西暦2030年11月2日 14時56分
大日本帝国領ロウリア 仁伯 ロウリア軍政監部
大日本帝国領ロウリアは、その名を冠した軍政監部によって統治されている。
軍政監部とは、日本陸軍が占領した地域の統治・運営を行うための機関である。
長官職である軍政監にはロウリア地域に駐留する帝国陸軍ロウリア軍参謀長が兼任し、その下に総務、財務、司法、警察、産業、交通、鉄道、通信、郵政、気象、開拓といった各部が置かれ、ロウリア全体の軍政統治を司っている。
ロウリア地域はそれまでの行政区分が廃止され、仁伯特別市、北部州、中部州、東部州、南部州の一つの特別市と四つの州に分けられ、それぞれの市長と州長官には陸軍少将もしくは中将が任じられた。
軍政機構には多数の旧ロウリア王国官吏らが務めており、軍政指導官と呼ばれる陸軍軍人を日夜補助している。
なお、中央部にある山岳地帯はどこの州にも属しておらず、ロウリア軍直轄統治区域として許可がなければ入れないようになっている。
ここには開拓村と呼ばれる敵性住民の強制収容所……もとい、万邦共栄を旗印に異世界においても大東亜共栄圏の発展を目指す大日本帝国による統治に“疑念”を持つ者たちに対し、日本式の村落体験をしてもらうための研修施設が各所にある。
森林地帯では野生の魔獣が日々村まで襲いに来るわ、山岳地帯では無理に鉱山の近くに村を作ったため生活用水に使っていた川に鉱毒が流れ込んで鉱毒事件が起こるわ、基本的にそれまでロウリア人が住まなかったのには理由があるような地域に村を設置したことにより、徐々に村民の“名誉の死”は増え続けている。
そんな、気付けば内地からの文民官僚の付け入る隙がほぼなくなりつつあるロウリア軍政監部庁舎内の、となる一室。
そこは一般の軍人であればまず目につかない、何の変哲もない資料庫であった。
いつもは鍵がかかっており、誰が鍵を管理しているのかさえよく分かっていないような、重要性の低い部屋に、直立不動のまま淡々と報告する男が一人いた。階級章は中佐を示しているが、本当の階級は違う。あくまでこの軍政監部内における、かりそめの階級であった。
歳は36と若く、エリートらしさが端々から伝わってくる。
「……そうか、“訓練生”は止められなかったか」
報告を終えると、机に座っていた陸軍の軍服に身を包む高級将校が呟く。
階級章は中将。顔には複数の切り傷が見られた。
彼らの正体……それは、帝国陸軍参謀本部第二部八課、すなわち情報部謀略宣伝課の課員らであった。名をロウリア特務機関という。
中将……こちらも偽の階級……はその機関長、中佐は機関員として、対パーパルディア皇国諜報・謀略活動を行っていた。
「はい。訓練生第1号がパーパルディアに帰還後、29日間、第3外務局を抑えており、また首脳部にも帝国の情報を流すなどしておりましたが、隙を突いて監査軍をフェン王国に送り込んだようです」
中佐のいう訓練生第1号というのは、対ロウリア戦争中に日本陸軍が捕縛したとあるパーパルディア皇国観戦武官のことである。
彼は憲兵隊による尋問後、特務機関に引き取られたが、実は国家戦略局という諜報機関の諜報員であることが判明した。
普通に考えれば直ちに解放し、パーパルディアまで送るのであろうが、しかしこの時、日本とパーパルディアとの国交はまだない。というよりも、未だ国交開設に至っていない。
帝国外務省では、何度か国交開設のために外務局を訪れていたが、文明圏外の新興国家というくくりで対応するパーパルディアには日本の実力が伝わっていないらしく、門前払いとなっていたのである。
挙句の果てには対等の条約についてケチをつけ、かつての中華皇帝よろしく「属国にしてくれとお願いするのが礼儀だ」と忠告してくる始末であった。
そのため、現在なおも日パ関係は通交していない。
そのような国の諜報員をおめおめと逃がせば、日本に対する警戒心を強め、余計に関係構築が難しくなるだろうと考えた彼らは、あるちょっとした細工をして諜報員を逃がすことにした。
「米国の
「”訓練“はまだ継続いたしますか?」
