くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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最強の女

 さぁセナちゃん! 自分の人生を振り返ってみよう! 

 

 お父様、お母様、メルドロス。最初はただ幸せだった。お友達だっていた。パパイアちゃんだ。

 でも、お父様はペンタゴンの信奉者に殺された。

 お母様はゼスの貴族に殺された。

 メルドロスはムシ使いに殺された。

 

 だから、ゼスは嫌い。好きになる理由ある? どいつもこいつも私の愛する人を殺すような連中じゃない。

 

 でも、冒険者になって、色々あって自由都市地帯やリーザスで戦って、そこにいたみんなの……故郷への愛を知った。

 ────ミリやミルちゃんに会いたいな。

 たぶん、その気持ちは私の中にもあった。本当にわずかだったかもしれないけど、故郷を愛する気持ちが。

 

 だから、私は旅をした。ここら辺も、楽しかった。

 ────でも、アリオスくんとコーラくんのことを思うと暗くなる。二人とも元気にしているだろうか? 

 違う違う。多分今は二人のことは違う。

 

 それから私はゼスに来て、やっぱりこの国が嫌いだと思った。

 上から下まで嫌なことばっか。いったい誰がこの国で幸せなわけ? 

 

 だから、私はこの国を少しでも良くしたいと思った。

 ────あれ、これがおかしい気がする。なんで私がこんな国良くしないといけないの? 

 まぁいいや、どうせ考えてもわかんないし。

 

 それで頑張って、でも嫌なことが沢山あって……あんまりよくない精神状態になって、最後はアリオスくんに止められた。

 ここら辺は結構頑張ってた気がする。最後は良くなかったけど、色んな悪い奴を捕まえたし。

 

 でも、それからは最悪だった。

 私は自分のすべてを失って、一年間以上も自分が誰なのかさえわからなかった。

 話によると、カオルちゃんやガンジー王が私の面倒を見てくれていたらしい。

 

 それから、お銀になって、アイスフレームに参加した。ここら辺もよかった。ゼスで改めて友達は出来たし、困ってる人たちもたくさん助けられた。

 

 それだっていうのに、また最悪の時間だ。

 私はノミコンとかいう魔導書に乗っ取られて、色んな人を傷つけて、マナバッテリーも二つも壊した────片方はマジノラインに繋がってなかったらしいから、この事態には関係ないけど。

 

 ランスくん達に助けられて、ダークランスやフェリスさんを助けて……そして、今。

 私はマナバッテリーを一つ守り、この国で一番強い魔法使いのアニスさんを助け、魔人の使徒を生け捕りにした。

 

 やはり思い返してみると、マジック王女の言っていることが間違っていないような気がしてきた。

 自分で首を突っ込んで、自分で壊れた。でも、ゼスだって結構ひどいと思う。プラマイゼロかも。

 

 

 私を取り戻してからはずっとゼスにひどい迷惑をかけたから、償いたいと思っていた。でも、それまでの功績を勘定に入れ忘れていたことも確かだ。

 

 やっぱりプラマイゼロなのかも。

 うすうす自分でもそう思っていたからこそ、カオルちゃん達の顔を見たときに、罪悪感をあまり抱かなかったのかもしれない。

 

 なんだ。私、頑張ってるじゃん。これでもう義理は果たしたね。さっさと自由都市地帯か、リーザスへ行こう。

 この国に居たいという気持ちは全くない。

 全くないはずなのだ……でも、なんでだろうか。まだ自分に出来ることを探している。この国の危機に対して、共に戦うべきだと感じている。

 

 このうっすらとした感覚に私の鈍い頭は理解が追いついていない。

 義憤も、望郷も、罪悪感も、もう私の中から消え失せようとしているのに、どうしてそんな考えが出てくるのか。

 

 鈍い頭をそれでも動かして考えろ。私の心はきっと先に私の答えにたどり着いている。それを今ここで導き出すんだ。

 

 ────友達のため? 

 あの戦争では確かにそうだった。でも、あれはリーザスへの思い入れがなかったから、そう思ったのだ。友情はゼスへの憎しみに近い気持ちを乗り越えてまで、戦意を引き出すことは出来ない。

 

 ────ゼスをもっと良いところにしたいから? 

 そうは思わない。この国の人間、そのほとんどには愛想が尽きた。不幸になれとは言わないが、自分の身を削ってまで助けてやりたいとは思えない。

 

 ────勇者の仲間だったから? 

 ふざけんな。いまさらこんなこと考えて恥ずかしくないのか。

 

 ふとマジックのことが思い浮かぶ。この王女はどうしてこんな国のために魔人の怒りを買ってもいいと言えるのだろうか。

 

 ────自分と違って、きっとゼスにいい思い出ばかりあるんだろうな。だから、守りたいと思うんだ。

 

 そんな冷たい意見が私の中に生まれる。否定しきれないと思いつつ、それでも蹴っ飛ばすように頭から追い出した。そんな風な僻みじみた結論にはしたくなかった。

 

 ────きっと王族だからだろうね。この国対して責任を持っているんだ。

 

 さっきよりもマシな考えは、納得と同時に次の疑問を舞い込んだ。

 

 王族だったら、どうして責任を持たなくちゃいけないの? 

