私事で恐縮ですが、口絵のミレケネスがかなり癖に刺さり好きです。
中央暦1639年3月23日 12時01分
クワ・トイネ公国 マイハーク
大日本帝国がクワ・トイネ公国と接触を図り、日鍬通商航海条約が締結されてから2か月が経過しようとしていた。
日本はクワ・トイネ、そして隣国のクイラ王国と国交を開設すると、穀物と戦略物資(主に石油・天然ガス)の輸入交渉が進められた。
また同時に、軍事・経済防衛機構「大東亜共栄圏」への両国の参加交渉も行われている。
大東亜共栄圏は、日本を中心とする地域的軍事・経済防衛機構である。
1944年、ノモンハン以来の宿敵ソ連を降した日本は、返す刀でイギリスに宣戦布告すると、続いて日蘭会商を一方的に打ち切ってきたオランダ領東インド(蘭印)へも武力進駐を行った。
英蘭植民地の占領後、日本はインドネシア地域を除く地域の独立運動家を東京に集め、1945年に第一回大東亜会議を開催した。
第一回大東亜会議に基づき、東・東南・南アジアを中心とする地域協力機構が爆誕することとなった。
以降、大東亜共栄圏は大満洲帝国、ビルマ国、タイ王国、インド共和国、アフガニスタン王国、オーストラリア連邦といった太平洋諸国が参加し、アジア地域における地域防衛機構として機能している。
なお、馬来(マレー)半島及び旧蘭印、オーストラリア領東部ニューギニアは1944年策定の「大東亜政略指導大綱」に基づき、日本直轄領のまま現代に至る。セイロン島も同様である。
しかし今回の異世界転移事件により、大東亜共栄圏は日本一国のみとなってしまった。
内地や外地には数百万人の加盟国諸国人が取り残されており、各国大使らが首班となる臨時政府が樹立されているが、事実上、大東亜共栄圏加盟国は日本だけ状態となっていた。
ここで日本は、一種のパラノイアを発症するに至る。それは、今まで地域大国……つまりアジア圏だけは何が何でも死んでも守る、という思想が強すぎて、加盟国の消失により一種のペットロスに近い状態になってしまったのである。
ここにクワ・トイネ、クイラ両国を参加させることにより、再び日本は地域超大国として復活しようと、外務官僚を中心として画策していたのだ。
日本からの提案に、両国政府は様々な議論を尽くして対応策を考えた。
既に部分動員により陸海軍総兵力は300万近い兵員にまで達し、やろうと思えば数日で国を滅ぼすことも辞さない構えの日本艦隊は定期的にマイハーク沖合に停泊しては、無言の圧力をクワ・トイネにかけていた。
日本からしてみれば、まだ国家戦略備蓄があるとはいえ、7億臣民が一年もしないうちに国内の食料品や生活必需品が枯渇することを鑑みれば、これ以上穀物輸入を主とする日鍬会商をいたずらに長引かせれば、国民が飢えてしまう。
飢えるぐらいなら……と、考える一部過激派の考えは、遠くクワ・トイネ側にもうっすら気付いているところだった。
結局のところ、クワ・トイネ側で議論が深まっていくにつれ、逆に穀物輸出の対価としてその圧倒的な経済・技術・軍事力を保持する日本の勢力圏に入ることで、目下ロウリア王国との関係に一手を指せるのではないかという意見が優勢となった。
それに「NO」と言えば、ロウリアより先に日本に滅ぼされない。であれば人間至上主義を唱え、ほぼ確実に自国民が殲滅されるロウリアに屈するより、技術支援を行ってくれるという日本に“ワンチャンス”かけてみるかという声が上がった。
嘘か誠かは分からないが、大東亜共栄圏参加後は経済・技術・軍事支援を行うと日本代表団から説明されており、具体的には、農業の機械化や公国軍の近代化、その他必要な技術支援を行うという。
これが真であれば、下手すればクワ・トイネは第三文明圏の文明国と同等の国家に発展できる可能性もあった。
