何が悲しくて異世界は帝国を召喚したか   作:太田目黒

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第4話 開戦

中央暦1639年9月1日 9時56分

クワ・トイネ公国 首都クワ・トイネ 在クワ・トイネ大日本帝国大使館

 

「ぐ、軍事パレードですか……」

 

 クワ・トイネ公国宰相のカナタは、目の前にいる日本大使、その隣にいる駐在武官の説明に目を丸くしていた。

 当初「話がある」と、クワ・トイネ公国駐箚大日本帝国特命全権大使から呼び出された時は、てっきり出資額増額か、円借款の話かと思っていた。

 ルンルン気分で向かった彼だったが、話を聞いてみるや、自身の思っていたものと180度違う何十倍も深刻な話だった。

 

 白色の軍服に身を包んだ海軍武官は、携帯電計……携帯型個人用電子計算機、いわゆるノートパソコン……を操作し、投影機によって投影された画面に写真を映す。

 それにカーキ色軍服の陸軍武官が説明した。

 

「こちらをご覧ください。これは昨日、偵察機によって撮影されたロウリア王国王都ジンハークの様子です。御覧の通り、今までにない大規模な軍事式典が行われました。軍勢は解散しないまま東方に移動を開始しておりますから、戒厳司令部はロウリアが貴国に対する侵攻作戦を開始したと判断しております」

 

「なんと……」

 

 カナタは壁に写された写真をまじまじと見つめる。確かに道を埋め尽くすほどの軍勢が、途切れず川のように東方へ続く主要道路を進む姿があった。

 その際にあるのは、国境の町ギム……そして、この首都クワ・トイネである。

 

「これは……大体でいいので教えていただきたいのですが、一体どのくらいの戦力をロウリアは用意したのでしょうか?」

 

「最低40万、後方の予備部隊も含めれば、多くて50万名と推定されています」

 

「最低でも、40万……我が国は、予備役含めても5万名なので、およそ8倍から10倍ですか……」

 

 カナタは開いた口が塞がらなかった。

 

「偵察衛星からも確認しておりますが、やはり同様の数値を弾き出しました」

 

 余談であるが、この時、日本は地球世界と同様の生活水準に戻すべく、準天頂航法衛星「八咫烏」(日本版GPS)の打ち上げを頻繁に行っていた。

 地球よりも表面積に至っては6倍以上に至る惑星であるため、人工衛星を所管する海軍宇宙本部では、その分多くの衛星の打ち上げを計画している。今のところ14基が打ち上げられているが、これは計画されている192基の7%に過ぎない。

 ちなみに一斉に打ち上げてしまうと、保守点検のタイミングが一斉に来てしまうため、本来は期間をずらしてやるべきであるが、そんな10年も先の話をしていられる場合ではないため、ばんばん打ち上げるよう海軍宇宙本部から指示が出ている。

 

 打ち上げは主に、種子島海軍宇宙基地及び内之浦宇宙基地(鹿児島)、羅老海軍宇宙基地(朝鮮)、大鳥島海軍宇宙基地(ウェーク島)、バンドン海軍宇宙基地(日本領東印度)といった国内のロケット発射場から間髪入れずに行われている。

 ロケット発射場はいくらあっても足りないため、開港してかなり経つ民間宇宙港の朝鮮・東倉里宇宙港や、4年前に開港したばかりの台湾・新竹宇宙港にもいくつか委託され打ち上げを行っている。

 

 東倉里宇宙港は、朝鮮系財閥で情報通信産業に力を入れる将星財閥が建設した民間宇宙港であり、政府からの委託でいくつかの人工衛星の打ち上げ事業を行っている実績があるため、今回も委託される形となった。

 新竹宇宙港については、日本最大の光蓮財閥と、台湾系財閥の中で食品加工・化学製品関連で財を成している高雄財閥との共同出資により建設された民間宇宙港であり、宇宙情報産業に大きくリードする高雄財閥が頻繁に民間ロケットの打ち上げを行っていた。

 その打ち上げ成功率の高さに目を付け、戦時ということもあり戒厳司令部は軍用ロケットの打ち上げ委託を要請したのである。

 ちなみに、光蓮財閥に対抗して国内第2位の財力を誇る三丸財閥は、北海道の大樹町と紀伊半島に民間宇宙港の建設を行っている。大樹宇宙港はつい昨年、紀伊宇宙港は再来年に開港を予定している。

 

 閑話休題。

 

