カスタム防衛戦から数時間後。カスタム防衛軍兼自由都市地帯解放軍の指令室には主要なメンバーが集められていた。
その中にはつい先ほど悪魔の洞窟というダンジョンを抜けてカスタムにたどり着いたランス一行も混じっている。まったく別件でカスタムの街に来たランス達だったが、セナと同じく偶然マリアと会ったことで、この指令室までやってきた。
だがセナの姿は見えない。
解放軍とランス一行はお互いの状況を説明し合った。そして、ランスはにべもなく状況は絶望的と言い放つ。
味方の数が少なすぎる。いつかはヘルマン軍に自由都市地帯は占拠されてしまうだろう。そんな風に。
薄々自分たちでも思っていただけにマリア達にとっては聞きたくない言葉だ。唯一の希望はセナの存在だったが、あの表情を見てしまっては彼女に縋るのは気が引けた。
ランスはラジールを奪い返すために自分を解放軍に参加させることを提案する。そうすれば勝てる──ランスは本気でそう思っている──という言葉には、妙な説得力があった。
様々な反対意見──志津香が九割、ランが一割──あったものの、結局は司令官であるマリアがこの提案を受け、ランス一行はラジール奪還に協力することになるのだった。
「それにしても、よくこれだけの戦力差がある中で二〇〇人も生き残りがいるもんだ。まったく幸運もいいとこだな」
「それに関しては心強い協力者がいたから」マリアが言った。
「マリア!」志津香が鋭く言う。
「あ」
「なんだ? 俺様に知られちゃまずいのか? むむむ、気に食わん! マリア! その協力者とやらについて教えろ!」
「えーと……」
マリアは志津香の方をちらりと見る。だが彼女は帽子を深くかぶり直し、首を振っている。
「セナ・ベリウールだよ。お前は知らないかもしれないが、最強の冒険者さ」ミリがさらりと言った。
知らん、美人か? きっとランスはそう言うだろうと解放軍の面々は思った。しかし、意外にも声を上げたのはシィルだ。
「え!? セナさんがですか!?」
「シィルちゃん、セナさんと知り合いなの!?」マリアも驚く。
「少し前に一緒に冒険したんです。その時は色々あってお別れも言えず……まさか、先にカスタムについてたなんて……」
「おお! セナちゃんがいるのか!」
「すごい活躍だったのよ。魔法は信じられないほど連射するし、剣で戦えばダンスみたいにすごい綺麗なのにすっごく強いの!」
「うむうむ。セナちゃんがいるなら心強い。さっそく俺様が直々に迎えに行ってやろう! 案内しろ、マリア」
「あっ」マリアが詰まったように声を出す。
「いいや」ミリが口を開いた。「今は行かない方がいいな」
「なぜだ?」
「
ほんの一瞬、指令室を沈黙が覆った。
「ま、まさかミリあんた!」さすがの志津香も少し狼狽した様子で言った。
「カ、カスタムの恩人に手を出したんですか!?」ランも慌てて言う。
「うぎぎぎ、ミリ! セナちゃんは俺様が最初に目をつけていたんだぞー!」
「なんだよ、ランス。落ち込んだ美女を口説けるのは最初に寝室に入った奴だけだぜ」
ぎゃーぎゃーと指令室が騒がしくなる。その中でマリアは考えていた。
そして、バンっと机をたたいて指令室を再び静まり返らせる。
「そう怒るなよ、マリア。セナには人肌が必要だったのさ」ミリが冗談っぽく言った。
「そこは、まぁ、ちょっとどうかと思うけど、そこじゃないわ」マリアがランスを見た。「ランス、セナさんは今回のラジール奪還作戦には参加させないで」
「なに? なぜだ?」
「それは……あの人はこれ以上ヘルマン軍と戦うべきじゃないと思うから」
「はぁ? 馬鹿か。ただでさえ俺様以外しょぼい戦力しかいないのに、戦える奴減らしてどうする」
「わかってる。でも、彼女とはカスタムの防衛をしてもらうって契約を交わしてるから」
「そんなもん。防衛のために敵の元をつぶすからとでもいえばいいだろう」
「ランス。お願い」
「………………ふん、まぁいい。どうせ、セナちゃんは俺様の作戦には必要ないからな。ここで守りを固めてくれた方がマシだろう」
「ありがとう、ランス」
「ま、それはそれとしてご挨拶せねばならんがな! がははははは! 案内しろ!」