見解は様々なであったが、先日送り出していた対日使節団が血相変えて「大日本帝国と同盟締結すべし! 彼の日本の傘下ならんことは即ち公国の滅亡を意味す!!」などと発狂する事態となったため、本格的にクワ・トイネは日本の傘下となることを決めるに至る。
かくして中央暦1639年(西暦2030年)2月16日。クワ・トイネは大東亜共栄圏への参加を表明した。次いで18日、クイラ王国も続いて参加する旨を日本大使に告げている。
新世界における参加国第1号と第2号を得るに至り、日本は両国に対する“手厚い”支援を行った。
そして、今に至る。
クワ・トイネ公国は、世界有数の穀倉地帯を有していた。しかしクワ・トイネ政府はそれらを友好的に活用することはせず、あくまで国民が食べられる分と隣国のクイラが輸入する分の食料生産しか気にしておらず、余剰作物の貿易はおろか、商品作物の栽培も限定的であることが判明した。
人の手を加えなくとも病気や害虫の心配もいらず、立派な農作物が生えてくるというチート穀倉地帯……これが国土のほぼすべてを覆っているのだ。
しかしクワ・トイネはそれを必要以上に活用しようとしていなかった。
それに目を付けて、食品加工・化学財閥として富を築き上げた台湾系の高雄財閥をはじめとする農業に強い企業は、コーヒーやタバコ、果樹類などの商品作物の種子を持ち込み、栽培を開始した。
これらの作付けは何を植えても成功するというフィーバータイムとなり、7億人が不自由なく食べていけるほどの食糧が確保できると農林水産省の試算が出ている。
かくして、大満洲帝国・中華民国の代わりとなる“帝国の食糧庫”が爆誕したわけである。
一方、国土が砂漠で覆われているクイラ王国であったが、こちらは当初、これといった特産品はないと考えられていた。
しかし、その砂漠地域を調査した日系の安住財閥が油田を発見したことにより、話は変わってきた。
クイラ王国では外務担当のメツサル卿を通じてクイラ王国と通商航海条約、次いで大東亜共栄圏に参加する前から、早期から財閥による資本投下が行われた。
工業重化学工業財閥と呼ばれ、他の財閥の追随を許さない鉱業系の一大財閥である安住財閥では、早くから日本政府より打診を受けていたクイラ王国の情報を聞き、とある中東の王制国家を想起させていた。
その国はドイツ陣営の“中東の先兵”として、イスラム革命により親独帝国であったイラン帝国が倒壊した際、先制攻撃するなど好戦的な国として有名で、石油産出量は大東亜共栄圏加盟国のサウジアラビア王国に次いで多かった。
長年、油田開発企業として名を馳せ、日本各地に給油所(ガソリンスタンド)を設置していた入谷興産とともに、中東の石油開発事業を行っていた安住財閥内の安住鉱山株式会社は、早くから不毛の地とされていたクイラ王国に調査員を派遣し、実地調査を行わせていた。
結果……出てくる出てくる、文字通り湯水のように湧いて出てくる原油が発見された。
聞くところによると、クイラ王国では昔からそこら中にどろどろした可燃性の黒い液体……即ち原油が各所で取れるらしく、「井戸を掘ろうとしたら黒い液体が出る」と言われるほど頻繁に地中に存在することが確認されていたようだ。
調査を担当した安住鉱山の調査員は、ニヤケ面が止まらないまま各地でボーリング調査を実施。その後安住鉱山は、クイラ王国内の広域に中東油田地帯を凌駕するほどの大油田が存在することを発表した。
クイラ王国領内に眠る油田の埋蔵量は、ぱっと調査しただけでなんと1600億バレル、後の調査では2000億バレルと見積もられている。
これは、サウジアラビア王国最大のガワール油田の実に2倍もの可採採掘量であった。究極可採埋蔵量は、一説には2600億バレルに至るという。
後にクイラ大油田と呼ばれる広域油田地帯を発見するに至り、日本政府は方針をガラリと変えた。
民間主体の調査事業を政府主体に切り替え、クイラ開発公社を設立。
