セナはうんうんと頷きながら、訓練を見ていた。やはり大国リーザスの若き兵たち。皆それなりに動ける者たちばかりだ。だからこそ、セナは彼らに基本を叩きこむ。軍剣術とはどれだけ規律だって行動できるかがすべてだ。
だからこそ、彼らが受ける指導は実のところいつもの訓練とさほど変わらない。
違うのはかかる負荷量と指導の正確性だ。
セナは彼らの力量を完璧に見抜き、耐えられるギリギリを……やや超えるように訓練させている。緩めばすぐに指摘し、決して休ませることはない。
戦場では常に自分の限界を超えることを求められる。それを知っているセナは訓練中にその限界を超える感覚を掴ませることにした。
当然、新兵たちの疲労は想像を絶する。それでも、一人として脱落者が出ていないのは、ひとえに彼らの士気の高さ故だった。
その士気の高さは、憧れの英雄から指導を受けているというだけで保たれているわけではなかった。この訓練を終えれば、自分たちは確実に強くなれる。その実感こそが彼らの重くなり切った腕を振り上げさせる。
セナは剣術の天才だ。普通の天才ではない。人類史上最高の才能を持つ存在だ。
彼女は数百人におよぶ兵士たち全員の剣術が、なぞるべき教本からどのように逸脱しているのか、またどうすればその逸脱が無くなるのか、完璧に言語化することが出来た。
筋肉の動きも、心臓の拍動も、呼吸器の強さすらも感じ取れるセナの感覚にとって、何が動きを邪魔しているのか特定するのは簡単なことだった。
物分かりのいい者も、そうでない者も、皆が等しく彼女に指導されれば、ぶつかっていた壁を一つ越える。なんてすばらしい訓練だろうか。
だが、地獄は壁の先にあった。
繰り返しだ。教えられた動きをひたすらに繰り返す。一回一回きちんと意識をして繰り返す。とにかく繰り返す。
訓練とは反復である。出来るだけ質を高め、出来るだけ多くやる。超級の天才にそう言われてしまえば、どんな兵士も従わざるを得ない。
全員がもう死んでしまうと三回ほど思ったあたりで、ついにセナの声が響いた。
「終了でーす!! お疲れさまでしたー!!」
兵士たちは崩れ落ちた。いつもならば教官の激が飛ぶのでこんなことは出来ないが、そんなことを考えられないくらい疲れていた。
「えらい!! みんなよく頑張りました!!」
代わりに飛んでくるのはセナから発せられる純粋な賞賛である。早くも彼女は新兵たちに情が湧いており、まるで保母のように彼らを褒めちぎった。
あまりの喜びっぷりに先ほどまでの訓練は悪夢かなにかだと思えてくるほどだった。
「それじゃあ、昼食の時間にしてください!! 午後からは実戦形式の訓練に移ります!! あ、ご飯は三杯以上食べてください!! 食べられない人は実戦形式の訓練には参加できないので、この訓練を続けてもらいます!!」
悪夢は終わっていなかった。兵士たちは這う這うの体で食堂へと向かっていく。
その姿をやはりニコニコとセナは見送った。そんなセナの元に汗だくになったラークとセピアがやってきた。
「あーやっと終わったか」ラークが言う。
「なんで……私たちまで……訓練させられてる……のよ……」セピアはひどく息切れしていた。
「結構序盤でお手伝いしてほしい仕事はなくなっちゃったからね。訓練は……ついでだし?」
「意外と軍隊式も勉強になるもんだ。でも、俺いつもと違う型練習しちゃってもよかったのか?」
実はラークはセナの部下になって以降、ちょくちょくセナから剣術の指南を受けていた。彼の剣術は冒険者風剣術の王道。対モンスターを想定した高威力のものが多い剣だ。対して、軍隊式の剣術は対人戦を想定したものが多い。
「いろんな基本形を知ってた方が、結局は応用しやすくなるからね。特にラークくんの剣は色々取り込んでも破綻しない型だから、この訓練は無駄にならないわよ」
「じゃ、俺は午後もちょっと剣振ってるかな」
「私は……午後は休むわよ……」セピアは言った。
「はーい。報告書のための記録お願いできる?」
「やる……でも、一度宿に戻るわ……」
