何が悲しくて異世界は帝国を召喚したか   作:太田目黒

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第13話 大東洋会議決議第702号

西暦2030年11月23日 13時11分

大日本帝国 東京都 大東洋共栄圏本会議場

 

「大東洋共栄圏の国民の皆さん……」

 

 可憐な女性の、麗しき声が、マイクを通じて議場、そして中継されるテレビを通じて日本をはじめとする共栄圏各国の国民に伝わっていく。

 大東洋会議大使として派遣されてきたアルタラス王国王女ルミエスは、18日に陥落した祖国アルタラスの王都ル・ブリアスに進駐するパーパルディア皇国兵の隊列、そしてそこかしこで連行される若い女性や、虐殺されるアルタラス兵の姿、そして広場で公開処刑されるターラ14世ら王族の姿が写し出される大画面を背景に、演説を続けた。

 

「去る18日、卑劣にも魔石鉱山シルウトラスの割譲、そして……私、ルミエスを奴隷として献上することを要求してきたパーパルディア皇国は、我が国が拒否すると見るや、すぐさま皇国監査軍を派遣し、我が国に上陸してきました。アルタラス軍は自国を守るために抵抗しましたが、敗北。王都ル・ブリアスは先日監査軍の占領下に置かれ……父アルタラス国王ターラ14世を含む私以外の王族を全員、公開処刑したのです……」

 

 頬を伝う涙は、議場に設置される8Kカメラによりくっきりとお茶の間に伝えられ、人々の涙を誘った。

 議場にいる大東洋諸国は、皆一様にパーパルディア皇国被害者の会でもある。そのためルミエス王女殿下……もとい、“アルタラス王国女王ルミエス”の気持ちを痛いほどよく理解しており、大使らもまた静かに涙を流している。

 

「今ここに、アルタラス王国女王ルミエスは、大東洋共栄圏軍による対パーパルディア皇国軍事制裁を提議いたします。どうか、皆さまの賛同とともに、パーパルディアによる覇権主義を終わらせようではありませんか!」

 

 演説が終わり、ルミエスは静かに一礼する。その仕草一つひとつに美しさがあった。

 途端に会場は万雷の拍手に飲み込まれた。全てが彼女と、危機的状況にあるアルタラス王国に向けられたものであり、スタンディングオベーションだった。

 

 ルミエスの演説は、それまで軍部とこの世界に懐疑的であった大日本帝国臣民に伝わり、「パーパルディア皇国討つべし」という声が各地で上がった。

 驚いたことに、都市部では国民による対パ開戦決起集会まで開かれる様である。

 

 完全に空気が変わった。

 帝国臣民は、与野党議員は、再び軍が矛を持つことをよしとした。

 

 11月24日。大東洋会議はパーパルディアに対するアルタラス王国侵攻を非難する決議(第701号)及びパーパルディア皇国に対する軍事制裁を容認する決議(第702号)が採択、満場一致で決まったこれらの決議に基づき、日本を中心とする大東洋共栄圏軍が結成された。

 帝国陸海軍はアルタラス王国方面とパーパルディア本国方面に部隊を展開し、攻撃開始の合図を待った。

 

 本作戦では、戦略爆撃機300機、戦闘機2000機、攻撃機3500機、螺旋翼機2000機が各前線基地、後方基地に配備された。

 またセイロン島の第四艦隊の他、昭南島から第三艦隊、呉から第一艦隊までもが出港し、尾張型原子力空母3隻(『安芸』『播磨』『伊予』)、白鳳型通常動力型空母2隻(『王鳳』『祥鳳』)、穂高型螺旋空母(ヘリ空母)4隻(『羅臼』『生駒』『葛城』『薬師』)の他に、近江型戦艦の『近江』と『駿河』も参戦している。

 

 もちろん本土侵攻もあるため、大本営陸軍はパーパルディア派遣軍の戦闘序列を命令し、8個師団30万名をもって本土侵攻が行われることとなった。それとは別に、アルタラス王国には別途アルタラス派遣軍を編成し、2個師団が派遣されることが決定されている。

 また、陸軍挺進軍が保有する3個挺進師団も全力出撃が決まり、数百機の輸送機によって反復空輸作戦が行われる予定である。挺進第三師団はアルタラス救援のために、挺進第一、第四師団は皇都エストシラント郊外に降下し、皇帝を捕える任務を帯びている。

 