 そんな日本では、数基ながら偵察衛星もちゃっかり送り出していたりする。

 その内の一基がロウリア地域をがっつり監視しており、衛星からの情報というのはここから送られてきた情報だった。

 最初こそ人工衛星を空よりも高い場所……“ウチュウ”空間というらしい……に送り出す技術力、そしてまるで真上から撮影したかのように精密な写真に畏怖していたカナタだったが、もはや慣れている自分がいた。

 いちいち驚いていては寿命が縮んでしまい、命がいくらあっても足りなくなりそうだった。

 色々つっこみたい気持ちを抑えながら、できるだけ冷静に話を聞こうと努力していた。

 

「帝国政府は、ロウリア王国を仮想敵国として認定しております。今回のロウリアにおける一連の軍事行動は、貴国及びクイラ王国に対する国家安全保障上、極めて憂慮すべき危機的状況であると判定しました。それはつまり、大東亜共栄圏に対する危機を意味しております。そこで帝国政府では昨日、ロウリア王国に対する先制攻撃を行うことを決定いたしました。その際には、条約に基づき貴国にも参戦していただくことになります」

 

「先制攻撃!?」

 

 眉一つ動かさず、さりげなくとんでもないことを言い始めた武官に、流石にカナタも驚愕する。先制攻撃に加え、自国の参戦……驚きがダブルパンチできたため、カナタの表情は固まってしまった。

 武官の説明が終わるや、今度は日本大使が口を開く。

 

「つきましては、特命全権大使として戦後の分割統治案について議論したく、今回お呼びした次第です」

 

「戦後の……分割統治……ですか」

 

 戦争を始める前に、戦争が終わった後の話をするという。

 談笑的にするならともかくとして、真面目な公式の会談において話すべき内容ではない。

 しかし大使や武官らの表情を見る限り、彼らは本気で戦後のことを考えているようだった。

 

「……分かりました。承知しました。お聞かせください」

 

「ありがとうございます。では、帝国政府案としては……」

 

 会議はその後数時間続き、内容が内容であるためカナタ一人で決められることではないと判断。カナタは一旦保留してもらいつつ、政治部会を緊急招集し、“日鍬杭三国によるロウリア王国分割統治案”について議論することになった。

 部会では馬鹿馬鹿しいという意見、戦うのは日本軍なのだから便乗して頂戴すべきという意見などなど様々だった。

 クワ・トイネも参戦するということに憂慮する大臣が多かったが、「あくまでクワ・トイネ軍は後方の治安維持及び俘虜収容所の管理」という間接的な支援に留まるような意味合いでの参戦だと説明すると、それで大方の趨勢は決まったといってよい。

 

 参戦については承諾を得たが、問題は分割統治であった。

 予備役を含めて5万名という弱兵力しかないクワ・トイネが、広大でなまじ人口の多いロウリア領土を統治するのはどう考えても不可能だった。

 加えて、領土に組み込んだ暁には、人間至上主義が染みついている人間族しかいない土地がクワ・トイネ領となるわけで、そうなれば反乱・一揆・独立運動などと決して安易な統治活動は望めない。

 武力で抑え込もうにも、今言ったように近代化が始まったとはいえ、いかんせん数が少ない。後方の治安維持はおろか、俘虜収容所の管理が関の山だという国防部からの見解に、領土をせしめ取ろうと思っていた急進派の大臣はがっくりと項垂れた。

 

 会議の結論は、既に決まっていたのも同然だった。

 夜通し行われた議論において、政治部会ではかつての大陸戦争によりロウリア王国に占領され、実効支配されていた国境周辺の地域を統治することが限界だという結論に至り、その旨を日本大使に伝えた。

 クイラ王国でも同様の結論を下したとのことだ。

 大使は了承し、それ以外の領土は日本が統治することを告げた。

 

「彼らは……まさか本気で全部を統治する気なのか!?」

 

 日本大使館から送られてきたロデニウス大陸の地図。そこに描かれているロウリア王国の全ての領域が、真っ赤に塗られていた。

 それを見たカナタは、頼もしい力強い味方を得た以上に、もしかすると我々はとんでもない国とつるんでしまったのかもしれないと、戦々恐々するのであった。

 

 

西暦2030年9月2日 22時28分

大日本帝国 セイロン島

 

 轟音とともに、巨大な灰色の鉄飛竜が滑走路を飛び立っていく。

 大日本帝国海軍トンコマリー基地に所属する長距離戦略爆撃機「富嶽改」が、日本の敵、大東亜共栄圏の敵であるロウリア王国に向け飛び立っていく。

 富嶽改はレシプロエンジン時代の富嶽に比べ爆弾搭載量の若干の低下を犠牲にしつつも、ジェットエンジンであることから速力は倍近くになっている。

 トンコマリー基地から出撃した富嶽改は24機。そのすべてが胴体内に空対地誘導弾が搭載されており、ロウリア軍の基地への攻撃が命じられていた。

 