セピアはそのまま去っていった。さすがに新兵たちよりはよく動けていたが、久々の訓練が堪えたらしい。
三人の会話の終わりを見計らったようにバレスがセナに近寄ってきた。
「お疲れ様です。大変勉強になりました」
「いえいえ、むしろ期待されてるようなスゴイ指導が出来なくてすみません」
「それこそご謙遜のしすぎですよ。この老いぼれにもわかる古くからのやり方にして、あれだけの効果。セナ殿の指導力の高さを見せつけられました。よろしければ毎年ご依頼したいくらいですな」
「ありがたい話です。キースにも話しておきます」
「ふふふ、あなたも組織人になりましたな」
バレスは朗らかに笑った後、やや決まりの悪そうな顔をする。
「それで、実はですな。大変申し訳ないのですが……午後は見学者を交えてもよろしいでしょうか?」
「見学者ですか? ……もしかすると、門の前にいる人ですか?」
「……そうです。さすがですな」
実は訓練の途中で鋭敏になった感覚が彼のことを捕らえていた。姿は見えないが知っている顔だ。
「大丈夫ですよ、リックさーん!!」
セナがそう呼びかけると相変わらずの兜を付けた赤い死神ことリック・アディスンが現れた。
駆け寄ってくる姿に一切の隙はなく、全身から戦いたいという意欲がオーラになって見えるようだった。
「お久しぶりです!!」リックが言った。
「はい。お久しぶりですね。リックさん、お仕事は大丈夫なんですか?」
「恥ずかしながら!! 有り余っている休暇を使ってまいりました!!」
「なら良かったです」
「いいか? セナ殿のご厚意で見学させていただけるのだ。くれぐれも変な気は起こすなよ」
「心得ております」
口ではそう言いつつも、しかしあわよくば一戦……? と思っているのがセナにすらわかる。相変わらずの戦闘狂っぷりにセナは笑いそうになってしまう。
それからセナ達は兵士たちとは別に食事を取った。セナは彼らと共に食事を取りたいと思っていたのだが、バレスの「彼らに鬼教官への愚痴を吐く時間を与えてやってください」という言葉で引き下がった。
確かに厳しくしたつもりだったが、嫌われてしまっただろうか。そう心配したセナだったが、その心配はバレスによって笑い飛ばされる。
「あの素晴らしい訓練で恨まれるようなら、とっくに私もリックも毒を盛られてますよ」
どうやら、軍の教官という者は恐れられ、しかし尊敬されるらしい。
バレスの言葉で気が楽になったセナは、午後の訓練のためにご飯を五杯食べた。
〇
午後の訓練では若きリーザス兵たちは四つのグループに分けられた。グループ分けはセナによって行われた。大体同じくらいの力関係になるように。
それからはひたすらにセナを囲んでの多対一戦である。
概要を聞いた時、意外にも多くの兵たちがこの訓練の厳しさを察することが出来た。この世界において、強者と弱者の差はリーザスとヘルマンを隔てる山岳地帯ほどに大きい。百人足らずの新兵が人類最強の女戦士と戦ったところで、蹴散らされるのが関の山だ。
確かに最初の一戦はすべてのグループがセナの動きに翻弄され、見るも無残な結果に終わる。
だが、ある者がセナの動きが午前の訓練で自分たちが教えられた基本的な剣術そのままだということに気が付いた。
自分たちと同じ技術を用いながら、自分たちを圧倒している。それは兵たちとセナの差を明確にしたが、同時にセナの動きをある程度読む隙を与えた。
二度目の模擬戦では第三グループにて一人の兵士の剣がセナを掠めた。新兵たちが自分たちなりに作戦を立て、実行した結果である。
セナは彼らを褒めたたえ、そして言った。
「素晴らしい! それじゃあ、次は魔人戦を想定した力強さを重視した型でいくわよ! それから、魔法型、剣と魔法の混合型って感じでローテーションしていきましょう!」
兵士たちは唖然として、それから絶望し、だが最後には腹を括った。
日が暮れるまでわずかな休憩を二度挟んだこと以外、ノンストップでセナは訓練を続けた。多少の怪我なら、セナ自身が治すことが出来たし、そもそも設備の行き届いたこの訓練場には医療品が山ほどあった。
