西暦2031年8月2日 12時35分
大日本帝国 グラメウス軍政監部 グラメウス総合演習場上空
昨日から始まった陸上侵攻に伴い、陸軍挺進軍による空挺降下も実施されることとなった。
演習場内の飛行場からは数十機もの七〇式輸送機が飛び立ち、降下予定地点まで飛行する。
「降下5分前!」
『降下5分前!!』
班長の言葉を復唱しながら、クワ・トイネ公国軍初の空挺隊員にして女性のイーネ少佐は、緊張した面持ちで開傘索を握りしめる。もうすぐグラメウスに来て初めての空挺降下だ。
イーネはこれまで行ってきた空挺降下訓練を思い出す。
ロウリア軍政監部内で行われた苛酷な訓練、そして実際の空挺降下……今回の総合演習では、今までのように降下後はすぐに回収されることなく、そのまま3日間の作戦行動を行う。そのため装備品の数も多い。
『”白薔薇”2番機、進路ヨシ、進路ヨシ、用意用意用意、降下! 降下! 降下!』
「青!!」
先に現地に潜入していた日本軍降下誘導小隊による誘導の下、それまで赤色に輝いていたランプが緑色に変わる。降下の合図だ。
後方にいたイーネらクワ・トイネ空挺隊10名は、一気に気を引き締める。次々日本軍空挺兵たちが降下していく中、彼女らも意を決し一歩を踏み出した。
眼下、“不毛”と表現するのが適切な大地が目の前一杯に飛び込んでくる。飛び出しすぐに落下傘が開く衝撃が感じられ、ゆったりながらも確実に地面に近づいていった。
着地に成功すると、落下傘を畳んでクワ・トイネ空挺隊の面々と合流する。他にもクイラ王国軍空挺隊がいた。
今回、空挺降下に参加する空挺兵は、日本陸軍挺進軍の他にはクワ・トイネとクイラ両国のみであり、それだけに多くの期待が寄せられていた。
二四式小銃を構えつつ、イーネは部下を引き連れて合流地点まで向かう。基本的に徒歩であるが、途中から日本軍と合流して挺進戦車に便乗する予定だ。
男性でも重いと感じることがある装備品をものともせず、イーネはずんずん進んでいく。
「敵襲!!」
その刹那、タタンという発砲音が聞こえる。瞬時にその場で伏せると、発砲音のした方向を見つめる。
微かにではあるが、いくつかの草木が揺らいでいる。
そこに発砲すると、ガサガサと草をかき分ける音が聞こえてくる。どうやらそこにいたようだ。
「奇襲部隊を掃蕩しろ!」
共に行動していた日本軍将校の命令により、一斉に挺進隊員が散開して掃蕩戦を始める。イーネも立ち上がり、その後を追った。
教導部隊に所属する将兵の多くは、エリート部隊である陸軍挺進軍出身者が多い。そのため挺進軍としても敵の行動を読みやすく、また互いに優秀な兵である。
その動きは極めて洗練されており、イーネたちは戦闘中にもかかわらず思わず唸った。
「(クワ・トイネ軍がここまでの動きができるまで、一体何年かかるのであろうか……考えたくもない。しかし、我々選ばれた空挺隊はこの動きが求められているのだ。こうならなければいけない)」
街道から少し外れた地点には、既に挺進戦車が十数輌待機しており、車体上部には既に日本軍挺進隊員が腰を下ろしている。
その内の一輌にイーネたちが乗り込むと、挺進隊員の一人が口笛を吹く。
「空挺兵の姉ちゃんか、珍しいもん見たな」
イーネは兵士の方を振り返り、微笑んだ。
「女だけど、力はその辺の男には負けないわよ」
兵士は豪快に笑って見せると、親指を立てた。
「幸運を」
「ええ、あなたもね」
車列が出発する。上空には航空支援のために飛来した三六式螺旋襲撃機が滞空していた。
螺旋襲撃機は先行し、射撃場に指定されていた丘の上に無誘導噴進弾を撃ち込んでいく。
あそこには敵1個中隊が潜伏しているはずであり、螺旋襲撃機の援護の下、空挺兵たちはそこを通過し、背後にある町を制圧する任務を帯びていた。
制圧後は丸一日防衛した後、基地からやってきた共栄圏軍諸歩兵隊に任せ前進する。
