これは同時投稿の三話目です。
セナはいまだにアイスフレームの居候だった。
以前と同じく毎日訓練を欠かさないようになったが、任務についていくことはない。
キムチから料理を教わったり、子どもたちと遊んだり、荷物運びしたり、戦闘訓練に付き合ったりすることはある。確かにこれらは立派な後方支援だ。
しかし、問題はその活動量。
アイスフレームの仕事を極力させたくないという気持ちがウルザにあるらしく、ある程度の労力がかかる仕事は、手伝おうとしても笑顔で遠慮された。
「だから、もやもやするのよ~」かなみのベッドに寝ころび、ぐに~っと伸びをしながらセナは言った。
「うーん、難しい問題ですね」かなみは道具の手入れをしながら答える。「ウルザさんや……王国側の人たちはセナさんに負い目がありますから。もうこの国のごたごたに巻き込みたくないんじゃないでしょうか」
「……そうなんでしょうね。私自身、下手に関わって、また迷惑かけちゃうのはだめだと思ってるけど……でも~」
「暇なんですね」
「暇なのよ~」
不謹慎だが本心だ。
迷惑をかけたと思っているので、何か罪滅ぼしがしたいセナ。
迷惑をかけたと思っているので、ゆっくりと休養してほしいウルザ。
ウルザとセナはお互い気を使っているために、気まずい停滞をどちらも崩せずにいるのだ。
「いっそのこと、出ていった方がいいのかしら」考えていたことが思わず口から出た。
「え!?」
「あ! ち、違うのよ。そんな無責任なこと……」
「そんな! 責めてるわけじゃないです! 私は別にそうしてもいいんじゃないかなっと思うんですが、セナさんがそう思ってるのが意外で……」
「ううう、恩知らずな女よね。でも、私いまここに居ても何もできてないし……ごくつぶしだし。みんなの邪魔になってると思うのよ」
「そんなことないですよ! セナさんがここに居るだけでみんな安心できますし、ランスの暴走だってぐっと少なくなってます!」
かなみの言葉は本心だった。拠点防衛という面において、セナが常にアイスフレームの隠れ里に居るのは非常にありがたかった。またランスのセクハラもぴしゃりと咎めることが出来る人材も貴重だ。以前と違って度が過ぎていなければ、自分へのものはわりと受け入れる様になったことも、ランスの矛先をほかの女性へ向けない一因になっていた。
まぁ、食事の量が群を抜いているのは事実だが、許容範囲だろう。
かなみはセナを友人として励ます。しかし、同時に仕事をしなければならない。
「で、でも、セナさんがここに居るのがつらいっていうならば、出ていくのも手かもしれないですね」
「そう思う? でも、それにも問題があってね」
「問題ですか?」
「そう、その……」セナは非常に恥ずかしそうに言う。「私ひとりじゃ、ゼスから出られないかもだから」
方向音痴。
その言葉がかなみの頭に浮かんだ。
「いつもなら冒険と思って楽しめるんだけど……今の状況じゃ、私がうろうろしてたら、そっちの方が迷惑になるでしょ?」
セナの懸念は正しい。これだけの戦闘力を持つセナが浮いたコマになるのは、ウルザとしては非常に困る状況だろう。ペンタゴンやアベルトの干渉も起きてしまうかもしれない。
かなみも同じ意見だったので、特にツッコミは入れない。それどころか、思いがけない好機にドキドキし始めた。
「忙しいみんなに付いてきてもらうことも出来ないし……」
「わ、私が付いていきますよ!」
「ダメよ、グリーン隊にはかなみちゃんの力が必要だわ。ここからゼスを抜けるにはかなり時間がかかるだろうし。そんなに長くは付き合わせられない」
私、長時間うし車乗れないしね。とため息をつくセナを横目に、どうやって話題を誘導するべきか、かなみは思考を巡らせていた。
そう、かなみはセナをアイスフレームから出したい──もっと正確に言うならば、リーザスに連れていきたいのだ。
かなみは忍者として、主君であるリアにアイスフレームでの出来事を伝えている。セナあるいはお銀の経緯を本国に送った後、返ってきた指令書には肝を冷やした。
丁寧な文体で包み隠されていたが、セナをリーザスに連れてくるように書かれた指令書には、すさまじい負のオーラが込められていた。
リーザスの英雄の精神をゼスが破壊したためか、それともその状態のセナをお銀として革命組織に参加させたためか、あるいはついにランスと関係を結ぶに至る恋敵誕生のためか。
ともかくセナを連れ帰らねばならないという気持ちを掻き立てる指令書であった。
「大丈夫ですよ! 私たちの速度なら思ったよりもすぐです!」
「確かに。迷子にさえならなければ案外……」
「そうですよ! アイスフレームを出たら、どこに行きたいですか?」
「うーん、そうだなぁ。冒険とか買い物とか……久しぶりに自由都市同盟やリーザスに居るみんなに会いたいかな」
友人の顔を思い出しながら微笑むセナは、とても寂し気で、しかし希望に満ちているように見えた。かなみは小さな罪悪感を覚えるが、その顔色が奇妙に赤くなったり青くなったりし始めたので、首を傾げる。
「やっばい」汗を流しながらセナが言った。
「どうしたんですか?」
「リア女王」
「へ!? リア様が何か?」
「あの飲み会でリア女王に国に仕えるならリーザスでって言ったのに、ガンジー王にしばらく仕えちゃった!」
「あ、え、いや、それは」
「ひー! 気まずい! 女王様との約束を反故にするなんて一体どんな罰を受けるか!」
「いや、そんな罰なんて! いや!」
かなみは否定しきれない。絶対にそのことについてリアは怒っている。もしセナが自身の部下になったら、そのことをだしにして、あんなことやこんなことをするつもりだろう。
もちろん、セナはリアの真実を知ってはいないので、嘘をついた罪で牢屋に投獄とかされるものと考えている。
「よし、決めたわ。かなみちゃん、私まだアイスフレームに居る。少なくともいい言い訳を思いつくまで!」
「ううう、いいと思います」
かなみはこのことについても、報告書に書くべきか悩んで、泣いた。