くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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崩壊に備えよ

 王者の塔にランス達がやってきた。ガンジー王やカオル、ウィチタ、マジック王女なんかと一緒だ。彼らが来たことにもちろんセナは驚いたが、彼らを自然に出迎えられた自分にもとても驚いた。

 

 以前よりも彼らに対する負の感情が少なくなっている。すべては時間が解決するのだろうか。記憶の旅でパパイアに言われた言葉が思い出される。

 

 かくしてこれからのための会議は始まった。その内容はセナにはあまりわからなかった。戦略眼に乏しく、貴族および軍人としての教育も中途半端にしか受けられていないので、仕方ないことではあるが。

 しかし、話の流れからアベルト達をすぐに殺すといった事態にはならなそうだ。

 

 初めのうちは考慮すべき点が多すぎて広い知識を持たなければ理解できなかった話し合いが、だんだんと焦点が絞られ、セナにも理解可能なものへと磨かれていく。

 

 つまるところ、現在の問題はマナバッテリーと魔人カミーラだった。

 

 マナバッテリーは日曜の塔にあるものだけが稼働している状態だ。王者の塔のものは復旧作業にかなり時間がかかるらしい。どうあがいても、マジノラインへの魔力供給は一度止まってしまう程度には、時間が必要だ。

 そうなってくると魔人カミーラのゼス侵入を止めることは出来ない。しかもアベルト曰く、使徒を溺愛しているらしいこの女魔人が、ゼスに入ってきたならば、まず間違いなく行方不明になった自分たちを探しに来るとのことである。

 

 王者の塔に向かうことを使徒たちが女主人に伝えてないとは考えられない。

 つまり、カミーラがゼスにやってきたならば、ここ王者の塔へ真っすぐやってくる公算が高いのだ。そうなれば、奇跡的に生き残った最後のマナバッテリーは破壊されてしまうだろう。

 

「そんなもん、あいつらを囮にして別のところにおびき出せばいいだろう」ランスが言った。

 

 またなんかずるいこと言ってるわね。セナはそう思ったが、ウルザをはじめとする参謀陣の意見は違ったらしい。地図が広げられ、あれこれと意見が交わされると、あっという間に次の作戦が決まってしまった。

 

『魔人誘導作戦』

 

 放送局にて、カミーラへ向けて、使徒を捕らえたこと、開放してほしくばマジノライン地区の一つであるアルデンヌへ来ること、という脅迫を放送する。

 王者の塔からカミーラを遠ざけるうちにマナバッテリーを復旧させる。

 そうして、アルデンヌにて復旧したマジノラインを用いた防衛線を行う。

 

 この作戦の肝は目的の誤認にある、と千鶴子が言った。ゼスでも有数の防衛力を持つアルデンヌで戦いを始めるために、ゼス側はカミーラをおびき寄せようとしている。そう思わせることで、本命のマナバッテリー修繕から目を背けさせるのだ。

 

 他にもいろいろ話していたが、セナに理解できたのはそれくらいだった。

 

「放送にはラレラレ石を用いた魔法ビジョンを使用します。音声だけでは信憑性が薄まるでしょうから」ウルザが最後に補足した。

「本当にこんなことで魔人がおびき出されるのかしら」マジックが疑念を呈する。「そもそも使徒の言葉なんて信じるに値しないんじゃないの!?」

「そうかもしれません。しかし、何の対策も取らなければ、真実だった時に困ります。やるだけのことはやらないと」ウルザがそう返した。

 

 そうして会議はひと段落し、セナ達は使徒の映像を収めるために、牢屋へ向かった。

 牢屋では使徒たちが目覚めており、入ってきた人間たちに敵意の視線を投げかける。しかし、アベルトだけはこちらに探りを入れるような眼をしていた。

 

 彼らにこちらの意図を説明する義理もない。一行は一通り映像を撮ると、牢屋から退出しようとした。

 

「いい手ですね。多分発案はランスさんあたりかな?」アベルトが突然口を開いた。「でも、いま撮った映像じゃ、カミーラ様はおびき出せませんよ」

「なに」

 

 その言葉にガンジー王が立ち止まってしまう。それは映像の意図をアベルトに教えたも同然の行為だった。

 

「やっぱり、カミーラ様をおびき出したいんですね。どんな作戦があるにしろ、見逃せないな」

 

 アベルトの言葉にラインコックと七星はますます怒りを露わにした。彼らはアベルトと違い、何の情報も渡す気がなさそうだったので、言葉すら喋れぬようにされている。

 