脱落することも出来ないまま、徹底的にしごかれた新兵たちは、ようやく終了の合図が出た途端に皆崩れ落ちる。解放されたことを神に感謝する者までいたほどだ。
セナの方も実のところ疲れていた。技術はともかく、肉体の強度はレベルに依存している。最大時の半分もないレベルでは、午後いっぱい多人数を相手するのは堪えた。
それでも額を流れる汗のほかには疲労の色などまるで見せない。全力の演技である。セナは自分の教え子たちにかっこつけたかったのだ。
「よーし。それじゃあ────」
「────お待ちください!」
セナが彼らを解散させようする声は、訓練兵の一人によって遮られる。それは最初にセナに剣を掠めた兵士────緑髪の小柄な女兵士だった。
「えっと、どうしたの? 何か質問でもあった?」
「いえ、せっかく人類最強の女戦士であるセナ・ベリウール様と訓練する機会に恵まれているのですから、ぜひ一対一で教導していただけないでしょうか?」
セナは考えるそぶりを見せる。もちろん演技だ。頼まれれば断ることなどしない。むしろ、あれだけの力の差を見せられて、まだ向かってくる様子は好感が持てた。でも、即決しない方がかっこいい気がした。
(新兵の子たちの中では一番筋のいい子だし。他人の剣を見ていいところを盗めるタイプって感じがするわ……。絶対受けてあげた方が良いわね。まぁ、ちょっと懸念点はあるけど)
「いいわ。やりましょう」
「ありがとうございます!」
二人を取り囲むように兵士たちは場所を空ける。ざわざわとやじ馬のように話し合う姿は、英雄と自分たちのエースにどれほどの差があるかを知りたくてしょうがないようだった。
セナは今日見せた型のどれでもない構えを取った。見学の者たちがさらにざわつくが、件の女兵士だけはその意味を理解して息を飲んだ。
「……ごめんね。全員の名前は憶えてなくて」構えたままセナが言う。
「────チルディ・シャープと申します。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
同時に二人は飛び出した。同じ動きであることにようやく周りも気が付く。チルディが得意とする連続攻撃──ペプシ剣術という──がセナに襲い掛かるが、そのすべてが撃ち落され、無為に終わった。
一瞬でチルディは勝機の無さを確信する。同じ速度と同じ威力、そして同じタイミング。確実に意図されたものだ。初見でそれだけ動きを見抜いてくる相手にどうやって勝てばいいというのか。
そんなもの。想像を上回ればいい!
二人は一瞬距離を取り、再び激突した。
────違う。
確かにチルディはそんなセナの言葉を聞いた気がした。
今度のセナの動きは同じ速さどころではない。まったく同じ動きだった。とある剣豪によって伝授されたペプシ剣術。その神髄は独特の動きによる多段の攻撃にある。その攻撃回数の代わりに、やや安定性に欠けるピーキーさのある、複雑な剣術なのだ。
セナはその剣術をただの一度受けただけで真似た。あまつさえ、完全に相殺してみせた。それはほんの一瞬で自分以上にペプシ剣術を体得したという事実に他ならない。いや、それどころか安定性の無さという弱点を解消すらしてみせたのだ。
少なからずショックを受けたチルディのわき腹にセナの剣の腹が叩きつけられる。衝撃でチルディの身体は飛ばされるも、何とか体勢を立て直した。
手数でさえも上回ってきた!
チルディは戦慄する。そしてセナの方を向き直り、再び愕然とした。
セナは待っていた。追撃する様子は全くない。その視線には期待が込められている。
チルディはプライドの高い女である。しかし、学ぶことに関しては人一倍真剣な女である。完全なる格下扱いに怒りを覚えつつも、セナの意図を図ろうとした。
チルディが再び飛び出す。まったく同じタイミングでセナも飛び出した。
この女は絶対にまた私の剣を相殺する。そう来ると分かっているならば、私にもやりようはある!
