中央暦1640年4月7日 14時30分
フェン王国 ニシノミヤコ沖合
時は少しだけ遡る。
パーパルディア皇国監査軍東洋艦隊を一方的に殲滅したことにより、皇国の対フェン王国懲罰権発動を防いだ日本であったが、去年より“共栄圏加盟国軍の質の低さ”に悩まされていた。
パーパルディア戦後におけるアルタラス王国内で行われた“見世物裁判”もあるが、民度に限った問題ではない。軍隊の質があまりにもかけ離れており、日本軍と大東洋共栄圏軍の合同作戦がままならない状況だったのだ。
これまで文明国に搾取された文明圏外国家であれば分かる。しかし今や、リーム王国などの第三文明圏文明国が共栄圏に加盟するに至るが、彼らの装備はお世辞にも誉められたものではなかった。
『大東洋共栄圏の近代化が急務』
と、言ったのは、大本営に限らずほぼ全ての官庁に勤める官僚連。彼らの“近代化”を要求する声が多発していた。
それに応えるべく、現在ではパルネウス総督府や内務省社会局を通じて各国の開発援助が行われている。
特に顕著に変化があったのが軍隊であろう。
大本営政府連絡会議はそれまで行ってきた軍事援助を、駐屯軍の派遣だけでなく日本製兵器の供与、もしくは将来的な輸出を決め、今年2月頃から本格的な援助を始めた。
フェン王国も、その援助を受けた国の一つである。
フェン王国は魔法を使わない。そのため日本軍と同じ土俵で指導しやすかった。特に島国であることから海上戦力の拡充を優先し、水軍は正式にフェン王国王立海軍と改組され、日本式の階級、組織構造が採用された。
水軍長改め海軍本部長のクシラは、これまで数々の海戦に観戦武官として乗り込んでいたことから日本海軍の戦術にある程度理解があった。
また本人の希望で短期間ではあるが、日本海軍兵学校教官から教育を受けており、海軍大将として近代海軍育成の舵取りを切ることとなる。
とはいえ、戦術は分かっていても最初から海防艦や駆逐艦、その他艦艇を動かすのは難しい。水兵らの教育もまだ始まったばかりだ。
そこで日本海軍は、海軍技術本部の技官を呼び寄せ、フェン海軍帆船群に改良を加えさせた。帆船は石炭を用いる蒸気船に生まれ変わり、兵装は全て扱いやすい日本製兵器が搭載されることになった。
「目標前方標的船! 距離1000!」
そんな生まれ変わったフェン海軍は、今日も今日とて「月月火水木金金」をスローガンに苛酷な訓練を実施していた。
背後には、日本海軍海上護衛総隊から派遣されてきた258号型海防艦が訓練の様子を見守り、上空にはフェン海軍の行動を監視する無人偵察機の姿がある。
フェン王国海軍第1艦隊旗艦『剣神』は、日本人技官らの手によって生まれ変わっていた。それまで主兵装であったバリスタは全て取り外されており、今や片舷4丁ずつの13ミリ重機関銃が取り付けられていた。
「射撃開始!」
クシラ大将の号令一下、標的艦に向けられた4丁の13ミリ重機が火を噴く。対船舶用に焼夷弾と曳光弾が装填されていた重機関銃から発射された弾丸は標的艦に見事命中、火災を生じさせた。
弾が切れると、まだ慣れない手つきながらも弾薬係が弾薬箱から100発入りの弾帯を取り出し、装填する。
再度発砲を開始すると、遂に標的艦全体に火災が回ったようだ。
マストが根元から折れ、艦が傾いていく。クシラは「射撃止め」を号令、水兵らはゆっくりと沈みゆく標的艦を眺めていた。
「ふむ、素晴らしい。良いでしょう。まだ装填がもたついているところがありますが、前回の訓練よりかは大分時間短縮を遂げていますね」
指南役の日本海軍士官がうんうんと頷く。
それを見たフェン海軍将兵は喜んだ。クシラも豪快に笑って見せる。「これでフェン王国の海は安泰ですな」
「いやいや、これはまだ序の口ですよ。皆さんにはこれから日本製艦艇を乗り回してもらうことになります。そうなればやることも数十倍に増えることになります。覚悟しておいてください」
