何が悲しくて異世界は帝国を召喚したか   作:太田目黒

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 ご無沙汰しております。大田目黒と申します。

 訳あってアカウントを削除しなければならなくなったため、何の報告もなく一方的に削除し、現在に至っております。大変申し訳ございません。
『何が悲しくて異世界は帝国を召喚したか』は、削除した時より未完のまま悶々としていたこともあり、リメイクして改めて投稿させていただければと思います。

 前回との主な変更点として、大日本帝国の歴史・設定・領土面、グラ・バルカス帝国戦などに大幅な変更を加えております。ご了承ください。
 それでは、再構成された『何が悲しくて異世界は帝国を召喚したか』をお楽しみいただければ幸いです。



第1話 邂逅

 大東洋という海がある。

 第一から第三までの、いわゆる“三大文明圏”からはるか遠方にあるこの海域には、一つの大陸が存在する。

 面積は、地球世界でいうところのオーストラリア大陸を半分にしたほどのものであり、大陸と呼ぶには小さい。

 一方で、島というにはかなりの大きさを誇るものである。

 その地に住まう人々は、その大陸を「ロデニウス」と呼ぶ。そしてこのロデニウス大陸には、三つの国家が存在した。

 

 一つ目は、国土のほぼ全てが肥沃な大地で構成され、人口には不釣り合いなほどの穀物生産量を誇る農業理国クワ・トイネ公国。

 

 二つ目は、クワ・トイネとは真逆に国土全体が砂漠で覆われ、特にこれといった名産品もなければ、産業もそこまで発展しているわけではないクイラ王国。

 

 そして三つ目は、人間至上主義を掲げ、エルフやドワーフといった非人間、獣人などを迫害し続けるロウリア王国である。

 この国は近年、ロデニウス大陸統一を声高に主張している点で悪い意味で目立っていた。

 

 クワ・トイネとクイラは友好関係にあり、それぞれ不足するものを補い合い存立し続ける互助関係にいた。

 かつてロウリアと間で発生したロデニウス統一戦争では、両軍が共闘し、ロウリア軍を一時的に引かせることに成功している。

 

 その”一度敗退している”というのが、ロウリア人たちのプライドを傷つけたのは言うまでもない。

 それも、彼の国のおよそ3割方が人間ではない“亜人”と呼ばれる非人間種族であることが、何よりロウリアの敵愾心を燃やし続けていた。

 亜人殲滅を唱えるロウリア。

 そして人口のうち、少なくない数が亜人のクワ・トイネ、クイラ。

 

 民間人同士の交易であればまだ交流はあったが、国家間における緊張度はどうやってお高いままだった。

 

 

中央暦1639年1月24日 8時03分

クワ・トイネ公国 大東洋北東沖合

 

 その日の空は快晴で、見る限り雲という雲もなく、またそこまで強い風も吹いておらず、まことに清々しいものであった。

 ワイバーンと呼ばれる飛行生物……飛竜を操る竜騎士は、今日も今日とてクワ・トイネ北東方面の哨戒任務に就いていた。

 しかし哨戒とはいいながら、ロウリア国境や海域と接する地区に比べれば、実に楽なものである。あちらでは飛竜同士の挑発行為や、ロウリア竜騎士から意思を投げつけられるといった行為は日常茶飯事というありさまで、既に低烈度の紛争状態にあるという。

 

 一方でクワ・トイネの北東に広がる大東洋という海域は、ただひたすらに海が広がっているだけで、国はおろか島一つ存在しない。

 もっとも、正確に言えば、“現在の探索範囲において”島一つ見つけることができないというものであるが。

 航海技術の発展により、幾多の冒険者が船に乗って新天地を求めて出ていったが、今まで帰ってきた者はいない。

 

 最近では対ロウリア警戒のため、哨戒任務の必要性が疑われ、なくしてもいいのではないかという議論が軍内では出ているほどだった。

 しかし彼に言わせてみれば、こんな楽な任務、なくなってはたまらない。

 

 とはいえ、ただ楽をしたいからという理由で哨戒を続けるものでもなく……その理由は理由の大半を占めることに変わりはないわけであるが……、先の統一戦争から、長い間停戦期間を維持し続けてきたロウリアが、こちら側に迂回して上陸を狙ってくる可能性も無きにしも非ず、という点から、大東洋哨戒網は必ずしも不必要とはいえなかった。

 ロウリア艦隊が迂回して攻撃されれば、クワ・トイネは背後からの一撃により大混乱に陥るであろう。そうならないためにも、彼は相棒のワイバーンとともに北東の何もない“はず”の空を飛んでいた。

