西暦2033年3月18日 14時52分
大日本帝国上空 高度1000キロ
「5秒前……3、2、1、照射」
白色に赤い線がデザインされた、ごわごわの服に身を包む陸海軍士官らが見守る中、隼型攻撃衛星『隼3号』に搭載されている
出力1メガワットの化学レーザーからの照射を受け、人工衛星……「
目標の破壊を確認すると、宇宙服を着た陸軍少佐と海軍大尉は、操作していた『隼3号』から離れ、彼らが乗ってきた有人宇宙船『
攻撃型衛星として打ち上げられた隼は、当初1990年代に日本海軍が開発していた衛星攻撃兵器を、陸海軍共同で改良したものである。主砲に1メガワット級フッ化水素レーザーを搭載し、先ほどのように人工衛星への攻撃が可能となる。
今のところ、現時点において日本以外に、人工衛星を打ち上げるほどの技術力を持った国は存在しない……ただし古の魔法帝国を除く……ため、もっぱら魔帝製の僕の星攻撃用として機能している。
本来であれば、過剰戦力として打ち上げられる予定はなかったが、僕の星の存在が暴露されたことにより半年前より打ち上げが開始され、今では4基の隼が周回軌道に乗り、僕の星撃滅のため奮戦している。
「作戦終了。 ……しかし数が多いなぁ」
スラスターにより機首を変更しながら、機長である陸軍少佐がぼやく。それを聞き、コ・パイロットの海軍大尉は苦笑した。
彼らは300万いる陸海軍の中から厳選されにされ、名誉ある宇宙飛行士となった身であるが、ここ最近の仕事量の多さに辟易していた。
彼らに与えられた任務は、惑星低軌道上にある僕の星の撃破であった。既に3基の僕の星を破壊していたが、まだ30基以上が宇宙空間に存在している。
ちなみに、僕の星はただ破壊するだけではない。いくつかは回収されていた。これは輸送機版の鳳によって回収され、現在までに二つの僕の星が回収された後、魔帝研究所において研究材料となっている。
「やるしかないですよ。気が狂った魔法帝国なんて、この世界に復活させてたまりますか」
大尉の目には闘志が宿る。
そんなこんなで、少佐らは宇宙軍事基地『輝夜』に帰還した。
総重量500トン、常駐する宇宙飛行士は15名に至る輝夜に帰還した彼らは、その後300日の滞在日数を経て、地上への帰還を果たしている。
1642(2033)年度先進11カ国会議まで、残すところ1か月。
会議にはアニュンリール皇国も参加する。ここで日本は全ての決着をつけるつもりだった。魔帝復活事業を追求し、これ以上アニュンリールの好きにはさせないために。
だが彼らは知らない。よりにもよってその会議の席上、邪魔をしてくる国がいることを。
中央暦1642年4月20日 8時49分
神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス港
中央世界はもとより、第二文明圏や第三文明圏からやってくる商船の“玄関口”としても機能するカルトアルバス港は、まさに神聖ミリシアル帝国を象徴とするような港町といえよう。
そんな港湾には、2年に一度開催される先進11カ国会議のため、各国の外交団を乗せた船、そしてその護衛艦隊を収容するために港湾設備が整えられている。毎回開催地がこのカルトアルパスが選ばれているため、この港の港湾管理局はミリシアル中から集められた精鋭中の精鋭の管理者たちが任についている。
港湾管理者の元には、湾外や上空で警戒中のミリシアル地方隊からの報告が次々と入ってくる。それらを精査した後、これからやってくる各国艦隊を、それぞれ所定のエリアに誘導していた。
『第一文明国のトルキア王国艦隊、到着しました! 戦列艦7隻、使節船1隻の計8隻』
「了解、第一文明圏エリアへと誘導せよ」
入港してくる艦艇群を、通信用魔道具を持った管理局の人間が適切に誘導していく。
『続いて第一文明圏アガルタ法国、到着。魔法船6隻、民間船2隻の計8隻』
「……この辺りの艦隊は、この間とかわり映えないなぁ」
港湾管理責任者のブロント局長は、カルトアルパス港湾管理局の窓から、ちょうど入港してくる第一文明圏国家の艦隊を眺めながら呟いた。
