くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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仕方ないからいざにぽぽ温泉へ

「俺より、ノアを助けてやってくれ……!」

「ふん、とーぜんだ。誰が男なんぞ助けるか」

「で、でもランス様。セナさんにお願いされましたし」

「うーむ……セナちゃんには助けたと言っておけ。ぐふふ、これで好感度アップだ」

「最低」

「ら、ランス?! お前が? お、お前のせいで──」

「やかましいわ」げしー。

「ぐえ!」

 

 意地で体を起こしたラークを蹴っ飛ばして気絶させたランスは、ノアの方を見た。べちょべちょでさすがに抱く気にはならないが、かなりかわいいのでぐっどだった。恩を売っておこう。

 

「いたいのいたいの、とんでけーっ」

「う、うう。あ、ありがとう……ラ、ラークは? どうなったの?」虚ろな目をしながらもノアが言う。

「……残念だが──」

「──もちろん、気絶してるけど助けるわ!」かなみが割り込んで言った。

「あ、こら。かなみ!」

「セナさんと約束したんだから、当然でしょ」

「くそっ、仕方がない。シィル、あいつも回復してやれ。ちょっとでいいぞ」

「はい! いたいのいたいの、とんでけーっ」

 

 かなみは傷ついた二人を見る。どちらもかなりのダメージだが、ぎりぎりのところで持ちこたえていた。特にノアの方はあと少し甚振られる時間が長かったら、精神に回復不可能なダメージをおっていただろう。

 なにはともあれ、セナに明るい報告が出来そうなことがわかってかなみは安心する。わずかな間しか見ることが出来なかったが、セナはあの恐ろしく強い赤髪の少女とガーディアン達を見事にいなしていた。最強の冒険者と呼ばれるのも頷ける強さだ。もし、彼女がリーザスのために戦ってくれれば、この絶望的な状況も何とかできるかもしれない。

 

 そこまで考えて、かなみは思いっきり溜息をついた。

 どうして一緒にいるうちにお願い出来なかったんだろう! セナさんの雰囲気が緩すぎて全然言い出せなかった! 

 

「うーむ、しかし、セナちゃんと戦っていたあの子も中々の上玉だった。惜しい。セナちゃんもどこに行ったのかわからんし。はぁ、かなみの尻で我慢する他ないか」さわさわとランスはかなみの尻を撫でる。

「ちょっと!」かなみはキレた。

「セ、セナちゃん……?」ノアが虚ろな様子で呟いた。「セナちゃん……助けてくれた。お礼を……言わなきゃ……」

「はい。大丈夫ですよ。私たちが言っておきます」シィルがノアの体を拭きながら言う。「だから、いまは休んでください」

「セナちゃん」聞こえているのかいないのか、ノアは話し続ける。「セナちゃん……にぽぽ温泉に行くって……」

「なに!?」ランスが食いつく。

「確か、ラジールの方にある温泉ね」

「そこに行けば、セナちゃんと会えるのか?」

「……でも、セナちゃん。ちょっと抜けてるからなぁ」

 

 ノアは曖昧な笑顔を浮かべて、そのまますぅすぅと眠ってしまった。

 三人は微妙な顔でそれを見る。

 

「……冒険オンチだしな」ランスがぼそりと言った。

 

 結局、依頼を終えてアイスに戻った後も、誰一人、ランスすらにぽぽ温泉に行ってみようとは言わなかった。

 だって、絶対セナはたどり着けないから。

 

 

 〇

 

 

「はぁ~、二度と戦いたくない敵だわ。魔人」

 

 森の中で座り込むセナは言った。体にできた傷を撫でては、ヒーリングで治していく。

 魔法は素早く正確にがモットーのセナにとって、少しだけ使える神魔法は苦手分野だった。頑張っても全然発動の短縮が出来ないのだ。効果も大したことない。そもそも戦いで傷なんてめったにつかないので、練習する機会もない。

 

