ランス達と合流した次の日の朝、日課である鍛錬をダークランスと共に一通り終わらせると、セナは昼食のシィル特製へんでろぱを宿に居るみんなで食べた。その時、ふとあることを思い出す。
「そうだ魔剣カオス! 魔剣カオス見てみたいんだけど!」
「カオスー? なんであんなもん見たがるんだ?」ランスが面倒そうに聞く。
「だって、無敵結界を斬れる伝説の武器だよ!? 見たいでしょ! ね!」ダークランスに同意を得るようにセナが言った。
「うん。確かに。おいらも見たいかな。魔剣ってなんかかっこいいし」
「だよね!」
「私は反対」フェリスが言う。「教育に悪いわ」
「教育に……?」
教育に悪い剣てなんだ? こう、なんかかっこよすぎて癖が壊れるとか? あるいは呪詛的なものをまき散らしてるのかな? 魔剣だし。
セナの疑問を解消してくれる人はいない。ただカオスの実情を知る者たちは皆一様に曖昧な表情を浮かべていた。
その表情の訳はわずか十分後に判明した。
ランスの部屋でセナは魔剣カオスと対面する。
「うっひょー! おいおい、いきなりかわい子ちゃん。すらりとした足がまぶしいねぇ! お嬢さんちょっと儂と遊ばない?」
「お、おおう」
思わずセナは呻いた。想像とは違いすぎる。インテリジェンスウェポンという冒険者なら誰もが一度は興味を持つ代物なのに、肝心の性格がエロ親父とは。
「こんにちは。魔剣カオス……さん。私はセナ・ベリウール。ランスくんの友達で──」
「──おお、心の友のお友達? こんな上品に喋れる子のお友達なんていたのね。意外。儂とも友達にならない? た・だ・し、セックスの付くフレン──」
「ふん」
ランスがカオスを蹴っ飛ばす。不思議な力で直立していたカオスは床に転がった。
「ちょっとランスくん! カオスさんもどうかと思ったけど、蹴っ飛ばさないであげてよ! 伝説の武器だよ!」
「ふん。あんなアホのスケベ親父などこれくらいでいいのだ」
気持ちはわかるがそこまでストレートには出来ないセナ。ため息をつきながら、カオスを拾おうと近づいた。
「握るな!!」
カオスに触れた瞬間、カオスが叫ぶ。しかし、警告が遅くセナは深くカオスを握りこんでしまった。
「ぴぃ!」
変な声を上げてセナが倒れた。そのまま目を回す。
「お、おいセナちゃん大丈夫か」ランスはセナを覗き込んだ。
「あー、遅かったか」
「何をしたんだ馬鹿!」
「儂のせいだけど儂のせいじゃないわい。前から言っとるだろう。儂は相性の悪い者にとっては毒になる魔剣だと。たまーにいるんよな、こういう相性悪すぎて、精神に異常が出るどころか握るだけでも駄目な奴」
「まったくなんて危ない奴だ。セナちゃんは俺様が介抱してやろう」
「あ、ずっりー。でも、儂、その子と遊べんからまぁええか」
「ぐふふ」
「おい」げしっとダークランスがランスを蹴った。「師匠に変なことすんなよ、クソ親父」
「なんじゃ、まだいたのか。ガキは帰れ。フェリスのところ行ってろ」
「そうはさせるか」
「お、そっちの坊主は儂と相性よさそう。ていうか心の友、子持ちだったの? 女遊び下手糞だのー」
「やかましい」
「いいから、師匠を下ろせ! 抱えるな! おいらが運ぶ!」
「ええい、お前もやかましい!」
「だ、大丈夫よ。ダークランス。お、起きたから……」
「おお、復帰速い。セナちゃん凄腕だのう」
セナはややふらつく足で立ち上がった。そしてそのままランスのベッドに突っ伏す。
「……何をやっとるんだ」
「……思ってたのに」
「ああ?」
「魔剣カオスが使えれば、ようやく魔人との戦いが楽になると思ってたのに! もう爆風で体勢崩したり、粘着地面狙ったり、剣圧だけで切り裂いてみたりしなくてもいいと思ってたのに!」
「え、セナちゃんそんなことできんの?」
「当たり前だ。師匠は人間で一番強い戦士なんだぞ。この前だって、おいら達と一緒にカミーラをやっつけたんだ」
「マジ? 儂抜きで? 心の友、この子連れて魔物界行こうぜ。めちゃくちゃ魔人ぶっ殺せるよ」
「やるか、めんどくさい」
「えー、もったいない。セナちゃん、なんで儂持てないかなぁ」
「なんででしょうね! なんで冒険者憧れのインテリジェンスソード持てないんでしょうね!」
「がははは。やはりここでも出たな、セナちゃんの冒険オンチ」
ギギギと顔を向け、ランスを睨みつける。だが笑顔のランスに毒気を抜かれて、セナは立ち上がった。
「まぁ、しょうがないわ。いい武器は冒険者の憧れだけど。こればっかりは運命的なものがあるから。手に入らないのは仕方ない。仕方ないのよ」
「そういえば、師匠の武器って普通だよな。前のはアイスフレームの備品で、今のはアルデンヌ基地にあった量産品だろ?」
「そうなのよ。しかも、ゼスって全然近接武器に力を入れてないせいで、研ぐのが大変で大変で。でも、冒険者は割とこういう量産品の武器を使うことも多いのよ。変わった武器なんてランスくん意外だと、マリアちゃんとかしか……」
「どうしたの、師匠?」
セナは自分で話しながら、ふと今の今まで気にしていなかったことが気になっていた。
そんなところにちょうどよく、食事の片づけを終えたシィルや、騒ぎを聞きつけた志津香がやってくる。
セナは無言で二人に近づく。戦闘時のような眼力に二人は慄いたが、セナがシィルの手を取り、じっと見つめると、どちらかというと困惑が強くなった。
「ね、ねぇ、シィルちゃん師匠? 手袋前と違わない? なんかいい感じの魔力も感じるし」
「あ、ええっとこれは」もごもごとシィルが言い淀んだ。
「志津香ちゃんも」セナはグリンと顔を志津香に向ける。「なんかすごめの杖使ってない? リーザスの頃よりずっといいやつ」
「……まぁ、品はいいものよ」
「がははは。それはな、俺様のことをちょーかっこいいと思ってる女にだけ世界が与える宝物なのだ。ちょーすごい武器だぞ。電卓キューブで手に入れた」
「で、電卓キューブ!」
セナには聞いたことがあった。それは運命の相手とのみ入れる特別な迷宮で、とっても素敵な贈り物を得られるという伝説だ。
羨ましい! セナは心の底からそう思った。まごうことなき一級品。冒険者が持つならば、一生使っていける品だ。あとランスと運命の相手というのも、ちょっとだけ羨ましい。いや結構羨ましいかも。
だがセナもここでぐずるほど子どもではない。羨ましい気持ちを必死に抑えながら、ダークランスの方へ向きかえった。
「ダークランス! 私たちもいつかいい武器手に入れられるよう頑張りましょう!」
「え、おいら!?」
「ね!」
「う、うん。わかったよ、師匠」
ダークランスは頷きながら少し目をそらした。
実のところ、彼が持つ小さな剣グラムは、三魔子レガリオから与えられた宝剣である。いまはまだそこまでの力はないが、いずれはカオスに匹敵する力を持つことさえ可能な武器だ。
セナがそれを知るのは、しばらく後のことである。