ランスは上機嫌で部屋を出ていく。志津香は何か言おうと思ったが、まぁランスじゃ彼女のことは襲えないかと考え直して、何も言わなかった。
〇
「ごめんね、ランスくん。せっかく再会できたのに、こんなことになって……」
セナは突然自分の部屋に忍び込んできたランスに対して、粘着地面で足止めし、雷の矢でしびれさせた。
それによりランスは思いっきり地面とキスする羽目になり、何とか息は出来るが口もまともに開かない状態だ。驚くべきことに彼女は一連の動作をほとんど眠ったまま行った。
「むぐー!」ランスが何か言う。
「いままでこんなことなかったんだけど……私を殺そうとか攻撃しようとか思って近づいてきた人にはやってたけど……なぜだか、いまはランスくんのエッチないたずらしてやろうって雰囲気にも反応しちゃったみたいで」
「オレとやったから敏感に──」
「──ふん!」
「ぐえっ!」
セナが素足の蹴り一発でミリをノックアウトする。倒れたせいで粘着地面でくっついた。
それ以外の面子は真っ赤な顔でそんな光景を生み出したセナを、苦笑いしながら見ていた。
「えーと、とりあえず、シャワー浴びるから外でちょっと待っててくれる?」セナが照れを誤魔化すように言う。
「あ、はい」シィルが答えた。
「ミリとランスくんは特別にここで音を聞いててもいいよ。好きでしょ? エッチだもんね」
「むがー!」
「あ、すごい。ランス達が触れてる部分以外の地面は戻ってる。すごい正確性」志津香が感心する。
「速度と精密さが私の売りなのです。それじゃ失礼します」
ランスとミリが粘着地面から解放されたのは、セナがことの顛末をすっかりマリアから教えてもらった後だった。
「なるほど、みんなはこれからラジールに行くのね。うん、ごめん、多分私は無理。気分はだいぶ良くなったけど、自分からヘルマン軍に攻めにいけるほどじゃない。ごめんなさい」
「いいんです。セナさん。元々、街の防衛だけってお話でしたから」マリアが答える。
「本当にごめんなさいね」
「うぎぎぎぎ」ランスが唸る。
「連れて行かないことにはあんたも同意してたはずでしょ?」
「あんなエッチな恰好してると知ってるなら連れて行かんなどと言わんかった!」
「お、ランスくんわかる? この服はね。実は結構有名な舞台劇の踊り子の服をモチーフにしてるみたいで。すごくかわいくて煽情的なんだよ。なかなかお目が高いね」
ふふん、自慢げに服を見せびらかすセナに、カスタムの面々は胸をなでおろす。限界ギリギリみたいな状態は切り抜けたようだった。
踊り子について楽しそうに話す彼女は、戦いが始まる前に見た時よりも軽やかな笑顔を浮かべている。
一方、ランスは『む、ミリに抱かれたからか、何だかセナちゃんの警戒心が薄いぞ。ぐふふ、これはチャーンス』と思った。
「おお、わかるわかるぞ。それは素晴らしいものだ! このスケスケのベールがたくさんついてるのが特にぐっどだ」
「うんうん。踊り子にベールは付き物だからね。視覚的に楽しいし。ひらひら動くものはダンスのメリハリも良くしてくれる」
「うーんいいぞ。だがもっといい使い方をだな、俺様が──」
「──あ、結構です」
「なぜじゃー!」
「ランスくん、私は学びました」ちらりとセナはミリの方を見る。「エッチな人たちはいいこと言うし、頼もしいけど、エッチなので隙を見せちゃいけない! 提案は基本、却下前提で行かせてもらいます!」
その場にいたランスとミリ以外の全員が同意する考えだった。
「うぐぐぐ、ミリ! お前のせいだぞ!」
ランスに睨まれたミリは肩をすくめる。
「でも」セナが言った。「無事に帰ってきたら、とっておきの踊りを見せてあげる。私の踊りは中々だよ。劇団にスカウトされたこともある」
一緒に行けないことに対する罪悪感も含まれた笑顔だった。
「踊りよりもセッ──」
「──てい」
「ぬわ」
間違いなく天才であるランスすら避けられない手刀がぽふりとランスの頭に刺さる。
無駄に技術を使った究極のじゃれ合いである。
セナは基本同い年以下だとちゃんorくんで人を呼びます。
依頼主扱いなのでカスタムの面々はさん付けで呼びますが、ミリはミリです。
一回寝ると情が移りすぎるタイプなのです。