大佐の問いに、中将は大きく頷いた。「勿論だ」
「パーパルディアは帝国の次なる相手となる。まだ試験的なものでしかないが、訓練生の成果は充分出ている。今後大量に候補者を手に入れる機会があるだろう。その時、この計画は本格的に始動する。わかったな」
「ハッ、了解いたしました」
「よし。では業務に戻りたまえ。任せたぞ。 ……大山中佐」
本名ではなく、軍務についている限り使用される名前である”大山“と呼ばれた中佐は、敬礼して退室していった。
大日本帝国が表と裏の双方で異世界に出張っていく中、再びこの国は物騒なことに関りを持ち始めるのであった。
建国以来、大日本帝国はソ連やドイツ、アメリカからのスパイ被害に悩まされていた。
特に戦後、1982年に米国下院情報特別委員会で発覚したナチス親衛隊国家保安本部(RSHA)職員による世界的諜報工作活動の展開は、日米両国に大きな衝撃を与えた。
日本では帝国陸海軍特務機関、内務省警保局特別高等警察(特高)をはじめとする諜報機関が存在するが、独米に比べるとまだまだ発展途上であった。
そんな中、米国が研究していた人への洗脳……通称「MKウルトラ計画」に関する断片的な情報を得た日本陸軍では、日本においても欧米人を洗脳し、工作員に仕立て上げる研究が始まった。
それが洗脳の「せ」の字をとって名付けられたセ号訓練である。
セ号訓練は20年ばかしの研究期間を経てようやく完成を見ると、第三世界やドイツ、アメリカの官僚、政治家、商人、軍人らを拉致っては洗脳し、無意識下に洗脳し、帰していった。
人々の潜在意識に埋め込まれた洗脳は、あのドイツの誇る情報機関である国家保安本部の情報官や、米国のCIA職員をもってしても解読が困難であり、産業・軍事技術に関する情報を得ている。
そのセ号訓練を、パーパルディア国家戦略局の職員にも実施したのである。
彼を解放して約2か月。目に見えるほどの成果が上がったことにより、参謀本部情報部では積極的工作に打つべしとの結論で方針が固まりつつあった。
1639年11月4日 12月08分
フェン王国 沖合
フェン王国に対する懲罰権行使のため、パーパルディア皇国監査軍東洋艦隊の軍船22隻は東進を続けていた。
軍船では“風神の涙”飛ばれる魔道具を使うことにより、通常の帆船よりも素早い移動が可能となっている。もっとも、高価なものであるため使用する機会は戦闘などの場面に限られるが。
遅れに遅れて1か月。余計な邪魔がなければ、この1か月でフェン王国を滅ぼすことができた。季節な完全に秋となり、肌寒くなっている。
ついに第3外務局からGOサインが出た時には、今までのおあずけ状態だったストレスをすべてフェン王国に叩き付けんと艦隊の士気は復活し、艦隊は勇躍港を出撃、目下フェン王国に向かっている。
しかし、彼らがフェンの大地を見ることはなかった。
「前方より帆船接近!」
見張りが叫ぶ。
監査軍東洋艦隊司令官のポクトアール提督は、持っていた単眼鏡で報告された方角を注視する。
単眼鏡には5隻の帆船、そしてその後方に巨大な船が一隻、こちらに急行しているのが写し出されていた。
「帆船はいいとして……デカい! フェン王国の奴ら、一体いつあんな船を作り上げたんだ?」
ざっと、こちらの帆船の3倍近い大きさはあるそれは、先行する帆船群を後方から見守るように、こちらに右舷側を見せる形で停船する。
船体にはポツンとついている一基の大砲は、こちらを見つめていた。
「たった一門……? あれだけ巨大な船体に一門しか搭載されていないだと?」
ポクトアールは頭に疑問符を浮かべる。
「提督、フェン王国の奴ら、船を大きくすることに執着して資財がなくなってしまったのでしょう。たった一門の砲程度、何の足しにもなりません。腹を見せているということは、おそらく進路を塞ぐつもりなのでしょう。手前で停船したのも、武装がないためその巨体でとうせんぼうするしか方法がないからです」
艦長の分析に、ポクトアールはなるほどと合点がいった。
「さすが艦長だ。見事な推理である。 ……小癪な、数隻の帆船と、たった一門の巨体一隻で何ができる! 全艦そのまま全速前進、あのハリボテの船ごと沈めてしまえ!!」