『うわぁ……』
将兵の反応を見て、士官は肩を軽く上げて無線を掴んだ。
『剣神』を見守る258号型海防艦に連絡し、訓練終了の旨を伝えるためである。
「これだけの装備があれば、そこら辺の海賊であれば撃退可能でしょう。しかし、対飛竜戦の練習もしなければなりません。次回は飛行物体に対する攻撃を行ってもらいます」
「承知した! 感謝する!」
と、こういったように、大東洋共栄圏に加盟した国々の軍備力拡大が着々と成されていった。
フェン王国はその後、6月には日本が供与した海防艦を受領し、慣熟航海に出た。その時には既に操舵は手慣れており、兵装も十二分に管理できるほどまで発展していた。
さらに士官教育の一環として、共栄圏各国から選抜された士官らを日本に呼び寄せ、陸軍将校は陸軍士官学校、海軍士官は海軍兵学校に留学生として入学させ、3か月間にわたる詰め込み教育が行われた。
短期間であるためすべてを教えることは叶わなかったが、それでも必要最低限の教育を受けた共栄圏軍士官らは帰国し、各軍の指揮官としてその後の近代軍を牽引していく存在となる。
大本営は順調に大東洋共栄圏軍が近代化を果たしているのを確認すると、来るべき2031年度大規模演習――「北方総火演2031」に各国軍を招待するのであった。
西暦2031年8月1日 8時49分
大日本帝国 グラメウス軍政監部 グラメウス総合演習場
余談であるが、大東亜共栄圏には4つの巨大な総合演習場がある。各演習場では4年に一度、大東洋共栄圏加盟国を巻き込んだ大規模総合火力演習(総火演)が行われる。
それぞれ持ち回りで東方総火演(南洋諸島総合演習場)、南方総火演(東印度スマトラ島総合演習場)、西方総火演(中華民国フフホト総合演習場)、北方総火演(極東共和国チタ総合演習場)において、それぞれ総火演を実施する。
2029年には南方総火演が実施されており、日本領東印度に20万名もの共栄圏軍が集まり演習を行っている。だが、2030年度は転移の影響と中華民国の消失により、西方総火演は中止に追い込まれていた。
そして2031年度北方総火演も、極東共和国の消滅により中止となるのではないかと騒がれていたところで、グラメウス大陸を手に入れたわけである。
「大東洋共栄圏軍諸君とともに、記念すべき今日という日を迎えることができたのは、総火演司令官として感激の極みである……」
グラメウス総合演習場。
グラメウス大陸に建設された5000平方キロを超える総合演習場に集まったのは、大日本帝国を中心とする大東洋共栄圏加盟国から集った、近代化された軍隊である。
参加したのは、アグレッサー部隊として参加する富士教導団に加え、第四師団、第六師団、第七師団、第四十九師団、第八十八師団、第五十師団、挺進第三師団の7個師団25万名。
装甲・非装甲車両2000輌、航空機400機の日本軍を筆頭に、クワ・トイネ公国軍、クイラ王国軍、フェン王国、ガハラ神国軍、アルタラス王国軍、シオス王国軍、トーパ=エスペラント連合王国軍、マオ王国軍、リーム王国軍、マール王国軍、パンドーラ大魔法公国軍といった国々である。
日本を除く大東洋共栄圏諸国は、この演習のために4万名近い近代化兵、132輌の戦車、180機の噴進戦闘機、37隻の海防艦が総合演習場に集まったのである。
また、共栄圏加盟国ではないが、日本が“友好国”として認定しているエモール王国を始め、ムー帝国や神聖ミリシアル帝国、その他中央世界、第二文明圏、文明圏外諸国から観戦武官を受け入れており、本演習は世界が注目する演習となった。
そして2031年8月1日正午。2週間に渡って実施される北方総火演2031は、隣接するグラメウス特種演習場で発生した一つの人工太陽によって幕を開けた。
12時01分45秒。陸軍の二五式重爆撃機巨龍から投下された特殊爆弾は、高度1000メートル付近で起爆した。