 また同じ頃、トンコマリー基地から南西に向かった基地からも、戦略爆撃機が飛び立っていた。

 こちらは陸軍セイロン軍のコロンボ基地から勇躍出撃する二五式重爆撃機「巨龍」であった。

 

 巨龍は陸海軍共同で開発した富嶽の後継機として、海軍が富嶽の近代化改装を実施したのに対し、陸軍ではそこまで富嶽の長距離性能を重要視せず、むしろ爆弾搭載量を重視した結果、新たに開発するに至った重爆である。

 爆弾搭載量を優先した陸軍により、航続距離は富嶽の二分の一、速度も若干富嶽改より遅いものの、爆弾搭載量は2倍から2.5倍ほどに増量されていた。

 しかし弾道弾(弾道ミサイル)の発展に伴い、わざわざ熱核兵器を航空機から投下する必要性がなくなり、さらに空対地誘導弾や誘導爆弾の発展に伴い、一周回って高速爆撃機の存在意義が薄くなってきた今日では、大量の誘導弾・誘導爆弾を搭載し、一挙に飽和攻撃することができる本機にかなり光が当たって来たといえよう。

 

 一見輸送機かと思えるほどのずんぐりむっくりな二五式重爆は、胴体内の他に翼下にも追加で取付部(ウェポンベイ)を取り付け、陸軍が主として使っている「二十五番」こと250キロ航空爆弾であれば百数十発搭載可能である。

 今回は「2030年陸海軍協定」により、海軍が誘導弾による精密爆撃、陸軍が都市部や港湾都市への航空爆弾による広域爆撃を担当することとなり、250キロ爆弾をしこたま抱えての出撃となる。

 セイロン軍隷下の陸軍飛行第六十一戦隊30機のフル出撃であるから、これからロウリア各地の都市は、一度の出撃で1000トン近い爆弾の雨が降り注がれることとなる。

 

 

 2030年9月3日。中央暦でいえば1639年9月3日0時0分。

 大日本帝国は、ロウリアに宣戦布告した。国交がないため、形式上のだけの宣戦布告。

 

 それと同時に日本陸海軍爆撃隊がロウリア各地の上空に至ると、港湾施設、陸軍駐屯地、飛竜基地、大都市といった軍事・非軍事目標に対する爆撃作戦を実施した。

 その結果、モノの数分でロウリア有数の大都市は灰燼に帰し、軍事パレードで浮かれていた軍事拠点は粉微塵に粉砕された。

 

『トラ・トラ・トラ!』

 

と、言ったのは富嶽改に乗り込んでいた飛行隊長。

 

 完璧な奇襲攻撃により、ロウリア全土が浮足立った。

 クワ・トイネ、クイラ侵攻作戦のために6年に渡って備蓄していた食料や衣服、その他物資の数々は、空から降ってきたよく分からない攻撃により一瞬で爆発四散し、軍隊の傍で夜まで商魂たくましく営業を行っていた軍隊商人も爆散したことから、一挙にロウリア軍は物資不足に陥った。

 さらに武器兵器といった類も、保管庫ごとどころか軍事基地ごと破砕されたため、瞬時にロウリア軍は無防備な軍勢を爆誕させることとなった。

 

 運よく爆弾の直撃を受けて即死しなかった、あるいは重軽傷を負わずに寝ていた兵士らも、おっとり刀で駐屯地内のテントから張って出るが、火災により逃げ場はどこにもなかった。

 見張り台や司令部にしている豪華な建物は正確に爆破され、駐屯地内ではありとあらゆる場所で地面が炸裂していた。いや、正確にいえば空から投下された爆弾が炸裂したものなのであるが、寝起きの兵士たちにはそう見えたようだ。

 将校から末端の兵卒まで、階級身分に差別されることなく爆弾はその命を刈り取っていった。

 

 都市部への攻撃はより悲惨であった。

 高度1万メートルから投下されていく爆弾は自由気ままに、標的となる都市のどこかに落ちていく。

 着弾した250キロ爆弾は、炸裂した瞬間に周囲数十メートルの人、物、家屋を押し倒し、殺傷していった。

 空から降り注ぐ“悪魔”と形容されたナニカは、老若男女問わず息の根を止めていき、運よく爆撃から難を逃れた住民も、家屋の倒壊により身動きが取れず、その後発生した火災旋風により生きながら焼かれていった。