 さらに共栄圏軍としてクワ・トイネ公国などの加盟諸国も兵力を抽出していた。これらは主に日本領ロウリアやフェン王国に設置された俘虜収容所の管理を任されている。

 大本営は軍事援助により着々と成長を見せている共栄圏軍の実戦投入を検討したが、さすがに時期尚早とみて後方支援のみに就かせることとした。共栄圏軍は3万を数え、これらが収容所の管理に当たる。

 

 そして忘れてはならないのが、本作戦より試験的に投入される無人兵器の数々である。

 まず主力となるのが、徘徊型無人機「空花」である。時速210キロで2000キロまで飛行でき、50キロの榴弾もしくは成形炸薬弾頭、熱圧力弾頭が装備できるため、対象を非装甲・装甲問わず攻撃できる。

 

 3機1組で行動する空花は、対象地域到達後に徘徊を開始し、自動で目標を識別すると、時速300キロ以上で急降下しながら突入する。

 まず1機が突入し、破壊判定を行う。不十分と判断されれば、もう1機が突入、完全に破壊する。

 もう1機は予備として待機、他に余った空花と合流してその場で新たにグループを結成し、他の目標を見つける旅に出る。

 海軍が運用する大型輸送機「星空」の格納庫内には36機積載でき、爆撃作戦と並行してパーパルディア各地にばらまく予定だ。

 

 準天頂航法衛星「八咫烏」による誘導により目標地域に向かって飛行する空花だが、時速210キロという速度であるため、パーパルディア軍の飛竜隊に捕捉される可能性がある。

 そこで海軍では、無人戦闘機を護衛機として付き従わせることで解決を図った。

 白羽の矢が立ったのが、2025年より少数ながら実戦配備が進みつつある無人戦闘機「藍山」である。

 

 本機は2020年代前半にかけて、米独空軍が開発するJ-39やRQ-58といった無人ジェット戦闘機に対抗し開発されたものである。

 本来、有人戦闘機に付き従ってバディとして支援する役目であるため、無人機単独で運用することは想定されていなかった。

 しかし2020年代も後半になると、航空機の無人化が主流となりつつ傾向があったため、現在では単独で飛行、戦闘もこなせるよう自律機能が強化されたものが運用されている。

 

 空挺部隊を輸送する用の輸送機を除き、合計1200機の中型・大型陸海軍輸送機が動員された。

 輸送機群は空花や爆撃機にも搭載できないような大出力爆弾といった“殺意の塊”を乗せ、パーパルディアに向かって飛んでいく。

 

 かくして、賽は天高く投げられた。

 これから数日間かけ、覇権国家が一つ、この世界から消滅することとなる。

 

 

中央暦1639年11月24日 11時36分

フェン王国 沖合

 

 海上を、多数の船が白い航跡を引いて東方に向かっていた。

 数は、実に324隻。パーパルディア皇国本国艦隊の全力出撃である。

 100門戦列艦を含む戦列艦211隻、竜母12隻、地竜、軍馬、陸軍将兵を満載する輸送艦101隻……三大文明圏の東側に位置する第三文明圏において、他の追随を許さない列強パーパルディア皇国軍の本気が今、文明圏外の新興国家に向かおうと舵を切っていた。

 無謀にも戦いを挑んできた蛮族国家が一つ、パーパルディアの本気により滅亡間近であった……と、少なくとも、パーパルディア将兵はそう思っていた。

 

「圧巻だな」

 

 本国艦隊を率いるシウス提督は、海を進む大艦隊を一望して呟いた。

 戦略家として名高い彼は、「冷酷無慈悲な将軍」として部下に畏怖されていた。

 

「間もなくフェン王国の地が見える頃です」

 

 報告が上がるが、シウスは焦ることなく腕を組んだまま命令を下す。

 

「まだ来ぬか……。ガハラ神国の風竜だけ警戒しろ。対空魔振感知器に反応はないが……直掩騎を出せ。100騎ほどでいい。細かい指示は任せる」

 

 提督は対空魔振感知器……魔素を利用し飛行する飛行生物を視界外から発見するために開発されたいわゆる対空レーダー……に感があれば、ワイバーンロードによる攻撃隊を出すようとも命じる。

 艦隊上空に上がったワイバーンロードは竜騎士に操縦され、警戒任務に当たった。

 

「しかし、一向に敵が見えないですね」

 

 副官の言葉に、シウスは同意する。

 

「もうそろそろアルタラス海軍に会敵してもいい頃合いだが……おかしいな」

 