「あーあ、シィルちゃん達にお別れも言えなかった……ランスくんはぷりぷり怒ってるだろうなぁ。ずっこけてたし。せっかく楽しい冒険だったのに、水を差してくれちゃって。魔人サテラめ。覚えておきなさいよ。いや、覚えなくていいわ。忘れてちょうだい」

 

 いつもよりも多弁になりながら、セナは考える。これからあの洞窟に戻るべきだろうか。結構時間も経ってしまった。ランス達はかなり冒険慣れしているようだったので、もうあの洞窟から出てしまったかもしれない。そうなれば入れ違いになる。

 

「まぁ、そもそもがむしゃらに走ったせいで、元の道に戻れるかなんてわからないんですけどね~。あーもう。どうして私の感覚は戦ってないとこうもポンコツなのかしら!」

 

 サテラから逃げている時は、まっすぐ洞窟の出口まで迎えたし、罠なんか一つも作動させなかった。

 

「うふふ、シィルちゃん達と冒険してー、ノアちゃん達とも合流してー、ちょっとだけ怒られるけど仲直りしてー、終わったらみんなでお疲れ様会やってー……私が踊ってみんなが褒めてくれるの……ふふふ、ふふふ……」

 

 抱えた膝にぐりぐりと頭を擦りけてセナはつぶやいた。そんな楽しい計画ははるか彼方夢の先だ。

 しばらく楽しい妄想にふけってから、ようやくセナは立ち上がる。

 

「まぁ、仕方ない! 冒険は一期一会の山あり谷あり! メルドロスもそう言ってたじゃない! いまこそ初志貫徹よ! いざにぽぽ温泉に!」

 

 元気いっぱいに立ち上がり、セナは歩き出した。

 そして、(普通ににぽぽ温泉に向かうだけなら必要のない)大スペクタクルを経て────

 

「や、やっとたどり着いた! ここが、たぶんラジール!」

 

 どういうわけかカスタムの街にたどり着いたのだった。

 

「うーん、都市と都市の中継点だから結構栄えてるって話だったんだけどなぁ。なーんか暗い雰囲気」

 

 想像と違う街の異様な雰囲気に、セナはきょろきょろとあたりを見回しながら歩いた。

 もしかして、私は存在しないゴーストタウンに迷い込んじゃったのか。そんなことを考えていると、作業着を着た女の子の集団を見つけた。よかった。ゾンビ系って戦うの面倒なんだよね。

 

「すみませーん!」

「だ、誰!?」先頭を歩く青髪の女の子が警戒した声を上げる。

「あ、え。驚かせてごめんなさい。私、冒険者で、いまこの町に来たんですけど、なんかあったんですか?」

「なんかあったって」「どういうこと?」「知らないなんてあるの?」「もしかして敵のスパイじゃ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私ここ最近ずっと森やら山やらを冒険してたので、ラジールの街に何があったのかは知らないんです!」なんかざわざわなりだしたのに焦ったセナが言う。

 

 セナの言葉にむしろ女の子たちは一層警戒心を強めた様で、彼女を睨みつけた。

 

「なら、なんで()()()()に何があったかなんて言うんですか?」

「へ? だって、ラジールでしょ? ここ。にぽぽ温泉がある」

「…………」青髪の女の子はきょとんとセナを見つめた。

「あ!」女の子の一人が不意に言った。「思い出しました。この人、セナ・ベリウールですよ! 最近話題の最強の冒険者!」

「あ、そうです! どうも最強の冒険者です! にぽぽ温泉に行きたいんですが、どこにありますか?」

「…………ここ、カスタムですけど」青髪の女の子が言った。

「え」

 

 セナは地図を取り出して自由都市地帯の都市の位置を確認する。何度も何度も見比べて首をひねる。

 ノア達に教えてもらったリスの洞窟の位置、ラジールの位置、カスタムの位置。どう見ても、ラジールを経由せずにカスタムにたどり着くルートがないように思えた。

 