瞬時に半径600メートルの火球が生じ、辺り一面に放射線と熱線をまき散らす。
起爆箇所から100メートルごとに設置されていた檻の中に収容されていた魔物たちは、熱線による重度熱傷もしくは急性放射線障害により即死する。
中には角を生やし、体格の良い魔物(?)らしき生物も捕らわれていたが、特殊爆弾……熱核兵器を前にすれば、他の魔物と同様に溶けた。
「おぉ、神よ……」
神聖ミリシアル帝国から派遣されてきた観戦武官のライドルカは、数百キロ後方にある統裁本部からでも見える太陽のように明るい火球、そしてその後のキノコ雲を見て思わず祈った。
他の観戦武官や、共栄圏加盟国であるはずの各国高級将校らも呆然とし、冷や汗をかいているのが見える。
「核攻撃完了。各部隊の前進が始まります」
事前に聞かされていた総火演の内容、それは対魔帝戦を意識した動きであった。
古の魔法帝国。その技術力は高度な魔法文明であるため日本では計り知れず、その分警戒を要していた。下手すれば核兵器のようなものも保有しているかもしれず、そうなれば復活即全面核戦争が繰り広げられる可能性もある。
そこで日本は、北方総火演2031において、1980年代以来使ってこなかった熱核兵器の使用を決めた。また大東洋共栄圏軍に、このような兵器もあるのだと周知しなければならない。
大東洋諸国としても、変に世界が日本へ期待しているため、ここで一発実力を見せつけなければならないと考えた政府了承の下、出力をできるだけ絞った50キロトン級熱核兵器の使用に踏み切ったのである。
結果は上々だった。それまで見たことがないほどの威力の爆発、そして天高くそそり立つきのこ雲に、観戦武官はおろか共栄圏軍の誰もが目の前の光景に驚愕し、同時に恐怖を感じた。こんなとんでもない兵器を持つ日本に敵対すれば……考えたくもない。
恐怖で足がすくむ中、日本軍司令部から各部隊に前進命令が通達される。事前に策定された計画では、これより彼らは核爆発を横目に各個に前進して目の前にある標的町を制圧することが求められる。
町にはアグレッサー部隊である富士教導団が潜伏しており、彼らを妨害する。
ちなみに、参加する全ての将兵の小銃や火器、装備には交戦用訓練装置が取り付けられており、“お手軽戦死体験”ができる。これは、火器に取り付けられたレーザー光線が発砲の度に射出され、兵士に当たると当たった箇所に応じて負傷、もしくは戦死の判定が下されるのだ。
最低限の分隊行動を学んだ共栄圏軍であったが、日頃より日本軍正規部隊や大東亜共栄圏加盟国軍との模擬戦闘に明け暮れていた教導部隊に敵うはずもなく、たちまち数百名もの戦死判定者が続出することとなる。
共栄圏軍は鉄地竜隊に支援を要請し、クイラ王国陸軍鉄地竜隊30輌が応援に向かった。
鉄地竜隊とは、各国が日本から供与された第二世代主力戦車の二八式戦車によって構成される戦車隊である。
すべての国の軍隊に組織されているというわけではなく、クイラ王国やパンドーラ大魔法公国といった比較的経済的・人材的に余裕のある国のみが編成している。
クイラ王国は、文明圏外で最も多数の戦車を運用する国家である。
膨大なオイルマネーによって支えられ、多数の航空機や戦車を保有するクイラだったが、こちらには教導部隊の戦車隊が応対した。連隊にはクイラや他の共栄圏軍同様に二八式戦車が配備されている。
王国鉄地竜隊が街道沿いに前進するが、突然前方を走る戦車が走行不能判定を受けた。
「対戦車地雷だ!!」
隊列の真ん中にいた指揮官は、すぐさま街道から鉄地竜隊を離れさせるため一旦停止させる。それが命取りであった。
静かに町の外に展開しつつあった教導戦車部隊が、混乱していたクイラ王国鉄地竜隊を襲撃したのである。たちまち20輌以上が撃破判定を受ける。指揮官車含める残存車両7両は、何とか防衛陣形に移行し、教導部隊を迎え撃つ。