湖を水陸両用である七二式挺進戦車とともに渡り、最終目標である都市での市街地戦を行う予定である。
実戦さながらであり、これまで一年以上続けてきた訓練の成果を見せつける時だった。
「よし、頑張らなくちゃ」
騎士に笑われないようミスのないように……頬を両手で叩き気合を入れ直す、そんな彼女の上空を、百数十機もの“鉄竜”が飛行していた。
西暦2031年8月2日 15時49分
大日本帝国 グラメウス軍政監部 グラメウス総合演習場上空
地上では遊び感覚で共栄圏軍を翻弄する教導部隊と、メンツ丸潰しの大敗北を喫した各国軍とのよる熾烈な模擬訓練が行われている最中、上空でも各国航空部隊と、日本軍が放った訓練部隊による戦いが幕を切っていた。
「アルタラス3番機! 背後を取られているぞ!!!」
また一機、敵の航空隊に僚機が背後を取られ撃墜判定となった。
それまでアフターバーナーを焚いて逃げようとしていた機体が、徐々に減速していき基地に帰還していく。
アルタラス王国鉄竜隊指揮官のザラム大佐は、愛機の三三式戦闘機を操縦しながら帰還する僚機を悔しそうに見つめていた。
彼らが相手する航空隊、それは日本陸軍が開発した無人標的機「赤とんぼ」で構成される標的編隊である。
機体は標的機用として真っ赤に塗装されており、「赤とんぼ」との異名を持つこの機体は、「ツクモ」こと八九式無人戦闘機を基に作られたものである。
搭載された人工知能は、それまでの蓄積された情報から瞬時に最適な戦闘手法を取り、相手を翻弄する。機首先端部に取り付けられた交戦用訓練装置から発射されるレーザーにより、空対空戦闘も可能だ。
兵装取付部は撤去され、撃墜されても(懐事情に)痛くないように安価な新型発動機を搭載するなど、もっぱら軽量化安価化を目指した結果、巡航速度マッハ0.9は据え置きで最大速度マッハ1.3を記録している。
最高速度マッハ1.6の三三式戦が導入されたばかりの共栄圏軍鉄竜隊にとっては、いい交戦相手だった。
ザラムは、たった今僚機を落とした無人機に接近する。音速に近い者同士の接近戦は、極めてスピーディーなものだった。
無人機はザラムが近づいてくることを悟るや、すぐさま反転してザラムの後ろに就こうとする。それをさせまいとザラムも操縦桿を手前に引っ張り、無人機を追った。
その時、一瞬無人機に隙が生じる。ザラムは迷うことなく射撃レバーを引いた。すぐさま身体に鈍い振動が響く。
三三式戦から発射された数十発の30ミリ機関砲弾は、一部が無人機の翼に着弾。根元からぱっくり折れた赤い機体は、力なく墜ちて行った。
「やった!!」
思わずガッツポーズをする。ふと隣を見るや、ガハラ神国鉄竜隊も2機の無人機を落としたようだ。
煙を吐いた赤とんぼが錐揉み状に墜落していくのが見える。
「流石風竜の使い手だ。高速域での戦闘に慣れている……」
ザラムは出撃前の説明会を思い出す。
その場ではそれぞれの隊長同士で意見交換会が開かれていたが、ガハラ神国鉄竜隊長には誰もが一目置いていた。
名をスサノウといい、かつて一騎当千と呼ばれる風竜隊の隊長を務めていた男だ。相棒の風竜から、三三式戦に乗り換えた最初の男でもある。
ガハラ神国では当初、日本製武器に懐疑的な者が多かった。ガハラには風竜という最強の飛行生物がいる。
それで十分対抗できるのではないかと言った者も多かったが、それを真っ向から否定したのが彼だった。
スサノウはあの1639年度軍祭に参加し、日本軍の実力をその目に焼け付けた者の一人だった。その彼が声を大にして唱えたのが、日本との友好、そして日本製兵器の導入である。
かくいう自分も、相棒の風竜を引退させ三三式戦のパイロットとなった。
ちなみに、風竜たちは引退後、ガハラの象徴として風竜牧場で余生を過ごしてもらっている。地球では見ることのできない大型飛竜でもあることから、日本からの観光客は絶えていない。