先進11カ国会議では、各国が使者を護衛するという名目で、自国の最新技術の詰まった軍艦を艦隊ごと送り込んでくる。軍艦を見るのが好きなブロントにとって、この2年に一度のビッグイベントは、彼の好奇心を強く刺激するものだった。
「ここに第零式魔道艦隊がいれば完璧なんだけどな~、そしたら、他の艦隊も貧相に見えるだろうに」
カルトアルパスを母港とするミリシアル軍の精鋭艦隊・第零式魔道艦隊は、この頃になると諸般の事情から、西方のマグドラ群島に向かい演習を実施することが恒例となっている。
もしここに第零式魔道艦隊がいれば、すべての国が見惚れるに違いないとブロントは思っていたばかりに、毎回そんな思いが脳裏をよぎり、残念に思っていた。
とはいえ、他国の軍艦も色々な思想があり、多種多様に存在するため見るのは楽しい彼は、ワクワクしながら次来る艦隊を待つ。
今回の参加国の中で、どんな艦を送り込んでくるのか楽しみな国が、二つある。
一つは、西の列強国レイフォルをわずかな期間で陥落してみせた新興軍事国家・グラ・バルカス帝国。そしてもう一つは、第三文明圏の列強国パーパルディア皇国を解体し、大東洋共栄圏という地域協力機構をおったてて大躍進していると噂の大日本帝国。
両国とも一体どんな艦隊で来るのか、彼の胸の高鳴りは止まらない。
アガルタ法国艦隊の全艦係留が終わった時、岬の洮の監視員が通信具越しに、急にざわつき始めた。
『な、なんだぁ? あれは』
『船……なのか? 要塞じゃないかあれは!』
声が漏れたのが聞こえたブロントは、通信員を手に持ち確認を入れる。
「こちら港湾管理局。報告は適切に行うように。 ……で、一体何が見えたんだ?」
『あっ。失礼いたしました! ええと……グラ・バルカス帝国です! グラ・バルカス帝国国旗を掲げた巨大な艦艇が2隻、カルトアルパス港に向け航行中です!』
「おっ、遂に来たか」
岬からの報告に、ブロントは湾外を眺める。
しばらく待つと、水平線の彼方に灰色の軍艦が見えてきた。その姿は徐々に大きくなっていき、湾内に入る前からあまりにも巨大なその風体に、流石のブロントもたじろいでしまう。
それは、まさに“城”と呼んでも過言ではなかった。第零式魔道艦隊を日々近場で見ていたブロントでさえ、その巨艦は生まれてこの方、見たことがなかった。
その姿は、すべての住民の目を奪う。
『グラ・バルカス帝国到着。戦艦2隻のみ』
「りょ、了解……第二文明圏エリアへ誘導しろ」
『了解。第二文明圏エリアに誘導します。 ……おいあれ、本当に入るのか?』
ブロントは、開いた口が塞がらなかった。
グラ・バルカス帝国の誇る、全世界最強の戦艦……グレードアトラスター級戦艦、そのネームシップである『グレードアトラスター』と、2番艦『グレードラニアケア』の姿が、遂に中央世界に現れたのである。
全長263.4メートル
全幅38.9メートル
満載排水量7万2800トン
機関出力15万馬力
最大速力27ノット
兵装 主砲46センチ三連装砲3基9門
副砲15.5センチ三連装砲2基6門
他――
『なんてバカでかい砲を積んでるんだ!?』
『あんな戦艦、見たこと無い……ミリシアルのやつよりあるんじゃないか?!』
世界最大……と、グラ・バルカス人は思っている……の主砲である45口径46センチ三連装砲が、誇らしげに艦前方を向いている。
2隻のグレードアトラスター級戦艦の存在感はあまりにも強烈過ぎたインパクトを港中に与えていた。
既に着岸しているトルキア王国の戦列艦や、アガルタ法国の魔法船がおもちゃに見える。
ブロントは、『グレードアトラスター』及び『グレードラニアケア』の着岸作業に、茫然としながら見入っていた。
「……長! ブロンズ所長!!」
部下からの問いかけで我に返った彼は、反応が遅れながらも荒い返事を返す。
「んあ、ああ、何だ?」
「大日本帝国の艦隊が到着しました! 空母2隻、戦艦2隻、巡洋艦8隻の計12隻!!」
ブロントは、双眼鏡で沖合を確認する。
それは、先ほどの驚きが嘘のように吹き飛び、また新たな、魔帝のコア魔法を食らったようなとてつもない衝撃が彼の脳内を走り廻った。
「あ……あ……あれは……」
息苦しさを感じる。心拍数が目まぐるしく早くなる感覚が全身をよぎる。