相手は3輌。10倍以上の戦力だったはずなのに、気付けば1:2まで差が縮小している。
「撃てーッ!!!!!」
台地を駆け巡る敵戦車を照準に定め、クイラ王国軍が射撃を開始する。無線機を独自に導入していたクイラ軍では、指揮官の号令一下、7輌の戦車が一斉に発砲した。
砲弾……レーザーであるが……は、惜しくも教導部隊の手前にあった地面に吸い込まれてしまう。代わりに教導部隊側の戦車が発砲、クイラ軍戦車2輌が撃破される。
「走りながら撃ってきやがる……!」
実を言えば、教導部隊側の二八式戦車は1970年代に生産された後期型、即ち二八式戦車改と呼ばれるものであり、砲安定装置などを搭載しているものだった。それに加えて人外レベルでの練度があるため、行進間射撃などお茶の子さいさいだった。
30輌中、今の襲撃で実に25輌が撃破されたクイラ王国鉄地竜隊は、たった3輌の教導部隊に翻弄され、袋小路となっていた。
その時である。それまで縦横無尽に走り回っていた教導部隊が、何かに気付くと一挙に退却し始めたのだ。指揮官は慌てて周りを見渡す。
遠方から、50輌以上もの戦車が向かってくるのが見えた。各戦車には独特の旗が掲げられている。
「リーム王国軍だ……! マオ王国もいる!」
リーム王国、マオ王国両鉄地竜隊の二八式戦車51輌は、偶然目標町に向け進撃中だった。本来は二手に分かれての進撃であったが、マオ軍が全戦車による一斉行進を始めた結果、リーム軍が負けじと全車前進を命じたのである。
結果、51輌もの戦車が同じ進路を取り、目標町に歩みを進めたのである。
それを見た教導部隊は、3輌だけでは分が悪いと考え一旦退却したのである。
「助かった……!」
クイラ王国軍指揮官は車外に飛び出て、リーム・マオ軍鉄地竜隊に向け手を振る。
戦闘の戦車から上半身を出した軍人が手を振り返すと、両者は段取りを取るために近づいた。
彼らは既に大東洋共栄圏語としての日本語を学習しているため、基本的日本語での会話だ。
「クイラ王国陸軍鉄地竜隊です。援軍助かりました」
本当は援軍などではなく、ただ胸の張り合いでここまで来ただけだったのであるが、リーム王国軍の鉄地竜隊指揮官は自慢げに「苦しゅうない」と言う。
クイラ指揮官は胸ポケットから地図を取り出し、目標町を指し示した。
「先ほどまで、我が鉄地竜隊は敵戦車隊と交戦、30輌中25輌が撃破されました。敵戦力は不明ですが、戦車と多数の歩兵隊を有していると事前偵察で判明しております」
「なるほど、25輌も貴殿らはやられたのか。まあ我がリーム王国軍に任せるがよい。一蹴してやろうぞ」
謎の自信であるが、リーム指揮官に対しマオ陸軍鉄地竜隊指揮官は慎重姿勢を見せる。
「敵軍は手練れです。ここは歩兵と協同して慎重に向かうのがよろしいかと。3キロ後方に味方の歩兵部隊が進軍中ですので、これの合流を待つべきでしょう」
「いや、敵軍は我が鉄地竜で一掃する! 各車前進!」
しかしリーム指揮官はマオ指揮官からの提案を受け入れず、一人戦車に戻っていった。
戦車に下半身を潜り込ませると、緑色の小さな旗を振り始める。途端、リーム軍鉄地竜隊の各車が進み始める。
「リーム軍は手旗信号なのか……」
無尽蔵ともいえるオイルマネーで、無線機を導入したクイラ王国陸軍鉄地竜隊。
しかしそれはかなり少数派であった。ほとんどの軍では、リーム軍のように手旗信号で交信しているのが実情であった。
中にはこっそり魔信を使う部隊もあるが、基本的に日本人側が使えないものの使用は許可されていない。あくまで彼らは、日本軍と協同という名の補佐をする役目があるので、これら魔道具の使用は制限されていたのである。
マオ指揮官は「致し方なし」と言うと、自身の戦車に戻った。
「隊長、どうしますか」