機体番号を見ると、やはりスサノウの操る“ガハラ1番機”だった。流石の腕前である。
「(負けていられないな……)」
そう心の中で思うザラムは次の獲物を狙うべく、絶賛逃げ惑うのに必死な僚機の後ろに就こうとする無人機に向け機体を滑らすのであった。
なお、彼らの戦う無人戦闘機の動きは、逐次赤とんぼたちを制御している司令部偵察機を通じ、無人機基地にある統合情報管理室に届けられている。
届けられた情報はその場で人工知能が整理検討を加え、出撃を控える全無人機の人工知能に届けられることになる。つまり3週間の訓練を経て、無人機は彼ら共栄圏軍の戦闘手法を学び、日ごとに強くなるのだ。
後半になって、彼らが手も足も出なくなってしまうのであるが、今のところ彼らが知ることはない。
西暦2031年8月4日 8時08分
大日本帝国 グラメウス総督府 グラメウス総合演習場沖合
本来、北方演習は場所が場所であるため、地球世界では水上戦力の動員はされることはない。
しかし今回、グラメウス大陸の海岸にも演習場が伸びている関係上、北方演習で初の海軍戦力の投入が行われていた。
訓練は主に対水上戦闘、対空戦闘、そして上陸支援が実施され、今日は主に上陸作戦がメインとして行われる。
パンドーラ大魔法公国陸軍歩兵旅団と、鉄地竜隊を満載した6隻の第320号輸送艦が沖合に停泊し、気泡型輸送艇を用いて浜と輸送艦間の反復輸送を行う。
集まった37隻の258号海防艦で編成される各海軍鉄船隊の任務は、そんな揚陸中の陸軍部隊を敵の攻撃から防ぐことにある。
「敵航空隊発見!」
大体一個連隊規模の兵員輸送が完了しつつあった頃、対空電探にかじりついていた見張り員が報告する。
フェン王国海軍第1鉄船隊指揮官のクシラ少将は、冷静に対空戦闘用意と命じる。クシラの号令一下、たちまち旗艦「大剣神」に搭載される10センチ単装砲が旋回し、敵航空隊である無人標的機の来る方角に砲を向けられた。
十数分後、赤色に塗装された機体が姿を現す。敵機だ。
「撃ち方始め!」
彼我の距離3万メートル。最大射程ギリギリの中で、剣神から3発の10センチ砲弾が発射される。
射撃用電探によって調整発射された砲弾は無人機に到達、砲弾に搭載された近接信管が作動し、砲弾は炸裂した。
2発は少々外れた地点で炸裂したため大した被害はなかったものの、最後に炸裂した一発が致命傷となった。至近距離で炸裂した砲弾は無人機の機体を抉り取り、燃料に引火して木端微塵に吹き飛ぶ。
「敵機撃墜!!」
途端、艦橋内に歓声が上がる。
「パンドーラ大魔法公国海軍、発砲開始しました」
「シオス王国海軍、発砲開始」
「クワ・トイネ公国海軍、敵機2機撃墜!」
次々と入ってくる射撃開始と撃墜報告に、クシラは感激していた。
かつて大東洋諸国として、文明圏外として、パーパルディア皇国から不当な搾取を強いられていた弱小国家が、今や音速に近い速度で飛翔する航空機を撃墜するまでの実力を身に着けたのである。
なお、彼らの操る兵器は日本製であるため、厳密に言えば彼らの実力ではない部分が大半なのであるが、突っ込むのは野暮というものであろう。
「パンドーラ大魔法公国海軍、6機撃墜」
『おぉぉ……』
37隻中、2割に相当する8隻は、パーパルディア皇国からの独立を果たしたパンドーラ大魔法公国海軍のものだった。
彼の国の海防艦は他の海軍を抜きんでて多く、唯一2個鉄船隊で演習に参加した国でもある。また歩兵戦力は最大の1個旅団、鉄地竜隊も30輌という大盤振る舞いであった。
最近、魔帝対策として大量の魔導技術を日本に提供したということで有名となった彼の国であるが、今では魔法文明を脱ぎ捨て、機械文明に移行しつつある。
魔導技術の提供元として、かなり日本から優遇されているとのもっぱらの噂だ。
「敵機さらに接近」
各国海軍、数機から十数機もの標的機を撃墜する戦果を挙げたものの、標的機の数は100機という大群であったため、いくつか逃してしまっていた。