「蛮族の奴ら、恐れをなして出てこないのではないでしょうか」

 

 参謀の言葉に、シウスは豪快に笑ってみせた。肩が上がるたびに金色の憲章が揺れ、太陽に照らされ輝いて見える。

 シウスは参謀に「きっとそうだな」というと、真顔に戻る。

 

「だが、一応の心配はしないといけない。蛮族の作る船だ。小さくて見落とすかもしれんからな」

 

『ハハハ……』

 

 再び提督の周りで笑いが起こる。

 その時だった、かすかに、だが確実に、遠方から鈍い羽音のような音が聞こえてきた。

 シウスは最初こそ気にも留めなかったが、段々とうるさくなる“それ”に遂に嫌気がさし、空を見上げた。

 

「何だ……? あれは……?」

 

 気が付けば、上空には数百羽の鳥が旋回していた。

 鳥というには大きく、ワイバーンのような飛行生物としては小柄なそれは、自身の持つ純白の翼を羽ばたかせることなく、旋回している。一体どういう原理で飛んでいるのか、提督にはさっぱりだった。

 

 シウス以外にも上空の奇妙な鳥に気付く者はいたが、ただの鳥だとしてすぐに気を他に散らしている。

 それにこの後ワイバーンロードが直掩として上がるため、それが追い払うであろう。とはいえ……

 

「おい、あれは何なんだ――」

 

 シウスが隣にいた艦長にあの鳥の名前を聞こうとした、その時だった。

 一羽の鳥が、こちらにむかって急降下してきたのである。

 ブゥゥゥという鈍い羽音はどんどんと大きくなり、さすがにシウス以外の士官たちもその存在に注目し始める。

 甲板上で水兵たちが銃を構えようとした頃には、すべてが遅かった。

 

 ドパァァァン!!!

 

 11月24日11時48分。大日本帝国海軍の星空大型輸送機群から投下された空花の一機が、初めてパーパルディア皇国本国艦隊の艦艇に突入した。

 見事、最初の獲物である「金ぴかの派手な服装をつけた偉そうなやつ」と、その者たちが乗る戦列艦を中破させた。

 徘徊型自律式無人機である空花が、自分で見つけ出した「高価値目標」の破壊を実践した瞬間である。

 

「また来るぞ!」

 

 さらに追加でもう一機の空花が突入。これは事前に定められた通りで、不十分だと自らのコンピュータが判断したのである。

 さらに突入してくる自爆鳥に、生き残ったパーパルディア兵が銃による射撃を開始するが、連発銃でもなんでもないただのマスケット銃で、時速300キロ以上で突っ込んでくる空花を迎撃することは適わなかった。

 

 シウスの乗り込んでいた100門戦列艦は、最初の突入で甲板上に穴が開いていた。

 そこに二機目、そして待機していた三機目の空花が突入し、穴を突き抜け艦内で炸裂した50キロの熱圧力弾頭により辺り一帯を爆風・爆圧で吹き飛ばしていく。

 火薬の詰まっていた樽を誘爆させながら、艦隊旗艦は見るも無残な姿に変わり、爆炎を上げながら沈んでいった。

 

「敵襲! 直掩騎を上げろ!!!」

 

 初っ端に艦隊司令部の乗り込んでいた旗艦が沈んでしまったため、慌てた各戦隊指揮官が各々指揮を取ることとなった。

 竜母部隊は艦長判断により、飛竜隊を上げることを決める。

 しかしそんな竜母部隊にも、上空で旋回していた数百羽もの“白い鳥”が急降下を開始していった。

 

 空花は空母らしき軍艦を見つけると、迎撃機が上がる前に突入を開始する。

 あと一歩のところでワイバーンロードが発艦するところだったが、そこへ空花の突入を許し、空中最強といわれたワイバーンロードは爆風に巻き込まれ、羽が千切れて海に落下した。

 

 またある経験豊富な竜騎士は、愛騎とともに発艦することに成功した。

 しかしそこに、どこからともなく飛翔してきた謎の物体が激突してきて撃墜されてしまう。

 ついぞ無事に発艦できたワイバーンロードは、一騎もいなかった。

 

 

「終わった、のか……?」

 

 数百羽、いや下手したら千数百羽いた自爆鳥の襲撃が終わり、生き残った艦……主に輸送艦……の乗員はほっと胸をなでおろした。

 しかし、そんなことはない。攻撃が次の段階に移行したに過ぎないのである。

 

