「きゃああああ!!!??」
セピアの叫び声がキースギルドに木霊する。ギルド内にいた冒険者たちは一斉に声の方を見る。そこにいたのが倒れたセピアとなんだか大汗をかいているランスだったので、すぐに顔を背けた。
ランスはセピアにとってトラウマの相手──リーザス侵攻時にひどい拷問を受けた。しかもランスは忘れている──で、彼といきなり顔を合わせると気絶する。そのことは割とよく知られているし、そもそもランスに関わりたくない者がほとんどなので無視を決め込んだのだ。
唯一反応したのが、受付で仕事をしていたセナである。カウンターから顔を出しながら「ランスくんまた────」
「────うおおおおお!!! セナちゃん!!!!」
軽く挨拶しようとしただけなのに、ランスが大慌てで走り寄ってきたので、セナは驚いた。カウンターを挟んでキスをしそうなほどの距離に二人は接近する。
「ど、どうしたの────」
「セックスだ!! 今すぐセックスするぞ!!!」
「はぁ!?」
セナに何も説明しないまま、ズボンを脱ぎだしたランス。かつてのセナならば、その勢いのままに流されてしまっていただろう。
しかし、今では幹部候補のギルド職員セナ・ベリウールである。酸いも甘いも噛み分けた真面目に頑張るレディなのだ。
セナはこぶしを握り締めて振りぬいた。そのキレと言ったら、最近ぬるい戦いしかしていなかったランスには全く対処できないものだった。こぶしが顎に突き刺さり、その勢いのままランスは壁に吹っ飛んだ。
「仕事中です!! 時と場合があるよランスくん。大体私は最近は……」
「せ、セックス……」がくっとランスは気絶した。
「ああ、もうなんなのよ……鈴女ちゃんどういうことか教えてくれる?」
セナが虚空に向かってそう話しかけると、隠形を解いて鈴女が現れる。周りの人間はぎょっとしたが、やはりいつものことなのですぐに受け入れた。
「うーん……どこから話せばいいのやら……」鈴女がうんうんと唸る。
「出来るだけ最初からお願い。ランスくんがこんな昼間から……は別にいつものことね。公衆の面前で……も普段通り。まぁ、とにかくあの必死さは異常よ。なにか訳があるんでしょう?」
セナの言葉に頷く鈴女は、カラーの森でランスにあったことを説明し始める。
シィルの呪いを解くために、呪いに詳しいカラーが住む村を探し当てたランス。ところがいつもの豪運と悪癖が炸裂する。
男子禁制の村に忍び込んだランスは奇跡的に最も呪いに長けた人物、つまりカラーの女王を発見した。彼女は何かしらの儀式の途中だったらしく、ぐっすり眠っていたらしい。
そんな無防備な美女をランスが放っておけるわけがない。当然、ランスは彼女を襲った。
目覚めた女王はこれまた当然のごとく怒り狂い、ランスに凄まじい呪いをかけた。
その名も禁欲モルルン。レベル35未満の相手としかセックスできなくなる呪いである。
「自業自得ね」ため息をついてランスを見る。「ランスくんにはいいお灸でしょう」
「……で、ござるな~」
「しばらくは反省しておとなしくすることね。無理矢理するのは悪いことです。冒険者みたいに何をされても自己責任の人ならともかくね」
セナの言葉に反応したのか。それとも、果てしない欲望によるものなのか、気絶していたランスがガバっと立ち上がる。
「セークッス!!」
「駄目です。反省して」
「ぐぎぎぎぎ、問答無用!!」
ランスは理性を無くしてセナに飛びかかるが、カウンターの平手打ちで再び壁に叩きつけられる。
それでもセックスパワーですぐに立ち上がった。
「何度やっても駄目だよ。まだ来るなら、もっと強めに叩くからね」
毅然とした態度を取るセナに対して、ようやくランスも頭を使い始めた。
どんな力押しでもセナを押し倒すことは不可能である。だが、力押しだけが取れる手段ではないことをランスは知っていた。
とぼとぼとランスはセナに向かっていく。そこに無理矢理押し倒そうなどの意思は感じられない。セナの絶対的な感覚がそう伝えるので、まったく警戒することなくランスをすぐそばまで迎え入れた。
どうするつもりだろう。ちらちらと様子を伺っている周囲も同じ気持ちでランスを見る。
するとランスは膝を地面につき、縋りつくようにセナに抱き着いた。予想もしていなかった行動にセナは驚き、されるがままになってしまう。
「頼む! セナちゃん、この通りだ! 俺様とセックスしてくれ!!」
「え。え! え……ランスくん? あ、えーと……」
ランスは彼女のことを理解していた。哀れっぽい表情を作りながら、心の中で思う。
セナちゃんは好意を持った人間──それも俺様みたいなものすごくかっこいい人間──の頼み事にものすごく弱いからな。強引な態度にはNoを突き付けられるようになったようが、こういうストレートなお願いにはむしろ以前よりも甘くなってると見たぞ!
ランスの考えは信じられないことに的中している。
セナの先ほどまでのピリッとした雰囲気は完全に霧散しており、頬は赤くなり視線は揺れている。自分を見上げるランスの顔にドキドキしている鼓動は、周りにいる冒険者たちにも聞こえるのではと思うほどだった。
「だ、だからね、ランスくん。私、仕事中だから……」
「仕事中じゃなければいいのか!? 今夜俺様とセックスしてくれるのか!?」
「え!? えーと……それは……」
「頼む!! セナちゃんしか頼れないのだ!! CITYにいるレベル35以上の女はセナちゃんだけだ!!」
非常によく言えば情熱的な誘いにセナは混乱した。ランスの腕の感触や香りを嗅いでいることも、その混乱に拍車をかける。
あと少しだ。ランスは顔には少しも出さずに心で笑った。
一度約束を取り付ければセナは絶対に約束を守るだろうし、そうなってしまえば、そのまましばらく関係が続くことも容易に想像できた。
最後の一押しに同情を引けそうな内容を言ってキメてやる。ランスは引き続き哀れっぽい表情で口を開く。
「頼む!! セナちゃんが助けてくれんと、俺様は……呪いでホモになってしまうのだ!!」
「あ、え。ホモになるだけなんだ」
「…………へ?」今度はランスが素っ頓狂な声を上げる番だった。
「男の人同士ではセックス出来るってことでしょ? それなら大丈夫じゃない! 死んじゃうとかならどうしようと思ってたけど、カラーの女王様って寛大なのね」
ランスは目を丸くしてセナを見る。彼女にはランスを揶揄ってやろうとかそういう意思は全くない。
セナには男同士だと駄目だとか、女同士だと駄目だとか。そういう感性がないのだ。だからこそ、本当に女王の寛大さに感心していた。
「あれ、でも知ってる王族の人、みんなランスくんには寛大だったかも……」
ぼやっと考えが口から出ているセナを尻目に、ランスは完全に固まっていた。
ホモになるくらいだったら問題ないからセックスしない。そんな意味合いが含まれている先ほどの言葉を咀嚼しきれずにいた。
ランスは希望を失った。ホモになった自分を想像してさらに絶望する。
女と寝られなければランスの人生に価値などないのだ。
魔王すら退けたことのある戦士は男と寝ている自分を考えただけで、あっさりと意識を手放した。
「え!? ラ、ランスくん!!? ランスく────ん!!!」
今度はセナの叫び声がキースギルドに木霊した。
両刀誘い受け人類最強女戦士、鬼畜戦士にある意味初白星――――!!