風神の涙が使用を開始され、合成風力を発生させると、艦隊の速度は一段の速くなった。
帆船にしては速い機動により、東洋艦隊はずんずんフェン王国水軍の帆船群を捉える。
その時、フェン水軍の帆船の一隻から、突如爆発した。いや正確にいえば、火砲を発砲した際に生じる発射炎であった。
砲弾は艦隊前方に着弾し、大きな水柱を上げる。
命中こそなかったが、フェン水軍が魔導砲を持っていることに一瞬動揺した。だが次発装填までにかなりの時間がかかっていること、旗艦と思しき艦に一基しかないことから大した脅威ではないと考え、かまわず東洋艦隊は戦列艦を先頭に戦列を組んだ。
帆船群をぐるりと反包囲する形で展開した戦列艦は、一斉に舷側砲による斉射を開始した。
たちまちフェン水軍の帆船群は水飛沫で包まれ、一斉射で5隻いたうちの半数近くが大破してしまった。旗艦と思しき帆船はなんとか持ちこたえていたようだが、そこかしこから火災が発生している。
二斉射目でトドメだ……そう思った矢先、件の巨艦が動いた。
ダァン、ダァン、ダァン、ダァン……
その砲は、おそろしく連射速度、そして命中精度であった。
「戦列艦『パオス』大破炎上中! 戦列離れます!」
「『マミズ』から通信、『我航行不能、総員退艦命ず』!」
「『ガリアス』轟沈!!」
次々入る80門級、100門級戦列艦の撃沈破報告に、ポクトアールと艦長は頭を抱えた。
「なんということだ、なんということ……」
その時、彼らにとって心強い味方が現れた。
「ワイバーンロードがきたぞ!!」
遅れながら、パーパルディア飛竜基地を飛び立った20騎のワイバーンロードからなる竜騎士隊が現れたのである。
ワイバーンロードを操る竜騎士たちは、見たこともない巨艦であり、かつ絶賛東洋艦隊を半壊させているフェン水軍のものと思われる軍船にむけ攻撃を開始した。
パーパルディアが独自に品種改良して開発して見せた、空中最強の生物……例外はいるが……ワイバーンロード、それが20騎による一斉攻撃を受ければ、目の前の巨艦など鎧袖一触であろう。
「よぉぉく見とけよ蛮族ども、これが列強ってことだ」
そんな中、巨艦から煙が上がる。
「何だ? もう攻撃されたのか?」
火球による攻撃がまだ行われていないのに、甲板から煙が出たことに疑問を生じさせた瞬間、何かがよくわからない飛翔物体が次々射出されていくのが見えた。
飛翔体はワイバーンロードに向かっていくと、近くで炸裂、向かっていっては炸裂を繰り返していった。
途中、攻撃を中断して回避行動に移る竜騎士がいたが、もれなく飛翔物体は追尾して付近で炸裂した。
「ああああ! あああああああ!!」
東洋艦隊は恐慌状態に陥った。無敵と評されたあのワイバーンロードが、たった1分もしないうちに20騎すべてが全滅してしまったからだ。無理もない。
狼狽した各艦の艦長が指示を出し、灰色の軍船を攻撃しようとする。しかし灰色の軍船の方が早かった。
風神の涙を使用しても出せない二十数ノットにまで一気に増速すると、東洋艦隊との一定距離を維持しながら、射撃を続けていく。
「……アッ」
そしてポクトアールは気が付いた。瞬間、身体が血の気が引き、頭が真っ白になった。
「(敵艦は、確実に3発。外すことなく命中させている……)」
恐ろしいことに気付いた刹那、ポクトアールの乗艦する戦列艦にも砲弾が直撃する。
きっちり3発命中し炸裂した砲弾は、提督や数百名の乗員を消し飛ばしていった。
最後の戦列艦が撃沈されたのは、攻撃を受けてから30分後のことだった。
大量の水兵が海上を漂っている。五体満足で生きているもの、四肢の一部が欠損しながらもがき苦しみながらも生きながらえているもの、死んでいるもの、そしてそれらを追い求めやってくる鱶などなど。
およそ“地獄絵図”と呼ぶにふさわしい光景が海面に広がっていた。
「おおおおぉ……!!!」
フェン王国水軍の水軍長クシラは、目の前の皇国監査軍東洋艦隊“だった”ものを見渡しながら目を見開いた。