 天高くに居座る鳥……自爆鳥のように急降下してこないことから、ただの鳥だと思っていた……が、次第に高度を落とし始めた。

 それらはじっくり生き残りの艦を選定していくと、翼に吊るしていた棒状の何かを投下していく。

 棒状のそれは高速で飛翔し始めると、全速でフェン王国に向け航行する輸送艦に吸い込まれていき、爆炎を上げた。

 

 秒速400メートル以上の速度で輸送艦に突っ込むそれの正体は、無人戦闘機藍山から発射された空対地誘導弾だった。

 退陣、対戦車、対装甲車両などなど様々な用途で投入されている誘導弾が、兵員や武器弾薬を満載する輸送艦を次々屠っていく。

 

 パーパルディア皇国軍では戦列歩兵が採用され、その分消費する火薬の量も尋常ではないほどに多い……なお第三文明圏で比較した際の話である……ため、各輸送艦には兵士たちの使う火薬がみっちり保管されていた。

 そこに対地誘導弾が着弾したからたまったものではない。たちまち十数隻の輸送艦が火の海に包まれ、何度かの爆発の後に艦全体が崩れ落ちていった。

 

 艦隊最後の艦艇が焼け落ち、海中に没したのは、攻撃開始から3時間が経った頃の話だ。

 フェン、そしてその後には日本を侵攻する予定だったはずの本国艦隊、そして本国地上軍部隊は、そのすべてが撃沈され、死亡するか海上を浮かび、鱶の餌になるのを待つだけの存在となった。

 

 そんな様子を、上空をゆったり旋回する“鳥もどき”に装備されているレンズにきっちり記録され、遠く離れて飛行していた日本海軍の早期警戒管制機にも届いている。

 無人機管制機として機能していた当機では、300隻を超す艦隊をすべて撃沈したことに歓喜の声が上がった。無理もない。

 

 彼らは今、「無人機のみで一個艦隊を消し炭にした」という地球世界でも前例のなかった一大事業を成し遂げたのである。

 それはすなわち、あくまで有人機の支援・護衛としての無人機が、主役になれることを証明したことを意味する。

 

 今回のパーパルディア戦は、それまで補助的要因といわれ続けてきた彼らにとって、初めて無制限に活躍できる場でもあった。

 それだけ士気は他の部隊より比較にならないほど高く、それまで大派閥として存在していた大艦巨砲主義者、航空主兵論者、潜水艦隊論者に比べれば、少数派でありながら、近未来戦にあこがれる“無人戦争論者”の勢いはかなり強く、ありとあらゆる無人機の投入を決定する所以でもあった。

 何せ、空花の製造コストは一機当たり約200万円ほど。つまりたった600万円で100門戦列艦1隻を屠ったわけである。コスパの鬼である。

 

 無人機管制機内では、管制官や陣頭指揮を取っていた無人機部隊司令らが感涙にむせび泣いていた。

 パーパルディア皇国本国艦隊を壊滅させた日本軍の攻撃は本格化していく。もちろん、今回の攻撃に参加するのは無人機だけではない。

 

 今の攻撃は、26機の星空から投下された936機の空花、在フェン日本海軍基地から攻撃のために発進した100機の藍山によるものだった。

 およそその数倍もの航空機による攻撃が、これから始まろうとしていた。

 

 

中央暦1639年11月24日 15時03分

パーパルディア皇国 エストシラント

 

 パーパルディア皇国の栄えある皇都エストシラント上空に、100機近い富嶽改が低空で接近していた。

 対ロウリア戦では初動の攻撃を夜間に行ったが、この世界では噴進(ジェット)爆撃機を迎撃できる兵器が存在しない点、また明かりのある昼間に攻撃した方が精神的ダメージを大いに与えられる点などが考慮され、昼間低空爆撃が実施されることとなった。

 かつて東印度事変で各地を焼き払った富嶽改が、ロウリアに引き続きパーパルディアも破砕すべく、マッハ0.8で飛行し続けていた。

 

「ああ、これじゃまた退役が遠のくな」

 

と、いったのは親子三代で富嶽もしくは富嶽改を操った経験のある若い士官。

 それだけに大規模に、大量の爆弾を遠くに運べる戦略爆撃機という存在が、この世界においてかなり重宝されるのであった。

 また陸軍の二五式重爆「巨龍」も、別目標を攻撃するため勇躍出撃している。

 

