くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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ゼス崩壊のエンディング

 ありとあらゆることがひと段落すると、ゼスはこの度の戦争を乗り切った記念として、式典を催すことを決めた。驚くべきは、なんとその式典の中に、ランスとマジックの結婚式が含まれていることだ。

 

 いつの間に二人はそんな関係になったのだろうか。セナは驚いた。だが、ランスのことだ、そんな展開になっても不思議ではない。

 もっとも、セナにはこの式典のオチが何となく見えているが。

 

 セナ自身はこの式典には出ないことにした。ゼス側もそれを認めてくれているので後腐れない。またセナ以外にもこの式典に出席しない者は多かった。

 例えば、アリオスとニーナ。彼らはこれから平穏無事な人生を過ごすために、式典のような公の場に出ることは望まなかった。

 またパットンも欠席だ。逃亡中の元王子が他国で表彰されるなんて馬鹿な話だろ、と言ってさっさと武者修行に戻ってしまった。まだゼスには居るだろうが、ラグナロックアークからは出て行ってしまっている。

 悪魔が表彰されるわけにもいかないとのことで、ダークランスとフェリスも出席はしないことになった。

 

 多くの功労者が出席しない式典になるだろうが、それでも重要な区切りとなることは明らかだった。

 ゼスは変わるのだ。一級市民と二級市民という絶望的な階級制度を撤廃し、すべての国民が平等であることを目指す国へ。

 素晴らしいことだと思う。だが悶々とした気持ちが完全に晴れることはなかった。

 

 そんなセナのもとにアリオスはやってきた。式典が始まる前に、ニーナと共に国境近くの村へ帰るのだという。

 

「騒がしくなるだろうからね。ここらでお役御免さ」

「出店も出るらしいし、もうちょっといればいいのに」

「割とここじゃあ有名人だからな。俺はともかくニーナに面倒が及ぶのはごめんだ」

「確かに。いい判断だわ。ニーナちゃんは素敵な旦那さんがいて幸せね。しかも、元勇者」

「当の本人からは勇者っぽくないとか、大工の方が向いてるとか言われてるけどね」

「……大工なの今?」

「身重の嫁さんほっぽって、冒険に行くわけにも──」

「──身重!!?」

「あ、しまった」

 

 衝撃的な言葉への追及にやられたアリオスは、事情をしぶしぶ語った。ニーナが心配をかけないように口止めしていたらしい。もしセナが先んじてこのことを知っていたら、益々過保護になったのは確実なため、正しい推察だったと言える。

 

「アリオスくんが父親……あの女ったらしのアリオスくんが……。ランスくんも父親だし……べ、ベビーブーム?」

「意味あってるのかそれ?」

「女たらしと言えば──」

「──なにで思い出してるんだ」

「コーラくんはどうしてるか、知ってる?」

 

 明らかにアリオスの表情が強張る。

 しまった。セナは後悔した。そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに。

 

「コーラとは俺が魔王を逃がしてからそれっきりだ」

 

 そういうことがあったのはすでに聞いていた。しかし、その詳細までは知らない。アリオスが話そうとしなかったからだ。だが今日は違うようだった。

 

「俺が魔王を殺さないと言ったら、怒って呆れて、そのまま行ってしまった。エスクードソードすら回収しないでな」

「逃がしたって、わざと逃がしたの?」

「……ああ、俺にはあの子を魔王だと思うことは出来なかった。あの子はただの……女の子だったんだよ」

 

 アリオスはセナと別れた後、勇者として行動した。世界を守るために戦い続け、ついに魔王リトルプリンセス──あるいは来水美樹を見つけ出した。魔王の力を不本意に与えられた美樹は、剣を構えるアリオスを見て、抵抗するでもなく、ただ怯え蹲った。

 それでも、はじめアリオスは殺すつもりだった。それが世界を守る勇者としての覚悟だ。

 だが最後の瞬間、美樹は、魔王は言った。

 

『おうちに帰りたい』

 

 アリオスは剣を振り下ろせなかった。

 殺そうとした魔王が、諦めた仲間と被った。

 セナは必死に隠していたが、アリオスは気づいていた。セナが故郷に帰りたがっていることに。そうすることを恐れていたが心からの願望であることは間違いなかった。

 

 時間が切れるよりも早く、勇者は勇者でなくなってしまった。

 そして、魔王は少女のまま、どこか遠くへ逃げていった。

 

 見逃したことを後悔することがないわけではない。しかし、あの時魔王を殺していたら、自分は再びセナとこうして話せてはいないだろうという確信はあった。

 

「それじゃあ」黄昏るアリオスを呼び戻すようにセナが言う。「私たちはお互い魔人も魔王も逃がしちゃったわけだ」

「……ああ、勇者一行としては失格だな」

「────何を言うか」

 

