ラグナロックアークへやって来てから二日が経った。
実に平穏な日々だったが、突然の来訪者によってその平穏は崩される。
なんとグリーン隊の宿に、リーザス女王のリア・パラパラ・リーザスがやってきたのだ。しかも、間の悪いことに彼女の愛しい人であるランスは不在。対応の押し付け合いになったが、結局はリアたっての指名でセナと話しながら、ランスを待つこととなった。
対面でお淑やかにお茶を飲むリア。傍には侍女のマリスが、部屋の隅にはかなみが控えており、さらに部屋の外には盗み聞きを防止するためにリックが立っている。元貴族の令嬢らしく一端の作法でお茶を飲んでいるセナだったが、心臓の音はかつてないほど大きく聞こえていた。
なにせ、セナは軍属するならリーザス軍で、という約束を破ったのだ。口約束とは言え、女王との約束である。いったいどんな罰を受けるか戦々恐々とせざるを得なかった。
「ダーリンにはね」突然、リアが言った。
「ひゃい」精一杯お淑やかに──裏返ったけど──セナが返事をする。
「ちゃんとセナと同じ勲章を三つ渡したわ。本当はリーザスを受け取ってほしかったんだけどね」
セナの頭にかつて叙勲式でした会話が思い出された。笑みがこぼれる。もうずいぶん懐かしい話だった。ついでにそのあとの飲み会のことも思い出された。あの時もリアはこんな風に少し砕けた口調で自分に話しかけてくれた。
つまり今は無礼講なのだ。ある程度肩の力が抜けるのをセナは感じる。
「感謝いたします」
「いーのいーの。セナはこっちでも元気だった? しばらく評判が聞こえてこなくて心配してたんだけど」
「……実のところ、体調を崩してまして。万全になったのはつい最近なんです」
「あら、治ってよかったわ。リアはセナのこと応援してるんだから」
「痛み入ります。リア様もお元気そうで何よりです」
「ありがと。アルデンヌでの活躍についてはゼス王から聞いたわ。魔人サテラに続いて、魔人カミーラを撃退とは、押しも押されぬ英雄ね」
「いえ、あれはアリオスくん──元勇者のアリオス・テオマンがいてこそなせたことですよ」
「ああ、彼ね。実はここに来る前に見かけたわ。奥方と一緒に居られるところをね。それで、ゼス王に仕えたんですって?」
「あれはいろいろ事情が──」
「──ふーん。ほんとにゼス王に仕えたんだ。リアはちゃんと約束守ったのに」
ぶわっとセナの体中から汗が噴き出した。気やすい態度はセナの口からその事実を引き出すためのもの。そう気づいた時にはもう遅かった。
「え、ええっと。ですね!」しどろもどろになりながらセナが言う。「本当にあれは成り行きと言いますか! まったくもう、そんなつもりはなくってですね!」
セナの様子を見て、ついにリアが笑い出した。しばらくぽかんとセナは見つめていることしかできなかった。
「大丈夫よ、セナ」リアが口元を抑えながら言った。「大体のことはかなみから聞いていたから。あなたの事情はわかってるわ」
「そ、そうなんですか」ホッとしてセナは緊張を解く。「しかし、約束を違えてしまったのは事実です。申し訳ございません」
「ひどく心を病んでいたんでしょう? 仕方ないわ。セナが今でもゼスより、リアのリーザスの方が好きだっていうなら構わないわ」
「それはもう。今でもどころか、今の方が以前よりずっとリーザスに焦がれてます」
「ならいいの」
リアはカップに再び口をつけた。その作法は優雅そのもので、セナは迫力さえも感じてしまった。
「じゃあ、リーザスとゼスが戦争したら、こっちに味方してくれる?」
「いいえ」
一瞬の逡巡すらなく、セナが拒否したことに、かなみもマリスも、リアでさえも驚いた。
「……やっぱり、故郷への情が残ってる?」
「多少は残ってますが、別にゼスにも協力しません。そうなったら、離れた所──カスタムとかですかね。そこで状況を見守ると思いますよ。気持ち的には戦争自体やめてほしいですけど、勝敗としてはリーザスを応援しますね」
「戦争を止めたいなら、セナが直接戦えば止められるんじゃないの?」
「止められますけど、それはつまり戦争の行方を私が握るってことですよね。そこまでの責任は持てません。だから、人間同士の戦争には首を突っ込まない。アルデンヌでの戦いの後、そう決めたんです」
「……へぇ、そうなの」
「はい。だから、安心してください。私がゼス軍に入って、リーザスに侵攻するなんてとんでもないこと、絶対におきませんから!」
「────」
「そもそも、以前の腐った貴族どもならいざ知らず、ガンジー王とマジック王女はいい人なので──もちろん、リア女王の方が何倍もいい人ですけど! とにかく、あの二人が侵略戦争することはないと思うので安心してください!」
リーザス陣営は一様に一瞬思考停止した。セナは先ほどの質問の意図を、リアがセナの軍事投入を恐れてしていると解釈している。言動を聞くにそれは間違いない。
だがそれは前提が間違っている。そもそも、リーザスは今回ゼスに侵攻してきた側なのだ。ランスの一言によって、侵攻軍は援軍へと変わったが、それでも本質的には侵略者なのである。
おそらく、セナはランス達からここら辺の事情を何も聞いていない。公的に発表された援軍としてのリーザスしか知らないのだ。
そんな勘違いもあり、セナは以前から持っていたリアへの尊敬の念を益々強くした。
つまり、いまリアの目の前にいるのは、国一つ対等に戦うだけの戦力を有しながら、ただ純粋に自分を崇める一人の美しい女だということだ。
リアの背筋に粘ついた興奮が迸った。思考が恐ろしい速度で回転し、記憶の中から自分の目的のためのカギを探し当てる。
それはリーザス軍とグリーン隊が合流した頃の話だ。リアとランスの間でセナの話題が出たとき、ランスは確かにこう言った。
『ぐふふ、セナちゃんとはお楽しみが待っているからな』
そのわずかな記憶から、リアは言葉を組み立てる。
それから三十分程度、この世界で最も権謀術数に長けた女王による、人類最強への誘導が行われた。あまりに鮮やかなその手口は、侍女のマリスすら、その工程が三分の二を過ぎるまで察することが出来なかった。
なんという頭脳。なんという執念。
気が付けば、以前ランスとセナの間に交わされた恥ずかしい約束。その中に、影も形もいなかったはずのリアが滑り込んでいた。
すべては己の欲望を満たすため。ただそれだけ。
二日後、セナは朦朧と語る。
「ほ、本当にわんわんになっちゃうかと思った……」
トリコの三虎みたいになったリア「私のフルコースを教えてやろう」
前菜 ダーリンとの出会い
スープ ダーリンとのセックス
魚料理 無自覚誘い受け最強女戦士
肉料理 ダーリンのキス
メインディッシュ ダーリンの笑い顔
サラダ ダーリンの声
デザート ダーリンの戦う姿
ドリンク リーザスの繁栄