二人の剣が触れ合う瞬間、チルディはあえて剣筋をずらし、セナの剣を回避した。大きな空振りでチルディの体勢が崩れる。このまま次の剣を振るうつもりだったが無理な姿勢だ。それでも、無理矢理腕を振るって、セナを攻撃する。刀身は当てられない。ならば柄で殴ってやる。
腕の筋が嫌な音を立てるのを聞きながら、チルディはセナの動きが突然何倍にも加速するのを見た。何がどうなったのかわからないままチルディは後方に吹っ飛んだ。
背中から思い切り地面に叩きつけられ、息が一瞬止まる。それでも、彼女の中にある闘志がセナの方に顔を向けさせた。
「素晴らしい!」
本当に心の底からそう思っていると分かる顔でセナはそう言った。
自分は負けたのだ。チルディは理解する。
「立てる? チルディちゃん」セナが手を差し出しながら言った。
「……はい」くやしさを隠し切れずにチルディは手を握る。
「あなたには才能があるわ。素早く手数で敵を倒す剣術。あなたには合ってるし、間違いなく今よりも強くなる。でも、スピードで負ける相手にはその剣術の強みで戦っても無駄よ」
「そうですね。セナ様にやられてわかりました」
「そこで相手を出し抜く発想になるのがえらい! 百点よ!!」
「あ、はい。ありがとうございますわ」
あまりに元気に言うものだから、チルディは思わずそう言ってしまった。
そして、セナは戦いの時と同じく加速する。
「あなたは技を見切る目もあるし、向上心もある! 体力も体格にしてはある方だし、筋力の無さは否めないけど、まだまだできることがあるわ!! まずはさっきやったフェイント系の技を型に落とし込むところからね!! 基本的にそういう技は前段の技から開発していくのがいいわ!! フェイント前提じゃなくて、フェイントに派生できる感じね!! あとは私がやって見せたと思うけど、その剣術でも技を安定させることは出来るわ!! まずはそのためには剣がない状態での動きの反復練習が必要ね!! かなりダンスに近いから私も教えられることあると思うから何でも聞いてね!! あとあと実戦! 実戦が必要だわ!! 相手と対峙した時にスピードで押し通す方が良いのか、別の手段を取った方がいいのかを判断できるようになるには実戦が必要よ!! うちのギルドに来る?! 多分かなり勉強になると思うの!! それからやっぱり────」
「────セナさん!!」
いつの間にか近くに来ていたスーの声を聞いて、セナはびくっと驚き、言葉を止めた。
周りをゆっくりと見まわすと、新兵たちはセナのテンションの上がりっぷりに驚いて声も出ないようだった。
やっちゃった────────。
セナは顔を抑える。スーは今日一番懐かしい気持ちになった。一緒に住んでた頃、よくこういう感じになっていた。
「……細かなご指導感謝いたしますわ」チルディがちょっと遠慮気味にいった。
「はい……。よかったです。これからも頑張ってね」
セナは顔の赤さを隠すように上を向きながら、少しだけ考えた。
どうしようこの空気。ああ、そうだ。ちょうどいいイベントがあるわね。
「よし、じゃあ最後に皆には模擬戦の見学をやってもらいます。いまのチルディちゃんのとは別のね」セナは自分の後方に顔を向ける。「リックさん! ちょっとお願いしてもいいですか!!」
言い終わるが早いか、見学をしていたリックがセナの傍に駆け寄ってきた。すでに闘志が全身から噴き出しており、新兵たちを怖気づかせるほどだった。
「まさか」リックがにやりと笑いながら言う。「セナ殿の方から呼んでいただけるとは」
「呼ばなくても来そうなくらいでしたけど」
「ふふふ。そうかもしれませんね」
「とにかく、協力してもらいますよ」
「喜んで。私は何をすれば?」
「私と戦ってください。本気の模擬戦ですよ」
仮面の上からでもわかる程にリックの表情が喜色に溢れた。
「ようやくあの時のリベンジをさせていただけるのですね……このようなことを聞くのは無粋極まりますが……いまのセナ殿は本調子ではない。それを踏まえて私にどれほどの勝算があると思われますか?」
「そうですね……大体八割方。私が勝ちますよ」