 

 そんなロウリア方面に展開する竜騎士たちから「遊覧飛行」と皮肉られるほどに平和な任務であったが、今日は違った。

 彼と彼の相棒のワイバーンが異変に気付いたのは、哨戒任務に就いてから十数分経った頃のことだった。

 

「……んん……?」

 

 遠くの空に、小さな黒点が見えた。

 何かを見つけ、じっと目を凝らす竜騎士。

 

「何だぁ……? あれは……?」

 

 自分たち以外に存在しえないはずの空に、何かがいる。

 味方のワイバーンかと思ったが、どうもワイバーンではない別の“何か”であった。既に交代相手のワイバーンと竜騎士は先ほどすれ違ったし、自分らより向こう側にいる味方騎はいないはずだ。

 さらに言えば、飛来してくる方向が違う。

 

 では、何か。噂をすればロウリア軍の飛竜かと思うが、単独で来るものなのか不思議だった。

 単独で海を渡れるほどのワイバーンを、ロウリアは持っているなんて聞いたこともない。そもそもそんなワイバーン、この文明圏外の場所にいるはずがない。

 ではもしやすると、竜母と呼ばれるワイバーン搭載専用の軍艦から飛び立ったものかとも一瞬考えるが、この文明圏外にわざわざワイバーンを持ってくる文明圏国がいるだろうか。

 

 あれやこれや竜騎士が色々考えている内に、粒のように見えた飛行物体は、どんどんとこちらに向かって進んできた。

 その“何か”が近づくにつれて、そもそもそれがワイバーンや、そういった飛竜でないことが判明する。

 

「羽ばたいてない!?」

 

 竜騎士の目に入ってきたのは、羽を横一線に広げたまま、一度も羽ばたかず飛行するかなりの大きさの物体であった。どう見ても生きているものの材質ではない。

 竜騎士は一瞬ぽかんとするが、すぐさま事の重大さを理解し、通信用魔法具を引っ掴み、飛竜隊司令部を呼び出した。

 返答が来ると、彼は素早くかつ端的に、飛行してくる”何か“の特徴を告げた。

 

「我、未確認騎を発見。未確認騎はワイバーンの何倍もあり。羽ばたかずに公国方面に向かって飛行中! これより接近し確認す。現在地は……」

 

 あちらもワイバーンを見つけたのであろうか。それまで双方同じぐらいの高度を飛行していたが、未確認騎の方がぐんぐんと高度を上げていった。

 竜騎士は一旦すれ違ってから距離を詰めようと考えていたが、その間にも未確認騎は悠々と彼の上空を高速で飛んでいく。

 

「速い……それに滅茶苦茶デカいぞ!?」

 

 その飛行物体は、極めて大きかった。ワイバーンの何倍、いや十何倍もの巨体であった。改めてみても、羽ばたく素振りを見せず、羽下に4つの樽を吊るしている。

 巨体からはキィィィンという甲高く、耳をつんざくような音が発せられ、思わず竜騎士は耳を塞いでしまう。

 一瞬ですれ違ったものの、竜騎士は羽根に描かれた赤い丸がくっきりと見えた。

 彼は急いで反転、愛騎も必死に羽ばたいてみせる。

 風圧が重くのしかかり落ちそうになるが、しっかりと手綱を握りしめ一気に飛行物体と距離を詰める……はずが、まったくと言っていいほど件の物体に追いつくことはなかった。むしろ距離がどんどん離されていったのだ。

 

 公国軍の保有するワイバーンの最高速度は、時速230キロ程度。飛行生物の中では、ほぼ最速を誇る。馬より圧倒的に速く、機動性に富んだ空の覇者……なお三大文明圏にはさらに品種改良を加え、より速度と機動性を高めた上位品種があるらしい……が、まったく追いつくことができない。

 本当に“あいつ”はこの世のものなのだろうか? 竜騎士は目の前のそれを、白昼夢か何かと勘違いしているのかと思うに至る。まったく信じられなかった。

 

「くそが……一体何なんだあいつは!!」

 

 驚愕。ただひたすら驚きが、彼の全身を駆け巡った。

 再び通信用魔法具を引っ掴み、怒鳴るように報告する。

 

「司令部! 司令部! 我、未確認に接近するも、高速域により追いつくこと不可能! 高高度に至りワイバーン上昇限界を超える! 未確認騎はマイハーク方面に飛行中! 繰り返す、マイハーク方面になおも飛行中!!」

 

 