人工知能により砲撃を避け切った無人機は、翼下に搭載した交戦用訓練装置を作動させ、各輸送艦に爆弾を叩きつける仕草をする。
たちまち3隻のパンドーラ陸軍を満載した第320号型輸送艦が撃破判定を受け、揚陸作戦が中断される。無人機は一通り爆撃を行った後、帰還していった。
結果として、共栄圏軍は無人標的機100機中、76機を撃墜した。76%、四分の三以上撃墜という大戦果であったが、当初の目的である揚陸作戦の支援は失敗に終わった。
6隻の輸送艦は6隻全てに爆弾が命中し、1隻撃沈、2隻大破、3隻中破という判定を受けた。同時に中で揚陸準備中だったパンドーラ陸軍5000名以上も死亡、もしくは重傷判定を受ける羽目となり、パンドーラ軍関係者は悲鳴を上げることとなる。
後にパンドーラは、新たな兵器……即ち、艦対空誘導弾の導入に向けて日本と本格交渉に入ることとなる。
これが後に彼の国の運命を左右することとなるのだが、それはまだ知る由もない。
西暦2031年8月6日 17時58分
大日本帝国 グラメウス軍政監部 グラメウス総合演習場
観戦武官の一人として来日していたアニュンリール皇国のダクシルドは、冷や汗が止まらなかった。理由は明白で、現在進行形で進む大日本帝国を中心とする大東洋共栄圏軍による総合火力演習にある。
初日、正午に見せたいものがあると言われ見物台に通されたダクシルドら観戦武官は、遠巻きに生まれた“地上の太陽”に目を疑った。
曰く、“熱核兵器”と呼ばれる大日本帝国のコア魔法は、とても強烈で、全てのものを確実に、一瞬で屠る力があった。
「(なんという威力……! コア魔法は実際に見たことは無かったが、ああいう感じなのであろうか)」
ダクシルドがここに来た理由、それは自身が復活させた魔王ノスグーラを倒したという大日本帝国が、どれほどの実力を持っているのか調べるためだった。
彼はアニュンリール皇国の、魔帝復活対策庁復活支援課支援係という露骨すぎるネーミングの部署で働いている。所管業務は文字通り、古の魔法帝国を復活させるための準備である。
当初、魔王ノスグーラが倒された際には、彼の中で「あれは欠陥品だった」と結論付けていた。
それを、この演習場に来てからというもの、完全撤回することになった。
『観戦武官の皆様、それでは上空をご覧ください。弾道弾攻撃の実演になります』
脳内で様々な思考が渦巻く中、我に返らせたのは観戦武官を案内する日本軍大本営広報部の将校であった。
「(確か、日本領となったロデニウス大陸から攻撃・物資支援が行われるとのことだったが、一体どうやってやるんだ……?)」
最初にあった説明から、ダクシルドの頭には疑問が残ったままだった。
ロデニウス大陸とグラメウス大陸との間には1万キロ以上の距離がある。数日前に見せてもらった大型輸送機の七〇式輸送機とやらでも行動半径は2000から4000キロほどであり、どう考えても届かない。
数分後、彼の疑問は目の前の光景に吹っ飛ばされることとなる。
「なっ……!?」
星が堕ちてきた。
夕暮れの中、真っ赤な火の玉が複数個、演習場内に堕ちてきたのだ。
「あちらは、帝国本土から発射されました大陸間弾道弾です。射程距離は1万キロ以上、音速の20倍もの速度で飛翔し、搭載する10基の再突入体によって攻撃が行われます。10基の再突入体には、初日にお見せした熱核兵器が搭載できます。そのため、古の魔法帝国軍が強力な防御魔法を展開したとしても、弾道弾1発で10発の再突入体による熱核攻撃を行えば、すべてを防ぎきるのは難しいものと思われます」
『……』
「続いてあちらをご覧ください」
将校の指さした方向には、正方形の発着場が見える。
何も知らない者が見れば、ヘリポートだというであろうそこに、空から棒状の何かが降ってくる。