 100機の富嶽改から投下された250キロ航空爆弾は数千発に及んだ。

 炸薬量100キロの無誘導爆弾は、地上に到達すると炸裂。小型とはいえ高性能爆薬は半径数百メートル以内の人や馬車、建物に何らかの被害をもたらした。

 石畳の綺麗に舗装されている道はめくり上がり、建物は爆風によって倒壊する。もちろん、その周囲にいた人々は爆炎と爆風に飲み込まれた即死、もしくは重傷を負った。

 

 エストシラントに住まう住民は逃げ惑い、しかし瓦礫に道をふさがれ、憤怒の気持ちとともに酸欠、もしくは焼け上がり死んでいった。また一部の者は飛竜隊が上がらないのかと憤慨した。

 見たところ上空を飛ぶ巨大な飛竜は、ワイバーンロードはおろか、普通のワイバーンでも十分迎撃できる高度にいる……速さは一般民衆には知ったことではない……。

 だというのに、爆弾を落とし、逃げ帰ろうとしている今こそ叩く絶好のチャンスなのにも関わらず、味方のワイバーン/ワイバーンロードは一向に現れない。

 

 それもそのはずである。

 彼らの想像していた皇都防空の要である飛竜基地は、すでに陸軍の二五式重爆巨龍による精密誘導弾攻撃を受け、壊滅しているのだから。

 

 

 エストシラントの防衛体制は、昨今の領地拡大の観点からさらに厳重なものとなっていた。対外進出を考える一方で、例え属領が反乱を起こしても十分対応できるようにするためである。

 エストシラント北方陸軍基地も、そんな増強計画に含まれている基地の一つであった。

 

 女性魔信技術士のパイは、今日も今日とて哨戒中のワイバーンオーバーロードの様子を対空魔振探知器で見守っていた。

 ワイバーンオーバーロードは、ワイバーンロードよりもさらに格上の存在として、パーパルディアが開発した最強の飛竜である。

 

 ワイバーンといった飛竜は、体内で生成される魔力量が人間や他の種族のそれより多い。そのため常時体外に魔力が漏れ出している。このため魔力が敏感な小動物らは危険を察知して逃げたりもする。

 対空魔振探知器は、そのような対外に漏れだす魔力を探知することにより、どこに何体の飛竜がいるかを察知することができる代物だ。これは対空のみならず、対地上用もあったりする。

 

 時刻は昼過ぎ、14時の時報が先ほど鳴り響いたのが次第に忘れてきた頃のこと。突然レーダー上から、自分の見ていた点が消えた。

 魔力探知が引っ掛からなくなること、それはつまり対象の生物の魔力が、何らかの原因で消滅したことを意味する。

 消滅する主な要因は……

 

 パイは慌てて上司を呼び出す。

 先ほどまであった20個の光点の辺りを指さし、ことの経緯を説明する。上司は顔を真っ青にし、各方面に警戒を促そうと走り始めた。

 

 だが、次の瞬間――

 

 これまで経験したことのない、とてつもない衝撃が二人を、基地全体を襲った。

 風圧はパイたちの鼓膜を破り、彼女は意識を失う。最後に見えた光景は、窓が粉々になり、無数のガラス片が上司に突き刺さる様子であった。

 

 14時27分、パーパルディア皇国本国艦隊への攻撃よりも少し前のこと。

 12機の二五式重爆巨龍から投下された1トン精密誘導爆弾が、上空を旋回中の無人偵察機からのレーザー誘導により、ピンポイントに飛竜基地を直撃した。

 誘導爆弾は北方陸軍基地の管制塔や竜騎士待機所、飛竜たちの住む納屋を吹き飛ばし、一度の攻撃で基地は文字通り灰燼に帰した。

 滑走路にも爆弾のいくつかが投下、炸裂して飛竜隊が滑走離陸することは不可能となった。

 

 時を同じくして、その他の陸軍基地、飛竜基地に対する精密誘導爆弾や対地誘導弾、熱圧力爆弾などによる空爆が開始され、十数分もかからずパーパルディア皇国はエストシラント周辺の基地は壊滅する。

 陸海軍共同で行われた航空撃滅戦により、エストシラントは制空権を失った。

 

 

「……4番機、飛竜撃墜」

 

 輸送機が爆撃する、というあまり聞き慣れない言葉が情報網を飛び交う中、一機のキノコが生えた大型旅客機(と思しき航空機)が高度1万メートルを飛行していた。

 ワイバーンが到達できない絶対空域にポツンといる旅客機、もとい四一式司令部偵察機は現在、特殊作戦のため他の部隊からは独立して任務遂行中だった。

 