中央暦1639年1月24日 8時37分

クワ・トイネ公国 マイハーク クワ・トイネ軍第6飛竜隊基地

 

 一方、報告を受けた飛竜隊司令部では、蜂の巣をつついたような騒動に発展していた。

 ワイバーンの全力飛行でも追いつけない未確認騎……幸か不幸か、単騎だという……が、よりにもよってクワ・トイネの経済都市であるマイハークに向かって飛んできているというのだ。

 

 マイハークは大東洋に接する港湾都市で、長年貿易港として名を馳せていた。その重要性から飛竜隊基地や公国海軍第2艦隊の艦隊司令部も置かれている。

 そんなマイハークが攻撃を受ければ、極めて甚大な被害を受けることは、誰の目にも明らかであるとともに、もし攻撃を許すようなことになれば軍の威信はズタズタなものとなる。

 

「報告された未確認騎の速度からすれば……まったくもって信じられんが、もうすぐマイハーク上空に到達するはずだ」

 

「すぐに飛竜隊を発進すべきだ。陸軍の方にも通報を!」

 

 数十秒後には、飛竜隊基地内の通信施設から、すべての竜騎士に非常用の通信魔法による指令が届けられた。

 

『第6飛竜隊は全騎出撃。マイハークに向け接近中の未確認騎は発見次第撃墜すべし』

 

 瞬く間に滑走路に待機中だったワイバーンを操る竜騎士らが発進していく。数は12騎に上り、これが、第6飛竜隊が現状出せる全力であった。

 さらに非番だった竜騎士たちも続々と集結し、後続として13騎のワイバーンが順次空に羽ばたいていく。

 

 透き通るような青い空に、数十機ものワイバーンが展開していった。数年に一度の大演習でもなければ、戦時体制でもないのに一度にワイバーンが上がることは極めて異例のことであり、何が起きているか分からないマイハークの住民は、酷く怯えるほかなかった。

 

 第6飛竜隊12騎は、運がいいことに未確認騎の正面に相対峙することとなった。

 報告によれば、相手は超高速で飛行し、またワイバーンでは到達することのできないほどの高度に至ることができるという。幸いなことに、あれから未確認騎は高度を下げていたようだ。

 相手もこちらに気が付いていることだろうし、報告通りにいればいずれ上昇してしまう。

 

 そのためチャンスは一回限りだった。

 

 飛竜隊12騎は横一線に並び、ワイバーンの口を開かせる。口から発射される火炎弾の一斉射撃……これが当たって、堕ちない飛竜はまずいない(上位種は不明)。

 どんどん口の中で形成されていく火球は、ぐんぐんと大きくなる。発射寸前、やはり未確認騎は上昇を始めた。

 現在の高度は、約4000メートル。これ以上登ることは、こちら側は難しい。しかし未確認騎はそんなのをお構いなしに上昇を続け、規格外さに竜騎士たちはとんでもない奴を相手にしていることに衝撃を受ける。

 

 結局、第6飛竜隊は攻撃の機会を失ってしまった。竜騎士はワイバーンに口を閉じさせ、同時に火球が消える。シュゥという消火される音とともに、飛竜隊には無念の空気に包まれた。

 攻撃する間もなく、未確認騎は行ってしまった。追おうとした若い竜騎士がいたが、先ほどの一報を入れた竜騎士と同様、どうやっても追いつけないそれに遂に諦めてしまった。

 悔しさで唇を噛み締め、若き竜騎士は何らダメージを追わずにマイハークへ向かう未確認騎を睨みつけることしかできなかった。

 

 ……もっとも、この時彼らが攻撃していれば、歴史はもっと悪い方に転がっていたと考えられるから、結果的にいえばよかったと言えようが。

 

 

中央暦1639年1月24日 8時45分

クワ・トイネ公国 マイハーク城

 

「来たか……!」

 

 上空にポツンと、一騎の未確認騎が見える。見えるといっても、ごくわずかな黒点でしかないため、一緒に見ている文官たちは首をひねってどこだどこだとキョロキョロ見上げていた。

 どうあがいても自軍のワイバーンでは到達不可能な高度だということは、地上にいるマイハーク防衛騎士団の誰もが悟った。

 騎士団長のイーネは、事前に第6飛竜隊の通報を受けて、部下を連れてマイハーク城の城壁に陣取っていた。マイハーク市内に築かれたマイハーク城内は、貿易港を見下ろすことができ、上陸してくる敵を一望できることから戦闘配備になるとまずここに陣取るのが定石となっている。

 対ワイバーン用の攻撃兵器ももちろんあるが、これでは話にならない。

 