 

 マジック王女は何時王族になった? 当然、答えは生まれた時からだ。

 しかし、それは彼女に選択できたことではない。彼女は思いがけずに王族として生まれた。偶然だ。ただの偶然に過ぎない。

 

 だがマジック王女は命を賭して、王族の責任を果たそうとしている。

 

 ────そんな事態になるまでは、絢爛豪華に生きることが出来たんだから、当然の義務よ。

 この国すべてを否定したい自分を感じながら、私は考える。

 そうかもしれない。でも、私にとって重要なのはそこじゃない。王族という強大な権力と責任は、彼女の意志とは関係なく、生まれたときに突然与えられたものである。それが重要だった。

 

 それは果たして、途方もない強さを持って生まれた私と何が違うのか。

 どちらも望んだわけではない。気が付いたら持っていただけだ。それでも、彼女は……いや、私たちはその力に責任を感じている。

 

 己の中の何かがぐしゃりとひしゃげる音がする。痛みを感じながら、私は自分の結論を導き出す。

 

 どうしてこんな国のために戦うべきなのか。それは私に責任があるからだ。

 私は最強として生まれた。だから、他の人が出来ないことをしなくちゃいけない。たとえ拒まれようとも、たとえ馬鹿な女と笑われようとも。

 戦ってやる。ちくしょう、戦ってやる。

 私がゼスを救ってやる。

 

 

 〇

 

 

 もはや聞き取れない速度で数秒間、ぶつぶつと自問を繰り返したセナが、ようやく顔を上げた。

 その表情は活力に満ちており、いままでのどこか遠慮したものとは違って見える。

 

「よ、ようやく止まった。ぶっこわれたかと思ったぞ」ランスが言った。

「え、また声に出てた?」

「もはや、何言ってるかはわからんがな」

「じゃあ、恥ずかしくはないかな……」

「ちょ、ちょっと、正気を取り戻したんなら、言っておくけど────」

 

 マジックは次の言葉を言い淀んだ。セナの目の奥にある激しい光に気圧されたのだ。

 

「ラレラレ石には私が出るわ」はっきりとセナが言った。

「……どうして急に?」ウルザが聞いた。

「そうすべきだと思うから」

 

 確信を持った口ぶりに小さなざわめきが起こる。

 

「……よくよく考えるとそうよね」セナが続ける。「私が一番魔人に狙われても戦えるんだから、囮役は私が担うべきでしょ」

「お待ちください、セナ殿。あなたがそんな危険を冒す必要は」

「ありますよ。ガンジー王。少なくとも、私にはあると思える。だって……」

「だって?」ランスが聞く。

「出来るから。魔人から逃げ切ることも、魔軍に狙われて生き残ることも出来るから。出来ることをほっぽり出すのは、気分が悪いわ」

「ふざけないでよ!! そんな適当な理由で国の命運を左右する作戦を任せろっていうの!?」

「そうですよ。マジック王女。王族の責任を感じるなら、生き残って、私みたいに家族みんな亡くした子どもが国外へ逃げずとも済むような国にしてくださいよ」

 

 今度こそ、会議室は驚きに包まれる。セナがこういった皮肉じみたことを敵以外に言うのを誰もが初めて見た。友人たちは目を白黒させる。ランスすらも意外そうな顔をしている。ゼス側──特に王族──は何も言えずに落ち込んだ表情を見せた。マジックさえも怒りに頬をぴくぴくさせているが、何も言い返せなかった。

 

「────こんなところで魔人の標的になるのは、王族の役目じゃないですよ。私の役目です。なんたって、私は最強の冒険者ですから。こういう荒事は私の領域です……じゃ、この話は決まりですね。具体的な作戦を決めましょうか。まぁ、私あんまり役に立たないですけど」

 

 セナの言葉で戸惑いながら、会議は再開した。

 始まった当初と同様、セナには内容がいまいちわからず、ほとんど口を挟めなかったが、間違いなく始まった時と違い、この場の主導権はセナにあった。

 

 作戦を詰めながらも、ウルザは静かに考えていた。

 かつてウルザはセナの精神を一般的な市民と変わらないものだと考えていた。その考えは恐らく正しかった。しかし、彼女は変わった。あの一瞬で思考と情動が、平凡な感性と精神を非凡なものへと作り替えたのだ。

 

 彼女は自己を肥大化させすぎている! だけど、それこそがいま必要だったことなんだわ。

 

 世界の混乱を他人ごとにしない精神性の変化。それは今後起こるであろう暴動を止める鍵になりえるだろう。

 

 ウルザはセナを見た。真剣に話を理解しようと聞いているその顔は、かつて感じた()()()()()()()のものではない。

 この会議室にいるのは一人の英雄だった。たった一人存在しているだけで、歴史を変えてしまえるような、そんな英雄がいた。

 

 そしてふと、気だるげに座るランスを見てこう思った。

 いや、もしかすると二人いるのかもしれない。




ついに『最強なだけの女』という出発点を超えていきました。
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