 突然、ミラクルが話に入り込んできたので、二人は大いに驚いた。いつの間に近くにいたのかさえも気が付かなかった。

 そんな二人を置いておいて、ミラクルは好き勝手に話を続ける。

 

「勇者の力を失いながら、それでも誰かのために立ち上がった者が勇気ある者でないはずがない。ゆえにお前はザ・ブレイブ(比類なき勇者)なのだ。余のトゥエルブナイトであるなら、ちゃんと胸を張るがいい」

「……ありがとう、ミラクル。トゥエルブナイトじゃないけど、励ましてくれてるのはわかるよ」

「そしてお前もだぞ、ソードダンサー。お互いの死者を最も少なく解決したあの素晴らしき終わりを、卑下するような言い方はよせ。トゥエルブナイトに入りたいのならば、自分のやったことは正しかったと堂々と宣言できるくらいにはなることだな」

「……わかった。頑張るね。ありがとう、ミラクルちゃん」

「しかし、嘆かわしいことだ。故郷を同じくする余の優秀な配下が揃って、故郷を嫌っているとは……好悪は個人の自由であるが、余としてはお前たちにこの国を好きになってもらいたいところだ」

 

 いずれ世界の覇者たる余のものになる国だからな。ミラクルはそう言って、またも突然立ち去った。本当にめちゃくちゃな女だ。セナはそのめちゃくちゃさが好きだったが。

 

 アリオスはというと、ミラクルに言われたことについて考えていた。自分がゼスを嫌っている。言われてみればその通りだ。セナが受けた仕打ちを、あるいは自分が幼少に受けた差別を、なによりニーナが味わった記憶を無くすほどの何かを思うと、(はらわた)が煮えくり返る。

 自分はこの国が嫌いだったのだ。だが嫌い続けなければいけない義務はない。

 

「相変わらずわからないなミラクルは」アリオスが言った。「まぁともかく、そろそろ俺はニーナと村に帰るよ」

「……ええ、気を付けて。まだ魔軍の残党がいるかもしれないから」

「ありがとう……俺たちはよっぽどのことがなければ、ずっと同じ村に住んでるからさ……また暇が出来たら、顔を出してくれ」

「…………うん」

「何もない……多分いまは壊されてさらに何もなくなってる村だけどさ。次来る頃までにはもっとよくなってるはずだから」

「……アリオスくんが建てた家もあって?」

「そうだ。そうだよ。俺がどれだけ腕のいい大工か教えてやる。だからさ……またな、セナ」

「……うん。またね、アリオスくん」

 

 こうして、セナは再び勇者と別れた。

 次に会う時は、穏やかな日差しの中であることを願いながら、アリオスの背中を見送った。

 

 

 〇

 

 

 式典の日、セナは出店を回るのもそこそこに、たまたま見かけたランスを尾行することに夢中になっていた。

 セナの予想が正しければ、きっとランスは宮殿には向かわないだろう。

 

 そう思いながら、セナは街の中を歩く。すると自分と同じようにランスを尾行している人物がいることに気が付いた。

 コパンドン・ドット。グリーン隊の一員であり、あまり関わりはなかったものの──何となくセナは彼女から邪見に扱われている──仲間の一人だ。

 

「コパンドンさんなにしてるの?」何気なく追いついたセナが声をかける。

「──! あっぶな、大声出すところやった。いきなり話しかけんともらえます? びっくりするやんか」

「ごめんなさい……」

「まぁええわ。見てわからん? ランスを追っかけてんのや。ありゃあ、この国を出る気で間違いないな」

「ですよね。いやぁすっぽかすだろうなとは思ったけど、当日ドタキャンとは」

「なんや、あんたも同じ考えかいな。かなわんわ。あんたうるさくて付いていくのバレてまうやん」

「え、付いてくつもりなんですか?」

「当たり前やん。ランスはうちの大吉くんやで。あんたは違うの?」

「私はただお別れを言おうかと。前一緒に冒険したときはちゃんと言えなかったし」

「ふーん」

「コパンドンさんは隠れて付いてくつもりなんですか?」

「……悪いかいな。どーせ、ランスは付いてくって言っても、嫌だ言うて連れてってくれんもん」

「いやぁ、そんなことないでしょ。コパンドンさん美人だし」

「あんたなぁ、自分よりタッパも胸もあるやつに言われて真に受けると思うんか、その言葉」

「胸は私も普通だし……それにランスくんは美女しか好きじゃないから、仲良くできてる時点で美女扱いでしょ」

「あんたそれ自分も美女や言うてるのん?」

「見た目、気を使ってますから。ダンスのために」

 

 イエイとピースサインをするセナに、コパンドンは呆れた。こういうお気楽女は自分のようなタイプには相性が悪い。うじうじしていたアイスフレームの頃はまだやりようもあったが、戦後吹っ切れてからはどうにもならない。

 

 美人で強くて明るいなんて、むかつくわ~。

 