 

 消火活動にあたったロウリア騎士団のとある騎士団員は、深夜にも関わらず燃え盛る炎によって明るくなった年を見て、「まるで昼のようだ」と言った。

 都市部への無差別爆撃は、無関係の民間人を殺戮するのではないかという懸念が陸軍内で上がっていた。しかし彼らロウリア騎士団の駐屯地が都市部に発見されたことにより、ロウリアの大都市は軍都でもあるという無理くりな解釈により、標的となった経緯がある。

 わずか一夜にして大都市圏が灰燼に帰し、瞬く間に万単位での犠牲者を出すことになり、ロウリア中の経済活動がこれで止まった。

 

 早朝になって、日の出とともに全貌が分かった数少ない生き残りの住民や兵士、民兵たちは、その光景に言葉を失うこととなる。

 今、戦争という名の一方的な嬲り殺しが始まった。

 

 

 6年の年月をかけて増強に増強を重ねていたロウリア陸海軍は、数日前の出陣式の後、東方に向け出立していた。

 本来であれば4月ごろの開戦だったはずだが、遅れに遅れたのは理由がある。

 クワ・トイネ、クイラ両国が一気に発展しているそぶりを見せていたからだ。

 

 国家間では断交状態にあるものの、やはり民間レベルでは国境が繋がっているため交流が生まれる。人と人とが繋がれば交流が行われ、それぞれ不足しているものがあれば物品の交換が行われ、それは次第に交易という形で取引されるようになる。

 民間レベルでの交易はあるため、両国から入ってきた製品を見てみると、明らかに今年になってから製品の品質が変わっていた。

 

 特にクワ・トイネが今まで生産してこなかったタバコやコーヒー豆、砂糖といった商品作物の品質は極めて優れており、彼の国で加工生産された葉巻や蒸留酒、果樹類といったものは一気にロウリアの商人たちの間で注目され、こちら側が優勢ぐらいで推移していた貿易収支も圧倒的に赤字に転落していた。

 慌てた商人ギルドがロウリア王国に請願書を提出しているが、そもそもクワ・トイネに侵攻が決定している王国政府はこれらを一切無視していた。クワ・トイネを征服すれば、貿易なんてしなくて済むからだ。

 

 とはいえ、いきなりの発展の裏には何かがあると察知した一部のロウリア軍では、密偵などによる調査を重ね、それがどうやら新興国家大日本帝国の干渉により起きた出来事だと突き止めていた。

 諜報部はクワ・トイネで仕入れてきた日本に関する情報誌を見て驚愕し、慌てて軍上層部に報告するが、待っていたのは痛い目であった。

 ロウリア政府・軍首脳部はその情報に見向きもしなかった。むしろ実行に待ったをかけた挙句、欺瞞情報に惑わされ作戦実施を大幅に延期させたことを咎められ、諜報部の面々は左遷される憂き目となる。

 

 かくして、貴重な避戦のチャンスを、彼らは自分でドブに捨てたのである。

 

 

西暦2030年9月3日 5時48分

ロウリア王国 北の港沖合

 

「発艦始め」

 

 途端、広大な飛行甲板から噴進戦闘機(ジェット戦闘機)が射出されていった。

 2秒のうちに時速250キロメートルにまで加速された戦闘機は、上空に既に上がっている僚機と合流を果たすため、南の空に消えていく。

 

 たった今、尾張型原子力空母『伊予』『播磨』から飛び立った、日本海軍の主力艦上戦闘機である「猛風」である。

 現代科学の結晶である空対空、空対艦、空対地、あるいは誘導爆弾が満載された多用途戦闘機2個飛行隊96機が、敵を屠らんと発艦していった。

 上空には艦上偵察機(早期警戒・電子戦機)の「龍海」が上空待機しており、空母飛行隊を指揮した。

 

 目標は、ロウリア王国北の港から出撃するロウリア艦隊200隻、そして沿岸部の生き残った海軍基地である。

 本来は4400隻を数える大艦隊が存在していたが、初動の空爆作戦によりそのほとんどが撃沈破される憂き目となった。

 生き残ったこれらの軍船は、小さいため空爆目標から外された小港から集まった残存艦艇に当たる。

 艦隊は急いで合流地点である北の港を離れ、クワ・トイネ攻撃のための東進を開始していたが、そうは問屋がおろさなかった。

 

 対ロウリア開戦に先立ち、連合艦隊司令部では第四艦隊の他に昭南島(シンガポール)を母港とする第三艦隊の投入を決定している。

 第三艦隊では尾張型原子力空母の旗艦『阿波』が転移時に消失したことにより、本土で待機していた同型艦の『播磨』を引っ張ってきていた。

 

