くじらとダンスは踊れない   作:勇気生命体

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時系列的に戦国ランスの裏で起こってる話です。
本日連続で4話更新してます。これは1話目。


ミリ
帰路


 ゼスから一人で帰ろうとすれば、また何か月も迷子になることは明白だ。

 そんなには時間をかけたくない。だから、セナはマリアと志津香と共にカスタムへ向かうことにした。結局これが一番確実な方法である。

 

 しかし、確実だからと言って、その道中が楽なものとは限らない。

 なんといっても移動は基本うし車だ。変に揺れるし乗り心地は最悪。仕方がないのでうし車の後ろを走ってみても、せいぜいペースについていけるのは二時間くらいなので、移動時間のほとんどは気持ち悪さと戦うしかなかった。

 

 救いがあるとすれば、適宜うしを休ませる必要があり、その時だけは揺れない地面でゆっくりできることだった。

 

「どーして、いつまでたっても慣れないのかしら……?」セナが原っぱで仰向けになりながら言った。「お料理も、お掃除も、冒険道具も、作戦立案も、最近ちょっとずつ苦手じゃなくなってきたのに。どーして、うし車は慣れないの? ちょくちょく乗ってるのに」

「体質なんでしょ」志津香がにべもなく言う。

「ミルちゃんの酔い止めも残り少なくなってきたしね。対策を考えないと……」マリアが真剣に言った。

「わかった。後二時間長く走れるようになるわ。これで解決」

「へー。頑張って」

「…………」

「もう! ツッコんでくれてもいいんじゃない? 無理よ、無理! どう頑張っても四時間走り続けるのは無理!」

「いや、意外とセナちゃんなら行けるのかなーって……」

「もっと心がキュッとしてる時ならまだしも、いまはゆるゆるだから無理よ。それに死ぬ気で走り続けると、ものすごくおなかがすくからやりたくないわ」

「……前、ミルと一緒にラジールまで走ってきたことあったね。あの時もすごい食べっぷりだった」

「ただでさえ、よく食べるのに? セナ、食べるのはいいけど、私たちの分を取らないでよ」

「と、取らないわよ! うん……取らない」

「なんで言い淀むのよ」

 

 セナ、マリア、志津香の三人旅はこんな感じで穏やかに進んでいた。若く年の近い三人の女達。姦しいという言葉そのままに帰路を急ぐ。

 

 その日は何とか宿のある町にたどり着いた。もうかなり夜更けのことである。町に一つしかない宿には運よく一部屋空きがあった。

 幸運を喜びながら食事を取った。部屋に戻ってから体を清め、後は眠りにつくまでとりとめのない会話を続けるだけになった頃に、宿の小間使いが部屋の扉をノックした。

 

「はーい」

「失礼します。セナ・ベリウール様はいらっしゃいますか?」

「はい、私ですよ」

「受付に伝言が届いております」

「伝言? 誰からかしら……?」セナは首を傾げる。

「お名前はわかりませんで。ですが格好から考えるにAL教の方でした」

 

 セルちゃんかな?

 そう思いながら小間使いについて受付に向かった。伝言の内容は実に単純なもので、町の教会まで来てほしいというものだった。ただ送り主は知らない名前だった。

 クルックー・モフス。

 本当に心当たりがない。そもそも、教会なんてほとんど行ったことがないし、信徒であったこともない。どうして自分が名前も知らないAL教の人間から呼び出されているのか、皆目見当がつかなかった。

 

 それでも、呼び出しに答えてしまうのがセナという女だ。もちろん剣は帯びていく。それだけで大抵の危険は切り抜けられる。

 

 古びた──しかし、清掃の行き届いた教会にセナはやってきた。若いシスターに案内されるまま奥の部屋に通される。そのシスターの緊張した態度から、どうやらクルックーなる人物が随分大物であることが察せられた。

 セナも少しずつ緊張してきていたが、実際にその姿を見るとその緊張が一気にほどけた。

 