クシラは先の東洋艦隊戦列艦による砲撃にも衝撃を受けていたが、それ以上に同盟国……大日本帝国海軍の“駆逐艦”と呼ばれる軍艦の威力を前に、言葉を失っていた。
「……ちゃんと撮影していたね?」
救助活動を行う傍ら、玉波型駆逐艦『沖波』の艦長は副官に確認した。
「はい、はっきり撮影いたしました。また上空の無人偵察機からの映像も鮮明に」
「よろし。これで対パーパルディア戦のための証拠が揃った。あとは映像を流し、卑劣なパーパルディアが共栄圏加盟国のフェン王国を攻撃したと発表すれば、あとは思う通りにいくだろう」
セイロン島の第四艦隊に所属する『沖波』には、とある特殊任務が与えられていた。それは、フェン王国水軍に追随し、パーパルディア軍がフェン王国に攻撃を仕掛ける様子を撮影せよ、というものだった。
表向きには共栄圏加盟国に対する軍事援助のうちの、海軍教育と称して近海に展開していた『沖波』とフェン水軍旗艦『剣神』以下5隻の帆船群であったが、パーパルディア軍迎撃のため“急遽”変針して迎撃に当たった。
そこで領海侵犯によりフェン水軍による“威嚇射撃”の後、パーパルディア海軍が攻撃を開始したことにより、『沖波』が防衛戦闘を行った、というのがストーリーラインである。
『沖波』の撮影した映像は、数日後には大東亜会議において流されることとなった。
中央暦1639年11月11日 15時24分
パーパルディア皇国 エストシラント 第3外務局
カイオス局長は、消失した皇国監査軍に苛立ちを募らせるばかりだった。
事の始まりは、フェン王国が皇国の領土献上案を拒否したことにより始まる。
領土献上を拒否したため、腹案として持っていた498年間の租借案も提示したが、こちらも拒否。挙句の果てにはパーパルディアへの従属までも否定したのだ。
「フェン王国は、皇国を舐めている」
と、いうのが第3外務局内の主流な考えである。
数多の国が存在するこの世界において、文明国5か国、文明圏外国67か国の計72カ国者属国を持つ列強パーパルディア皇国にとって、文明国ならまだしも、文明圏外の小さな島国の蛮族国家からこのような仕打ちを受けたことは、とても許容できるものではなかった。
これに対し何かしなければ、他の属国や蛮族国家の自国に対する恐怖の楔が外れては困る。
そしてカイオスは、外務局が独自に運用することができる皇国監査軍(東洋艦隊22隻、ワイバーンロード部隊)の派遣を許可した。
しかし、奇妙なことが起きた。
派遣から1週間経つが、皇国監査軍からの定期報告が一切ないのだ。
東洋艦隊は出撃したまま帰ってこないし、竜騎士隊も基地を発進後は音沙汰がない。
「もしや全滅した……?」
だがそんなことはあり得ない。フェン王国には監査軍を撃破するほどの戦力はないし、仮にガハラ神国の風竜が味方したとしても、20騎ものワイバーンロードが一匹も帰ってこないほどの事態は起こらない。
それに22隻も軍船を派遣したのだ。一隻ぐらい戻ってきてもいいだろう。それらが一斉に通信用魔道具が故障したということも考えづらい。
様々な思考が巡るカイオスの下に、「海岸線に東洋艦隊の水兵や軍船と思しき漂着物が流れ着いた」という報告が届いたことにより、思っていた最悪な考えが、事実であることが確定する。
ここで苛立ちは頂点に達し、書類を机に叩きつけた。
「栄光ある皇国の顔に泥を塗った輩を直ちに特定せよ!!!」
ふざけた奴がいる。東方に。
そういえば、ロウリア王国を1週間で滅亡させた国がいると聞くが、もしかするとそこかもしれない。もしや、国家戦略局が声を大にしていっていた「大日本帝国」とかいう国の仕業かもしれない。
しかし、不確かな情報が多すぎる。まずはそれを整理しなければならない。
カイオスは第3外務局全職員に対し、フェン王国とその周辺の調査を行うよう命じるのであった。
西暦2030年11月13日 11時45分
大日本帝国 東京都 大東洋共栄圏会議場
大日本帝国の帝都東京は、人口2500万人を抱える超巨大都市である。
今では内地となった朝鮮半島や台湾、外地である東印度から出稼ぎや出向でやってきた人々も多く、様々なアジア系人種が所々で見受けられる。