「あなたに見逃してもらう必要はありませんよ」ウルザが言った。

「ありますよ。もう仕込みはしました。その映像は使えない」

「……符牒?」かなみが呟いた。

「そうです。ぼくたち使徒は迅速に主へ意図を伝えるための手段があるんですよ」

 

 その言葉が本当なのかどうか、誰にも判断はつかなかった。しかし、確かな疑念がそこに生まれる。

 

「……でも、こっちの要求をのんでくれるんだったら、ぼくたちは黙って餌になりますよ」

 

 多くの目線がガンジー王の方へ向いた。王はしばし考えた後、「どんな要求だ」と言った。

 

「カミーラ様を脅す映像には、セナさんを出してください。セナさんがカミーラ様を脅しつけるみたいに撮ってほしいですね」

「────ふざけるな!!」

 

 ガンジー王は怒りを露わにする。そんな映像を流せば、セナは間違いなく恐ろしい魔人カミーラの怒りを一心に受けることとなるだろう。それだけではない。魔軍からどれだけ危険視されるかわかったものではない。

 

「こんな男の言葉を聞く必要はない! さっさと作戦を開始するぞ!!」

「ちょ、ちょっとお待ちください陛下!」当人のセナが言った。「本当に何かメッセージを仕込まれている可能性があります! ことを急いではいけません!」

「セナ殿。耳を傾けてはいけません、これ以上あなたがゼスのために犠牲になることなどありません」

「い、いえ! 犠牲とか、そういうことじゃないのです! なんていうか、そのえっと、とにかく!! 意味が分からないということです!!」

「……確かに」かなみが同意した。

「どうして自分の主が罠に嵌められそうなことがわかっていて、邪魔しようとしているのに、私が映像に出れば協力してくれる? 意味わかんないですよ! 論理が破綻してる! メリットとデメリットが釣り合ってない! 一体、何が狙いなの?」

 

 セナはアベルトの顔を見た。なんでもないことのようにアベルトは言葉を返してくる。

 

「カミーラ様にセナさんの存在を知らせること。それが目的です」

「……はぁ?」思わずセナが言った。

「いまおそらくこの世界でカミーラ様を殺すことの出来る人間はあなただけですからね。その危険性を我が主に伝えなきゃならないんですよ。……ともすると、ランスさんはカミーラ様に勝てるかもしれませんが、決して殺しはしないでしょうから」

「……作戦が成功すれば、ゼスは魔軍なんて撃退するわよ」

「そうですか。だからなんです? カミーラ様はこの国の設備や兵士ごときに殺されません。侵略が失敗することなんて、ぼくたちには痛くも痒くもありませんよ。要は我が主が生きてさえいればいいのですから。他の魔人やモンスターがどうなろうと知ったこっちゃありませんね。セナさんが危険であること、敵であること。これを知らずカミーラ様があなたと接触する。これ以上に避けるべきことなんてありますか?」

 

 セナはアベルトの確信を持った言葉に気圧された。忠義というにはあまりに狂気じみた態度は、今まで出会った主従関係の中でもひどく歪なものに見える。

 

 何を言うべきか、どうするべきか、まったくわからなかった。

 そんなセナの横を退屈そうにランスが通り抜け、アベルトの前に歩み出ると、左手で剣を振り上げた。

 

「おわー!!?」

「ぐえっ!!」

 

 叫びながらセナがランスの背中にタックルしたことで、ランスの剣は空を切り、アベルトの頭上を滑っていった。

 

「な、な、な、何するのよ、ランスくん!! いま結構重要な話の途中だったでしょ!!?」

「ええい、うるさいぞ! あんなもんこいつのブラフに決まっとるだろう! 生きてるときの映像は撮れたのだから、こんな奴らさっさと殺してしまえばいいのだ!」

「そういう感じじゃなかったじゃない! そういう感じじゃなかったじゃない! いま私結構真剣に考えてたんだけど!?」

「セナちゃんが考えて何になる! おバカ組の一人ではないか!」

「おバカでも考える権利はあるでしょう!!?」

 

 ぎゃーぎゃーと喧嘩を始める二人を止めようと、シィルやロッキーが間に入る。案の定、ランスの拳骨がシィルに入ったことで、さらに喧嘩は激化していった。

 ようやく二人を落ち着かせたころには、なんだか一行は会議室で緩い感じに話し合いになっていた。いつの間にか入れられたお茶をすすりながら、口々に意見を言い合う。

 

「それで結局映像は撮り直すべきなのかしら、それともさっきの映像で行くべき?」セナが言う。

「取り直す必要なんてありませんぞ。セナ殿が魔人に目を付けられるような危険は冒せません」ガンジー王はそう答えた。彼の従者たちもそれにうなずく。

「でも、符牒が本当に仕込まれている可能性もありますよ」かなみが言った。

「だーから、あんなもん、奴のブラフだろ!」

「そうじゃなかったら、大変だって話してるの!」ランスの言葉にかなみが反応する。

 