その棒状の何かは、内部から煙のようなものを吹き出しながら体勢を整えつつ、発着場に着地した。
「あちらは、海軍が開発した大陸間弾道輸送機『天橋立』になります。発射から1時間以内に、100トンの物資を、最大2万キロ先にある発着場に移送可能となります」
ダクシルドは、目の前が真っ暗になるのを感じた。
気が付けばダクシルドは、不毛な大地を走っていた。既に背後からは彼を制止する声が聞こえてこない。何とか振り切ったようだ、と彼は思った。
彼の目的、それはただ指をくわえて観戦するだけではない。魔帝復活のために必要な装置、魔帝復活ビーコンを確保することだった。
魔帝復活ビーコンは、アニュンリール皇国内に相当数保有されている。しかしいざという時のため、各地に点在するビーコンも回収することが決定し、ダクシルドら魔帝復活対策庁が動員されたのである。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
その魔帝復活ビーコンの一つが、エスペラント王国にある。日本軍の演習場からは大分離れているが、進むしかない。
このまま何もせずアニュンリールに帰れば、何を言われるか分かったものではない。ましてや日本軍の実力を報告したとしても、およそ聞き入れてもらえないばかりか精神異常をきたしたとして入院させられるのが関の山だ。
だからこそ、ダクシルドは焦った。焦った末に出た行動がその場からの脱出、そしてエスペラントに行くことだった。何と無謀なことであろうか。
勿論、ダクシルドは知る由もない。
後方、高度5000メートルから、彼の姿を監視する螺旋翼機の存在を。
「一体どこに行こうっていうんだ……?」
特殊任務に参加していた一機の三四式螺旋翼機の機内で、技官らは疑問符を浮かべていた。彼らは本来、化学・放射能偵察型に搭乗して演習場内の放射線量を測定する任務を帯びていたのであるが、急遽広報部からの要請に基づき、ある観戦武官の動向を逐次チェックする任務を与えられた。
化学放射能偵察型に改装された多目的ヘリの三四式旋機は、兵員輸送能力や攻撃能力を持たない分、撮影機材や放射線測定器など多種多様な機器を搭載している。
その撮影機材が観戦武官の様子を逐次撮影しては、情報通信網を通じて司令部に送る。
「この方角って、もしかしてエスペラント領内に向かってますかね? これ」
ある技官が言う。それに上司が驚きながら応えた。「確かにそうだが、1000キロ以上離れてるぞ!?」
「しかし、何か明確に目的地に向かって歩いているように見えますし、やはりエスペラント王国に何か用なのではないでしょうか?」
「うぅむ……不確かだが……一応、エスペラント王国の方角に向けて歩いているとだけ報告してみるか」
報告から数分後、彼らの任務は突然終わった。
帰還中、2機の三四式旋機とすれ違う。自分らのとは違い、きっちり無誘導噴進弾や誘導弾、そして機内に多数の兵士を搭載していた。
技官らの予想通り、旋機は観戦武官の前と後ろにそれぞれ着陸、中から10名の兵士を吐き出した。兵士は小銃を構え、男を取り押さえる。
後に観戦武官はグラメウス軍政監部に移送され、事情聴取が行われた。
男の異常な焦り具合から何かあると察知した取調官は、憲兵隊にバトンタッチし“お話”することになった。アニュンリール皇国側には、「突然錯乱して演習場から逃亡、以後行方不明」と通達し、男ダクシルドは亡き者にされた。
日本側の謝罪に対し、彼の国の技術力を知らずにいたアニュンリール皇国は了承し、特にこれといったこともなく穏便に事は済んでいる。
だが、ダクシルドに自白剤を投与して目的を白状させたことにより、事態は一変することとなった。
グラメウス軍政監部は、直ちに大本営政府連絡会議に一報を入れた。
『アニュンリール皇国、魔帝復活の為に策動中の模様』
それまで手探り状態で行っていた対魔帝戦略が、一気に動き出すこととなった。