「どうも」

「こ、こんにちは」

 

 女の子だ。背の低い。かわいい女の子。おそらく自分と同年代か、少し下の女の子がセナの目の前に立っていた。

 

「クルックー・モフスです。AL教で司教をしています。セナ・ベリウールさんで間違いないですか?」

「あ、はい。セナ・ベリウールです……クルックー司教様? よろしくお願いします」

「…………」

「……ええっと」

 

 独特なテンポの人だわ。セナは戸惑う。

 

「封印とかって、されるつもりはありますか?」

「え? 封印? なにを……? 私を?」

「はい」

「な、ないです……」

「そうですか。では、人類皆殺しなどは?」

「あるわけないじゃないですか!」

「そうですか。それなら大丈夫です。本日はありがとうございました」

 

 クルックーはそう言うと踵を返そうとした。

 さすがのセナも慌てて止める。

 

「待って!? 待ってください!? クルックー司教様、もう少し説明してもらってもいいですか!?」

「……?」

「きょとんとしないでください! さすがにいきなり呼ばれてこれだけっていうのは! せめてさっきの質問の意図を教えてください!」

 

 クルックーの見た目のせいか、まるで近所の女の子に言うような質問を投げかける。投げかけられた方は特に思うところもなさそうに、少し考えた後に返答した。

 

「そのままの意味ですが?」

「クルックー司教様は私を封印したいってことですか?」

「はい」

「ええ……」

 

 セナは困惑した。どうしてAL教の司教様──なんて言ったって、法王の次に偉い人だ──が自分を封印したいと思うのか。まるで心当たりがない。自分で言うのもなんだが、割と人類に貢献してきた方だと思っているのだが。

 またそんなことを言うクルックーから、ほんの一握りの敵意や悪意を感じられないことも困惑に拍車をかけた。彼女は自然体、あるいはぼーっとしてるように見えた。よくわからないけどかわいい。それ以外の感想は出てこないほどだ。

 

「どうして、クルックー司教様は私を封印したいんですか?」

「あなたがバランスブレイカーだからですね」

「え?」

 

 予想していなかった返答に、セナは固まる。

 バランスブレイカーという言葉には聞き覚えがあった。あの戦争の折、アベルト・セフティがセナをそう呼んだ。そのことを知る人間はただ一人もいないはずだ。

 

「……その、バランスブレイカーって言うのはなんなの?」セナは無意識に語気を強めながら言った。

「世界のバランスを乱す可能性のある存在です。セナさんの場合はその強さが問題視されています」

「誰に? AL教全体に?」

「AL教上層部ですね。司教以上の立場の者からでしょうか。バランスブレイカー自体が一般信徒には公開されない情報ですから」

「……そう」

 

 セナは少なくとも友人が自身の封印を望んでいるわけではなさそうなことに安堵する。

 

「AL教はこんな風に……バランスブレイカーを封印してるの?」

「適宜ですね。危険が少ないものは監視に留めています」

「……私は危険だと?」

「人類皆殺ししないなら、問題ないかと」

 

 セナは額に指をあてて考える。バランスブレイカーがAL教の用語だったことには驚いたが、人類側から危険な存在として認知されることには納得していた。自分が正気を失っていた時期やノミコンに操られていた時期を考えると仕方がない。

 

 そうやって冷静になると、今度はクルックーに対する疑問が生まれてきた。

 

「……クルックー司教様。答えてもらってなんですけど、さっきの話、私にしちゃってよかったんですか?」

「? 聞かれたので」

「…………きっと押し付けられたんだわ」セナの口から考えが漏れ出す。「そんな危険な奴にこんな危ない宣告をする仕事。クルックーちゃん素直なタイプだから、押し付けられたんだわ。なんて可哀そうなの。一歩間違えれば、攻撃されてもおかしくない仕事。ちょっとがっくり来たけど、こんな可愛い子にあたるなんて駄目よ、セナ。不満は飲み込んで、しっかりしなさい」