何か変な物質が脳内で生成されてきていたブロントは、思わず双眼鏡が手から離れた。首からストラップを掛けていなければ、割れて殉職していたであろう。
その陣容は、グラ・バルカス帝国のそれを圧倒していた。
近江型戦艦『駿河』を先頭に、尾張型原子力空母『伊予』、伊吹型原子力巡洋艦『高雄』、玉波型駆逐艦8隻、そして外交使節団を乗せた320号輸送艦1隻が続々と入港していくのを、ブロントはじめとする港湾管理局はただただ見つめていくことしかできなかった……のでは、まずい。
一瞬の沈黙ののち、管理局は打って変わって騒然とすると、ただちに第三文明圏エリアへの誘導を開始する。その後すぐにパンドーラ魔法公国艦隊も到着したため、第三文明圏エリア担当の職員はてんやわんやであった。
先ほどまで、グラ・バルカス帝国の係留されている埠頭に見物に行こうとしていた住民は、日本艦隊を見るやすぐさま第三文明圏エリアに殺到したため、慌てて管理局の警備員たちが雑踏整理しなければならなくなった。
近江型戦艦。“超大和型”として1960年代に建造された日本海軍最後の超弩級戦艦である。
全長279メートル
全幅41メートル
満載排水量10万トン
機関出力18万馬力
最大速力27ノット
兵装 主砲45口径51センチ連装砲4基8門
副砲65口径10センチ連装高角砲12基24門
他――
この後に続くのが、8万トン級の原子力空母『伊予』、そして2万5000トンの原子力巡洋艦の『高雄』に、1万2000トンの玉波型駆逐艦、強襲揚陸艦である『第334号輸送艦』。
どうやら監視員からしてみれば、その大きさから『高雄』を戦艦、玉波型を巡洋艦、全通甲板の『第334号輸送艦』を空母と誤認したらしい。
しかし彼らの見間違いを責めるのは酷な話であろう。
中央暦1642年4月22日 9時43分
神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス 帝国文化館
繁栄を象徴する豪華絢爛、派手なデザイン性、そして威厳を考慮して作られた神聖ミリシアル帝国の帝国文化館。そこには先進11カ国会議のための国際会議場があり、大日本帝国外務省職員の近藤と補佐の井上、そして顧問として同行したレミールとエルト両特捜官は足を踏み入れていた。
自分の着席位置を確認し、開催までの空いた時間に、ロビーで持参したお茶の入ったペットボトルを開けて飲み干す。
エルトは持ってきた魔法瓶……魔法とあるがあくまで日本製保温水筒のことである……を開け、コンソメスープをコップに入れ、隣で飲みたそうにしていたレミールに渡している。
今回の先進11カ国会議は、例年通り1週間にわたる開催を予定しており、最初に外交担当の実務者級会議が行われる。
そこで話を詰めた後、後半で外相級の会議と意思決定を以って、会議は終了するのだ。
いわゆる“列強”や“大国”と呼ばれる世界中……なお神聖ミリシアル帝国の認知する世界に限定されるが……の国が一堂に集まった国際会議実務者協議への出席。日本の歴史に間違いなく刻まれるイベントに、4人は自然と手に汗を握りしめていた。
近藤は井上に話しかける。
「間もなく始まるな……どうなることやら」
「そうですね、事前に申し込んでおいた我が国の説明の時間……本当に取ってくださるんでしょうか? 私はそれが不安で仕方がないです」
会議に先立ち、新参者の大日本帝国は15分ばかし自己紹介映像を流したいと申し出た。神聖ミリシアル帝国外務省からの反応はあまり芳しくないものだったが、実際に許可が出たかどうかはまだ教えられていない。
対魔帝対策で、今や友好国といっても良いほどの関係を築いているエモール王国や、今回の第三文明圏持ち回り国であるパンドーラ大魔法公国からの援護射撃もあり、一応通る予定ではある。
「ここまで事前の根回しが行えてない国際会議は初めてです。我々は各国語に翻訳した事前資料を送っていますが、他の国からは来ていない……こんな状況で会議はうまくいくのでしょうか」
「それだけ、ここに来る者たちは国から全権を委任されているんだろうな」
一方、共にコンソメスープを堪能していた女性陣も、それぞれの心配を口にしていた。