「単騎で来たのか……偵察か、それとも単騎突っ込んできたバカか……」

 

 騎士団員の一人が口をあんぐりさせ、誰に聞くのでもなく呟いた。

 一般的にワイバーンなどの飛竜は、地上に対する攻撃方法として口から発射される火炎弾が挙げられる。他にも搭乗する竜騎士によって弓を放ったり、岩を投下したりする手法も過去には検討、実験されてはいたが、空を飛ぶ飛竜が搭載できる量はたかが知れており、費用対効果が薄いという結論に至っている。

 そのため、もっぱら竜騎士はワイバーンの操縦と攻撃指示に集中し、攻撃はワイバーンにおまかせといったのが、昨今の飛竜運用法である。もっとも、しばしば例外的な運用も存在はする。

 

「偵察だろうな」

 

 古参の騎士が、呟いた騎士に言う。

 単騎での攻撃は、極めて効率が悪い。飛竜にも吐ける火焔弾には限りがある。先ほどの第6飛竜隊がやろうとしていたように、まとまった数で一斉に発射することによって飛竜による攻撃は光る。

 単騎では例え攻撃されても大した被害は出ない。小さい村ぐらいであれば焼き討ちできるぐらいであり、マイハークのような大都市を焼き払うためには、やはり大規模な運用が必要である。

 であれば、おそらく彼の未確認騎の目的は威力偵察であることが思慮される。

 

 とはいえ、問題なのはそこではない。彼の未確認騎の正体である。

 飛竜でも追いつけない正体不明の飛行物体。報告によれば、およそ生物が発するようなものではない声が聞こえたという。

 確かに、上空からはキィィンという音が聞こえてくる。不気味な未確認騎からの“鳴き声”は、それが高度を落とせば落とすほど大きいものとなった。

 未確認騎の下部は、灰色に塗られていた。羽根にはくっきりと赤い丸が描かれており、機体を翻すと、表面の暗緑色を基調とした迷彩調の色合いが特徴的であった。

 しばらくマイハーク上空を旋回していった後、未確認騎は北東の空に消えていった。

 

「何もしてこなかったか……充分偵察していったということか。このまま何も起きなければいいが」

 

 団長のイーネは、不安な顔を押し殺しながら、情報を説明するべく通信具を手に取った。

 

 

中央暦1639年1月27日 16時19分

クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 政治部会議場

 

 未確認騎とのファースト・コンタクトから早くも3日が経過したが、クワ・トイネ国内は次第に事の重大さが知れるようになり、混乱が波及していた。

 本来、何もないはずの北東方面より未確認が接近してきたという衝撃波、クワ・トイネの政治部会を大きく揺さぶった。

 

 政治部隊とは、クワ・トイネ公国における行政を司る人物が一堂会する閣議のようなものである。

 国の代表たちが集まるこの会議で、クワ・トイネ公国宰相のカナタは頭を抱えていた。理由は勿論、先般飛来してきた謎の未確認騎の件である。

 

 曰く、北東の何もないはずの海の向こうから、一騎の未確認騎が突如飛来し、マイハーク上空に侵入してきたという。

 未確認騎は攻撃などの実力行使は行わず、何周かした後に帰投していったというが、問題は彼の出した速度、高度であった。

 

 曰く、飛竜隊が全力を出してもまったくもって追いつけないほどの高速域で飛行し、ワイバーンの上昇限界高度の倍以上もの高度を保ちながら飛行していったというのだ。

 

「……ふむぅ」

 

 カナタは腕組みを崩さないまま、脳内をフル回転させながら言葉を絞り出す。

 

「諸君、3日前の混乱からしばらく経ち、詳細な報告が入ってきたわけだが……この報告についてどう思う? どう解釈する?」

 

 カナタの問いかけに真っ先に回答したのは、情報分析部の部長であった。

 

「情報分析部における分析結果をご報告いたします。未確認騎の特徴を精査した限り、三大文明圏の一つ、西方第二文明圏の列強ムーが開発している飛行機械に酷似しているとのことです。 ……ですが、現在ムーで開発中という飛行機械は、最高でも時速300キロから400キロという情報があります。今回の未確認騎……仮に、飛行機械と呼称するのであれば、それの速度は、明らかに時速800キロは超えていました」

 

「なるほど、では当該未確認騎は飛竜ではなく、飛行機械の類である可能性が高いと。だが、ムーではないと……だったら……」

 