 セナは少し考えた後にウルザの方を見た。「ウルザさんはどう思いますか?」

 

「……はっきり言って、どちらが正しいとは言い切れませんね。アベルトは抜け目のない男です。そういう仕込みが出来る人間です……ですが私個人としては、やはり提案は蹴るべきかと」

「どうしてですか?」

「本当に仕込みをしたのなら、黙っておけば、それで一定の成果は得られたわけです。それを無にしてでも、セナさんを映像に収めることを優先した。恐らく、この効果は私たちが想定しているものより大きなものとなるのではないでしょうか」

「というと、どんな風にですか?」シィルがおずおずと聞いた。

「例えば、すべての魔人がセナさんを優先して攻撃する、といったような事態でしょうか?」

 

 あり得ないとは断じることが出来なかった。ただでさえ、セナはリーザスの英雄として祭り上げられているのだ。それに加えて、大々的に魔人四天王カミーラに喧嘩を売ったとなれば、その知名度は人間界随一になるだろう。

 

「それは……結構まずいか」セナがぼそりと言った。

「ですので、やはりアベルトの提案は拒否すべきかと」

「……でも、さっきのデメリットだけの話ですよね? 提案を受けたときに受けられるメリットはどうなんですか?」

 

 意外な質問にウルザは詰まった。少し考えたが、結局は自分の考えを話し始める。

 

「もし、本当にアベルトがカミーラの生存だけを優先しているなら、確実に誘導を成功させるように協力するでしょう。セナさんの怒りにふれ、暗殺者のような立ち回りに徹されれば、確実にカミーラへ大打撃を与えることが出来るからです。誘導に成功すれば、マジノラインの復旧確率は上がり、ゼスを魔軍から守れる可能性はぐっと上がります……それに当初の予定ではガンジー王が映像に映ることで映像の信憑性をあげるつもりでしたが、それをする必要がなくなることも大きい」

「どうして?」セナが質問した。

「たとえマジノラインを復旧させたとしても、すぐに魔軍がゼスから排除されるわけではありません。特に魔人たちの撃退には時間を要するでしょう。その時、強力な魔人であるカミーラにモチベーションがあるかどうかは重要な要素です」

「つまり、怨みの対象がガンジー王……ひいてはゼスそのものになってるよりも、私個人になってた方が、カミーラもさっさと引いてくれるかもしれないってことね」

「そうです」

「…………いいじゃない。じゃあ、やる価値はあるわね」

 

 ドンと思い切りテーブルが叩かれる。怒りを露わにしたのは、マジックだった。

 

「ふざけないでよ! 予定通り、映像には親父が映るべきだわ! それが危ないってんなら、私がやってやるわよ!」

「マジック! セナ殿になんて口を!」

「うるさいわね、親父! これ以上そいつをゼスに関わらせていいとでも思ってるの!?」

「彼女は我が国の恩人だぞ!」

「みんなそれを言うけどね! 私に言わせればどこが恩人なのかがわかんないわ! この人のしたことと言ったら、自分で首突っ込んどいて勝手に傷ついて、挙句暴走しただけじゃない! そりゃあ、マナバッテリーを守ってくれたのは功績だし、アニスを止めたのも、使徒を捕らえたのも偉業だわ! でも、そもそもこの女が暴走してなきゃ、マナバッテリーはまだ二機も残ってたし、場所だってバレやしなかったじゃない!! せいぜいプラマイゼロでしょう!? そんな危険な暴走歴のある奴にこれ以上ゼスをかき回されちゃたまんないわよ!!」

「この! 無礼者────」

 

 思わずガンジーがこぶしを振り上げた時、不意に破裂音がして言い合いが止まった。

 セナが思いっきり手を叩いたのだ。そのあまりに大きな音に誰もが彼女に向きかえった。その顔を見ると、言い合いを止めようとかそういう冷静な意図があったとはとても思えない。

 

 驚きと納得が混じった顔でセナはマジックの方を見ていた。本当に思わず手を叩いてしまった。

 

「た、確かに……!」

 

 しんと静まる会議室にセナの声が奇妙に響いた。




実は6やってた頃、マジックはそんなに好きじゃなかったです。ウルザの方が好きでした。
しかし、後半の作品ではマジックの方が大分優遇されていて、枕を濡らしていました。

そこに現れたランス10第2部マジック。
うっひょー。
マジック最高です。
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