日本政府は「八紘一宇」をスローガンに、特にこれといった移入制限を設けていなかったため、気付けば一都市なのに2000万人を超えていた。関東大都市圏としてみれば、4000万を数える。
もっとも、東印度最大の都市であるジャワ島ジャカルタ都市圏が5000万なのを考えると、アジア一とはいえないわけであるが。とはいえ過密な都市圏であることには間違いない。
色々な社会問題を抱えながらも栄えある帝都として機能する中、千代田区にあるビルの一つに「大東亜ビルディング」という名を冠する建物がある。
そこは大東亜共栄圏改め「大東洋共栄圏」諸国により運営される「大東洋会議」のために作られた会議場で、地球世界でまだ大東亜共栄圏と呼ばれていたころには、50カ国以上のアジアやアフリカ、中南米の国々が招集されていた。
ここに来て日本政府は、大東亜共栄圏及び大東亜会議の名称を大東洋共栄圏、そして大東洋会議に変更を提案、即時採択され適用されることとなった。
思えば大東亜共栄圏の“東亜”とは地球世界における東アジア、広義の意味におけるアジア地域……アフリカ、中南米諸国向けにはアフリカの“ア”、アメリカの“ア”と無理くり説明する一幕もあった……を指す言葉であり、この世界の国々にはチンプンカンプンなものだった。
「大東亜とは何ぞ」という質問が相次いだため、外務省を中心に経済・軍事協力機構の改称が提議され、特にこれといった反対意見がなかったため、そのまま大東亜会議に通され、加盟国の賛同を経て改称されることとなる。
ちなみに、極めてまぎらわしいものであるが、既に「大東洋諸国会議」と呼ばれる会議がこの世界に存在する。
こちらは元々大東洋に位置する文明圏外国家の寄合組織のようなもので、特に制裁等の強力な法的拘束力はない。
が、文明圏外国家が孤立すればそれだけで死を意味するような世界であることから、大東洋に面する多数の国家がこの会議に参加していた。
その会議がフェン王国での軍祭以降ごっそり丸ごと参加したこともあり、これを機に大東洋共栄圏としても問題ないだろうと考えられたわけである。
また、大東洋という名前を冠することにより、日本周辺の国家がより日本に対する友好的・協力的姿勢を見せてくれることを期待したものもあった。
帝国外務省ではそれまでここに独立していた部局を統合し、新たに大東洋局を設置。当局をもって大東洋共栄圏加盟国との調整を司ることとしている。
「それでは、全会一致で大東洋会議決議第683号を採択いたします」
議長がそう言った途端、議場に拍手が沸き起こる。
新世界に来てから、当初は日本一国だけだった共栄圏も、今では16カ国を数えていた。
残念ながら文明国の加盟は未だないものの、順調にこの世界でも国際組織化しつつある。
今採択されたのは、大東洋共栄圏によるパーパルディア皇国に対する経済制裁についての決議案である。
先のフェン沖海戦により、皇国監査軍を撃滅したフェン・日本艦隊……事実上日本海軍の独壇場であったわけだが……の映像が、全体会議上に設置される大画面のモニターで写された時点で、議場は各国のパーパルディアを非難する声で染まった。
その後は極めてスムーズであった。
国家安全保障上の理由から、フェン王国から大東洋会議に対し対パーパルディア軍事・経済制裁案の提議がなされ、まず前段階として経済制裁を行う旨が採択されたのだ、今の瞬間である。
この後、フェン王国を通じてパーパルディア皇国に対する賠償請求、フェン王国及び大東洋共栄圏に対する一切の武力行使の中止が形式上要求されることとなるが、それはおそらく無視もしくは拒絶されるであろう。
そうなれば次の段階、即ち多国籍軍としての大東洋共栄圏軍による軍事制裁が行われることになる。
日本ではすでにパーパルディアを捻り潰すために万全の準備を行っている。また共栄圏加盟国らも、パーパルディアとの関係を清算するため、独自に動き始めていた。
第三文明圏におけるパーパルディア一強の政治・経済・軍事プレゼンスが今、崩れようとしていた。