「はい。ですが他にも飛行機械を運用している国家があります。ムーのはるか西の果てに、新興国家が出現したといいます。この国は付近の国家を支配下に置き、かなりの速度で侵略行為を行っているという情報が。彼らは“第八帝国”を名乗り、第二文明圏の大陸国家群連合に対して宣戦布告したと、昨日諜報部に知らせが届きました。彼らの武器については、まったく不明であります。断片的な情報ですが、機械を用いた軍隊を有しているということです」

 

『フッ……』

 

 部長の説明が終わるや、会場に失笑が巻き起こる。

 それもそうである。文明圏から外れた新興国家が、三大文明圏五列強国のうち、二国が存在する第二文明圏のすべてを敵に回したのだ。

 無謀にも程がある。

 笑わずとも、大臣の幾人かの顔が引きつっているのが分かる。

 

 しかし部長は真面目な顔で話を続けた。

 

「話が逸れました。件の未確認騎についてですが、第八帝国はムーから遥か西方に存在しており、我が国からは2万キロ以上離れています。今回の未確認騎が、その第八帝国軍である可能性は極めて低いと思われます。また、ムーのものであることもそういった理由から考えづらいです」

 

 会議は振出しに戻る。

 結局それが飛竜ではなく飛行機械である可能性が高いことは分かった。問題はそれがどこの国のものなのであるか……会議はその後も数時間続いたが、一向に答えは出ない。

 ただでさえロウリア王国との緊張状態が高く、準戦時体制のこの状態で発生した本件は、国家安全保障上、極めて重大な懸案事項である。皆、頭が頭痛で痛めていた。

 

「友好的な国であればいいのだが」

 

 大臣の一人が言う。思わず出た本音のそれに頷く者、反論したそうな者、多種多様な反応を見せる中、会議は一人の若い士官が入ってきたことにより一時中断された。

 士官はたった今伝達されてきた報告書を握りしめ、息を切らして走ってくる。

 

 本来、政治部会の会議中は何人たりとも入室が禁じられていた。例外はあるが、それは事前に参加者による入室許可の賛同が必要であった。

 そのため今回の入室はかなり異例中の異例、その報告がまさしく今離れている“未確認騎”に関連することでなければ、おそらくその士官は後に何らかの罰を食らっていただろう。

 

「何事か!! 誰が入室を許可した!?」

 

 急進派の大臣が立ち上がり、士官を怒鳴りつける。それを外務卿が抑えつつ、だらだらと汗を垂らしながら直立不動の姿勢となる士官に要件を問うた。

 

「ほ、報告いたします! 先ほど……」

 

 報告を要約すれば、以下の通り。

 

 本日正午頃、マイハーク沖合に、300メートルを超す飛竜搭載母艦を中心とする艦隊が出現した。海軍による臨検を行ったところ、“大日本帝国”を名乗る国家の外務省職員がおり、敵対する意思はないという。

 その後の聞き取り調査の結果、

 

1.大日本帝国は突如この世界に転移した。

2.同盟国や隣国との交信はすべて断絶中にあり、他に陸地がないか偵察中のところ、偶然哨戒機が貴国(クワ・トイネ)を発見した。

3.帝国政府はクワ・トイネ公国との会談の機会を希望する。

 

と、要請があったという。

 

「大日本……帝国……?」

 

「第八帝国の効き間違いとかではないのか?」

 

「ハッ、聞き取り調査に諜報部の者も当たりまして、それについて問い合わせましたが、当人たちは第八帝国の者ではないと申しております」

 

『うむむ……』

 

 突拍子もない話に、政治部会の誰もが眉をひそめた。まったくもって信じられない。

 しかし、昨日のマイハークの一件……“哨戒機”の飛来、そして300メートル超える巨大船が本当なのであれば、先般の“何か”の正体は、彼らのものかもしれない。

 

「国が丸ごと転移というのは、神話にこそあるが……とても現実のものとは思えないな」

 

「欺瞞工作なのでは? その300メートルというのも、実はハリボテだったり?」

 

「マイハーク侵入の件もある。ここはやはり彼らに謝罪させることにより、こちらに有利な状況を作り出して交渉すべきではないか」

 

「いやいやいや、もし下手に挑発して攻めてこられたら、我が国など鎧袖一触でしょう。まずは平和的に交渉するのが吉かと。 ……もっとも、果して彼らが“対等”に接してくるのかは不明ですが」

 

 議論は再度紛糾するものの、最終的に宰相のカナタ自ら「特使と会う」と宣言したことにより、政治部会はお開きとなった。

 カナタは護衛されながら、会談場所に指定したマイハーク城へと向かう。

 

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