さらに石炭やウラン鉱石、その他戦略資源に指定された鉱物資源が各地に点在していることも分かると、日本政府は安住鉱山や入谷興産も参入させ、クイラの土地をひっぺ返さんばかりに採掘を始めた。
特にウランは、原子力発電所の燃料として輸入できることから電気事業者らはほっと胸をなでおろすこととなった。
独米の原子力発電所では核融合炉が主流に対して、日本では新潟県の柏崎刈羽原発、朝鮮釜山県の古里原発、台湾台北県の金山原発の三か所でしか稼働しておらず、それ以外の原発は未だに核分裂炉であるため、ウラン燃料が多分に必要であった。
2030年代現在、日本では自家用車などは電気推進自動車が主流化しつつあるとはいえ、未だ軍用車両や大型運送トラックといったパワーを必要とする車両は化石燃料に頼り切りであり、またその他にも石油を必要とする職種が多種多様に存在している。
昨年の2029年における日本の年間石油消費量は7億5000万キロリットルに至り、日本領東印度や北樺太における油田採掘も低調になりつつある中、それまで燃料については自給自足で事足りていた日本も、中東やその他の地域からの石油輸入が強いられていた。
それらをすべて賄うことは無理だと考えていた通商産業省の官僚らは狂喜乱舞して喜び、宴は三日三晩続いたという。
『クイラからの原油・天然ガス・ウラン輸入が軌道に乗れば、再び帝国は全力を出せる』
と、言ったのはクイラ駐在となった商工官僚の言葉。
新たな経済植民地……もとい同盟国ができた日本は、栄えある新世界大東亜共栄圏加盟国第1号と第2号となったクワ・トイネ、クイラ両国に対し、天文学的量の日本製品、金融資本を注入していった。
為替レートが確立していない中、穀物・資源輸入の対価にはインフラ開発といった現物による支払いを行うこととされた。現在はクワ・トイネ、クイラ両国には統一通貨として「日本円」の導入交渉が行われている。
これにより、日本を経済・金融面から支配していると悪名高い数々の財閥が、我先にと新市場である両国に突入していった。
両国の貿易都市や首都にはたちまち財閥傘下の現地法人が立ち上げられ、わずか1か月の間で投下された金額は、十数兆円に上るという。
もちろん、大東亜共栄圏に加盟した両国は、経済的な連携だけではなく、軍事面における協力も行われた。
既に予備役の部分動員を行っていた日本陸海軍の総兵力は300万名に昇る。前世界では54個師団、150万を数える地域軍事大国であったこの国も、転移の影響により大東亜共栄圏加盟諸国に派遣していた9個師団が物理的に消失、陸海軍合わせて兵力で言えば20万名以上の現役将兵が最新兵器とともに消失してしまった。
だが日本政府としては、もはや武力進駐により彼の国々を征服する必要がなくなったため、また当面の食料・資源供給の道筋が経ったことから、段階的な準戦時体制の解除が検討されていた。既に一部の予備役兵は民間に戻っていたりする
しかしクワ・トイネ側からロウリア王国の大陸統一戦争の野望を聞いたことにより、この世界には露骨に覇権国家的行動を行う好戦的勢力が存在することを確認すると、完全な動員解除には踏み切ることはなかった。
反対に、クワ・トイネ側の要請に基づきクワ・トイネ駐屯軍が編成された。
戦闘序列は以下の通りである。
「クワ・トイネ駐屯軍」
・駐屯軍司令部(司令部・首都クワ・トイネ)
・第二師団(仙台)
・第三十九師団(広島)
・飛行第二十九戦隊
・駐屯軍直轄野戦病院、後方支援部隊等
また帝国海軍もマイハークを始めとし、クワ・トイネ公国の湾岸都市を防衛する名目で海軍陸戦隊を派遣している。
海軍陸戦隊は、陸軍が空挺部隊(挺進集団)を挺進軍として陸軍内における独立兵科としたのに対抗し、それまで各地の鎮守府の地上勤務兵を基に臨時編成していた海軍陸戦隊を常設化したものである。