 実のところ、セナはコパンドンから発せられる敵意と悪意を感じている。しかし、かつて嫌味だらけの厭世家と冒険していた経験のおかげで物怖じすることはない。

 意地悪な人には──決して悪い人にではない──お節介で返す。効果のほどは微妙だが、それがセナの処世術だった。

 

「よし、いくか」小さく息を吐いてから、セナが言う。

「はぁ?」

「おーい!! ランスくーん!!」

「ちょっと!!?」

 

 セナがぶんぶんと手を振るので、声をかけられたランスはすぐに気が付いた。

 

「おお、セナちゃん! それにコパンドン! なにをしとるんだ?」

「いや、ブラブラしてたら、ランスくんを見つけたからね。なにしてるの?」

「おう、そろそろ次の冒険に行くのだ。……うし車は手に入れたからこっそりな」

「ま、そんな感じかと思ったよ。しかし、大胆だね。式典の主役がバックレなんて」

「……式典?」

「え」

「もしかして、ランス今日式典あるの忘れとった?」

「……あー、あったなそんなん」

「いやいやいや、マジック王女と結婚するって話でしょ? 忘れてるって……」

「俺様は一人の女に縛られるタイプではない!」

「……まぁ、そうだね。結婚はしないだろうなぁっと思ってたけど、忘れてるかー」

 

 さすがにセナはマジックが気の毒になった。一方でコパンドンはうししと笑いをかみ殺した。

 

 そのまま三人はシィルが待つ、うし車へと向かった。途中、雑談のように探りを入れて、ランスがjapanに行くこと、別にコパンドンが付いて行っても気にしないことを引き出した。

 

「なんや余裕やないか。戦いでは逆立ちしても勝てんけど、ランスの一番になる勝負ではライバルなんやで」

「確かに……いや、ランスくんは好き……だいぶ好きだけど」

「なんや、本命がいるんか?」

「そういうわけじゃ。ただランスくんの奥さんってこう、二十人くらいになりそうだから、一番とかないんじゃない?」

「それは、そんな気もするけど、あんたそれでええんかい」

「お妾さんって普通じゃない?」

「い、意外な感性……そういや、元貴族で現冒険者やったな。破廉恥な奴や」

「破廉恥!?」

「ま、今回のことは感謝しとくわ」

「は、破廉恥……」

 

 セナは言われたことを反芻しながらも、コパンドンからの敵意が減ったこと感じていた。

 

 うし車に到着すると、シィルが三人を──ランス以外が来ることは予想してなかったが──出迎える。「シィルちゃん師匠~!」といつものようにセナはシィルに抱き着いた。

 それから、くだらないことを話しているうちに、ランス達は出発の準備を終えた。

 

「じゃあね、みんな。気を付けて」

「なんだ? セナちゃんは来ないのか?」

「…………うん、行かない。まだちょっとだけ、やり残したことがあるの」

「そうか。俺様が恋しくなったら、いつでもjapanに来るがいい!」

「ありがとう、ランスくん。次はもっと楽しい冒険を」

「おう」

「コパンドンさんも気を付けて。japanはゼスよりはマシだろうけど、内乱が続く国だって聞いてるから」

「はいはい。おーきに」

「シィルちゃん師匠……シィルちゃん師匠~!!」

「わわわ!」

 

 セナはシィルに再び抱き着いた。

 

「うー! 寂しー! 行かないでー!」ぐりぐりと額を押し付けながら、セナが騒いだ。

「おい、なんか俺様との別れよりも惜しんでないか」

「……シィルちゃん師匠ー!!」

「おい」

 

 しばらく騒がしくした後、ようやくセナがシィルから離れた。

 

「よし。これでシィルちゃん師匠分を溜め込めたわ。しばらくは平気」

「あほだなー、セナちゃん」

「ランスくんにもおすすめ」

「や、やりますか? ランス様」

「やるか!」

「それじゃあ、みんな元気でね」

「続けるんか? さっきの痴態はなかったことになったんか? 結構な戦いの終わりやで? もうちょっと情緒ってもんないんかい」

「だってまた会うだろうし。お互い冒険者だからさ。どっかの冒険でまた、ね」

 

 この言葉は半分嘘だった。本当は冒険でなくても、ランスとはまた会えると思っていた。あの日、ノミコンに飲まれた自分のもとに来てくれたように。心から助けを求めたとき、ランスはきっと来てくれる。

 だが、それを口にするのは、セナでさえ気恥ずかしかった。

 

 そうして、ランス達を乗せたうし車は去っていく。

 その姿が見えなくなるまで、セナはずっと見つめていた。




本当はアイスフレームに居た頃にコパンドンと仲良くなるイベントを書いていましたが、いろいろあってなくなりました。
コパンドンは5の時から好きなキャラです。公式で性格ブスと明言されているところもいいですね。
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