「ど、どうやってここにたどり着いたんだ……! 私!」

「ほんとにこの人がその話題の冒険者なの?」

「強いけど方向音痴って聞いたので、間違いないと思います」

「私、そんな風に言われてるの!?」

「あ、情報通じゃないから、依頼は直接顔を合わせてしろとも聞いてます!」

「え!? 普通依頼主って直接依頼してくるものじゃないの!?」

「クエストボード見るとかギルドの受付とかに依頼あるか聞くものじゃないですか?」

「クエストボード! そんなのもあるのか!」

「本物っぽいわね……」

「あーショック……まさか冒険者以外に冒険者の情報を教えられるなんて……まぁ、死ぬ前に知れたのでよし!」

「前向きね……」

「情報ありがとうございます! ラジールじゃないけどカスタムまで来られたならあとちょっと! 今度は街道通ってラジールに向かおうと思います!」

 

 ペコリと頭を下げて踵を返そうとするセナを見て、青髪の女の子は、確かにこれは情報通にはなれなさそうだな、と思った。

 

「いまラジールに行っても、にぽぽ温泉にはいけないと思いますよ」

「え!? なんでですか!?」

「……いま、ラジールはヘルマン軍に占拠されているんです」

「は? ヘルマン軍に? ちょっと意味が分からないんですが」いきなり遠く離れた国の名前が出たのでセナは困惑する。

 

 セナは青髪の女の子──マリア・カスタードという名前──から現在の状況をかいつまんで話してもらった。

 マリアによると、突然現れたヘルマン軍がラジールに侵攻。カスタムはラジールからの救援を受けて一度はヘルマン軍を撃退したものの、リーザス軍がヘルマン軍の援軍としてやってきたことで、ついに敗走。カスタムまで押し戻されてしまったらしい。

 

「ヘルマン軍とリーザス軍? なんで敵国同士が協力してラジールを? 状況が錯綜しすぎてますね」

「そうなんです。私たちも何が何だか……そこでご相談なんですが。私たちと一緒にやつらと戦ってくれませんか? 一応、依頼という形で。多くは出せませんが、精一杯の報酬もお渡しします」

「あー」

 

 セナは腕を組み、考えた。冒険者としての立場や敵の戦力よりも、個人の感情が強くこの要請を拒否している。だが、マリアやこの街の人々が困っているのは事実。彼らを助けてあげたいという気持ちがあるのも本当だった。

 

「あーうー……」

 

 百面相を浮かべるセナを、ドキドキとしながらマリア達は見守った。

 

「…………しばらくここにいるんで、カスタムの街を守るのに参加するって感じなら……」

「ありがとうございます! ヘルマン軍はきっとここまで攻め込んでくるはずなので、一緒に戦ってくれるならこんなに貴重な戦力はありません! もし命が危なくなったら、逃げてくださって構いません! とにかくよろしくおねがいします!」マリアはセナの手を握ると喜びを表すように強くに力を込めた。

「は、はい。よろしくおねがいします」

 

 マリアの勢いに慄きながらも、セナは握手に答える。心に暗いものが無いとは言えなかったが助けたい気持ちが上回った。

 

「じゃあ、いきなりで悪いんですが……お風呂貸してもらえますか? 迷子になってるとき、絶対にぽぽ温泉で綺麗になってやるって思ってて。その……」

「あ、はい!」マリアは慌てて答えた。確かに今のセナは身ぎれいとは言い難い。

「ああ、そうだ。あの服いただいてもいいですか? 替えの服は持ってないので、着るものが欲しいんです」

 

 セナは近くの服屋のショーウィンドウにある服を指さした。

 

「え、あの服でいいんですか?」

「ええ。私の趣味に合ってるし、都合もいいので」

「わ、わかりました」マリアはちょっと困惑しつつも言った。

「もちろん、お金は払いますよ。にぽぽ温泉に一週間は泊まるつもりだったから、結構持ってます」

 

 マリアはもう一度セナが指さす服を見た。

 何度見ても、その服は煽情的な踊り子の服だった。




ランス03プレイ時一番好きなキャラはマリアでした。
その後のシリーズでも独特な立ち位置にいて好きなキャラです。
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