副長からの問い合わせに、指揮官は肩を降ろして戦車に戻っていく。
「一旦休憩だ。我々は歩兵隊を待つ。歩兵の対戦車火器と協同して戦車と相対しよう」
「了解!」
その後、目標町の方から苛烈な砲撃音が聞こえてきた。おそらくリーム・マオ鉄地竜隊と敵戦車部隊が交戦した音だろう。すぐに静まったため、撃破したか、あるいは……。
それから数十分もしないうちに、クイラ軍鉄地竜隊5輌は後方から進出してきたトーパ=エスペラント連合王国軍歩兵隊、鉄地竜隊と合流した。
歩兵が携行する対戦車火器を前面に押し出し、鉄地竜隊は慎重に目標町に向け前進した。
「各隊、敵戦車に注意しながら前進せよ」
トーパ=エスペラント連合王国陸軍第1歩兵連隊長のモア大佐は、自身が乗る四輪自動車の座上から各部隊に指令を送る。
歩兵連隊には対戦車中隊が配置されており、数十基もの携帯対戦車擲弾発射器が配備されている。これを握りしめた兵士が、予備の弾薬を持った弾薬運搬係の兵と共に散開している。
先ほど支援要請を行っていたクイラ王国鉄地竜隊、そして街道上に散見された50輌を超す撃破判定を受けた戦車、そして判定官に怒り狂うリーム王国軍将校を横目に、諸兵科連合部隊は前進を進める。
そして今、先行していた威力偵察隊が敵戦車と交戦したとの報告を受けた。
「戦車は3輌……本当にそれが全戦力なのか……?」
モアは思案する。先ほどのクイラ王国軍からの報告によれば、先ほども3輌による襲撃だった。普通に考えれば、敵の全戦車はその3輌と考えるのが妥当だろう。
しかしモアは慎重だった。
「まだ隠れているかもしれない。まずは敵戦車3輌を撃破した後、歩兵隊を隠れる場所のないここから、すぐ町に突入させます」
かくして、演習初の歩兵による対戦車戦闘が始まった。
自動貨車から飛び降りた対戦車兵らは、丘陵に隠れて敵戦車が来るのを待つ。威力偵察隊やトーパ=エスペラント軍の鉄地竜が陽動する中、敵戦車の一輌が近づいて来た。
「よく狙えよ……!」
第1歩兵連隊第1対戦車中隊長のザビル大尉は、自身の握りしめる対戦車擲弾発射器の照準を合わせる。彼我の距離、500メートル。
対戦車擲弾は無誘導の噴進弾(ロケット弾)であるため慎重に狙わなければならない。
見越し射撃しなければならなかったが、旧エスペラント王国屈指の銃士であるザビルにかかれば、容易なことだった。
「発射!」
引き金を引く。残念ながら演習であるため、派手な発射音や煙は出ない。発射されたレーザーは目の前を走る二八式戦車に直撃、数秒後には停止し、すぐさま赤色の旗が上がった。
撃破判定である。
「やったぁぁぁぁ!!!!」
歓喜の声がそこら中で上がる。しかしザビルは焦っていた。
「(残りの戦車はどこだ……? どこにいる!?)」
その答えは、すぐに分かることになる。
「側面に戦車!!!」
「しまった――」
次の瞬間、ザビルたちに取りつけられていた被弾検知器が、一斉にけたたましい音を発した。
検知器には、「戦死」とだけ書かれていた。
「やられちまったか……」
丘の上にすぐさま判定官の日本軍将校がやってくる。
「すごいじゃないか、ザビル大尉。敵戦車1輌撃破だ。明日以降もその調子で頑張ってくれ」
「……ハッ。感謝します」
その後、戦死判定を受けた将兵は自動貨車で後送され、一旦基地に帰還する。
演習初日、結局敵戦車を撃破したのはザビルの率いるトーパ=エスペラント軍対戦車班だけであり、それを知った共栄圏軍全体が彼の名を知ることとなる。
トーパ=エスペラント連合王国。
グラメウス大陸で外界と断絶し、孤独に戦い続けていたエスペラント王国の存在を知ったトーパ王国は、いわば兄弟である彼の国と積極的に接触し、連合王国を形成するとなった。
それに伴いトーパ王国軍並びにエスペラント王国軍は統合され、今やトーパ人とエスペラント人は互いに手を取り合い、助け合う存在となったのである。