横須賀鎮守府内の海軍陸戦隊本部では、物資確保の生命線であるクワ・トイネ及びクイラを守るために第一陸戦総隊(師団相当)の派遣を決定している。
3月末時点で陸海軍は各地に駐屯地を設置し、ロウリア王国との正面に位置するクワ・トイネには、国境から少し離れた平野部に野戦飛行場を建設した。
ここに陸軍飛行戦隊が派遣され、第四世代ジェット戦闘機の四七式戦闘機や、近接航空支援機である三八式襲撃機が飛来している。
全盛期までとはもちろん言えないが、日本は再び栄光を取り戻しつつあった。
しかしそんな彼らをよそに、大陸の西側では不穏な空気が漂っていた。
中央暦1639年8月29日 17時31分
ロウリア王国 王都ジンハーク ハーク城
8月も終わりに近づき、厚さのピークはそろそろ終わりを迎えようとする中、夕方になり、涼しい風が王都ジンハークの中心に位置するハーク城を吹き抜ける。
ハーク城はロウリア王国大王をはじめ、王族が住まう城である。
そのハーク城で今、大王臨席の下に御前会議が開催されていた。
「大王陛下、ご報告申し上げます。ロウリア軍の準備はすべて整い、残るは陛下のご命令を頂くのみとなりました」
白銀の鎧に身を包む将軍パタジンは、最敬礼をもってロウリア大王に報告する。
大王……ロウリア王国第34代大王ハーク・ロウリア34世はパタジンに問いかける。
「亜人の国とはいえ、二国を同時に敵に回すことになる。入念な準備を命じたはずだが、大丈夫だな?」
「ハッ。一国は農奴の集まり、もう一刻は不毛の地に住まう者……亜人の国などに、負けることはありませぬ」
「ふむ。油田せぬように。宰相よ、1か月ほど前に接触してきた大日本帝国の情報は?」
先月、大日本帝国と名乗る国の特使がロウリア王国を訪ねて来た。
特使はロウリアのとの国交開設を要請してきたが、効くところによると自国の勢力圏……“ダイトウアキョウエイケン”というらしい……にクワ・トイネとクイラを既に組み込んでいるとのことで、敵性勢力を判断、一切の交渉を受け入れなかった。
ロウリア王国の滅亡が約束された瞬間であった。
宰相は日本に関する情報を思い返しながら、下手のことをいわないように慎重に説明する。
「大日本帝国なる文明圏外の蛮族国家は、ロデニウス大陸北東1000キロに位置する新興国家であります。特使曰く、自らは“転移国家”とのことですが、欺瞞情報でありましょう。1000キロも離れているため、軍事的な影響はないということがいえましょう。また彼ら曰く、ワイバーンを含む一切の飛竜を持たず、こちらが飛竜隊を見せたところ、大層驚いている様子だったそうです。距離も離れ、竜騎士も存在しない蛮族国家……と、いうのが分析の結果になります。今次戦争にはあまり影響はないでしょう」
「そうか……であれば、なぜクワ・トイネとクイラは彼の国の勢力圏に組み込まれたのだ?」
「陛下、それはあくまで特使の言い分であり、実際にクワ・トイネとクイラが大日本帝国の勢力圏に入ったなどという確証はありません。彼らが勝手にのたまっているだけと思われます」
「なるほど。まあ、蛮族国家が一つ増えたところで問題なしか。 ……しかし、ついにこの大陸が統一され、忌々しい亜人どもを根絶やしにできると思うと、余は嬉しく思うぞ」
これから訪れるロウリア王国の最盛期を想像するや、大王は豪快に笑って見せた。
「大王陛下、統一の暁には、あの役もお忘れなく。 ……ククク」
その時、玉座の裏から真っ黒なローブを被る男が現れると、大王に囁く。
「チッ、分かっておる!」
優越感に浸っていたところ、急に冷や水を浴びせられたような感覚に陥った大王は、けげんな顔を隠さずに男に言い放った。
「(クソが……三大文明圏外の蛮族だと思って馬鹿にしおって。大陸統一の暁には、返す刀でフィルアデス大陸にも攻め込んでやる……)」