「────こんなに喜ばしいことが我が身にあってよいのでしょうか……?」
セナとリックは互いに位置についた。普通の模擬戦よりもかなり離れている。これはどう考えても、リックのバイ・ラ・ウェイが最も有効な距離から戦いを始めるためだ。
二人の達人は意識を高め合う。そして、合図もなく戦いは始まった。
やはり兵たちの予想通りリックのバイ・ラ・ウェイが放たれた。およそ通常の剣術ではありえない射程と密度でセナに斬撃が襲い掛かった。
セナはそれを剣で受け止め、受け流し、弾き、防ぐ。リックの攻めとセナの守りが完全に拮抗し、凄まじい風圧と音が訓練場に響きわたった。
一分、二分。絶え間なく続く剣の応酬で、ついに兵たちは気が付く。セナは自分たちに教えた軍隊式の剣術で戦っている。決して、攻めに転じられるほど優勢ではないが、それでも倒れず受け切っている。
三分に差し掛かるタイミングでセナがバイ・ラ・ウェイの射程から離れた。即座に戦闘態勢を解き、それを見てリックも手を止める。
「はぁ、はぁ」息を乱しながらセナは口を開いた。「わかりましたか。皆さんが学んだ剣術は長年軍隊が磨き上げた珠玉の剣術です! きちんと学べば、かの天才リック・アディスンの剣を受け切れるほどに洗練されているのです! これから先、壁にぶつかったと感じたときは、基本を思い出してください!! 剣術の基本は最も頼りになる技なのです!! それではこれで私の訓練は終わりです」
セナは笑顔を浮かべる。唐突な宣言にいち早くスーが拍手を返そうと思った時、セナの笑顔の質が変わり、再度剣を構えた。
「そして、ここからはかっこつけるためにやります」
果たして本当に構えなのだろうか。兵たちは思った。実にリラックスしていて、指先まで意識の行き届いた立ち姿は優雅なダンスのように思えた。ただ相対しているリックだけはその意味を理解し、備えた。いや、備えるだけの猶予を与えられたと感じた。
再びセナはバイ・ラ・ウェイの間合いに侵入する。その瞬間、先ほどの猛攻を超える密度の斬撃がセナに殺到した。
攻撃し、同時に構え、また同時に剣を戻し、やはり同時に攻撃する。決して、敵に手番を渡さない連撃こそがバイ・ラ・ウェイの神髄である。しかし、セナは攻撃を受け流し、捌き、弾き、躱すと同時に、前に走り、剣を構え、魔法を準備することが出来た。
二人しか知覚できないほどのわずかな時間の間に、セナはリックを己の間合いに入れる。
まだリックにも対応するだけの力があった。セナの動き────特に上半身の動きに集中し、剣と魔法どちらが来てもいいように体勢を整える。
一方でセナは脳をフル回転させていた。肉体的な強さは現在リックの方が上であることは、先ほどの攻防で理解していた。また疲労がかなり重なっているせいでこのまま剣を振っても、リックへの有効打にはならないことを直観している。
かっこつけた手前、絶対に負けたくない戦いである。記憶のどこかにきっと状況を打開する術があるはずだ。
その時、今は使えない己の奥義が頭を過った。体中の魔力を循環させ、究極の一刀を放つジンジン斬。その要領で、しかし、威力を弱めるために魔力の系統を絞って────。
思考よりも先に技はリックに放たれた。
剣は完全に防御の構えを取り、リックの反撃をいなす。そして、攻撃はセナの高速移動を支える足へと任される。もっとも得意とする雷の魔法を纏った右足は、胸当てに直撃し、彼を数メートルも宙に浮かせた。
その常軌を逸した威力にさすがのリックも受け身をするのでやっとだった。
彼が体勢を立て直す前に、セナの剣が付きつけられる。勝負は決まった。リックの胸当てはセナの靴の形に凹んでいる。
「おみそれいたしました……まさかこのような技をお持ちだとは……なんという技なのですか?」リックが言った。
「……実はいま思いついてやってみただけなので、名前とかは……」
「なんと! 素晴らしい技ですよ。ぜひ、名付けるべきです!」
「そうです? 名前か……名前は……『ビリビリけ~る』、ですね!」
新兵たちは噂に聞いた英雄がどれほど凄まじいのかを改めて知った。
そして、ネーミングセンスがないことも知った。