「やはり1個艦隊派遣しといて良かったですわね……」
レミールは、先ほどまで応対していた列強国外交官との会話を思い出しながら言った。
先ほど会った外交官の冗談「攻めてくるかと思いましたよハハハ」は、外交の場では極めてまずい……が、日本的には良い反応であった。
確かに砲艦外交の意味合いもあるものの、あくまで先進11カ国会議の場は紳士的な場である。そんな場所に蛮族のように大量にヒャッハーしてきた日本は、いくら味方がいるとはいえ何とも微妙なものとなった。
「やり過ぎぐらいが、ちょうどいい時もありますよ」
艦隊規模での派遣を主張していたエルトは、先のクルセイリースの衝撃の一件以降、各国の日本に対する心証が変わったことを危惧していた。そこで、今回の会議において、「日本依然健全」と示すことが必要だと考えていたのだ。
ある意味、彼女の考えは正解ともいえよう。
実際、“噂”を聞いた神聖ミリシアル帝国軍上層部では日本に対する危機感を一瞬だけでも緩めていた。もちろん、今回の艦隊派遣で気を引き締めることとなったが。
そんなこんなで話をしていると、3名ほど、こちらに向かって歩み寄ってくる影があった。
彼らは一目でただ者ではないとわかる、特殊な衣装を身にまとっている。足取りも迷いがなく、やがて近藤の目の前に立ちはだかった。
「大日本帝国の方……ですね?」
声をかけてきたのは、三人の中央に立つ人物だった。その声音には探るような響きがある。
「はい、そうですが」
近藤は落ち着いた調子で答える。相手の真意を測りかねながらも、表情は崩さない。
「私は、中央世界アガルタ法国の外交庁に勤めるマギと申します。以後お見知りおきを」
男はわずかに腰をかがめ、右手を差し出した。礼儀正しくも、どこか自信に満ちた態度である。
近藤は即座に立ち上がり、その手をしっかりと握り返した。
「大日本帝国外務省の近藤と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
互いの視線が交錯する。握手にこめられた力は、探り合いと信頼の両方を含んでいた。
マギは、そんな近藤の態度に満足したように、にっこりと笑みを浮かべた。
「近藤殿、お会いできて光栄です。大日本帝国の戦闘法術は、中央世界でも噂になっておりますぞ。この魔法文明の世界において、科学文明のみで成り上がり、東の文明圏外国家でありながら、列強パーパルディア皇国に挑み、皇国軍を完膚なきにまで叩き潰した勇敢な民族が住まう国だと。
列強ムーでさえ、科学技術に重点を置いているとはいえ、魔法に頼っている部分もある。しかし貴国は、すべてが科学技術で成り立っている不思議な国だと聞いています。私たちの今までの常識では、魔法が使えなければろくな文明を築くことができず……聞こえは悪いが、『蛮族』というイメージが強い。だが貴国は魔法なしで高度な文明を築いていると聞く。我がアガルタ法国は、貴国大日本帝国に対し非常に興味を持っています。是非時間があれば、貴国に伺ってみたいものです」
マギの言葉には、驚嘆と好奇心が入り混じっていた。
魔法文明が当たり前の世界にあって、日本の存在は異端でありながらも相当に強烈な輝きを放っているのだろう。
「ありがとうございます。是非日本にいらしてください。歓迎いたします。また、今回の国際会議において、日本は初参加となります。何か失礼なことをしでかすかもしれませんが、その時はどうぞご指導ご鞭撻の方、よろしくお願い致します」
近藤もまた、外交官らしい落ち着きで応じる。慎重さの中に、異世界の列強を前にしても一歩も引かぬ自信がのぞいていた。二人は互いに笑みを浮かべ、固い握手を交わす。
その時、館内放送が場内に響き渡り、会場の空気が一変した。
『間もなく先進11カ国会議が開催されます。関係者の方は、席へお戻りください』
無機質な声が告げると同時に、会場に集う各国の代表者たちがそれぞれ動きを早める
「それでは、マギ殿」
近藤が軽く頭を下げる。
「ええ、ではまた後で、近藤殿」
マギも笑みを残し、背を向けた。
二人はそれぞれの思惑を胸に秘めながら、議場へと足を踏み入れていった。