 四一司偵は、中島重工業製の早期警戒管制機である。

 機体上部についている円盤状の電探は広範囲の空域をカバーし、作戦領域内のすべての味方航空機もしくは艦艇、地上部隊に敵情報を提供する。

 近年では人工知能(AI)も駆使し、人間の管制官に交じって人工知能が攻撃及び要撃の指揮管制を行うこともあった。

 

「14番機、飛竜撃墜」

 

「19番機、陸軍基地に爆弾投下」

 

 管制官から次々上がる報告に、四一司偵に乗り込んでいた航空将校は、隣で腕組みをしていた技術将校と顔を見合わせ、ニッと笑みを浮かべた。

 日本陸軍における対パーパルディア戦において、無人機作戦の責任者の一人でもある彼は、司偵に便乗して自身の育て上げた無人機たちを温かい目で見守っていた。

 四一司偵の任務……それは、20機の八九式無人戦闘機を指揮管制し、対空・対地攻撃任務を完遂させることであった。

 

 八九式無人戦は陸軍が開発した日本初の“コックピットのない”最初から無人機として設計された汎用戦闘機となる。コックピットの代わりに人工知能を搭載し、自律飛行を可能としている。

 海軍が同時期に開発した艦上無人戦闘機「剣風」のように離陸距離や重量に制限がないため、兵器搭載量は陸軍主力の四七式戦闘機と遜色なく、今回の任務成功の暁には、空は無人機によって占有されるだろうという確固たる自信が指揮官にはあった。

 

 そして今、そんな無人戦闘機と司偵で構成される第九十九独立飛行隊、通称“ツクモ神戦闘隊”は、パーパルディア軍の飛竜隊と交戦していた。

 結果は一機の損失もなく、20機で50騎以上のワイバーン、ワイバーンロード、そしてワイバーンオーバーロードを撃墜していた。さらに一部の八九式無人戦は対地兵装が取り付けられており、飛竜基地にも被害を与えている。

 

「実験は成功だ。これで現代航空戦は変わるぞ……!」

 

 内心ガッツポーズを決める技術将校。

 今や陸海軍部内で勢いを増しつつある“無人戦争論者”がこの戦果を聞けば大歓喜することは間違いない。それに予算もかなりの額を回してくれるだろうと踏んでいた。

 無人戦争論者の中でも、無人機空中艦隊推進派の彼の思考は、空を覆うように飛行する無人戦闘機の群れ、そして敵に果敢に突撃する無人攻撃機、極めつけが超巨大無人空中母艦などなど……もはや小説やゲームのたぐいのものであるが、彼は本気でそれらを開発しようとしていた。

 八九式無人戦は、彼の野望の第一段階でしかない……

 

 そんな若き技術将校の妄想はさておき、八九式無人戦はその後も戦闘を継続し、64騎の飛竜、飛竜基地管制塔3棟、滑走路4本、宿舎2棟を破壊し、在フェン王国陸軍基地へと帰還した。

 八九式無人戦の活躍はすぐさま大本営を通じて全軍に知れ渡ると、技術将校や指揮官の予想通り、陸軍内では一気に無人機導入の流れが加速していくことになる。

 

 また裏では、無人戦争論者の陸海軍人が結託、与野党議員から軍部への“無駄遣い”の追及を利用し、安価性や生産性の高さで他の有人兵器よりも圧倒的に利があることを伝え、議会に対するロビー活動を画策したこともあり、軍事予算の一定割合を無人機開発・生産に回すようにとの声が大きくなっていった。

 これは後に、内務省内においても進行している警察予備隊構想において、無人兵器導入のきっかけを作るなど、様々な場面で“無人化”が焦点となるのであった。

 

 とはいえ……

 第九十九独立飛行隊の初陣は、大成功に終わった。

 後に飛行隊は正式に飛行戦隊に格上げとなり、飛行第九十九戦隊として予備機併せて100機近い八九式無人戦闘機を運用することとなる。

 八九式無人戦闘機は“ツクモ神戦闘隊”の活躍もあり、陸軍や臣民からは“ツクモ”との愛称がつけられ、広く人気を博す機体となった。

 

 そんな人気とは裏腹に、人工知能という非人間的存在が宿る戦闘機は、この後も数えきれないほどの異世界人の血を吸い取っていくこととなる。

 

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