「…………」クルックーはすべて聞こえた上で黙ったままだ。

「……わかりました。クルックー司教様。封印される気はありませんが、人類皆殺しなんてとんでもないことしないことは、ここに約束させていただきます」

「助かります」

 

 セナとクルックーは握手を交わした。セナは彼女を独特なテンポの人間だと評したが、クルックーの方もセナを変わり者だと思った。

 ただどちらもお互いを善人であるとは理解する。

 

「封印の方も気が向いたら、ぜひ」

「向かないと思います」

 

 

 〇

 

 

 教会でバランスブレイカーの話を聞いた後も、セナ達は変わらずカスタムを目指した。

 あの日、宿に戻ってきたセナに対して、マリアと志津香は軽く何の用事だったか聞いただけだった。セナは問いかけをはぐらかしたが、それ以上の追及はなし。

 セナが内心の落ち込みを隠せるようなタイプだったら、こうはいかなかっただろう。それくらい、セナの雰囲気は教会から帰った後も変わらず明るいものだった。

 

 良い方に変わらないものもあれば、悪い方に変わらないものもある。

 うし車はその最たるものだ。今日も今日とて、セナは荷車の揺れに苦しめられている。

 

 もう限界だ。そんな風に思い始めたちょうどその時、うし車が止まった。セナはその瞬間まで感じていた気分の悪さが吹っ飛んだような気がして、外に飛び出す。

 カスタムだ。間違いなくカスタムだ。

 町並みに目をやるセナの姿に、うしの手綱を握っていた志津香は目を細めた。

 

「それじゃあ、私とマリアはうし車を返してくるから、セナは先にあいつらのところ行ってていいわよ」

「え。いや、私も──」

「──いいから、いいから」荷台から降りてきたマリアがセナの言葉を遮る。「セナちゃんは先に行ってて」

「ひとりで行けるわよね?」

「行けるわよ! ちょっとの間だけど、住んでたんだから!」

「じゃあ、さっさと行って」

 

 急かすようにうし車は町の中へと消えていく。セナはそれを見送ってから歩き始める。

 カスタムの町はもうかつての戦禍など欠片も見受けられなかった。建て直されて新しくなった家々が並んでいる。塗りたてのペンキが日の光を反射して道に彩を分けている。そのせいで以前とは全然違う道のようにも思えた。

 

 それでも迷うことなくまっすぐ進んでいく。

 時たま知った顔がセナを見て驚いた表情を浮かべた。彼らはすぐに笑顔で手を振ってセナに声をかけてくれた。

 セナはそれに答える。だが足は止まらない。むしろ少しずつ速くなっていく。期待の鼓動と同じくらい速く。

 

 そうやって心臓ごと速足になっていたせいか、薬屋にたどり着くころには少しだけ汗ばんでいた。新しいペンキの匂いに交じって懐かしい香りが鼻をくすぐる。

 

 店の扉に触れた瞬間、数日前の教会での出来事が脳裏をよぎった。バランスブレイカー。世界の均衡をもたらす存在。それは平和なこの町に居てもいいものなのだろうか。

 それでも欲求に抗えず、セナは扉を開いた。

 

「いらっしゃ────」紫の瞳が揺れる。「────……なんだよ。手紙の一つも寄こさないもんだから、オレのことなんか忘れたのかと思ったぜ」

「────手紙なんて、書いても読まないくせに」

 

 セナは扉から店に入り、ミリへ歩み寄った。またミリもカウンターから立ち上がり、セナへ歩み寄った。

 二人は再会の抱擁を交わす。お互いの熱が伝わり、心臓の音が聞こえた。

 

「心配したよ。これはほんとだ。元気そうでよかった」ミリが言った。

「……会えてうれしいわ」言葉に出来たのはそれだけだった。

「オレもだ。おかえり、セナ」

「────()()()()、ミリ」




マリアと志津香はセナからミリへの探りを、
ミリからセナへの探りを入れられているので、
さっさと素直に連絡とれよと思っていました。
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