気を紛らわせるため、大王は正面を向き直すとパタジンに戦略を問うた。
「将軍、今回の作戦概要について説明せよ」
「ハッ! ご説明いたします。今回の作戦に用いるは、属領軍合わせて50万名。クワ・トイネ公国には40万の兵力をもって攻めたて、残りは防衛用兼予備軍として残します。クワ・トイネ侵攻作戦ですが、まず国境に近いギムを強襲し、制圧いたします。ここは人口10万人ほどで、貿易の中継地点として栄え、また周囲には無数の穀倉地帯が広がっているため、かなりの物資が保管されていると思われます。ここで現地調達しつつ、主とクワ・トイネに侵攻、制圧します。
クワ・トイネ軍の防衛力は極めて貧弱で、町は城壁で囲まれておりません。城もあくまで町の象徴としてでしかなく、防衛能力は薄いです。脅威度の高い要塞は手で数えられる程度になりますが、これらも籠城されたところで、包囲するだけで勝手に干上がります。唯一といっていいほどの脅威は、彼の軍の飛竜隊ですが、こちらは我らが飛竜隊の数で圧倒できると考えております。
また、陸と同時並行で海からの侵攻も行います。海軍では4400隻の大艦隊をもって大陸北方を迂回、経済都市マイハーク北岸に上陸し、かの地を奪います。クイラとクワ・トイネ間は陸路でつながっているものの、不毛な砂漠地帯が隔てておりますので、陸路での輸送ごときで賄える量はたかが知れておりますので、ここを抑えることにより穀物輸入に頼っているクイラ王国も干上がり、勝手に瓦解するでしょう」
6年間の準備により、敵をあっという間に粉砕できるでしょう、とパタジンが締めると、大王は再び大きく笑って見せた。
「ガハハハハハ!!! 今宵は余の人生で一番良い日となろう。余は、現時点をもってクワ・トイネ、クイラに対し宣戦を布告する!!!!」
大王の宣言により、御前会議に参加した閣僚らが勝鬨を上げる。
宣戦布告の情報は直ちに王城全体を駆け巡り、沸いた。続いて王都全体が喧噪に包まれ、あちらこちらで開戦のパレードが催される。誰もが第二次大陸統一戦争を祝い、踊り狂っていた。
まさか彼らも、そんなパレードの様子を上空1万5000メートルから監視する超大型戦略爆撃機(長距離偵察機仕様)がいるとは、思いもしなかっただろう。
上空1万5000メートル……この世界の生物、技術力ではまず到達できない空域において、一機の航空機が800キロ以上の速度で飛行していた。
大日本帝国海軍が大戦中に開発し、レシプロエンジンから噴流推進式発動機(ジェットエンジン)に換装した「富嶽」改め「富嶽改」は、自国との交渉を拒否してきたロウリア王国の王都ジンハークを余すことなく情報収集していた。
富嶽は元々航続距離2万キロという長距離飛行を活かし、何機かを偵察機として活用していた。
それが噴進発動機換装後も引き続き長距離偵察機として運用しており、偵察機仕様の富嶽改には、様々な撮影機材や情報収集用電子機器が搭載されている。
「だいぶ王都が騒がしくなったな」
富嶽改の偵察装置を担当する士官が、スコープを除きながら言う。
「遂に軍事行動が?」
「昨日と軍の規模が明らかに違う。万単位で王都に集結しているようだ」
「では……ついにクワ・トイネに侵攻するんですね、奴らは」
偵察装置操作担当の士官は、その後王都近辺に展開するロウリア軍を撮影した後、セイロン島に帰還するよう命じた。
撮影された写真はすぐさま戒厳司令部に送られ、日本政府を通じてクワ・トイネ及びクイラの日本大使館を通じて伝えられた。
立憲政友会・相愛党連立政権は、ロウリア王国が軍を動員し、大東亜共栄圏加盟国であるクワ・トイネ及びクイラに対し戦端を開こうとしていることを認識し、準戦時体制を意味する「乙号戦時体制」から完全なる戦時体制である「甲号戦時体制」への移行を閣議決定する。
これにより大日本帝国は、異世界転移直後以来の完全な戦時体制へと移行した。