 余談であるが、転移事件の結果、大日本帝国海軍は保有する9隻の原子力空母のうち、内地や母港に偶然停泊していたものを除いた5隻が外洋航行中のため消失する事態となった。

 瞬時に半分以上の原子力空母戦力が消失した帝国海軍はてんやわんやの大騒ぎとなり、直ちにモスボール処理され予備役艦隊送りになっていた通常動力型の7万トン級空母である白鳳型航空母艦を現役復帰させようとしているが、今次戦争には間に合っていない。

 

 それでも後期生産型の『王鳳』『祥鳳』及び『雲鳳』の現役復帰が叶ったのであるから、日本の伝統芸能“長持ちさ”は健全である。しかし復帰後も現代兵装へ転換しなければならないため、第一線への投入はまだまだ先の話である。

 米海軍が近年建造した10万トン級の、ダグラス・マッカーサー級原子力空母に対抗して建造中の新型原子力空母『河内』の就役も来年であることを鑑みれば、1年以内に8隻にまで回復する見通しである。

 

 閑話休題。

 

「一体何が……」

 

 先日まで4400隻のロウリア王国東方討伐艦隊を率いていたシャークン提督は怯えていた。

 たまたま北の港以外の拠点の視察のために離れていたため、深夜の空爆に巻きこまれなかった彼は、近場に停泊していた軍戦に乗り込んで合流地点まで向かったわけだが、先ほど見た北の港の光景……

 

 陸地に目をやると、目に入る町という町は燃えた後で煤けており、無事だった郊外の漁港には、都市部から避難してきた人々でごった返している。

 どうやら船を手に入れてロデニウス大陸から逃げ出そうとしているようであるが、外洋に耐えうるような船はすべてロウリア海軍が徴発しているため、不可能だろうとシャークンは考える。

 

 その時だった。

 シュンッという飛翔音がしたかと思えば、艦隊の外側を航行していた軍船が爆発を起こした。爆発は連鎖的に発生し、瞬時に数十隻もの帆船が爆発、炎上していった。

 敵の攻撃だ。しかしどこから?

 敵襲を告げる鐘が船ごとに打ち鳴らされるが、どこにも敵は見えない。

 

「こ、これは……まさかあの“地獄”が……!!」

 

 シャークンがすべて言う間もなく、第二撃が艦隊に到達する。

 再び数十隻が爆沈していった。

 

「逃げろ! 逃げるんだぁ!!」

 

 シャークンはとっさに叫ぶ。しかしそんなことは不可能であった。

 大惨劇、もとい第三撃が到達することには、艦隊中央にいたはずのシャークンの乗船する軍船が丸見えの状態となった。もはや彼を守る軍船はいない。

 実に驚愕すべきことであるが、彼の艦隊はわずか数分の攻撃により200隻中180隻以上が撃沈、もしくは大破炎上中であった。

 少数の大破した軍船は、艦長による巧みな操縦テクニックにより浅瀬に無理やり突進し座礁して見せ、生き残った乗員とともに浜辺に着地、遁走している。

 

「おお神よ……私の……私の艦隊を返してくれ……」

 

 顔を両手で覆い、思考を放棄したシャークンは膝から崩れ落ちた。避難を呼びかける副官の声が遠くから聞こえてくるが、今の彼には届かぬ声だった。

 急速なショックにより、心的外傷を追って“抜け殻”となってしまったシャークンを見て、副官は絶望した。それまでロデニウス最強を自負する討伐艦隊の提督その人が、今ではただの弱った老人にしか見えないのだ。

 直後、シャークンが乗り込んでいた軍船に飛翔体が突入、勢い余って船底付近まで突き抜けるとそこで炸裂した。シャークンと副官らは爆風により海に投げ出された。

 

 海に落っこちたシャークンは混乱してバシャバシャと水飛沫を上げ、副官は慌てて近くにあった材木を握りしめ近づく。彼を材木に掴まらせると、真っ二つにへし折られ沈みゆく母船を眺めていた。

 ふと空を見上げると、轟音を立てながら陸地に向かっていく飛竜集団が見える。その飛竜は、やけに速かった。

 

 午前7時31分。第三、第四艦隊空母飛行隊は、ロウリア東方討伐残存艦隊を撃滅、制海権を確固たるものとした。

 海が片付いたのを確認した帝国陸海軍は、次なる段階、即ち地上攻撃に集中することになる。

 

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