「いやぁ、結構例外的だと思うがな。俺みたいなのは」
ころころと表情を変えるセナを物珍しい気持ちでパットンは見た。自身が起こしたリーザス侵攻。その前半において、大きな活躍をした敵側の英雄。話に聞いていた絶対的な恐怖という印象は受けなかったが、なるほどこれは強い。たとえどんな手を使ってもパットン個人の力で彼女を倒すことはできないだろう。
ま、いま倒す理由なんざないんだけどな。とパットンは笑った。
「それで、パットンさんは訓練? 見た感じだと格闘家って感じだけど」
「ああ。俺に使えるのはこの体ぐらいなもんでな。武器の類は全然だ。そっちはなんでも剣と魔法を使うんだって?」
「そうなの。まぁ、でも……ちょっと休業中だけどね」腰に帯びた片手剣をいじりながらセナは言った。
「ほーん……なら、久々にリハビリはどうだ?」
「ええ!?」
パットンと話すとセナは驚いてばかりだ。
「死の踊り子の強さを見てみたいしな。それに、あんたこの前のダンス以降なにもしてないんだろ? そろそろ剣のキレが落ちちまうぜ」
「そうかも……そうよね……」
セナは迷った。剣を抜くことで自分の中の何かが変わることを予感したのだ。
それでも、セナは剣を抜く。むき出しになった刀身を見てから、ゆっくりと振り上げ、振り下ろす。それだけで、驚くべき程、心の靄が晴れる気持ちだった。
もっと振りたい。踊りたい。冒険したい!
気が付くと日が暮れ始めていた。周りにはパットンだけではなく、ほかのアイスフレームメンバーも集まっている。
ランスをはじめとしたグリーン隊の面々までいたのに、セナは気が付かなかった。
多くの視線から与えられるプレッシャーをセナは心地よく感じた。
美しい舞を魅せることに、何を恥じ入ることがあるだろう。今回のそれは少し鋭さに寄っていた。ただそれだけである。
ひどく汗をかきながら、セナは見物客の方にとびきりの笑顔を向けた。
「お腹が空いたわ。みんな、ご飯にしましょ」
セナはリーザス侵攻での戦いではサテラの印象が強すぎて、あまりヘルマン人にヘイトを持ってません。
国全体ではゼスの方が嫌いなくらいです。思い入れは雲泥の差ですが。
自由都市地帯とリーザスは甲乙つけがたいくらいに好きです。しかし人にどっちが好きと聞かれると、とある人物への気恥ずかしさから、リーザスが好きと答えます。