ラジール解放に向かったランス達を見送ってから、すでに数日が経過した。
戻ってきた伝令役曰く、ランス達は無事ラジールを取り戻したそうだ。
どうやら降伏するから軍門に下らせてくれ、なんて言いながらマリアを差し出すことで、ラジールに潜入し、内部からラジールを制圧したらしい。
そして、いまはレッドを奪還するための作戦行動中とのことだ。
あの戦力ですごい! ランスくんて思った以上にすごい人なのかも。
あの踊り子戦士が逃げ出したから勝ち目が無くなった、と言ったら簡単に信じてくれたという報告を受けた時は何とも言えない気持ちになったが、ランスの手腕にセナは素直に感心した。
一方でカスタムの街は意外にも平和そのものだ。何度かモンスターが近づいてきたことはあったものの、セナがいる以上もしもの事態すら起き得ない。
いまセナはミリの妹であるミルと二人で食事をとっている。場所はカスタムの武器屋。本来はミルの友達が店番をしてるのだが、いまは体調を崩してしまっているので、代わりにミルが店番をしている。
ランス達がカスタムを出て以降、セナはよくここに訪れた。
「いいのかな、こんなにまったりしてて」セナが湯呑を置いて言った。
「なんで?」ミルが言う。
「だって、ランスくん達はすっごい頑張ってるのに、私はこうしておいしいお茶なんかもらっちゃって」
「別にランスだってこれくらい気にしないと思うけどな」
「そうかもしれないけど。やっぱり気になっちゃうな」
「セナは気にしぃだね」
「う。でも、ミルちゃんだって、お留守番に不満を言ってたじゃない」
「うん。まあね。でも、セナが一緒だから」
「それは私といるのが楽しいってこと?」
「それもあるけど。セナ、すっごく強いのにご飯だーって倒したイカマンをぶつ切りにしだすし、洗濯物は風に飛ばされるし、お腹いっぱいになると何処でも寝ちゃうし……なんだろう、ぼせーっていうのが刺激されるから」
がーん。結構年下の子に手のかかる子扱いされたことにセナは大きなショックを受けた。
「お料理とお洗濯は練習中だから……どこでも寝られるのも冒険者には有利な能力だし……」
「うんうん。そうだね。色々頑張ってるのはいいことだと思うよ」
「フォ、フォローされた……!」
「それにモンスター退治以外にも、神魔法で怪我人を治療してるんだから、仕事してないなんて思わなくてもいいでしょ」
「それこそ、大したことないよ。ミルちゃんの薬の方がずっとみんなを元気にしてる」
「えへん。ミルの薬はとってもすごいからね」
「ほんと、そう思うよ」
セナはふと視線をミルから外した。どこかぼうっとして、無意識に曇った表情を浮かべる。
ここ数日でミルは何度かこの顔を見た。多分、罪悪感を隠している顔。圧倒的な強さを持っていながら、友人を助けない自分を嫌悪しているんだろう。最近だと、ランが似たような顔を浮かべることが多かったのでピンときた。
「ま、セナは頑張ってるよ。ミリねーちゃんが気に入るのもわかる」
「え!? ミ、ミルちゃん!? ま、まさかミリから……!」
「あ、やっぱりミリねーちゃんとエッチしたんだ」
「!!??!?!?!!?????!!!!??」
「大丈夫。私だってこういう話できるよ。ランスとエッチしたこともあるもん」
「?????!!!!!???!!?!?!?!?!!?!!?!!??!!」
ゆらりとセナは立ち上がった。徐々に体から殺気のようなものが発されてきている。
「よくないなぁ。ランスくん。こんな小さい子と……冒険者でもないのに……よくないなぁ」
あ、やばい。ミルは急いでことの顛末を話した。そうなった当時は自分は魔法で成長した体だったということ。ランスですら今の自分とそういうことをするつもりはないということを丁寧に説明する。
セナは何とか状況を飲み込み、まぁそれなら仕方ないかと殺気を引っ込める。
ミルはやっぱりセナって危なっかしいなぁと思った。
話はそれから自然とランスの話題に移っていった。
「うーん、シィルちゃんから話を聞いてた時も思ってたけど、やっぱりランスくんってすごい冒険者なんだね。なんていうか、冒険の密度とドラマチックさがすごい。私がよくする冒険とはちょっと違うよ」
「セナはどんな冒険をするの?」
「大体はモンスター退治か山賊退治だね。素材集めとか珍しいもの探しとかもたまーにするけど……あんまり得意じゃないの」
「練習中?」
「そ。練習中」
二人はクスクスと笑い合う。
「じゃあ、セナは強いモンスターいっぱい倒して最強の冒険者って呼ばれるようになったんだ」
「うん、戦うことは得意だから。そういう依頼……特にあっちから襲いに来る奴らはたくさん倒したよ」
「……もしかして、相手を探さなくて済むから?」
「…………」
「クスクス。じゃあ、今まで戦った中で一番強かった相手ってどんなの?」
「えー、そうだな……」
セナは記憶を探った。当然、出てくるのはつい最近戦った魔人のことだ。
突然、記憶の点と点が繋がり、重大な事実に思い当たった。
「……ミルちゃん。ランスくんはリーザスの極秘任務で戦ってるって言ったんだよね?」
「え、うん。そうだけど……どうしたの?」
「もしかしたら、マズいかも」
セナは魔人サテラのことをミルに話した。
彼女が口にしていたランス様という名前について、ずっと何とも思わなかったが、あれはリーザスのために任務を受けたランスのことを指しているのではないだろうか。
そうであるなら、サテラがランスの命を狙う可能性が高い。そして、かわいい女の子と戦うランスは絶対に油断するため、かなり危険だ。
「うん。まずいね。ランスをに伝えなきゃ」ミルはそう言って、立ち上がった。「さぁ、準備して。ラジールに向かうよ」
「え。で、でも……マリアさんからの仕事が」
「なに言ってるの! ランスが死んだら私たちの負けなんだから、最優先事項だよ! それにセナでも強いと思った敵なんでしょ? セナが行かなきゃ絶対ダメ!」
「確かに……うん。そうしなきゃね。でも、ミルちゃんは──」
「──絶対に私も行く。ミリねーちゃんなら、セナの近くが一番安全だって言うだろうしね」
「でも──」
「──でもじゃない! 私と一緒に行かないで、セナがまっすぐラジールに行けるわけないじゃん!」
「うっ!」図星である。
「それにさ。留守番もいい加減飽きてきたしね」
ミルがウインクしながらそう言ったので、セナはようやく決心がついた。
「やっぱり、お留守番不満だったんじゃない」
「ぜんぜん。でも、仕方ないから付いてってあげる」
「ありがとう。じゃあ、ゴーグルとか用意しようか」
「ゴーグル?」
「うん、多分必要だから」
セナが久方ぶりにニコリと笑顔を見せた。
思ってもみないキャラが展開を転がしていると仲良くなる。
そんなときが一番面白いですシリーズ。
No2 ミル・ヨークス。
基本すべてのキャラを呼び捨てしている生意気な子どもミルですが、
セナのことは同年代かちょっと下くらいの気持ちで呼び捨てしてます。